1. 歌詞の概要
「Great Things」は、Echobellyが1995年にリリースしたセカンド・アルバム『On』のオープニングを飾る楽曲であり、彼らの最大のヒットソングのひとつでもある。
その力強くも明るいギターリフと、シンガーであるソニア・オーラ―のしなやかで芯のあるボーカルによって、楽曲は前向きなエネルギーと反骨精神の混ざり合った輝きを放っている。
歌詞が描いているのは、“何か偉大なこと(great things)”を夢見る若者の視点。
だがその“夢”は、現実逃避のファンタジーではなく、日常に埋もれてしまいそうな自分の存在を、なんとか光の方へ押し上げようとする切実な意志に貫かれている。
「車を盗みたい」「有名になりたい」「逃げ出したい」——これらのラインに共通しているのは、“今ここではないどこか”への渇望である。
それは必ずしもポジティブな希望だけではない。
むしろ、くすぶった現実の中から「何かもっと大きなことを成し遂げたい」と願う、若者特有の焦りや不安、そして衝動がこの曲の原動力なのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Great Things」が登場した1995年は、ブリットポップ全盛期。Oasis、Blur、Pulpといった男性中心のバンドがシーンを席巻する中、Echobellyは女性ボーカル、そしてインド系イギリス人であるソニア・オーラ―の存在によって、明確な個性と異質さを放っていた。
ソニア自身は、移民としてのアイデンティティを持ちながらも、ブリティッシュ・カルチャーの中で育った経験を音楽に投影しており、この「Great Things」もまた、「自分が社会の主役になれるのか?」という問いと、「それでもなりたい」という宣言が同時に込められている。
その意味で、この曲はマージナルな立場にいた者たちが“表舞台に出る”ための戦いの歌としての側面も持っている。
楽曲の音作りには、パワーポップ的な疾走感と、どこかニュー・ウェイヴ的な緊張感が共存しており、シンプルでストレートな構成が逆にメッセージの強さを際立たせている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I want to do great things
私は偉大なことをしたい
この一行は、まさにこの曲全体のテーマであり、コアとなるフレーズである。
“great”という言葉には抽象性がありながらも、現状を越えたいという意志が力強く込められている。
I don’t want to be just anyone
誰でもいい存在になんてなりたくない
このフレーズは、個としての自分の輪郭をはっきりと刻みたいという欲求をストレートに表している。自分の物語を、誰かの脇役ではなく主役として生きたい。その渇望が滲み出る一節だ。
I want to drive fast cars
速い車を運転したい
ここで語られる「速い車」は単なる物質的な欲望ではなく、自由と疾走のメタファーである。
抑圧された現実を突き破るスピードとパワー、それが彼女の「やりたいこと」の象徴となっている。
※歌詞引用元:Genius – Great Things Lyrics
4. 歌詞の考察
「Great Things」は、一見するとシンプルでポジティブなアンセムに聴こえるかもしれない。だが、その裏には日常の中で埋もれてしまいそうな人間の焦燥感と、自分の“特別さ”を信じたいという必死の願いがある。
語り手は、今の生活に満足していない。周囲の“平凡な期待”に応える人生ではなく、もっと遠く、もっと高く、もっと速く進みたい。
それはもしかすると破壊的な衝動かもしれないし、夢想的で未熟な願いかもしれない。
だが、この曲はそんな衝動すらも肯定し、エンパワーする。
「誰でもない存在になりたくない」と叫ぶことで、“自分という存在が世界にとって意味を持つ”という希望をリスナーに与えているのだ。
とくに女性、マイノリティ、あるいは若者といった“見過ごされがちな声”にとって、この曲はまるで「生きていていいんだ」「もっと貪欲になっていいんだ」と背中を押すような一曲となっている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Ready to Go by Republica
躍動感と自己解放のエネルギーが炸裂する90年代のパワーポップ・アンセム。 - Sheela-Na-Gig by PJ Harvey
ジェンダーと社会の規範を打ち破る力強い女性の自己肯定ソング。 - Yes by McAlmont & Butler
“世界を変えてやる”という昂揚感に満ちた、美しくエモーショナルな一曲。 - Girls & Boys by Blur
現代的な欲望と個の自由を風刺と共に描いた、都会的でアイロニカルな名曲。 -
Born Slippy .NUXX by Underworld
逃避と覚醒の感情が交錯する、90年代の都市型ユースカルチャーを象徴する楽曲。
6. 「何かを成し遂げたい」と願うすべての人へ
「Great Things」は、野心と希望を賛美する曲でありながら、そこにどこか不安や切実さもにじんでいる。
それがこの曲の魅力であり、単なる成功讃歌には終わらない人間味の深さを生んでいる。
「偉大なことをしたい」と思うことは、時に“野心的すぎる”“身の程知らず”と見なされるかもしれない。
だがこの曲は、そうした批判に抗いながら、「自分の人生を自分の言葉で語る権利」を静かに、しかし確かに主張している。
Echobellyがこの楽曲に託したメッセージは、自分の声を持つことを恐れずに、自分の未来を肯定すること。
それは90年代だけでなく、2020年代を生きる私たちにとっても、深く刺さるメッセージである。
夢を見て、声を上げ、走り出す——
そのすべてが“Great Things”の始まりなのだ。
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