1. 歌詞の概要
「What Did You Expect?」は、Archers of Loafが1993年にリリースしたデビュー・アルバム『Icky Mettle』の中盤に収録された楽曲であり、バンドの初期衝動と混沌を象徴する1曲である。そのタイトルが示すように、曲全体を通して問いかけられているのは「何を期待していたんだ？」という苛立ちと皮肉に満ちたフレーズである。
この“期待”とは、対人関係におけるすれ違いにとどまらず、社会に対して抱く理想や、音楽そのものへの幻想といった、より広い意味合いをも孕んでいる。楽曲は短くタイトで、シンプルな構成ながら、怒り・困惑・諦念といった感情が不安定に揺れながら噴き出してくる。まさに、90年代初頭のインディー・ロックに共通する“壊れかけた若者の声”を体現しているような作品である。
2. 歌詞のバックグラウンド
『Icky Mettle』は、ノースカロライナ州チャペルヒル出身のArchers of Loafが発表した記念すべきデビュー作であり、彼らを一躍インディーロック界の注目株へと押し上げた。粗削りなギター、ローファイな録音、そしてエリック・バックマンの怒号に近いボーカルが特徴で、同時代のPavementやSebadoh、Superchunkと並び語られる存在となった。
「What Did You Expect?」は、このアルバムに収録されている中でもとりわけ短く、衝動的な楽曲である。その長さはわずか1分半ほどだが、Archers of Loafの持つ美学――すなわち、荒さの中にある鋭さ、不協和の中にある必然性――が極限まで凝縮されている。
この曲が生まれた当時のオルタナティブ・シーンは、“グランジ”の商業的成功により、インディーシーンとメジャーシーンの境界が揺らぎつつあった。そうした時代において、Archers of Loafは明確に“期待を裏切る”ことを美学としており、それがこの曲の攻撃的なトーンにも表れている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
この曲の歌詞は非常に簡潔で、反復とシニカルな問いかけを中心に構成されている。以下はその一部の抜粋と和訳である。
What did you expect?
何を期待してたんだ？All we had was wrecked
僕らに残っていたのは、壊れたものだけだったYou wanted something pure
君は何か“純粋なもの”を求めてたWe were already sore
でも僕らは、もう疲れ果てていたんだ
この短いフレーズの中に、関係の破綻、人間の限界、そして“求められる側”としての痛みが込められている。特に「something pure（純粋なもの）」という言葉は、理想への渇望とその到達不可能性を象徴しており、それを求められたこと自体への怒りや苛立ちが感じられる。
※歌詞引用元：Genius – What Did You Expect? Lyrics
4. 歌詞の考察
「What Did You Expect?」は、Archers of Loafというバンドが初期から一貫して持っていた「拒絶」の姿勢を、もっとも端的に表現した楽曲である。そこにあるのは、リスナー、恋人、仲間、あるいは社会全体から寄せられる“期待”という名の重荷への反発だ。
興味深いのは、この楽曲が自己肯定でも自己否定でもない、あくまで“無関心と怒りの狭間”のようなニュートラルな地点に立っていることだ。つまり、「そんなもの、最初から与えられるはずがなかったじゃないか」という突き放しと、「それでも、何かを与えたかったのに与えられなかった」という痛みが同居しているのである。
また、「wrecked（壊れた）」という言葉は、単に関係の崩壊を表すだけでなく、Archers of Loaf自身が信じていた価値観や理想までもがすでに破壊されているという現実認識を示している。このようにして、この短い曲は単なる失恋ソングでも、単なる怒りの吐露でもなく、“壊れてしまった後の会話”として成り立っているのである。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- In the Mouth a Desert by Pavement
期待を裏切るような曖昧な歌詞と荒削りな演奏が、「What Did You Expect?」と共鳴する。 - Brand New Love by Sebadoh
関係性の消耗と、それに抗うような切実さをローファイで描いた名曲。 - Why Bother? by Weezer
恋愛や期待そのものを避けようとする姿勢が、皮肉交じりのロックとして昇華されている。 - Two States by Pavement
断片的でミニマルな構成の中に、都市生活や人間関係への苛立ちが凝縮されている。
6. “何を期待してた？”という問いの鋭さ
「What Did You Expect?」というタイトルは、聴き手に対してもある種の挑戦を投げかけているように思える。Archers of Loafの楽曲に“完成”や“満足”を求めること自体が、そもそも間違いだったのではないか？ その問いかけは、バンドの存在そのものにまで及ぶ。
彼らはこの曲で、わずか90秒のあいだに、自分たちが“与えられるもの”ではなく、“壊れているもの”であることを宣言する。だが、その壊れた断片こそが、この時代を象徴する鋭さとリアルを持っていたのだ。Archers of Loafは、聴き手が求めるものに応えることを拒むことで、逆に強烈な存在感を示した。まさにこの曲こそが、“期待を裏切ることへの信念”の結晶である。
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