発売日: 2012年10月9日
ジャンル: ハートランド・ロック、オルタナティヴ・ロック、ガレージロック
概要
『Glad All Over』は、The Wallflowersが7年の沈黙を破ってリリースした6作目のスタジオ・アルバムであり、
2005年の『Rebel, Sweetheart』以来となる本作は、メンバーの再編と音楽性の刷新を伴った“新生ウォールフラワーズ”の狼煙とも言える作品である。
タイトルの『Glad All Over』は、1964年にDave Clark Fiveが発表した同名のヒット曲に由来しつつ、
“うれしくてたまらない”というシンプルなフレーズが、このバンドが再び集まり音を鳴らすことへの喜びそのものを表している。
プロデューサーには、オルタナ界のベテランJack Irons(Red Hot Chili Peppers、Pearl Jam)を起用し、
ドラムには元Rage Against the MachineのJack Ironsをフィーチャーすることで、
The Wallflowers史上最もグルーヴィで骨太なリズムセクションを実現。
結果として、従来のハートランド・ロックに加えて**ガレージロック、パンク、サイケ的な熱気が融合した“新たな荒々しさ”**が生まれている。
全曲レビュー
1. Hospital for Sinners
アルバムの幕開けを飾る、ダークでタフなギターリフが印象的な一曲。
「罪人のための病院」というイメージが示すように、宗教的メタファーと現代社会への皮肉が込められている。
バンドの新たな“鋭さ”を象徴するスタート。
2. Misfits and Lovers(feat. Mick Jones)
元The Clashのミック・ジョーンズを迎えたロックンロール・ナンバー。
「はぐれ者と恋人たち」というタイトルが示すように、規格外の者たちへの連帯感と祝福が軽快に響く。
ミックのギターが曲全体にパンクな息吹を与える。
3. First One in the Car
ポップなコード感と哀愁あるメロディが特徴の佳曲。
「車に最初に乗り込む」という小さな行動を通して、孤独と選択の瞬間を描いている。
ジェイコブ・ディランの描写力が冴える。
4. Reboot the Mission(feat. Mick Jones)
本作のリードシングル。
ミック・ジョーンズとの再共演による、ザ・クラッシュ直系のダブ・ファンク・ガレージ風ロック。
“ミッションを再起動せよ”というメッセージは、バンド再始動の比喩でもあり、現代社会への風刺でもある。
ファンクビートとスピット気味のヴォーカルが新鮮。
5. It’s a Dream
タイトル通り夢のように浮遊感のあるアレンジが特徴。
甘美というよりも不安定で、夢と現実の境界を歩くようなメランコリックな世界観が広がる。
6. Love Is a Country
アルバムの叙情的ハイライト。
「愛はひとつの国だ」という大胆なメタファーを用い、関係性の政治性や国境性をほのめかす詩的な佳作。
ウォールフラワーズらしいフォークロックの系譜も感じられる。
7. Have Mercy on Him Now
ブルース調の進行に乗せて、“彼に今、慈悲を”と繰り返す、贖罪と人間性をめぐるバラッド。
ギターのリフが曲全体の哀しみと熱を静かに支える。
8. The Devil’s Waltz
ゆったりとしたテンポに乗せて、悪魔との舞踏=誘惑と堕落のテーマを描いた異色作。
ワルツのようなリズムとサイケな音像が、物語的魅力を引き立てる。
9. It Won’t Be Long (Till We’re Not Wrong Anymore)
自虐的なユーモアと諦観が同居する、現代人の誤りと希望の距離感を綴った佳曲。
ヴァースの切れ味とサビの叙情性のコントラストが印象的。
10. Constellation Blues
星座をテーマに、運命と自由意志の不確かさを描く。
ブルースとサイケが混ざり合ったサウンドが、内省的な世界観を彩る。
11. One Set of Wings
アルバムの締めくくりにふさわしい、再生と自由への賛歌。
「翼は一組しかないけれど、飛べるかどうかは自分次第だ」といったメッセージが、
静かな決意として残る。
総評
『Glad All Over』は、**The Wallflowersが沈黙を破って帰ってきたことへの喜びと、その再出発にかける不屈の意志を詰め込んだ“ラディカルな再起動アルバム”**である。
これまでのジェイコブ・ディランの詩情的で穏やかなロックとは異なり、
ここではファンク、パンク、ガレージ、サイケといった刺激的な要素が大きく導入されており、
バンド史上最も多様で実験的な音世界が展開されている。
一方で、詞世界においては依然として孤独、社会不信、再生への渇望といったThe Wallflowersらしい主題が息づいており、
ジェイコブの低く語りかけるようなヴォーカルが混沌の中の静けさとしてリスナーを導いていく。
“うれしくてたまらない”のは、再びこの声と音に出会えたから。
『Glad All Over』は、静かなる反逆者たちのロックが、まだ終わっていないことを証明するアルバムなのだ。
おすすめアルバム
- The Clash『Combat Rock』
ミック・ジョーンズ参加曲からの直接的な影響元。パンク+ポップ+政治性の結晶。 - Spoon『Ga Ga Ga Ga Ga』
ミニマルでタイトなロックにソウルやファンクを融合。Wallflowersのモダンな側面と共鳴。 - R.E.M.『Accelerate』
ベテランバンドによる再起と疾走感の融合。社会批評とロックの融合という点で近い。 - Jakob Dylan『Women + Country』
本作後にリリースされたジェイコブのソロ作。『Glad All Over』の実験性とは対照的な内省性。 -
The Gaslight Anthem『Handwritten』
The Wallflowers的アメリカンロックを受け継ぐ次世代バンドの代表作。
ファンや評論家の反応
『Glad All Over』は賛否を呼んだ作品であり、
そのガレージ/ファンク志向の変化に驚いたファンも多かった一方で、
“変化を恐れずに鳴らされた本物のロック”として高く評価する声も多い。
特に「Reboot the Mission」は、バンド再始動の象徴としてライブでも盛り上がりを見せ、
このアルバムが“単なる復帰作”ではなく、バンドの進化形であることを証明してみせた。
時代がどう変わろうと、The Wallflowersは静かに、でも確かに音楽で語る。
『Glad All Over』は、その語りがまだ終わっていないことを、確信に満ちた形で示した作品である。
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