1. 歌詞の概要
「Truckin’（トラッキン）」は、Grateful Dead（グレイトフル・デッド）が1970年に発表したアルバム『American Beauty』に収録された、彼らの代表的な楽曲のひとつである。
この曲は、ツアー生活の喧騒、社会との摩擦、自由な放浪の代償などを題材にしながらも、それをひとつの軽妙なロードソングとして昇華した、デッドらしい「生き方の哲学」が詰まった作品である。
タイトルの「Truckin’」とは、「ひたすら進む」「旅を続ける」という意味のスラングであり、この曲の語り手は、世界の混乱や自らの苦難を背負いながらも、とにかく前へ進むしかないという姿勢を貫いている。
それはGrateful Deadというバンドの生き方そのものであり、同時に1970年代アメリカにおけるカウンターカルチャーの精神そのものでもある。
人生の荒波を“トラックで走るように”突き進む――「Truckin’」はその姿を軽やかに、しかししっかりと刻んでいる。
2. 歌詞のバックグラウンド
この曲は、Jerry Garcia（ジェリー・ガルシア）、Bob Weir（ボブ・ウィア）、Phil Lesh（フィル・レッシュ）、そしてRobert Hunter（ロバート・ハンター）というGrateful Deadの主要メンバーによる共作であり、バンドの集団的体験が色濃く反映されている。
特に歌詞の中では、1967年のニューオーリンズでの薬物取締法違反による逮捕事件や、ツアーでの都市ごとの体験などが具体的に語られており、いわば“自伝的ロードジャーナル”とも言える構成になっている。
「Truckin’」という言葉そのものは、1960年代から70年代にかけて、ヒッピーや旅人たちの間で「自由な精神で前進し続ける」という意味で使われていたスラング。
Grateful Deadはまさにその象徴であり、この曲は「自由とは何か？」を問う哲学的でありながら、非常にキャッチーな一曲となっている。
1971年にはシングルとしてチャート入りを果たし、当時としては珍しくラジオでも多くオンエアされた。今ではGrateful Deadの「非公式なテーマソング」として知られ、ライブでは群衆を沸かせる定番曲である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Truckin’, got my chips cashed in
トラッキン――手持ちのチップは全部使い切ったKeep truckin’, like the do-dah man
それでも進むんだ、ドゥーダー男みたいにTogether, more or less in line
一応、まあ、列をなして進んでるJust keep truckin’ on
とにかく走り続けるのさWhat a long, strange trip it’s been
なんて長くて、不思議な旅だったんだろう
出典: Genius Lyrics – Truckin’ by Grateful Dead
4. 歌詞の考察
「Truckin’」の歌詞は、Grateful Deadというバンドの“実録的ドキュメント”であると同時に、誰もが感じる「人生の旅路」を象徴する詩でもある。
彼らが実際に遭遇した法的トラブル、都市ごとの空気、音楽業界での苦悩――それらが軽快なロックンロールの中に、ユーモアと疲弊の両面をもって詰め込まれている。
特に有名な一節、「What a long, strange trip it’s been（なんて長くて、不思議な旅だったんだろう）」は、Grateful Deadのみならず、60年代以降のカウンターカルチャー全体を象徴する言葉として今も引用され続けている。
それは、順風満帆でもなく、栄光でも失敗でもない、“ただ不可思議な旅”だったという控えめな肯定なのだ。
また、「Keep truckin’, like the do-dah man（ドゥーダー男のように走り続けろ）」というラインは、スティーブン・フォスターの民謡「Camptown Races」への言及であり、アメリカ音楽のルーツと、放浪者の文化をつなぐ遊び心でもある。
この曲の語り手は、おそらく疲れている。傷つきもしている。だが、それでも「止まらない」という選択をする。
その姿に、聴き手は“なんとかやっていこう”という気持ちを重ねられるのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Uncle John’s Band by Grateful Dead
仲間と音楽に支えられながら歩んでいく人生を、温かく優しいメロディで描いた名曲。 - Friend of the Devil by Grateful Dead
逃避行と罪の意識をユーモラスに描いた、軽快なフォーク・ナンバー。 - Going Down the Road Feeling Bad by Grateful Dead（トラディショナル）
自らの境遇を受け入れながらも前に進もうとする、古典的アメリカーナの精神。 -
The Weight by The Band
人間関係と責任を背負いながら旅する姿を描いた、アメリカン・フォークロックの金字塔。 -
Tangled Up in Blue by Bob Dylan
人生と愛の入り組んだ流れを回想的に描いた詩的ジャーニー・ソング。
6. どこまでも走り続けるためのアンセム
「Truckin’」は、Grateful Deadの魂を凝縮したような楽曲である。
それは“完璧な瞬間”を讃えるものではない。むしろ、失敗し、転び、思いがけない道を選びながら、それでも生きていくことそのものを肯定している。
人生は“長くて、不思議な旅”だ。その旅には正解も地図もないけれど、音楽と仲間があれば、どうにかなる。
「Truckin’」は、そんな“どうにかなる哲学”をロックンロールのリズムに乗せて、誰かの夜明け前を照らす一曲なのだ。
何があっても、“Keep truckin’ on”――この言葉にこめられた希望と皮肉とユーモアが、50年以上たった今でも、深く心に響き続けている。
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