発売日: 1984年7月
ジャンル: ポストパンク / ファンク・パンク / アート・ロック
Minutemenの3rdアルバムDouble Nickels on the Dimeは、彼らのキャリアの頂点であり、80年代オルタナティブロックの最重要作品の一つだ。全43曲、約80分というボリュームながら、全編を通じてテンションを維持し、多彩なジャンルを消化しつつも、統一感を失わない驚異的な完成度を誇る。
アルバムタイトルは、高速道路で制限速度を守る皮肉を込めており、音楽業界や社会規範への批判がこの作品の根底にある。歌詞は政治や社会問題、哲学的テーマから個人的な洞察まで幅広く、シニカルなユーモアと詩的な深みを併せ持つ。
ベーシストMike Watt、ギタリスト兼ボーカリストD. Boon、ドラマーGeorge Hurleyのトリオは、それぞれの楽器で卓越したパフォーマンスを披露し、ジャズ、ファンク、カントリーなどを融合させた独自のパンクサウンドを展開している。以下にアルバムの注目トラックを解説する。
1. D.’s Car Jam / Anxious Mo-Fo
オープニングトラックは、D. Boonのギターの即興演奏をフィーチャーした「D.’s Car Jam」から始まり、続けて「Anxious Mo-Fo」へ。鋭いギターリフとグルーヴィーなベースが印象的で、アルバムのトーンを一気に決定づける。
2. Viet Nam
タイトル通り、ベトナム戦争をテーマにした政治的な楽曲。D. Boonの怒りを帯びたボーカルとMike Wattの重厚なベースが、戦争への批判を力強く伝える。
3. Cohesion
わずか1分半の中に、変拍子や予測不能な展開を盛り込んだ楽曲。タイトルが示す「結束」のテーマは、バンドの音楽的緊密さそのものを体現している。
4. This Ain’t No Picnic
アルバムの中で最も有名な曲の一つで、ブルーカラー労働者の視点を描いた歌詞が特徴的。特に「Boss man let me be!」というラインが痛烈。ギターリフとパーカッシブなビートがエネルギーを増幅する。
5. Corona
このアルバムを象徴する楽曲で、後に「ジャッカス」シリーズのテーマ曲としても有名になった。アコースティックギターが織りなす陽気なメロディに対し、皮肉たっぷりの歌詞が乗せられている。
6. Political Song for Michael Jackson to Sing
短いながらも鋭い政治批評が込められた一曲。タイトル自体がユーモアに溢れ、Wattの機知が光る。彼らの音楽が単なるプロテストソングに留まらない理由がここにある。
7. History Lesson – Part II
最も感情的な楽曲の一つで、バンドの哲学と友情を歌う。「Our band could be your life」というフレーズは、彼らのDIY精神を象徴し、後に一つのムーブメントの合言葉となった。
8. #1 Hit Song
皮肉に満ちたタイトルを持つこの曲は、音楽業界への痛烈な批判を歌う。アップビートなテンポと軽快なギターが曲のテーマとの対比を際立たせている。
9. Two Beads at the End
ベースラインが主導するミニマルな楽曲で、詩的な歌詞が抽象的ながらも深い余韻を残す。短い時間の中に独特の世界観を詰め込んでいる。
10. West Germany
冷戦時代の西ドイツを題材にした楽曲。シリアスなテーマながらも、ジャズ的なアプローチがユニークで、彼らの音楽的実験精神が感じられる。
11. Maybe Partying Will Help
政治的な無関心や消費主義を批判した歌詞が際立つ一曲。重いテーマを軽快なファンクサウンドで包み込む彼ららしいアプローチが光る。
12. Jesus and Tequila
タイトル通り、宗教と酩酊という相反するテーマを扱ったユーモラスな楽曲。カントリー調のメロディとWattの陽気なベースラインが特徴。
13. The Glory of Man
詩的な歌詞とダイナミックな楽曲構成が際立つ一曲で、哲学的なテーマを取り扱っている。ギターとベースが互いに絡み合い、特異なテンションを生み出す。
アルバム総評
Double Nickels on the Dimeは、パンクの形式を完全に解体し、より自由で多様な音楽性を取り入れた傑作である。43曲ものボリュームながら一貫性を失わないのは、Minutemenの鋭い視点と卓越した演奏力のおかげだ。政治的メッセージと日常的なテーマ、実験的な音楽性が融合し、DIY精神の極致を体現している。現在もオルタナティブロックやインディー音楽に多大な影響を与え続けるこの作品は、リスナーにとって発見と刺激に満ちた体験を約束する。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Zen Arcade by Hüsker Dü
同時期のハードコアバンドによるコンセプトアルバム。実験精神と感情的な深みが共通点を持つ。
Entertainment! by Gang of Four
ポストパンクの名盤。政治的メッセージとファンク調のリズムが、Minutemenの音楽性と響き合う。
Repeater by Fugazi
鋭いメッセージ性と緊密な演奏が特徴のアルバム。短い曲に多彩なアイデアを詰め込む姿勢が似ている。
Meat Puppets II by Meat Puppets
ジャンルを横断する音楽性とDIY精神が共通。アコースティックの要素も本作に通じる。
Sandinista! by The Clash
多ジャンルを取り入れたパンクアルバムで、Minutemenのジャンルを超えたアプローチに通じる要素が多い。
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