発売日: 1993年6月21日
ジャンル: サイケデリックロック、ドリームポップ、スペースロック
The VerveのデビューアルバムA Storm in Heavenは、サイケデリックなサウンドスケープと夢幻的な雰囲気を纏った、1990年代のロックシーンを語る上で欠かせない作品だ。リチャード・アシュクロフトの儚げなボーカル、ニック・マコーベのフリージャズ的なギターアプローチ、そしてサイモン・ジョーンズ(ベース)とピーター・ソールズベリー(ドラム)のグルーヴが織りなす音楽は、まるで音の波が天国を揺らす嵐のようだ。
プロデューサーにジョン・レッキーを迎えたことで、空間的でアンビエントなサウンドが際立ち、The Verveの持つ芸術的な側面が強調されている。リリース当時は商業的な成功には至らなかったものの、リスナーや批評家に深い印象を残し、ブリットポップの流れの中で異彩を放つ作品となった。内省的で感覚的な音楽が、後のThe Verveの方向性を決定づける重要な一枚だ。
トラック解説
1. Star Sail
アルバムの幕開けを飾るこの楽曲は、アシュクロフトの抽象的な歌詞と、スペースロック的なサウンドスケープが特徴的。ギターのリバーブが広がる中、「Hello, it’s me, it’s me, calling out I could be anything」という歌詞が、聴き手に夢と可能性を感じさせる。
2. Slide Away
エネルギッシュなギターリフと重厚なリズムセクションが際立つ、アルバムの中でも特にロック色の強いナンバー。アシュクロフトのボーカルは情熱的で、感情の揺れをダイナミックに表現している。リフの反復が心地よい高揚感を生む。
3. Already There
8分を超える壮大なトラックで、アルバムのハイライトの一つ。浮遊感のあるギターサウンドとゆったりとしたリズムが、聴き手をトランス状態へと誘う。歌詞には内省的なテーマが散りばめられており、繊細な感情が漂う。
4. Beautiful Mind
複雑なギターアレンジとリズムが特徴的な一曲。アシュクロフトのボーカルが静寂と激情の間を行き来し、曲全体に不安定なエネルギーを与えている。歌詞には、自己探求やアイデンティティに関するテーマが暗示されている。
5. The Sun, The Sea
激しいビートとサイケデリックなギターワークが際立つトラック。楽曲全体を貫く力強いドライブ感が、海の荒波を彷彿とさせる。「And I feel like I’m wasted」という歌詞が、自己喪失感と解放感を描き出す。
6. Virtual World
美しいギターのアルペジオが印象的なミッドテンポの楽曲。アシュクロフトの柔らかいボーカルが楽曲に親密さを与え、夢幻的な雰囲気を引き立てている。歌詞には、現実と幻想の狭間に立つような視点が込められている。
7. Make It Till Monday
短いながらも印象的なトラックで、静寂の中に緊張感が漂う。シンプルな構成の中に、バンドのダイナミクスが凝縮されている。歌詞には、忍耐と希望がほのかに感じられる。
8. Blue
疾走感のあるギターリフと、リズムセクションが一体となった楽曲。明るさと暗さが交錯するサウンドが特徴で、歌詞には渇望と葛藤が描かれている。「Blue」という言葉が象徴する感情の揺れが心に残る。
9. Butterfly
アルバムの中で最も激しくカオティックなナンバー。ノイズに満ちたギターと、アシュクロフトのエモーショナルなボーカルが楽曲に爆発的なエネルギーをもたらしている。終盤に向かうにつれてサウンドが渦を巻くように広がる。
10. See You in the Next One (Have a Good Time)
アルバムのラストを飾る静かなバラードで、アシュクロフトの優しいボーカルと控えめなピアノが感動的な余韻を残す。別れの悲しみと新しい始まりを感じさせる歌詞が、アルバム全体を美しく締めくくる。
アルバム総評
A Storm in Heavenは、The Verveの初期の実験精神と芸術性が凝縮された作品だ。そのサウンドはリスナーに挑戦を強いることもあるが、その分、深く感情に訴えかけるものがある。抽象的で夢幻的な歌詞、サイケデリックなサウンドスケープ、そして洗練された演奏が見事に調和し、唯一無二の音楽体験を提供している。後のThe Verveが展開するよりメロディアスな方向性とは異なるが、このアルバムの持つ芸術的な価値は色褪せることがない。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Ride – Nowhere
サイケデリックなサウンドスケープとドリーミーなメロディが特徴で、A Storm in Heavenと共通する深い没入感がある。
My Bloody Valentine – Loveless
シューゲイザーの名作。歪んだギターサウンドと浮遊感のある楽曲が、The Verveの初期作を彷彿とさせる。
Slowdive – Souvlaki
エーテルのように漂うサウンドが、The Verveのサイケデリックな雰囲気と共通点を持つ。
Pink Floyd – Meddle
スペースロックの名盤で、壮大なサウンドスケープがA Storm in Heavenに通じる。
Spiritualized – Ladies and Gentlemen We Are Floating in Space
アンビエントロックとスペースロックを融合させた傑作。The Verveのファンにとって魅力的な要素が詰まっている。
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