
発売日:2022年5月6日
ジャンル:インディー・ロック、アート・ロック、ドリーム・ポップ、ポスト・パンク、エレクトロニック・ロック
概要
Warpaintの4作目『Radiate Like This』は、バンドが長い沈黙を経て再び集まった作品であり、彼女たちの音楽性が持つ「余白」「身体性」「親密なグルーヴ」を、成熟した形で再確認するアルバムである。前作『Heads Up』が2016年に発表されてから本作までには約6年の間隔があり、その間にメンバーはソロ活動、客演、プロデュース、家庭生活、個人的な変化を経験した。そうした時間の経過は、本作の音に直接反映されている。『Radiate Like This』は、初期作品のような神秘的で暗いジャム感を持ちながらも、より落ち着き、より内省的で、過度な劇性を避ける方向へ進んでいる。
Warpaintは、Emily Kokal、Theresa Wayman、Jenny Lee Lindberg、Stella Mozgawaによるロサンゼルスのバンドである。2000年代後半から2010年代にかけて、彼女たちはポスト・パンク、ドリーム・ポップ、サイケデリック・ロック、R&B的なリズム感を融合させた独自の音楽性で注目を集めた。2010年のデビュー・アルバム『The Fool』では、暗く湿ったギターの絡み、呪術的なヴォーカル、ミニマルなリズムによって、同時代のインディー・ロックの中でも特異な位置を確立した。2014年の『Warpaint』では、より洗練された音響とリズムの探求が進み、2016年の『Heads Up』では、ポップ、ヒップホップ、R&B、エレクトロニック・ミュージックの要素が強まった。
『Radiate Like This』は、その流れを踏まえつつ、派手な変化よりも、Warpaintの核にあるアンサンブルの感覚を丁寧に掘り下げた作品である。本作の制作は、メンバーが同じ場所に集まることが困難な状況もあり、各自が録音した素材をやり取りしながら進められた。そのため、従来のバンド・ジャム的な一体感とは異なる、距離を含んだ親密さがある。物理的には離れているが、音楽的には互いの呼吸を感じ合っている。その緊張と柔らかさが、アルバム全体に独特の空気を与えている。
タイトルの『Radiate Like This』は、「このように放射する」「このように光を発する」という意味を持つ。ここでの「radiate」は、明るく外へ向かって爆発するというより、内側から静かに熱や光が広がる感覚に近い。本作の音楽は、強いサビや劇的な盛り上がりによって聴き手を圧倒するものではない。むしろ、細かなリズム、重なり合う声、揺れるギター、低音のうねりが、徐々に空間を満たしていく。Warpaintにとっての光は、眩しいスポットライトではなく、夜の部屋や水面に反射する淡い光のようなものである。
音楽的には、本作はWarpaintらしいミニマリズムとグルーヴを保っている。Stella Mozgawaのドラムは、ロック的な力強さよりも、細かくしなやかなリズムの揺れを重視する。Jenny Lee Lindbergのベースは、低音の土台であると同時に、曲の感情を動かす中心的な役割を担う。Emily KokalとTheresa Waymanのギターとヴォーカルは、明確な主旋律を押し出すというより、声と楽器が溶け合うように配置される。このバンドの魅力は、個々のパートが過剰に主張せず、全体として一つの流体のように動く点にある。
歌詞面では、親密さ、身体、関係性の不確かさ、自己回復、時間の経過、孤独、つながりが繰り返し扱われる。Warpaintの歌詞は、ストーリーを明確に語るよりも、感情の断片や身体感覚を重ねる傾向がある。本作でも、言葉は説明的ではなく、音の中に沈み込むように配置されている。しかし、その曖昧さは空虚ではない。むしろ、感情を一つの意味に固定せず、揺れたまま提示することで、リスナーに深い余韻を残す。
キャリア上の位置づけとして、『Radiate Like This』は、Warpaintが初期の神秘性と中期のリズム志向を統合し、より成熟したアート・ロックへ進んだ作品といえる。『The Fool』の暗い魔術性、『Warpaint』の音響的な美しさ、『Heads Up』のポップな身体性が、ここでは穏やかに混ざり合っている。大きな変革を宣言するアルバムではないが、長く活動してきたバンドが、自分たちの音楽的言語を更新しながら維持することの難しさと美しさを示している。
後の音楽シーンへの影響という点では、Warpaintはすでに2010年代以降の女性中心のインディー・ロック/アート・ロック・バンドにとって重要な存在となっていた。彼女たちは、ロック・バンドが必ずしも男性的な力強さや直線的な構成に頼らなくても、緊張感と身体性を持ちうることを示した。『Radiate Like This』は、その姿勢をさらに静かで成熟した形で継続している。Big Thief、The xx、Beach House、Little Dragon、Broadcast以降の音響美学と並べて聴くことで、本作の独自性はより明確になる。
全曲レビュー
1. Champion
オープニング曲「Champion」は、本作の方向性を象徴する楽曲である。ゆったりとしたリズム、厚みのある低音、柔らかく重なるヴォーカルが、アルバムの入口として非常に自然に機能している。タイトルの「Champion」は勝者や擁護者を意味する言葉だが、ここでの勝利は外へ向かって誇示されるものではない。むしろ、自分自身を保ち、傷つきながらも立ち続けるような、静かな強さが感じられる。
サウンドは、Warpaintらしい浮遊感とリズムの重心を兼ね備えている。ドラムは強く叩きつけるのではなく、余白を残しながらしなやかに曲を進める。ベースは深く沈み、曲全体に身体的なグルーヴを与える。ギターは前面に出すぎず、空間に漂うように配置される。このバランスによって、曲は軽くも重くもあり、夢の中で歩いているような感覚を生む。
歌詞では、自己肯定や支え合いの感覚が描かれている。ただし、それは単純な応援歌ではない。Warpaintの言葉は常に少し曖昧で、勝利や強さも不安や脆さと切り離されていない。「Champion」は、誰かを励ます曲であると同時に、自分自身に向けた静かな確認のようにも響く。アルバムの冒頭に置かれることで、本作が暗さだけでなく、内側から光を放とうとする作品であることを示している。
2. Hips
「Hips」は、タイトルが示すように身体性の強い楽曲である。Warpaintの音楽において、身体は非常に重要な要素である。彼女たちの曲は、ロックの直線的な疾走感よりも、腰や肩、呼吸の動きに近い揺れを重視する。「Hips」では、その身体的なグルーヴが明確に表れている。
リズムは抑制されているが、非常に粘りがある。ドラムとベースは派手なフィルを多用せず、反復することで曲に催眠的な力を与える。ギターとヴォーカルはその上に薄く重なり、音の層を作る。Warpaintのアンサンブルは、各パートが一斉に盛り上がるというより、少しずつ角度を変えながら回転していくような特徴を持つ。この曲でも、その回転感が重要である。
歌詞では、身体、欲望、自己意識、他者との距離が暗示される。腰という身体部位は、ダンスや性的な魅力、生命力と結びつきやすいが、Warpaintはそれを露骨な形で消費しない。むしろ、身体を通じて世界を感じる感覚、身体が感情の器であることを示す。曲全体には官能性があるが、それは誇張されたものではなく、内側からにじむような官能性である。
「Hips」は、『Radiate Like This』の中でも、Warpaintのリズム志向がよく表れた曲である。身体を直接的に動かすダンス・トラックではないが、聴いているうちに身体の重心がゆっくり変化していくような力を持っている。
3. Hard to Tell You
「Hard to Tell You」は、本作の中でも特に感情の繊細さが前面に出た楽曲である。タイトルは「あなたに伝えるのが難しい」という意味を持ち、関係性の中で言葉にできない思い、あるいは言葉にすることで壊れてしまいそうな感情を示している。Warpaintの音楽は、しばしば言葉以前の感情や身体感覚を扱うが、この曲では「伝えられなさ」そのものがテーマになっている。
サウンドは穏やかで、声の重なりが印象的である。ギターは細かく鳴りすぎず、余白の中に置かれている。リズムも控えめで、曲全体が静かに揺れる。過度なクライマックスを作らないことで、感情の未整理な状態が保たれている。これはWarpaintの美学の核心である。感情を劇的に解決するのではなく、曖昧なまま空間に浮かべる。
歌詞では、相手に対して何かを告げたいが、それが簡単ではないという心理が描かれる。愛情、失望、後悔、距離、変化。そのどれか一つに限定できない複雑な感情がある。人間関係において、最も重要なことほど言葉にしにくいことがある。この曲は、その沈黙やためらいを音楽として形にしている。
「Hard to Tell You」は、本作の成熟を示す曲である。若いバンドであれば、こうした感情を大きなサビや劇的な歌唱で表現したかもしれない。しかしWarpaintは、静かな反復と声の重なりによって、言葉にできない感情の重さを描く。その抑制が、曲の深みを生んでいる。
4. Stevie
「Stevie」は、本作の中でも特に美しいメロディと柔らかな浮遊感を持つ楽曲である。タイトルは固有名詞であり、誰か特定の人物への呼びかけのように響く。Warpaintの楽曲では、個人名が登場することで、抽象的なムードの中に突然親密な輪郭が生まれることがある。「Stevie」もその一つであり、アルバムの中で非常に印象的な位置を占めている。
サウンドはドリーム・ポップ的で、ギターとシンセのような音響が柔らかく重なり合う。ヴォーカルは非常に親密で、遠くにいる相手へ語りかけるようでもあり、記憶の中の誰かを呼び戻すようでもある。曲全体に漂うのは、明るさと寂しさが混ざった感情である。Warpaintの音楽では、光は常に影と共に存在する。
歌詞では、誰かへの思い、支え、距離、憧れが描かれているように響く。名前を呼ぶことは、その人物を現実に引き寄せる行為であると同時に、不在を確認する行為でもある。「Stevie」は、その二重性を持っている。相手は近くにいるようで遠く、現実の人物であるようで記憶や象徴の中にもいる。
音楽的には、アルバムの中でも最も開けた印象を持つ曲の一つである。しかし、その開放感は大きな爆発ではなく、ゆっくりと光が広がるようなものだ。『Radiate Like This』というタイトルの感覚、つまり内側から放射するような光が、この曲にはよく表れている。
5. Like Sweetness
「Like Sweetness」は、タイトル通り甘さや柔らかさを連想させる楽曲だが、その甘さは単純な幸福感ではない。Warpaintの音楽において、甘さはしばしば曖昧さ、危うさ、依存、記憶と結びつく。この曲でも、心地よい音像の中に微かな不安が潜んでいる。
サウンドは、滑らかなベースと抑制されたリズムを中心に展開する。ギターと声は空間に溶け込み、曲全体がゆっくり漂う。テンポは速くないが、グルーヴは確かに存在する。Warpaintは、静かな曲であってもリズムの身体性を失わないバンドである。この曲でも、表面は柔らかいが、低音の動きが曲を内側から支えている。
歌詞では、甘さに似た感覚、誰かとの関係の中で得られる快さ、そしてその快さが持つ曖昧な影が描かれているように読める。「like sweetness」という表現は、完全に甘いものそのものではなく、甘さに似たものを指している。つまり、感情は明確に名づけられない。愛情なのか、依存なのか、慰めなのか、過去への執着なのか。その曖昧さが曲の中心にある。
「Like Sweetness」は、本作の持つ感覚的な魅力をよく示すトラックである。Warpaintはここで、言葉よりも質感で感情を伝えている。甘さは音の中にあり、リズムの揺れの中にあり、声の重なりの中にある。
6. Trouble
「Trouble」は、アルバム中盤に置かれた、やや不穏なムードを持つ楽曲である。タイトルは「問題」「厄介ごと」「困難」を意味し、Warpaintの音楽にしばしば現れる関係性の緊張や感情のもつれを示している。本作は全体として穏やかで内省的だが、「Trouble」ではその下にある暗い波が表面化する。
サウンドはミニマルで、反復するリズムと低音が曲に緊張感を与える。ギターは鋭く切り込むというより、影のように漂う。ヴォーカルは感情をむき出しにせず、どこか距離を保ちながら歌われる。この距離感が、逆に曲の不穏さを強めている。問題の中心にいるにもかかわらず、それを冷静に見つめようとしているような感覚がある。
歌詞では、関係の中にある問題、自己破壊的な感情、あるいは何度も繰り返されるパターンが暗示される。Warpaintの歌詞は明確な解決を提示しない。問題があることは分かっているが、それをどう扱うべきかは曖昧なままだ。この未解決感が、曲の緊張を支えている。
「Trouble」は、『Radiate Like This』の中で、光だけではなく影も重要であることを示す曲である。アルバム・タイトルが示す放射する光は、暗闇を完全に消し去るものではない。むしろ、暗さを抱えたまま、その内側からわずかに光るような感覚がある。
7. Proof
「Proof」は、タイトルが示す通り「証拠」「証明」をテーマにした楽曲である。人間関係において、愛情や信頼、存在の意味を証明することは非常に難しい。目に見える証拠を求めても、感情は必ずしも明確な形を取らない。この曲では、その不確かさが静かに描かれている。
音楽的には、落ち着いたテンポと繊細な音の配置が印象的である。リズムは控えめだが、ベースは深く、曲に重心を与えている。ヴォーカルは柔らかく、複数の声が重なり合うことで、一人の感情というより、複数の視点や記憶が交錯するような印象を作る。Warpaintの強みである多声的な感覚がよく表れている。
歌詞では、何かを確かめたいという欲求と、それが不可能であることへの諦めが共存している。相手の気持ち、自分の選択、過去の意味、関係の価値。それらを証明するものを探しても、最終的には感覚や記憶に頼るしかない。タイトルの「Proof」は、その不可能性を浮かび上がらせる言葉でもある。
「Proof」は、アルバムの中でも静かに深い曲である。Warpaintはここで、関係性の不確かさを大げさに dramatize するのではなく、音の余白の中に置いている。そのため、曲は聴くほどに内側へ沈んでいく。
8. Altar
「Altar」は、本作の中でも象徴的なタイトルを持つ楽曲である。祭壇を意味するこの言葉は、祈り、献身、犠牲、儀式、誓いを連想させる。Warpaintの音楽には、初期からどこか儀式的な雰囲気があった。反復するリズム、重なり合う声、ミニマルなギターの絡みは、ロック・ソングというより、何かを呼び出すための儀式のように響くことがある。「Altar」は、その側面を明確に示す曲である。
サウンドは暗く、深く、ゆっくりと進む。ベースとドラムは曲に低い重心を与え、ヴォーカルは祈りのように重なる。ギターは空間に漂い、曲全体に神秘的な質感を加えている。ここでのWarpaintは、初期作品にあった呪術的なムードを、より成熟した音響で再構築している。
歌詞では、誰かに捧げること、何かを信じること、あるいは関係の中で自分を差し出すことが暗示される。祭壇は神聖な場所であると同時に、犠牲が置かれる場所でもある。そのため、この曲には愛や信頼の美しさだけでなく、そこに伴う危うさも含まれている。誰かを大切にすることは、自分の一部を差し出すことでもある。
「Altar」は、『Radiate Like This』の中でも特にWarpaintらしい暗い美しさを持つ曲である。ドリーム・ポップの浮遊感とポスト・パンクの緊張、儀式的な反復が一体となり、アルバム後半に深い陰影を与えている。
9. Melting
「Melting」は、タイトル通り「溶ける」感覚を描く楽曲である。Warpaintの音楽は、輪郭が曖昧になり、声と楽器、感情と身体、夢と現実が混ざり合う瞬間に強みを持つ。この曲は、その性質をそのままタイトル化したような楽曲である。
サウンドは非常に柔らかく、曲全体がゆっくり溶解していくように進む。ビートははっきり存在するが、強く輪郭を刻むというより、音の中に沈んでいる。ギターとヴォーカルは重なり、境界が曖昧になる。これは、Warpaintが得意とする音響的な官能性の一つである。音が明確な形を失うことで、逆に感情の密度が増していく。
歌詞では、自己が溶ける感覚、誰かとの境界が曖昧になる感覚、あるいは時間や記憶の中で感情が形を失っていくことが描かれているように響く。溶けることは、解放であると同時に、自己の輪郭を失うことでもある。この二面性が、曲に独特の美しさと不安を与えている。
「Melting」は、本作の終盤において、アルバム全体の音響的なテーマを集約する曲である。『Radiate Like This』は、光を放つアルバムであると同時に、境界が溶けていくアルバムでもある。個々の感情や関係性は明確に整理されず、音の中でゆっくり混ざり合っていく。
10. Send Nudes
ラスト曲「Send Nudes」は、タイトルだけを見ると非常に現代的で、挑発的な印象を与える。デジタル時代の親密さ、身体の交換、欲望、軽さ、危うさを含む表現であり、Warpaintのアルバムの締めくくりとしては一見意外にも見える。しかし、曲を聴くと、そのタイトルは単なる刺激的なフレーズではなく、現代的な親密さの不安定さを示すものとして機能している。
サウンドは静かで、余白が多く、どこか夢の終わりのような感覚がある。アルバムの最後に大きなクライマックスを作るのではなく、低い温度で幕を閉じる。ヴォーカルは親密だが、同時に距離がある。これは、タイトルが示すデジタルな親密さともよく合っている。身体は画像として送られるかもしれないが、本当の意味で相手に届いているのかは分からない。
歌詞では、欲望、孤独、接続、自己提示、現代的な関係性の軽さと重さが混ざり合っているように響く。現代のコミュニケーションでは、親密さは即座に共有される一方で、非常に脆く、表面的にもなりやすい。「Send Nudes」というタイトルには、その両義性がある。冗談のようでもあり、切実でもある。
アルバムの終曲として、この曲は非常に興味深い。『Radiate Like This』は、光を放つこと、溶けること、親密になること、伝えられないことを扱ってきた。その最後に置かれるのが、デジタル時代の身体と欲望の断片であることは、本作が単なる幻想的なドリーム・ポップではなく、現代の関係性を見つめるアルバムであることを示している。美しい余韻と微かな違和感を残して、作品は静かに終わる。
総評
『Radiate Like This』は、Warpaintが6年ぶりに発表したアルバムであり、彼女たちの音楽的な核を成熟した形で再提示した作品である。初期のような強い衝撃や、前作『Heads Up』のようなポップな変化を前面に出す作品ではない。しかし、その分、バンドの持つ独自の空気、グルーヴ、声の重なり、余白の美学が非常に丁寧に磨かれている。
本作の最大の魅力は、音の中にある距離感である。メンバーが必ずしも一つの部屋で同時に音を鳴らしているような生々しさではなく、離れた場所から互いの音を受け取り、重ね、反応するような感覚がある。その距離は冷たさではなく、むしろ現代的な親密さを表している。物理的に離れていても、音や声を通じてつながることができる。その一方で、完全には触れ合えない。その矛盾が、本作の深いムードを作っている。
音楽的には、Warpaintらしいポスト・パンクの緊張感、ドリーム・ポップの浮遊感、R&B的なリズム感、アート・ロックの構築性が、非常に自然に混ざっている。ギターはロック的なリフを強調するのではなく、空間を作るために使われる。ベースは低音の推進力として曲を支え、ドラムはしなやかな身体性を与える。ヴォーカルは個人の歌というより、複数の声が溶け合う音響として機能する。このバンド特有の「誰か一人が前に出すぎない」美学は、本作でも健在である。
歌詞面では、関係性の不確かさが中心にある。「Hard to Tell You」「Proof」「Trouble」「Altar」「Melting」「Send Nudes」といった曲名からも分かるように、本作は愛や親密さを単純に肯定するアルバムではない。伝えることの難しさ、証明できない感情、問題を抱えた関係、誰かに捧げることの危うさ、自己の輪郭が溶ける感覚、デジタル時代の欲望。こうしたテーマが、直接的な物語ではなく、断片的な言葉と音響によって描かれる。
『Radiate Like This』というタイトルは、本作の本質をよく表している。Warpaintはここで、外へ向かって激しく爆発するのではなく、内側から静かに光を放っている。音楽は派手ではないが、じわじわと広がる。曲ごとの即効性よりも、アルバム全体を通して漂う温度や質感が重要である。そのため、本作は一聴して強烈なフックを求めるリスナーには控えめに感じられるかもしれない。しかし、繰り返し聴くことで、リズムの細かな揺れ、声の重なり、低音の動き、ギターの余韻が徐々に浮かび上がる。
Warpaintのキャリアの中で見ると、本作は『The Fool』のような神秘的なデビューの衝撃とは異なる種類の価値を持つ。若いバンドが持つ危うい緊張感ではなく、長く続いてきたバンドだからこそ出せる落ち着きと複雑さがある。メンバーそれぞれの活動や人生の変化を経て、それでもWarpaintとして鳴る音が存在する。その事実そのものが、本作の静かな力になっている。
日本のリスナーにとって、『Radiate Like This』は、夜や早朝、移動中、静かな部屋で聴くことで魅力が伝わりやすい作品である。大きなサビや明確な展開よりも、音の質感や反復を味わうアルバムであり、Beach House、The xx、Broadcast、Little Dragon、Massive Attack、Cocteau Twins、Stereolab周辺の音楽が好きなリスナーにも接点がある。ただし、Warpaintはそれらのどれかに完全に収まるバンドではない。ロック・バンドでありながら、音の使い方は非常に流動的で、身体的で、曖昧である。
総合的に見て、『Radiate Like This』は、Warpaintの成熟を示す優れたアルバムである。革新的な転換作ではないが、バンドの美学を深く理解し、丁寧に更新した作品である。親密さと距離、光と影、身体と記憶、言葉と沈黙。その間をゆっくり揺れながら進むこのアルバムは、Warpaintというバンドが依然として独自の場所に立っていることを静かに証明している。
おすすめアルバム
1. Warpaint『The Fool』
2010年発表のデビュー・アルバム。Warpaintの初期の神秘的で暗い魅力を知るうえで欠かせない作品である。絡み合うギター、呪術的なヴォーカル、ミニマルなリズムが特徴で、『Radiate Like This』よりも生々しく、影が濃い。バンドの原点を理解するために重要な一枚である。
2. Warpaint『Warpaint』
2014年発表のセカンド・アルバム。バンドの音響的な洗練が大きく進んだ作品であり、リズムと空間の使い方がより精密になっている。『Radiate Like This』の成熟したムードは、このアルバムの延長線上にある。Warpaintの中期の代表作として聴く価値が高い。
3. The xx『Coexist』
2012年発表のアルバム。ミニマルな音の配置、男女ヴォーカルの親密な距離感、静かなビートと余白の使い方が特徴である。Warpaintとは音楽的背景は異なるが、少ない音数で感情の緊張を生み出す点に共通点がある。『Radiate Like This』の抑制された美学を理解するうえで関連性が高い。
4. Broadcast『Tender Buttons』
2005年発表のアルバム。ミニマルな電子音、サイケデリックなポップ感覚、冷たくも美しいヴォーカルが特徴である。Warpaintのドリーム・ポップ的な浮遊感やアート・ロック的な構築性とは異なる形だが、音の余白と反復によって独自の世界を作る点で共鳴する。
5. Little Dragon『Ritual Union』
2011年発表のアルバム。エレクトロニック・ポップ、R&B、インディー・ポップを融合し、しなやかなリズムと幻想的なヴォーカルを特徴とする作品である。Warpaintのリズム志向や身体性、柔らかなエレクトロニック感覚と接点があり、『Radiate Like This』のグルーヴを別方向から楽しむための関連作として適している。



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