
発売日:2012年10月2日
ジャンル:Alternative Rock / Roots Rock
概要
Glad All Overは、Jakob Dylan率いるThe Wallflowersが2012年に発表した6作目のスタジオ・アルバムである。2005年のRebel, Sweetheart以来7年ぶりとなるバンド名義の新作で、その間にDylanはSeeing ThingsとWomen + Countryという2枚のソロ・アルバムを制作していた。特にソロではフォークやアメリカーナへ比重を移していたため、本作は単なる活動再開ではなく、再びエレクトリックなバンド演奏へ戻る作品にもなった。
制作にはDylanのほか、長年のメンバーであるRami JaffeeとGreg Richling、初期からバンドに関わったJack Ironsらが参加し、プロデューサーはJay Joyceが担当した。さらにThe ClashのMick Jonesが「Reboot the Mission」と「Misfits and Lovers」にギターとボーカルで参加している。この組み合わせが象徴するように、従来のThe Wallflowersに強かったフォーク・ロックやルーツ・ロックだけでなく、ニュー・ウェイヴやポスト・パンクを思わせる硬いリズム、反復するギターも目立つ。
ただし、バンドの中心がDylanの低く乾いた声と簡潔なメロディにあることは変わらない。大きなサビを持つ曲でも演奏を過度に感傷的にせず、ドラムとベースの反復によって前へ運ぶ。本作は90年代の代表作Bringing Down the Horseを再現するのではなく、The Wallflowersらしい歌を保ちながら、休止期間を経たバンドに新しいリズムと質感を与えたアルバムである。
全曲レビュー
1. 「Hospital for Sinners」
乾いたドラムとざらついたギターがすぐに入り、復帰作を懐古的な雰囲気で始めない意思を示す。Dylanのボーカルは低い位置を保ち、その周囲でギターが細かく動くため、演奏が激しくなっても歌の輪郭は崩れない。「罪人のための病院」というタイトルは、傷や欠点を抱えた人間が集まる場所を思わせ、救済と居心地の悪さを同時に感じさせる。アルバムの硬質なロック・サウンドを最初に提示する曲だ。
2. 「Misfits and Lovers」
Mick Jonesが参加し、The Clashを思わせる鋭いギターと反復的なリズムをThe Wallflowersの作曲へ持ち込んでいる。タイトルの「はみ出し者と恋人たち」が示すように、社会の中心から少し外れた人物たちへの視線があり、Dylanの落ち着いた声とJonesの存在感が対照を作る。ルーツ・ロック的な温かさより都市的な緊張を優先した演奏で、本作が過去作と違う方向へ進んでいることが早い段階で分かる。
3. 「First One in the Car」
ギターの硬さを少し緩め、明快なメロディを中心にしたミッドテンポへ移る。誰よりも早く車へ乗り込むという身近な動作をタイトルにしながら、そこには現在の場所から抜け出したいという焦りも感じられる。Dylanは細かな感情を声量で説明せず、淡々とした歌唱の中に疲労や期待を混ぜる。派手な仕掛けは少ないが、バンドのルーツにあるアメリカン・ロックの簡潔な魅力がよく出た曲である。
4. 「Reboot the Mission」
本作最大の変化を示す曲で、Mick Jonesを迎え、レゲエやダブ、ニュー・ウェイヴを思わせる跳ねたビートを採用している。ギターを壁のように鳴らさず、ベースとドラムの間に空間を作るため、Dylanの声もリズムの一部として聞こえる。「ミッションを再起動する」というタイトルは長い休止を経たバンド自身にも重ねられるが、単純な自伝と断定するより、もう一度動き始めるための宣言として読むのが自然だ。復帰作だからこそ説得力を持つ大胆な一曲である。
5. 「It’s a Dream」
前曲のリズム重視のアレンジから離れ、柔らかなギターと旋律を前へ出す。夢という言葉を使いながら、幸福な幻想だけを描くのではなく、確かなものだと思っていた状況がいつ失われるか分からない感覚が残る。Dylanの低い声はこうした曖昧な歌詞と相性がよく、感情を決めつけずに進む。アルバム前半の硬い音を一度和らげることで、曲順にも必要な余白を作っている。
6. 「Love Is a Country」
愛を「国」にたとえ、そこへ入ることや留まることの難しさを思わせる比喩を中心にした曲である。広がりのあるギターと安定したリズムによって、タイトルに似合う大きな景色を作りながら、歌そのものはあくまで抑制されている。恋愛を幸福な到達点ではなく、境界や距離を持った場所として捉えることで、Dylanらしい醒めた視点が生まれる。ルーツ・ロックと本作の現代的な音作りが自然に接続した一曲だ。
7. 「Have Mercy on Him Now」
タイトルには祈りのような響きがあるが、演奏は過剰に荘厳にはならず、バンドの緊張感を保っている。誰かの失敗や弱さを外側から眺めながら、完全に切り捨てるのではなく慈悲を求める視点が中心となる。Dylanの声にある乾いた質感のおかげで、同情が感傷へ流れすぎないのも特徴だ。前曲の広い比喩から一人の人物へ焦点を縮め、アルバム中盤に人間的な陰影を加えている。
8. 「The Devil’s Waltz」
タイトル通り悪魔的なイメージを持ちながら、力任せのハード・ロックにはせず、どこか不穏な揺れを残す。演奏の間を生かし、低いボーカルとギターの響きによって、危険なものへゆっくり引き寄せられるような感覚を作っている。善悪を明快に整理するというより、人が自ら危うい場所へ近づいてしまう心理を思わせる。後半へ入るところでアルバムの色を暗く変える曲である。
9. 「It Won’t Be Long (Till We’re Not Wrong Anymore)」
長いタイトルとは対照的に、曲は比較的直接的なロックの推進力を持つ。「もう間違っていないと言えるまで、そう長くはかからない」という言葉には、現在の不安定さを認めながら先へ進もうとする感覚がある。ギターとドラムが前へ押し、Dylanのメロディもいつもより明るく開くため、後半の中では希望が見えやすい。確信ではなく「もう少し」という距離で未来を捉えるところに、このバンドらしい慎重さがある。
10. 「Constellation Blues」
ブルースという題を掲げながら、伝統的な12小節ブルースをそのまま再現する曲ではない。星座を思わせる大きなイメージと、地上の孤独や迷いを重ねるような感覚があり、バンドは暗めのギター・サウンドでそれを支える。Dylanの声も低い音域に留まり、サビで劇的に解放するより一定の緊張を保つ。アルバム終盤で、ルーツ音楽への接点をより陰影のある形で見せている。
11. 「One Set of Wings」
最後は飛翔を思わせるタイトルを持つ曲で締めくくられる。大げさな勝利の歌にはせず、限られたものを使ってどこまで進めるかという感覚を残し、Dylanの抑制された歌唱がその慎重な希望に合っている。アルバム冒頭の荒々しい再始動から比べると演奏にも余裕があり、活動再開を単なる過去への帰還ではなく、次の場所へ向かう動きとして終わらせる。静かな前向きさを残すクロージングである。
総評
Glad All Overの面白さは、7年ぶりのThe Wallflowers作品でありながら、「昔のThe Wallflowers」を忠実に再現しなかったことである。Dylanの低い声、大きすぎないメロディ、ギターを中心とした作曲には明確な連続性があるが、リズム隊は以前より硬く、反復を強調する場面が増えた。ギターもアメリカーナ的な温かさだけではなく、短く切るフレーズや乾いた音色によって曲を動かしている。
その変化を最も端的に示すのが「Reboot the Mission」だが、Mick Jonesの参加を単なるThe Clashへの敬意で終わらせていない点が重要である。レゲエ/ダブ的な空間やニュー・ウェイヴの硬いリズムを取り込むことで、The Wallflowersの曲から普段とは違う身体的な動きを引き出している。「Misfits and Lovers」でもJonesの存在がバンドの音を外側へ押し広げ、本作に他のアルバムとは異なる輪郭を与えた。
一方、変化を支えているのはDylanの変わらない作詞と歌唱である。彼の歌詞には罪、愛、悪魔、救済、旅といった古くからある言葉が登場するが、物語を完全に説明せず、聞き手が人物や状況を想像できる余白を残す。歌唱も感情を直接爆発させないため、激しい演奏の中にも少し距離がある。この抑制があるからこそ、新しいプロダクションを取り入れてもThe Wallflowersの曲としてまとまる。
90年代のBringing Down the Horseのようにシングル曲の強さを中心に設計された作品と比べると、本作は一曲ごとの即効性よりバンド全体の演奏感覚を更新することに重心がある。そのため代表曲だけを求めると地味に感じる部分もあるが、復帰作としてはむしろその姿勢が長所になった。過去の成功を再演するのではなく、ルーツ・ロックの作曲をニュー・ウェイヴやポスト・パンク的なリズムへ接続し、The Wallflowersがまだ変化できるバンドであることを示した作品である。
おすすめアルバム
Rebel, Sweetheart by The Wallflowers
2005年の前作。ルーツ・ロックとDylanの物語的な作詞をより伝統的なバンド・サウンドでまとめており、7年間の休止を挟んでGlad All Overがどこを変えたのか比較しやすい。
Bringing Down the Horse by The Wallflowers
バンドを広く知らしめた1996年作。オルガン、ギター、Dylanの低い声を軸に、アメリカン・ロックと明快なポップ・ソングを結びつけた、彼らの基本形を確認できる作品である。
Women + Country by Jakob Dylan
バンド休止期にDylanが発表したソロ作。T Bone Burnettのプロデュースでフォークやカントリーへ深く入り込んでおり、そこからGlad All Overの電気的なバンド演奏へ戻った変化がよく分かる。
Combat Rock by The Clash
ロックにレゲエ、ファンク、ダブなどを混ぜ、リズムと空間を大胆に利用した作品。Mick Jonesが参加した本作の楽曲、とりわけ「Reboot the Mission」が接続する音楽的な感覚をたどれる。
All That You Can’t Leave Behind by U2
長いキャリアを持つバンドが、自分たちの基本的な歌と演奏を確認しながら同時代的なプロダクションへ更新した作品。音楽性そのものより、過去を再現せずバンドの核を再提示する方法がGlad All Overと響き合う。

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