1. 歌詞の概要
「Here’s Where the Story Ends」は、イギリスのインディー・ポップ・バンド、The Sundays（ザ・サンデイズ）が1990年に発表したデビュー・アルバム『Reading, Writing and Arithmetic』に収録された代表曲である。この楽曲は、控えめで繊細なギター・ポップの名作として評価され、ハリエット・ウィーラーの透明感あるヴォーカルと、デヴィッド・ガヴロンのシンプルで美しいギター・ワークによって、今もなお色褪せることのない魅力を放っている。
タイトルの「Here’s Where the Story Ends（ここが物語の終わる場所）」は、そのままこの曲が描く世界の核をなしている。恋愛、友情、若さ、あるいは過去への郷愁——それらがすでに終わりを迎えた後に残された“余韻”と“喪失感”が、静かに綴られていく。特定の出来事を描いているというよりは、誰もが経験するであろう「何かが終わってしまった後の風景」を、詩的に、そして朧げに描いている楽曲なのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
The Sundaysは、ヴォーカルのハリエット・ウィーラーとギタリストのデヴィッド・ガヴロンを中心に、1980年代末のイギリスで結成された。彼らは「The Smithsの後継」と評されることもあり、文学的な歌詞と美しいメロディを持つバンドとして、特に批評家筋から高く評価された。
デビュー・アルバム『Reading, Writing and Arithmetic』は、全英チャートで14位を記録し、アメリカでもじわじわと評価を高めた。その中でも「Here’s Where the Story Ends」は、当時シングルとしては公式リリースされなかったにもかかわらず、ラジオなどを通じて人気を博し、バンドの名を広めるきっかけとなった一曲である。
本作の詩世界は、ハリエットの内省的かつウィットに富んだ視点に貫かれており、その表現の柔らかさと距離感が、かえってリスナーの心に強く残る。どこか曖昧で、決定的な出来事を語らずに“終わり”だけを提示するそのスタイルは、当時のオルタナティヴ・ポップの中でも異彩を放っていた。
3. 歌詞の抜粋と和訳
People I know, places I go
私の知ってる人たち、訪れた場所たちMake me feel tongue-tied
それなのに、言葉に詰まってしまうI can see how people look down
人々が見下してくるのが分かるI’m on the outside
私はいつも、外側にいる
ここでは、主人公が周囲の人々や日常の中で感じる「距離感」と「孤立感」が描かれている。淡々とした口調だが、その裏には“どこにも居場所がない”という切実な感情が潜んでいる。
Here’s where the story ends
ここが、物語の終わる場所Here’s where the story ends
すべてが、終わってしまったところ
この繰り返しは、何か具体的な出来事というより、“感情の終わり”を静かに受け入れる瞬間を描いているようだ。それは別れかもしれないし、子供時代の終焉かもしれない。だが、その曖昧さこそが、普遍性を生んでいる。
※歌詞引用元：Genius – Here’s Where the Story Ends Lyrics
4. 歌詞の考察
この楽曲の魅力は、その曖昧さと静けさにある。語られているのは失恋か、青春の終わりか、あるいは誰かへの嫉妬かもしれない。だが、はっきりとしたストーリーは提示されない。その代わりに、「外側にいること」「理解されないこと」「既に終わってしまったこと」だけが、静かに重なっていく。
ハリエットの歌声は、あくまで中立的で、冷静で、しかしどこか寂しさを帯びている。まるで過去を一歩引いた場所から見つめているような、あるいはあの頃の自分を少しだけ微笑みながら思い返しているような——そんな距離感が、逆にリスナーにとっての“自分の物語”を重ねやすくしているのだ。
「Here’s Where the Story Ends」は、終わりを大げさに悲しまない。だからこそ、その余韻が深く、長く心に残る。ある出来事が終わったとき、涙ではなく静かな音楽とともに立ち尽くす——そんな瞬間にぴったりの一曲である。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- There Is a Light That Never Goes Out by The Smiths
愛と死と逃避の詩的衝動を描いた80年代UKロックの名曲。 - Stay by Lisa Loeb
誰かに伝えたいことをうまく伝えられないもどかしさを綴ったシンプルなアコースティック・ソング。 - Carolyn’s Fingers by Cocteau Twins
幻想的なヴォーカルと浮遊感あるギターが、心象風景を描き出す一曲。 - Sea of Love by Cat Power
寂しさとやさしさの間にある感情を静かに包み込む、柔らかなカヴァー曲。 -
Web in Front by Archers of Loaf
インディー・ポップのローファイな親密さと繊細さが融合した短くも深いラブソング。
6. “静けさ”という感情の力
「Here’s Where the Story Ends」は、インディー・ポップにおいて稀有な“静けさ”を主題とする曲である。そこにあるのは爆発的な感情ではなく、微細で、しかし確実な喪失の感覚。そしてそれを声高に語ることなく、そっと提示する姿勢にこそ、この楽曲の美しさが宿っている。
The Sundaysというバンドは、決して派手ではなかった。だが、その繊細な観察眼と音の選び方、感情の捉え方は、時代を超えて多くのリスナーの記憶に残っている。「Here’s Where the Story Ends」は、そんな彼らの“物語の入口”でありながら、誰かにとっては“大切な物語の終わり”を告げる曲でもある。
ふと立ち止まりたくなる時、過去を思い返したい夜、あるいは声にならない感情を抱えたまま朝を迎える瞬間。この曲は、そうした感情の「そば」に静かに寄り添ってくれる、永遠の“インディー・バラード”なのである。
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