
発売日: 2020年2月7日
ジャンル: ガレージロック、グラムロック、ポップパンク、ダンスロック
概要
『Father of All…』(正式タイトルは『Father of All Motherfuckers』)は、Green Dayが2020年にリリースした13作目のスタジオ・アルバムであり、自己模倣を避け、意図的に“脱Green Day”的な方向性を貫いた問題作である。
前作『Revolution Radio』では、パンクの初期衝動と社会的な怒りを誠実に表現し、批評・商業両面で高評価を得た。
その後の作品として期待された本作は、ファンの予想を大きく裏切る形で登場した。
サウンドは、オルタナティヴでもポリティカルでもなく、グラム、ガレージ、ダンス、ポップといった“ロックンロールの衝動性”を前面に押し出したものとなっている。
アルバム全体の長さは26分、歌詞は短く、内容は軽く、そして楽曲の大半はファルセットとキャッチーなリフで構成されている。
これは明らかに、「Green Day的なるもの」の枠組みを壊すためのアルバムであり、“ふざけたロックで世界を煙に巻く”という意図的挑発の記録である。
そのぶん賛否も激しく、批評家からは“自己パロディ”と評される一方、
ビリー・ジョー本人は「真面目なロックに飽きた」と語り、自らのレーベル“Reprise”すら皮肉ったアートワークとプロモーションを展開した。
全曲レビュー
1. Father of All…
ファルセットボーカル、手拍子、クラップ、ガレージリフ──
Green Dayらしからぬ冒頭曲で、The Black KeysやThe White Stripesを思わせる現代的ロカビリーに近い。
ここで“これはいつものGreen Dayじゃない”と明示される。
2. Fire, Ready, Aim
1分多ちょっとの短さで畳みかける、“衝動ファースト”なハードポップ。
理屈よりもノリ、意味よりも勢いという方向性が鮮明。
3. Oh Yeah!
Joan Jettの「Do You Wanna Touch Me」をサンプリングした、グラム風ポップロック。
アイロニカルでキャッチーだが、逆にもっとも批判された一曲でもある。
4. Meet Me on the Roof
60年代風のギターと甘酸っぱいメロディが融合した、ティーンムービー風パワーポップ。
軽やかで踊れる一曲。
5. I Was a Teenage Teenager
「俺は10代のティーネイジャーだった」という脱力系タイトルでありながら、
実はアイデンティティと孤独への苦い回想がにじむ、アルバム中もっとも内省的な楽曲。
6. Stab You in the Heart
タイトルに反して内容は痛快なガレージ・ロカビリー。
エルヴィス・プレスリーやThe Sonicsへのオマージュとも取れる、ビリー・ジョーのロックンロール趣味が炸裂した一曲。
7. Sugar Youth
Green Dayらしいスピード感のあるスリーコードパンク。
短いが勢いと毒があり、“お前らこれを待ってたんだろ?”という皮肉すら込められているように思える。
8. Junkies on a High
タイトル通り、退廃と快楽に酔ったサイケな楽曲。
『Nimrod』期のような内向きのメロウさがうっすらと顔を覗かせる。
9. Take the Money and Crawl
ベースがうねるロックンロール・チューン。
騙し合いと欲望をテーマにしながらも、明らかに“音の気持ちよさ”だけを追求している。
10. Graffitia
アルバムのラストを飾る、60sポップとモータウン風リズムが融合したアップテンポナンバー。
“記憶の中のアメリカ”に別れを告げるような感傷もあり、唯一ちょっとだけ感情が垣間見える締め。
総評
『Father of All…』は、Green Dayが意図的に“Green Dayらしさ”を捨てた挑発的ロックンロールショーケースである。
ここには『American Idiot』のような政治的メッセージも、『Revolution Radio』のような誠実さもない。
代わりにあるのは、ロックの初期衝動、表層的キャッチーさ、スタイル重視の軽さであり、
それをGreen Dayが本気で、いや本気じゃないふりをしながらやっていることが本作最大の読みどころである。
とはいえ、この軽さや短さにこそ、**“重さの時代におけるカウンター”**としての価値がある。
大人になってもロックをやっている彼らが、“大人っぽくならない”という意志を貫いたとも言える。
結果的に“アルバム”としての深さや重厚さはない。だが、**Green Dayが“今”を瞬間的に焼き付けた“26分間のパンクカートゥーン”**として記憶されるべき作品だ。
おすすめアルバム(5枚)
- Foxboro Hot Tubs / Stop Drop and Roll!!!
ビリー・ジョーの別名義ガレージロックプロジェクト。本作の源流。 - The Hives / Lex Hives
キャッチーでファッション的なパンク。『Father of All…』の精神と通じる。 - The White Stripes / Get Behind Me Satan
ガレージ、ロカビリー、ファルセット──本作との形式的共鳴。 - The Strokes / Angles
スタイル優先、感情後回しの“軽いロック”を肯定した代表例。 - Joan Jett / Bad Reputation
“誰がどう思おうと関係ない”という開き直りのロックンロール精神を共有。
ビジュアルとアートワーク
アートワークは、旧Green Dayロゴの上にスプレーペイントをぶちまけたような下品でポップなグラフィティ風ジャケット。
これ自体が“レーベルやイメージへのカウンター”となっており、
「俺たちのことなんて、わかったふりをするなよ」というラディカルな姿勢のビジュアル表現になっている。
『Father of All…』は、Green Dayの“カラッとした過剰”であり、“軽薄の美学”の完成形である。
批評も拒絶も計算済みで、それでも「楽しいからやってるんだ」と叫ぶような、とことんチャラくて正直なロックアルバムなのだ。
コメント