1. 歌詞の概要
「Good Intentions」は、アメリカのフォーク/オルタナティヴ・ロックバンド、Toad the Wet Sprocketが1995年に発表したコンピレーションアルバム『In Light Syrup』に収録された楽曲であり、同年放送の人気ドラマ『Friends』のサウンドトラック『Friends Original TV Soundtrack』にもフィーチャーされ、バンド後期の代表曲として広く知られるようになった。
この曲のタイトル「Good Intentions(善意)」が示すように、歌詞は「善意で始めたはずのことが、なぜかうまくいかない」という皮肉とジレンマをテーマにしている。
人は誰しも“正しいこと”をしようとする。しかし、それが他者の期待を裏切り、信頼を損ない、最終的には自分自身をも疑わせる結果になることもある。そんな“すれ違いの構造”が、軽快なメロディの中で静かに語られていく。
曲調は明るくポップで耳なじみが良いが、その中に含まれたリリックは意外なほど辛辣で、自己嫌悪や諦め、そしてそれでもなお人と繋がろうとする切なさが込められている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Good Intentions」は、アルバム未収録だったBサイドやアウトテイクを集めたコンピレーション『In Light Syrup』の中でも特に評価が高く、シングルとしてリリースされて以降、バンドのライブでも定番曲となっている。
Toad the Wet Sprocketはこの時期、すでに長いツアーと制作の中でメンバー間に摩擦を抱えており、その中で生まれた“人間関係の機微”や“誠実さの限界”がこの曲に投影されているとも言われている。
ヴォーカルのグレン・フィリップス(Glen Phillips)は、この曲について「最善を尽くしたつもりが、最悪の結果になってしまうことの不条理さを、自嘲気味に歌った」と語っており、それは“真面目で誠実な人間ほど陥りがちな葛藤”を象徴している。
また、アコースティックを基調としたこの楽曲は、90年代半ばの“やさしいオルタナティヴ”の典型としても親しまれ、バンドのイメージを決定づけた一曲となった。

3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に「Good Intentions」の印象的なフレーズを英語と日本語訳で紹介する。
“It’s hard to rely on my good intentions”
「僕の善意を信じるのは難しいんだ」
“When my head’s full of things that I can’t mention”
「言葉にできないことで頭がいっぱいのときには」
“Seems I usually get things right”
「たいていはうまくやれてるはずなんだけど」
“But I can’t make it through the night”
「でも夜になると、どうしても乗り越えられないんだ」
“And I can’t stand the look on your face”
「君のその顔を見るのがつらくてたまらない」
歌詞全文はこちらで確認可能:
Toad the Wet Sprocket – Good Intentions Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
この曲が語るのは、“善意”が持つ二面性である。
「君のためを思って言ったことが、傷つけてしまった」
「最善を尽くしたのに、結果は最悪だった」
そんな経験は、誰にでもあるだろう。そしてこの曲は、まさにその“やるせなさ”に名前を与えてくれる。
「善意に頼るのは難しい」という冒頭のフレーズは、善意が必ずしも信頼に足るものでないこと、あるいは他者にとっては“押しつけ”になりうることへの気づきを表している。
一方で、主人公は自分が“悪人”ではないことも知っている。ただ、自分の感情や行動が他人にどう映るかをうまくコントロールできず、結果として信頼を失っていく。
「たいていはうまくやれてるはずなのに、夜になるとダメなんだ」というラインも象徴的で、日中には保てていた“理性”や“正しさ”が、孤独や疲労とともに崩れていく様子がリアルに描かれている。
この「夜に崩れてしまう」という感覚は、自己を信じきれない人間の心情を如実に表しており、それでも翌日また「善意」から始めようとする姿が、痛々しくも美しい。
この楽曲の凄さは、その“繊細な崩壊”を、軽やかなギターと心地よいメロディに包み込んでいる点にある。
聴きやすさの裏にある感情の複雑さ。それこそが、Toad the Wet Sprocketというバンドの核であり、この曲が多くのリスナーの心を掴み続けている理由である。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- If It Makes You Happy by Sheryl Crow
自己矛盾と開き直り、そして善意の限界をポップに描く90年代の名曲。 - You’re an Ocean by Fastball
複雑な感情の渦を、爽やかなサウンドに乗せたフォークロック系の楽曲。 - Walk on the Ocean by Toad the Wet Sprocket
現実と夢の間を漂うような感覚と、“言葉にできない距離感”が共鳴する姉妹曲的存在。 - Mr. Jones by Counting Crows
自意識と理想、他者とのギャップに悩む“善意の語り手”を描いたバラッド。 -
All I Want by Toad the Wet Sprocket
誠実さと満たされなさ、その間にある静かな叫びを淡く描いた代表曲。
6. “正しさ”が、誰かを傷つけるとき
「Good Intentions」は、正しいことをしたはずなのに、うまくいかない──そんな日常の“誠実な失敗”を描いた、非常に人間くさい楽曲である。
そしてその“人間くささ”こそが、この曲を特別なものにしている。
善意だけでは、救えないものがある。
言葉にできない思いは、時に沈黙よりも残酷になる。
けれど、それでもなお、明日また人と向き合おうとする人の背中を、そっと支えてくれるような優しさが、この曲にはある。
「Good Intentions」は、“それでも人と生きる”ことを諦めないための、小さな祈りのような歌なのである。
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