発売日: 1986年6月2日
ジャンル: ロック、ポップロック、シンセポップ、サウンドトラック
概要
『A Kind of Magic』は、クイーンが1986年に発表した12作目のスタジオ・アルバムであり、映画『ハイランダー（Highlander）』のサウンドトラック的役割を果たしつつ、バンドのアリーナロックとしての成熟を示した重要作である。
このアルバムに収録された楽曲の多くは、ラッセル・マルケイ監督によるSFファンタジー映画『ハイランダー／悪魔の戦士』のために書かれたものであり、作品全体に“映画音楽”としての色合いが濃く表れている。
ただし、正式なサウンドトラックではなく、独立したアルバム作品として編集されているため、楽曲はスタジオ仕様に再構成され、よりポップで洗練された仕上がりとなっている。
1985年のライブ・エイドでの大成功を経て、クイーンは再び世界的な脚光を浴びていた。
本作はその勢いを背景に、バンドが“アリーナの覇者”としての地位を確立した象徴的な一作であり、リリース直後に行われた**「マジック・ツアー」**は、フレディ・マーキュリーがステージに立った最後のワールドツアーとしても記憶されている。
ポップ寄りのアレンジとシンセサイザーの多用が特徴でありながら、ドラマティックで情熱的な展開を持つ楽曲が揃っており、ロックバンドとしてのダイナミズムと表現力が存分に発揮された作品となっている。
全曲レビュー
1. One Vision
ロジャー・テイラーを中心にバンド全員が関与した壮大なオープニング。
“ひとつの夢、ひとつの魂”というスローガン的リリックが、ライブ・エイド後の世界への希望を反映している。
骨太なギターリフと荘厳なサウンドスケープが、アリーナロックの頂点を告げる。
2. A Kind of Magic
ジョン・ディーコンによるグルーヴィーなベースとポップなメロディが特徴のタイトル曲。
魔法のような時間を描いた歌詞と軽やかなシンセサウンドが印象的で、映画『ハイランダー』のテーマとしても用いられた。
キャッチーでラジオフレンドリーな構成が、クイーンのポップ面を強調する。
3. One Year of Love
サックスがフィーチャーされた異色のバラード。
甘く官能的なムードを湛えたこの曲は、映画のラブシーン用に書かれたもので、フレディの繊細な歌唱が楽曲を引き立てる。
ロックから離れたスムースなアレンジが、アルバムの中での変化球的役割を果たす。
4. Pain Is So Close to Pleasure
ジョンとフレディによるコラボで、モータウン的要素を感じさせる軽快なファンクポップ。
愛と痛みが表裏一体であるという普遍的テーマを、柔らかく洒脱な音像で包み込む。
本作の中ではやや異質ながら、都会的な感性が光る一曲。
5. Friends Will Be Friends
“ウィ・アー・ザ・チャンピオンズ”の系譜に連なる友情賛歌。
ドラマティックなメロディと力強いコーラスがクイーンらしい高揚感を生み、コンサートでも“観客との一体感”を演出する楽曲として機能した。
6. Who Wants to Live Forever
ブライアン・メイ作の壮麗なバラードで、アルバム最大の感動曲。
「誰が永遠に生きたいと思うのか？」という問いが、映画の“不死”というテーマとリンクしながら、フレディの儚くも力強いボーカルに乗って響く。
ロンドン交響楽団との共演による壮大なオーケストレーションが、荘厳な空気を生み出している。
7. Gimme the Prize (Kurgan’s Theme)
映画の悪役“カータン”をモチーフにしたヘヴィメタル風ナンバー。
映画のセリフも挿入され、攻撃的なギターとシャウトが支配するアグレッシブな一曲。
ブライアン・メイの凶暴なギターサウンドが強烈。
8. Don’t Lose Your Head
シンセベースとヴォコーダーが印象的なインダストリアル風のトラック。
ドラマティックな女性コーラス（Joan Armatradingによる参加）と無機質なリズムが交錯し、映画的緊張感を持続させる。
サウンドトラック的要素の強いトラックとして機能している。
9. Princes of the Universe
フレディ・マーキュリー作のドラマティックなロックオペラ。
『ハイランダー』のテーマソングであり、不死の戦士としての誇りと宿命を叙情と激しさの間で描いている。
MVでは映画主演のクリストファー・ランバートとフレディが共演し、映像的にも高い完成度を誇る。
総評
『A Kind of Magic』は、クイーンが80年代中盤においてアリーナバンドとしてのスケールとシネマティックな世界観を融合させた作品であり、エンターテイメントとしての完成度が極めて高いアルバムである。
全体を通じて、サウンドトラック的な文脈と、スタジオアルバムとしての親しみやすさのバランスが非常に良く、クイーンの多面的な魅力が多彩な楽曲に昇華されている。
とりわけ「One Vision」「Who Wants to Live Forever」「Princes of the Universe」など、劇的な展開と演奏がシンクロする楽曲は、映画的スケールとバンドの力量が見事に噛み合った名演と言える。
同時に、「Pain Is So Close to Pleasure」「One Year of Love」のようなポップで都会的な曲も含まれ、80年代らしい柔らかなサウンドデザインも随所に感じられる。
そのため、クイーンを“ライブバンド”としてだけでなく、“作品を構築するスタジオ集団”としても再認識させる一作となっている。
本作を最後に、クイーンは1986年のマジック・ツアーをもってワールドツアー活動を終えることになる。
ゆえにこのアルバムは、“ツアーバンドとしてのクイーンの最終形態”を記録した、象徴的かつ感傷的な一枚でもあるのだ。
おすすめアルバム（5枚）
- Electric Light Orchestra / Balance of Power
シンセポップとオーケストラの融合、80年代らしい洗練されたサウンドが共通。 - Phil Collins / No Jacket Required
感情的なボーカルとデジタルプロダクションのバランスにおいて類似性がある。 - Genesis / Genesis（1983）
大衆性とコンセプチュアルな楽曲構成の間を巧みに行き来するスタイルが近い。 - David Bowie / Labyrinth Soundtrack
映画音楽とポップアートの融合という点での精神的共鳴。 - Simple Minds / Once Upon a Time
アリーナ志向とエモーショナルなボーカル、壮大な音像において親和性が高い。
ビジュアルとアートワーク
アルバムジャケットは、イラストレーターのロジャー・チリウムによるカラフルでポップなイラスト調のアートワークが採用され、まるでアニメのようなキャラクターにデフォルメされたメンバーが描かれている。
このデザインは映画『ハイランダー』の幻想的・異世界的な世界観と、1980年代の視覚文化の軽快さを巧みに融合しており、内容の多彩さを視覚的に象徴している。
また、MVにおいては『Princes of the Universe』のように映画とのクロスオーバー演出がなされており、視覚と音楽がシームレスに連動する“マルチメディア時代の幕開け”を先取りする姿勢が垣間見える。
このように『A Kind of Magic』は、80年代の“音と映像の総合芸術”という視点からも、クイーンの成熟した表現力を示す重要作と言えるだろう。
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