発売日: 2019年2月8日
ジャンル: カバー・アルバム、オルタナティヴ・ロック、アコースティック、アメリカーナ
- 概要
- 全曲レビュー
- 1. Can’t Forget(Yo La Tengo)
- 2. Settled Down Like Rain(The Jayhawks)
- 3. Old Man Blank(The Bevis Frond)
- 4. Things(Paul Westerberg)
- 5. Speed of the Sound of Loneliness(John Prine)
- 6. Abandoned(Lucinda Williams)
- 7. Now and Then(Natural Child)
- 8. Magnet(NRBQ)
- 9. Round Here(Florida Georgia Line)
- 10. TAQN(The Eyes)
- 11. Unfamiliar(The GiveGoods)
- 12. Straight to You(Nick Cave & The Bad Seeds)
- 総評
- おすすめアルバム
- ファンや評論家の反応
概要
『Varshons 2』は、The Lemonheadsが2009年の『Varshons』に続いてリリースした、2枚目のフルカバー・アルバムである。
前作と同様に、ジャンルや時代を越えた多彩な楽曲を、エヴァン・ダンドゥの繊細なボーカルとアコースティック中心のアレンジで再構築している。
今回はButthole Surfersのギブ・ギボンズは関与せず、よりシンプルで温かみのあるアプローチに転じている。
選曲は、The Jayhawks、Lucinda Williams、Nick Cave、Yo La Tengo、Paul Westerberg(The Replacements)など、
エヴァンが90年代以降のUSインディーやルーツ・ロックに根を持つことを改めて示す内容となっている。
また、全体として“沈静化したLemonheads”という印象が強く、
壊れた声と抑えたテンポが、収録曲すべてに深いパーソナルな色を与えている。
全曲レビュー
1. Can’t Forget(Yo La Tengo)
オープニングを飾るのは、内省的で穏やかなYo La Tengoの一曲。
原曲の“ぼんやりとした記憶”を、よりストレートで親密な語り口で再構築している。
2. Settled Down Like Rain(The Jayhawks)
オルタナ・カントリーの名バンドによるバラードを、
アコースティック主体の演奏とダンドゥの脱力ボーカルでしっとりと聴かせる。
まさに“雨のように沈む”情感が宿る名演。
3. Old Man Blank(The Bevis Frond)
サイケ/ローファイ系UKバンドのディープカット。
ノイジーさを抑えたアレンジで、疲れた心がふと共鳴するような曖昧な美しさが生まれている。
4. Things(Paul Westerberg)
The Replacementsの中心人物によるソロ楽曲。
「Things I used to do with her」——という繰り返しが、喪失の余韻として胸に残る。
エヴァンの歌声は、まさにウェスターバーグ的“壊れた男の優しさ”を体現する。
5. Speed of the Sound of Loneliness(John Prine)
米国フォーク界の重鎮ジョン・プラインによる名曲。
孤独のスピードを測るという詩的なタイトルに対し、実直でまっすぐな解釈が光る。
6. Abandoned(Lucinda Williams)
愛に捨てられた心情を描いたブルージーな原曲を、
ダンドゥが感情を抑えた語り口で淡々と歌うことで、
逆に“諦めきれない悲しみ”がじわじわと浮き彫りになる。
7. Now and Then(Natural Child)
近年のナッシュビル発ガレージバンドからの選曲。
ストレートな歌詞とコード進行が、Lemonheads本来のシンプルな魅力と共鳴する。
8. Magnet(NRBQ)
アメリカの老舗ポップ・ロック・バンドの楽曲。
軽やかさのなかに、大人の照れと憂いが宿る演奏が心地よい。
9. Round Here(Florida Georgia Line)
現代カントリー・ポップの曲をカバーという意外性。
だがアコースティック主体の演奏にすることで、原曲の都会的な輝きを田舎道の孤独へと転換している。
10. TAQN(The Eyes)
UK 70年代パンクからの選曲。
パンキッシュな衝動をスローに引き伸ばすことで、青春の傷跡のような美しさが滲む。
11. Unfamiliar(The GiveGoods)
オーストラリアのインディーバンドによるややマイナーな一曲。
それだけに、まるで自分の曲のように自然に聴こえる不思議な完成度がある。
12. Straight to You(Nick Cave & The Bad Seeds)
アルバムのラストを飾るのは、Nick Caveの情熱的な名曲。
オリジナルのドラマティックな展開とは対照的に、エヴァンはひとつひとつの言葉を穏やかに抱きしめるように歌う。
この対比こそが本作のクライマックスであり、痛みを昇華させた祈りのような余韻を残す。
総評
『Varshons 2』は、The Lemonheadsというバンド、あるいはエヴァン・ダンドゥという人間が、
自分のルーツや傷跡を音楽を通して静かに撫でるような作品である。
ここには大きな野心も、爆発的なサウンドもない。
あるのは、夜更けの部屋でひとりカセットを巻き戻すような、私的な感情の追体験だけ。
だがそれこそが、Lemonheadsが最も輝く場所でもある。
本作は、ロックというより日記のように静かな12のカバー曲たちを通して、
“歌うこと”そのものの意味を問いかけてくる。
おすすめアルバム
- Elliott Smith『From a Basement on the Hill』
内省的で不安定な音世界が響き合う。Varshons 2の静けさと共通。 - Cat Power『Jukebox』
カバーに込めた個人的な感情の反映。精神的にも選曲的にも近い。 - Tom Morgan『Orange Syringe』
Smudgeの中心人物で、Lemonheadsの裏ソングライター的存在。感性の源泉。 - Nick Drake『Pink Moon』
音数の少なさと深い孤独、音楽の純度が共通する孤高の名作。 - Mark Kozelek『Like Rats』
意外な楽曲を淡々とカバーし、別の意味を宿らせる手法において類似。
ファンや評論家の反応
『Varshons 2』は、“カバーでありながら完全に自分の声で語っている”点を高く評価され、
**「これは彼のオリジナル・アルバムと同じくらい誠実だ」**という声が多数上がった。
また、選曲の渋さとバラつきは前作に続き意見が分かれたが、
その不統一こそがエヴァン・ダンドゥらしさだという見方が主流となった。
これは、年齢を重ねたLemonheadsがたどり着いた一つの境地。
静かで、優しく、そして壊れないほどに壊れた、あの声のためのアルバムなのだ。
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