The Verveとは?ブリットポップ時代に輝いた叙情的なロックバンドの経歴・音楽性・代表曲・アルバムを解説
The Verve(ザ・ヴァーヴ)は、イングランド北西部のウィガンで結成されたロックバンドである。1990年代のイギリスを代表するバンドの一つであり、「Bitter Sweet Symphony」や「The Drugs Don’t Work」などのヒット曲で広く知られている。
一般にはブリットポップの時代を代表する存在として語られるが、BlurやOasisとはかなり音が違う。初期にはサイケデリック・ロックを土台に、ギターの音が大きく広がっていく長い曲を演奏していた。その後、ボーカルのRichard Ashcroft(リチャード・アシュクロフト)の曲作りが前面に出るようになり、ストリングスを使った叙情的なロックへと変化していった。
その二つの方向が最も良い形で重なったのが、1997年のアルバム Urban Hymns である。ブリットポップが終盤に向かう時期に登場したこの作品は、華やかな時代の裏側にある孤独や喪失感を映したような音楽として、大きな成功を収めた。
The Verveの背景と歴史
The Verveの中心となったのは、Richard Ashcroft、ギターのNick McCabe(ニック・マッケイブ)、ベースのSimon Jones(サイモン・ジョーンズ)、ドラムのPeter Salisbury(ピーター・ソールズベリー)である。彼らはイングランド北西部のウィガンで活動を始め、当初は「Verve」という名前を使っていた。
初期のThe Verveは、一般的なロックバンドのように、短い曲をきっちり演奏するタイプではなかった。演奏を繰り返しながら曲を発展させ、ギターの音を何層にも重ねて大きな空間を作る。ライブでは曲を長く引き伸ばすこともあり、即興演奏がバンドの重要な要素になっていた。
その特徴が強く出ているのが、1993年のデビューアルバム A Storm in Heaven である。Nick McCabeのギターは、コードやリフをはっきり聞かせるというより、エフェクトを使って音を揺らしたり、遠くまで響かせたりする。そこにAshcroftの声とリズム隊が重なり、夢の中を漂っているような音を作った。
1995年の A Northern Soul では状況が変わる。荒々しいバンド演奏を残しながら、「On Your Own」や「History」のように、Ashcroftが書くメロディと歌詞がはっきり見える曲が増えた。しかしバンド内部の関係は不安定になり、アルバム発表後に一度解散する。
活動再開後にはSimon Tong(サイモン・トング)がギターやキーボードで加わり、やがてMcCabeも復帰した。この時期に作られたのが1997年の Urban Hymns である。
「Bitter Sweet Symphony」「The Drugs Don’t Work」「Lucky Man」「Sonnet」といった曲が次々と知られるようになり、The Verveはそれまでとは比較にならないほど大きな人気を得た。サイケデリックなロックバンドだった彼らが、広い層に届く歌を持ったバンドへ変わった瞬間だった。
しかし成功後もメンバー間の問題は続き、1999年に再び活動を停止する。その後2007年に再結成し、翌2008年には4枚目のアルバム Forth を発表した。ここでは初期を思わせる長い演奏も復活したが、この再結成も長くは続かなかった。
The Verveの音楽スタイルと特徴
The Verveを理解するうえで重要なのは、Richard Ashcroftの「歌」とNick McCabeの「音」の組み合わせである。
Ashcroftは次第に、非常に分かりやすいメロディを書くようになった。「The Drugs Don’t Work」や「Lucky Man」は、アコースティックギターだけでも成立しそうなほど歌の輪郭がはっきりしている。声には少しかすれた質感があり、力強く歌ってもどこか寂しさが残る。
対照的にMcCabeのギターは、単純な伴奏に収まらない。エフェクトを使って音を伸ばし、揺らし、時にはギターとは分かりにくい響きまで作り出す。初期作品では特に、このギターが曲全体を包む霧のような役割を果たしている。
Simon JonesとPeter Salisburyによるリズム隊も重要だ。初期のThe Verveには、サイケデリック・ロックでありながら身体を動かせる感覚がある。ベースとドラムが一定の流れを作り、その上でMcCabeが自由にギターを広げていくからだ。
Urban Hymns になると、ここにストリングスやアコースティックギターが大きく加わる。音の広がりは残っているが、中心にあるのはAshcroftの歌になった。
歌詞では、孤独、愛、喪失、生きることへの迷いといった題材が目立つ。難しい言葉で社会を論じるというより、日常の中で感じる満たされなさを大きなメロディに乗せる。それがThe Verveの叙情性につながっている。
The Verveの代表曲
「Bitter Sweet Symphony」
The Verveを代表する曲であり、1990年代のイギリスのロックを象徴するヒット曲の一つでもある。
印象的なのは、曲全体を繰り返し流れるストリングスだ。その上を一定のビートが進み、Ashcroftが人生の苦さや思い通りにならない感覚を歌っていく。壮大な音なのに、内容は決して明るくない。この「高揚感とむなしさが同時にある」という感覚がThe Verveらしい。
ストリングスにはThe Rolling Stonesの「The Last Time」をAndrew Loog Oldham Orchestraが演奏したバージョンからのサンプルが使われた。権利をめぐる問題も長く曲について回ったが、The Verveの音楽を世界的に知らしめた一曲である。
「The Drugs Don’t Work」
派手なロックサウンドを抑え、Ashcroftの歌を中心にしたバラードである。アコースティックギターと穏やかな演奏から始まり、ストリングスが感情をゆっくり広げていく。
The Verveが単なるサイケデリックなロックバンドではなく、優れた歌を持つバンドになったことが最も分かりやすい曲の一つだ。大声で感情を押し出すのではなく、抑えた歌い方によって悲しさを伝えている。
「Lucky Man」
アコースティックギターを軸にした、開放感のある曲である。シンプルなコードと覚えやすいメロディを使いながら、演奏が進むにつれて音が少しずつ厚くなっていく。
初期The Verveのような激しいサイケデリアは少ない。その代わり、日常的な感情を大きなロックソングへ変えるAshcroftの作曲能力がよく表れている。Urban Hymns の親しみやすさを理解するうえで重要な曲だ。
「History」
1995年の A Northern Soul に収録された曲で、後の Urban Hymns につながる変化がはっきり聞こえる。
ストリングスを取り入れた壮大なバラードで、初期の長い即興演奏とはかなり違う。Ashcroftのメロディと声が中心に置かれているからだ。一方で、演奏にはまだ初期The Verveの荒さが残っている。初期と全盛期の中間地点を知るのに適した曲である。
「Slide Away」
デビューアルバム A Storm in Heaven のThe Verveを知るなら重要な一曲である。
後のヒット曲ほど歌の形は整っておらず、むしろバンド全体の音の流れが中心になっている。McCabeのギターが何層にも広がり、ベースとドラムが前へ進む力を作る。その中からAshcroftのボーカルが浮かび上がる。Urban Hymns だけでは分からない、The Verve本来のサイケデリックな魅力がよく表れている。
アルバムごとに見るThe Verveの進化
A Storm in Heaven(1993年)
The Verveの出発点となったアルバムである。
ここで中心になっているのは、完成された「歌」よりもバンドの演奏そのものだ。McCabeのギターには深いエコーや揺れるような音が使われ、楽器同士の境界がぼやけて聞こえる場面も多い。
サイケデリック・ロックだけでなく、当時のイギリスで広がっていたシューゲイザーにも近い音の感覚がある。ただしThe Verveは、音の壁を作るだけではなく、JonesとSalisburyによる力強いリズムを重視していた。
後のThe Verveしか知らない場合には驚くほど自由な作品だが、バンドの音楽的な土台はここでほぼ出来上がっている。
A Northern Soul(1995年)
2作目では、前作の幻想的な音がより荒々しくなった。
「This Is Music」のような曲では、ギター、ベース、ドラムが強くぶつかり合い、ライブバンドらしい勢いが前面に出る。一方、「On Your Own」や「History」ではAshcroftのソングライターとしての成長がはっきり表れた。
つまりこのアルバムには二つのThe Verveがいる。自由な演奏を続けるサイケデリック・ロックバンドと、感情を短い曲にまとめようとする歌中心のバンドである。
この二つの方向がぶつかっているからこそ、次作への変化も理解しやすい。
Urban Hymns(1997年)
The Verve最大の成功作であり、ブリットポップ期を代表するアルバムの一つである。
最大の変化は曲の作り方だ。「The Drugs Don’t Work」「Sonnet」「Lucky Man」などでは、まず歌とメロディがあり、そこにバンドの演奏やストリングスが加わる。以前のように即興演奏から曲を膨らませる方法とは違う。
ただし、すべてがバラードになったわけではない。「The Rolling People」や「Catching the Butterfly」では、初期The Verveのサイケデリックな演奏が残っている。「Come On」では荒々しいロックバンドとしての力も聞ける。
そのため Urban Hymns は、Ashcroftの歌だけで作られた作品ではない。初期から培ってきた大きな音の広がりと、分かりやすいメロディが同じアルバムに入っている。それがこの作品の強さである。
Forth(2008年)
再結成後に発表された、約11年ぶりのスタジオアルバムである。
Urban Hymns の成功をそのまま再現するのではなく、初期のThe Verveに近い部分が戻っている。「Sit and Wonder」などでは、一定のリズムを繰り返しながらギターや電子的な音を重ね、長い時間をかけて曲を大きくしていく。
一方でAshcroftが培ってきたメロディ中心の曲作りも残っている。そのため、初期の即興的なThe Verveと、Urban Hymns 以降の歌を重視するThe Verveを結び直したような作品になっている。
The Verveが影響を受けた音楽
The Verveの音楽的な背景は、一般的な「1960年代ロックの影響を受けたブリットポップ」という説明だけでは収まらない。
AshcroftやSimon Jonesは1990年代半ばのインタビューで、Funkadelic、Led Zeppelin、Pink Floyd、John Lennonなど幅広い名前を挙げている。Miles Davisの1970年代の作品やヒップホップのグルーヴについても語っており、彼らがロックだけを聴いていたバンドではなかったことが分かる。
初期の音にはPink Floydなどのサイケデリック・ロックに通じる広がりがある。一方、Funkadelicから連想できるような、同じリズムを繰り返しながら演奏を発展させていく感覚も重要だ。
AshcroftはThe ByrdsやCanなどを聴いていたことについても語っている。さらに後になると、David Axelrodのようにストリングスを大胆に使った音楽への関心も強くなった。
こうした幅広い音楽を、四人組のロックバンドという形にまとめたことがThe Verveの特徴だった。
ブリットポップの中でThe Verveは何が違ったのか
The Verveが人気の頂点に達したのはブリットポップの時代だったが、典型的なブリットポップバンドとは少し違う。
OasisにはThe Beatlesなど1960年代の英国ロックにつながる分かりやすいメロディと大合唱できる力があった。Blurは英国社会を観察するような歌詞と、作品ごとに変化する音楽性を持っていた。
The Verveはそれらに比べ、より内向的だった。
特に Urban Hymns では、成功や若さを祝うというより、孤独、後悔、愛、死、生きることへの迷いといった感情が中心にある。大きな会場に似合う壮大な音を鳴らしているのに、歌われている内容には寂しさがある。
1997年という時期も重要だ。ブリットポップの熱狂がピークを越え始めた頃に、The Verveはその華やかさとは少し違う感情を持った作品を発表した。Urban Hymns が1990年代後半の英国ロックを語るうえで欠かせない理由の一つである。
The Verveが後の音楽に残した影響
The Verveが残した大きな流れの一つは、サイケデリックな音の広がりと、誰にでも分かりやすい大きなメロディを共存させたことである。
特に Urban Hymns で完成した、ピアノやアコースティックギター、ストリングスを使って感情を大きく広げるロックは、ブリットポップ後の英国ロックと共通する部分が多い。Coldplayなどが成功した2000年代の英国ロックにも、内向的な歌詞を大きな会場に届く音へ変えるという発想を見ることができる。
一方、The Verveの初期作品は別の魅力を持っている。ギターを単なるコードやリフのために使わず、空間そのものを作る楽器として扱うMcCabeの演奏は、サイケデリック・ロックやシューゲイザーに近い音楽を好むリスナーからも長く評価されてきた。
そのためThe Verveは、「Bitter Sweet Symphonyのバンド」というだけでは説明しきれない。初期の実験的なバンド演奏と、後期の大きなメロディ。その両方を持っていたことが、現在まで続く評価につながっている。
まとめ
The Verveは、サイケデリックな即興演奏から出発し、1990年代半ばにRichard Ashcroftの曲作りを大きく前面に出すようになったバンドである。Nick McCabeの広がりのあるギター、Simon JonesとPeter Salisburyの力強いリズム、Ashcroftの叙情的な歌が重なることで、他のブリットポップ勢とは違う音を作った。
Urban Hymns では、その個性が分かりやすいメロディやストリングスと結びつき、「Bitter Sweet Symphony」「The Drugs Don’t Work」「Lucky Man」といった代表曲につながった。しかし初期作品を聴けば、その壮大な音の背景に、もっと自由でサイケデリックなバンド演奏があったことも分かる。
ブリットポップの最盛期に成功しながら、その時代の明るさよりも孤独や喪失を強く歌ったこと。そして実験的なロックと親しみやすい歌の両方を成立させたことが、The Verveを1990年代の英国ロックの中でも独特な存在にしている。


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