1. 歌詞の概要
「Banned in D.C.」は、バッド・ブレインズが1982年にリリースしたセルフタイトルのデビュー・アルバム『Bad Brains』に収録された楽曲である。タイトルの通り、彼らが地元ワシントンD.C.のライブハウスから出入り禁止になった経験をもとにして書かれたものであり、シーンや体制との摩擦を象徴する作品となっている。
歌詞はシンプルで直接的だが、その中には「拒絶されても、俺たちはやり続ける」という強い決意が込められている。自分たちの存在を否定されても、それをバネにしてさらに突き進むという精神が、圧倒的なスピードとエネルギーを伴って表現されているのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
バッド・ブレインズはワシントンD.C.で結成された黒人メンバーによるパンク/ハードコア・バンドであり、当時のシーンでは異色の存在であった。彼らのライブはあまりに激しく、会場が混乱に陥ることもしばしばで、やがて主要なライブハウスから「出禁」となる。このエピソードがそのまま「Banned in D.C.」のテーマとなったのである。
1980年代初頭、ワシントンD.C.はミニマルで硬派なパンクの震源地となり、のちのハードコア・パンクに多大な影響を与えた。しかしその中心にいたバッド・ブレインズは、他のバンド以上に過激なライブを展開し、シーンからも歓迎される一方で問題視されてもいた。この「居場所がない」という状況を逆手に取り、彼らは自分たちの信念とスタイルをさらに強化していく。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Bad Brains – Banned in D.C. Lyrics | Genius Lyrics
Banned in D.C. with a thousand other places to go
ワシントンD.C.で出禁になった、でも行く場所は他にいくらでもある
Banned in D.C., we can’t play no place to go
D.C.で禁止されても、演奏できる場所は他に必ずある
They don’t want us to play, they say we’re too fast
奴らは俺たちに演奏させたくない、スピードが速すぎると言う
このように、歌詞は非常にストレートで、当時の状況をそのまま言葉にしている。しかしその裏には、閉ざされた場から飛び出して自分たちの音楽を広めていく強烈な意志が隠されている。
4. 歌詞の考察
「Banned in D.C.」は、パンクの基本精神である「Do It Yourself」と「反骨」を最も端的に表現した楽曲の一つだといえる。拒絶や排除を恐れず、それをむしろ誇りとして自分たちの力に変えるという姿勢は、後のハードコア・シーン全体に共鳴していった。
また、この曲にはバッド・ブレインズ特有の「スピードへのこだわり」が表れている。彼らは既存のパンクよりもさらに速く、タイトで激しい演奏を展開したことで、ハードコア・パンクの音楽的原型を築いた。このスピード感そのものが、歌詞における「俺たちは止められない」という精神と完全に一致しているのだ。
さらに、黒人バンドであるバッド・ブレインズが、当時白人中心だったパンクシーンの中で活動しながら、排除や差別をものともせずに突き進んだことは、この楽曲の持つ意味をさらに強いものにしている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Minor Threat / Out of Step
同じくワシントンD.C.のハードコアを象徴する曲で、自己決定と反抗精神を歌う。 - Black Flag / Police Story
権力への怒りを直接的に表現した代表的なハードコア・ナンバー。 - Dead Kennedys / Let’s Lynch the Landlord
シニカルで攻撃的な歌詞を持つ、反体制のパンク・ソング。 - Circle Jerks / Deny Everything
短く鋭いメッセージが光るハードコアの名曲。 - Bad Brains / Pay to Cum
彼ら自身のデビュー・シングルであり、さらに過激でスピーディーな一曲。
6. 「出禁」から始まる伝説
「Banned in D.C.」は、単なる出来事の記録ではなく、バンドの生き様そのものを象徴する楽曲である。自らの音楽が危険すぎると見なされ、シーンの中心地から排除されたにもかかわらず、バッド・ブレインズはそれをきっかけに全国的な活動へと拡大していった。このエピソードは、彼らが後に伝説的な存在へと成長する大きな転機となったのだ。
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