1. 歌詞の概要
1998年にリリースされた「The Boy Is Mine」は、モニカとブランディという2人の若きR&Bディーヴァによるデュエットであり、まさに90年代後半のR&Bシーンを象徴する決定的な一曲である。この楽曲のコンセプトは、ひとりの男性を巡る女性同士の対立。だがその描き方は単なる嫉妬劇や修羅場の再現ではなく、スタイリッシュでクール、かつ緊張感のある「口論」という形で表現されている。
楽曲の冒頭から両者は互いに鋭く火花を散らしながら、「その彼は私のもの」と主張し合う。しかし、そのやりとりの裏には、「女性同士が戦うべきなのか？」「なぜ男の浮気に対して女が競わされるのか？」という、当時は明示されなかったが現在では重要とされる視点も浮かび上がる。結果的に「The Boy Is Mine」は、ポップ・カルチャーにおける女性表象の在り方に一石を投じた楽曲ともいえるだろう。
2. 歌詞のバックグラウンド
「The Boy Is Mine」は、両者のアルバムに収録されたデュエット・シングルであり、ブランディのセカンド・アルバム『Never Say Never』とモニカの『The Boy Is Mine』の両方に登場する。制作にはロドニー・ジャーキンス（Rodney “Darkchild” Jerkins）、ダラス・オースティン（Dallas Austin）、ラ・シャーン・ダニエルズ（LaShawn Daniels）など、当時の最先端をいくR&Bプロデューサー陣が名を連ねている。
ブランディとモニカは、実際に当時「ライバル」としてメディアにしばしば取り上げられ、それが曲のヒットをさらに煽った。2人はこの楽曲のプロモーション中に一緒にパフォーマンスを行うこともあったが、舞台裏では緊張感があったとも言われている。その複雑な背景が、「The Boy Is Mine」に宿るリアリティをより強く印象づけた。
この曲は全米Billboard Hot 100で13週連続1位を獲得するなど大ヒットを記録し、1999年のグラミー賞でも最優秀R&Bパフォーマンス・デュオ／グループ賞を受賞した。
3. 歌詞の抜粋と和訳
You need to give it up
もう諦めるべきよHad about enough
もう十分だわIt’s not hard to see
見ればわかるでしょThe boy is mine
その彼は私のものなのよI’m sorry that you
あなたには申し訳ないけどSeem to be confused
勘違いしてるみたいねHe belongs to me
彼は私のものよThe boy is mine
そう、彼は私のものなの
引用元：Genius Lyrics – Brandy & Monica / The Boy Is Mine
4. 歌詞の考察
「The Boy Is Mine」の歌詞は、表面上はただの三角関係の争いのように聞こえるが、よく読み解けば、自己主張とプライド、そして恋愛における“正しさ”とは何かという問いをはらんでいる。
ブランディとモニカは、それぞれ異なるトーンで“正妻の座”を主張しており、一方は冷静かつ自信に満ちた口調で、もう一方は感情的に反論する。その対比が、曲に緊張感とドラマを生み出している。両者ともに「自分こそが彼の唯一の相手である」と信じて疑わず、相手に対して強い確信をもって「彼は私のもの」と言い切る様は、ただの恋のバトルではなく、自己の確立と誇りの表明でもある。
また、この構図は後の世代の女性アーティストにも影響を与えており、「女性同士が男性をめぐって争う」という構図そのものが批判的に再解釈されるきっかけともなった。今日では、このようなテーマに対して、「そもそも非は男性にあるのでは？」というフェミニズム的視点も多く語られるようになっており、本作もその文脈で再評価されつつある。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “No Scrubs” by TLC
自己肯定感を高く保ちつつ、恋愛における理不尽をはねのけるアンセム。 - “Say My Name” by Destiny’s Child
パートナーの誠実さを問いかける鋭い視点とビートが共鳴する楽曲。 - “Ex-Factor” by Lauryn Hill
恋愛の傷と葛藤を静かに、深く掘り下げたエモーショナルなR&Bバラード。 - “Take a Bow” by Rihanna
別れを演出のように皮肉る、強さと余裕を感じさせる楽曲。 - “Me, Myself and I” by Beyoncé
自己回復と自立を歌ったポジティブなソウル・ナンバー。
6. 特筆すべき事項：デュエットが作り出す“二人の物語”
「The Boy Is Mine」は、R&Bの歴史における女性デュエットの中でも突出した存在感を持っている。その理由は、単に歌唱力の高さやヒットの数字ではなく、「対立する女性同士の会話」をそのまま音楽のフォーマットに落とし込んだ構造そのものにある。
これはまるで、一曲の中で小さな演劇が繰り広げられているようなものであり、2人の声色、言葉の選び方、掛け合いのテンポ感など、細部にわたって緻密に構成されている。それによって、この曲はリスナーに“物語”としての体験を提供するのだ。
同時に、この構造は、後の音楽シーンにおいても繰り返し引用されていく。たとえばアリアナ・グランデとヴィクトリア・モネのような新世代の女性アーティストたちが共演する際にも、こうした“対話型デュエット”の形式が使われることがある。その先駆けとして、「The Boy Is Mine」は決して過去の遺物ではなく、今なお現代的な光を放ち続けているのである。
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