
1. 歌詞の概要
New Year’s UnResolutionは、ブルックリンを拠点に活動するアーティスト、L’RainことTaja Cheekが2023年に発表した楽曲である。
2023年6月6日にシングルとしてリリースされ、同年10月13日にMexican Summerから発表されたアルバムI Killed Your Dogにも収録された。L’Rainにとっては、2021年のアルバムFatigue以降、最初に公開された新曲でもある。
タイトルのNew Year’s UnResolutionは、New Year’s Resolutionをもじった言葉である。
New Year’s Resolutionは、新年の抱負、新年の決意を意味する。年が変わると、人は何かを決める。変わろうとする。忘れようとする。前へ進もうとする。
だが、この曲のタイトルはUnResolutionだ。
決意ではなく、非決意。
解決ではなく、未解決。
きっぱり区切るのではなく、区切れないまま年を越してしまう感情。
この曲が描いているのは、まさにその曖昧さである。
恋愛が終わったのか、まだ続いているのか。
忘れたいのか、忘れられたくないのか。
相手に連絡したいのか、無視したいのか。
ひとりでいたいのか、ひとりでいることをもう忘れてしまったのか。
New Year’s UnResolutionは、そうした感情の揺れを、きらめくダブ風のグルーヴと、反復する歌詞の中に閉じ込めている。
曲は、はっきりとした失恋の結論へ向かわない。
むしろ、同じ問いを何度も回転させる。
忘れるのか。
忘れられるのか。
呼ぶのか。
無視するのか。
いるのか。
いないのか。
その反復が、聴いているうちに波のように押し寄せる。最初は軽やかに感じるビートも、だんだん心の中で同じ場所を回り続ける思考のように聞こえてくる。
L’Rainの音楽は、しばしば実験的、コラージュ的、ジャンル横断的と語られる。けれどNew Year’s UnResolutionは、彼女の楽曲の中でも比較的ポップな手触りを持っている。メロディは親しみやすく、リズムは身体を揺らし、音像には光がある。
しかし、その明るさは単純ではない。
曲の表面は柔らかくきらめいている。
でも、歌詞の奥には別れの痛みと、時間が経ったあとでも消えない問いがある。
だからこの曲は、失恋の曲でありながら、泣き崩れるようなバラードではない。むしろ、夜明け前の部屋で、まだ眠れないまま同じメッセージ画面を見つめているような曲である。
画面は明るい。
心は暗い。
でも、完全に絶望しているわけでもない。
その中途半端な光が、New Year’s UnResolutionの美しさなのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
L’Rainは、Taja Cheekによる音楽プロジェクトである。
彼女はマルチ・インストゥルメンタリスト、作曲家、キュレーターとして活動しており、L’Rainの音楽にはR&B、ソウル、サイケデリア、ジャズ、ロック、ドローン、実験音楽、フィールド・レコーディングなどが複雑に溶け込んでいる。
2017年のセルフタイトル作L’Rain、2021年のFatigueを通じて、彼女は非常に個人的でありながら、音の構造としては抽象的で多層的な作品を作ってきた。
その流れの中で、2023年のI Killed Your Dogは少し違う顔を見せるアルバムである。
L’Rain自身は、このアルバムについて、より大胆で、より直接的で、恋愛や別れの感情に踏み込んだ作品として語っている。実験性を失ったわけではない。だが、より歌が前に出ており、感情の輪郭が以前よりもつかみやすい。
New Year’s UnResolutionは、その変化を象徴する曲である。
L’RainのBandcamp上の説明では、この曲は彼女の作品群の中でも特にポップの影響が表に出た曲であり、関係の終わりをめぐる個人的な発掘のような楽曲だと紹介されている。また、長年の共同制作者であるAndrew LappinとBen Chapoteau-Katzとともに制作された曲でもある。
この曲の興味深いところは、歌詞がひとつの時点だけで書かれていない点にある。
L’Rainは、歌詞の言葉が異なる時期に書かれたものであることを語っている。つまり、別れた直後の混乱と、時間が経ってから振り返る視点が、同じ曲の中で共存している。
ここがとても重要である。
別れの直後、人は感情の中にいる。
何が起きたのか、まだ整理できない。
相手を求めているのか、怒っているのか、寂しいのか、自由になったのか、自分でもわからない。
しかし時間が経つと、少し距離ができる。あのとき自分は何を感じていたのか、少しだけ見えるようになる。けれど、距離ができたからといって、すべてが解決するわけではない。
New Year’s UnResolutionは、そのふたつの時間を重ねている。
直後の生々しさ。
あとから見たときの冷静さ。
どちらも本当で、どちらも不完全である。
だからこの曲は、タイトル通り解決しない。
普通、新年の歌には区切りの感覚がある。
今年こそ変わる。
今年こそ忘れる。
今年こそ前に進む。
だが、この曲はそういう決意を疑っている。年が変わったからといって、心が自動的に変わるわけではない。カレンダーは新しくなっても、未練は古いまま残る。連絡先は消しても、名前は頭の中に浮かぶ。
新年は、いつも再出発とは限らない。
ときには、未解決の感情を抱えたまま、新しい日付だけが始まる。
New Year’s UnResolutionは、その状態をとても正直に鳴らしている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
歌詞は著作権で保護されているため、ここでは短い範囲の引用にとどめる。
I’ve forgotten what it’s like to be alone
ひとりでいる感覚を忘れてしまった。
この一節は、曲の入口にある孤独の感覚をよく表している。
ひとりが寂しい、というだけではない。
ひとりでいるとはどういうことだったのか、その感覚そのものが曖昧になっている。誰かと深く関わると、人は自分の時間の輪郭を相手に合わせて変えていく。起きる時間、眠る前に考えること、連絡を待つ間の身体の緊張、街で見かけるものの意味。
相手がいなくなったとき、単にその人がいないのではない。
自分の感覚の一部も抜け落ちる。
だから、ひとりに戻ることは簡単ではない。以前の自分に戻るだけでは済まない。もう一度、ひとりでいる身体の使い方を覚えなければならない。
Will you forget me along the way?
その途中で、私を忘れてしまうの。
この問いは、曲の後半で何度も繰り返される。
忘れたいのは自分なのかもしれない。
でも、本当に相手に忘れられるのは怖い。
ここに、別れの矛盾がある。
関係が終わるなら、相手から自由になりたい。
けれど、相手の記憶から完全に消えてしまうのは耐えがたい。
忘れられたい。
忘れられたくない。
その両方が同時にある。
L’Rainはこの問いを反復することで、答えを出すのではなく、問いそのものを音楽にしている。問いは解決されず、リズムの中で揺れ続ける。
それはまるで、心の中で何度も再生される短いメッセージのようである。
4. 歌詞の考察
New Year’s UnResolutionの歌詞を考えるとき、まず大切なのは、この曲が別れを一本の線として描いていないことだ。
別れとは、ある日を境に完全に終わるものではない。
たしかに、形式上の終わりはある。
もう会わないと決めた日。
最後の電話。
削除したメッセージ。
返事をしなかった夜。
けれど、感情はそこできれいには止まらない。
むしろ、終わったあとに始まるものがある。
思い出すこと。
比較すること。
忘れようとすること。
忘れられることを恐れること。
相手のいない生活に慣れようとすること。
New Year’s UnResolutionは、その終わったあとを描く曲である。
しかも、その描き方がとてもL’Rainらしい。
普通の失恋ソングであれば、歌詞は物語を進めるかもしれない。出会い、愛、別れ、後悔、再生。そうした流れがあると、聴き手は感情を追いやすい。
だがL’Rainは、もっと円環的に作る。
同じ言葉が戻ってくる。
似た問いが形を変える。
前半と後半で、孤独と愛の位置が反転する。
その構造は、実際の記憶の動きに近い。
人は過去を時系列で思い出すわけではない。ある匂い、ある音、ある言葉で、一気に別の時間へ飛ぶ。思い出はまっすぐ進まず、何度も同じ場所へ戻る。
この曲の反復は、その記憶の性質を音にしている。
特に印象的なのは、aloneとloveの対比である。
ひとりでいることを忘れた。
愛している感覚を忘れた。
このふたつは一見逆のようでいて、実は同じ場所にある。
誰かとの関係が長くなると、ひとりでいる感覚が変わる。だが、その関係が壊れると、今度は愛している感覚そのものもわからなくなる。自分は本当に愛していたのか。愛されていたのか。今感じているのは愛なのか、習慣なのか、執着なのか、寂しさなのか。
New Year’s UnResolutionは、その区別のつかなさを歌っている。
これは非常に現実的である。
失恋のあと、人は相手を恋しがっているのか、それとも関係の中にいた自分を恋しがっているのかわからなくなることがある。相手そのものではなく、誰かに必要とされていた時間を失ったことがつらいのかもしれない。相手の声ではなく、連絡を待つリズムを失ったことが苦しいのかもしれない。
この曲は、そうした曖昧な喪失を正確に鳴らす。
タイトルのUnResolutionも、その意味でとてもよくできている。
Resolutionには、決意という意味だけでなく、解決、解像度、音楽的な解決感という意味も重なる。UnResolutionとは、決めないこと、解けないこと、輪郭がはっきりしないことでもある。
この曲は、感情に高い解像度を与えるのではなく、あえて揺らぎを残す。
自分の気持ちをはっきり言い切らない。
相手への感情も決めつけない。
関係の意味も結論づけない。
その不鮮明さが、逆にリアルである。
サウンド面でも、この曲は未解決の感情をよく表している。
ビートは軽やかで、ダブやバレアリックな音楽を思わせる浮遊感がある。低音は深く、音の隙間にはリヴァーブが広がる。シンセやギターのきらめきは、夜の水面に反射する街明かりのようだ。
一聴すると、曲はかなり心地よい。
踊れる。
揺れられる。
しかし、歌詞はその心地よさの中で、ずっと同じ不安を抱えている。
このズレが美しい。
悲しい曲を悲しい音だけで作るのではなく、心地よいグルーヴの上に未練を乗せる。すると、感情はより複雑になる。泣いているのに踊っている。忘れたいのに繰り返している。別れの歌なのに、身体は前へ揺れている。
この身体の動きが、曲を沈ませない。
L’Rainの音楽には、しばしば悲しみと遊びが同時にある。
重いテーマを扱っていても、音はどこかしなやかで、予想外の場所へ流れていく。コラージュ的な音作り、声の重なり、反復、突然の質感の変化。そうした要素が、感情を一色に固定させない。
New Year’s UnResolutionでも、失恋は単なる悲劇ではない。
そこにはユーモアもある。
気まずさもある。
美しさもある。
自分でも呆れるような未練もある。
この曲は、別れのあとに訪れる感情のごちゃごちゃした状態を、そのまま受け入れている。
また、この曲の歌詞には、電話や連絡をめぐる緊張がある。
呼ぶべきか。
無視すべきか。
相手は呼ぶのか。
相手は無視するのか。
現代の恋愛において、この問いは非常に切実である。
連絡するかどうかは、小さな行為に見える。だが、実際には大きな意味を持つ。メッセージを送ることは、まだつながりたいと認めることになる。無視することは、自分を守ることかもしれないし、相手を傷つけることかもしれない。
この曲は、その一瞬の迷いを大きな感情の中心に置いている。
スマートフォンの画面を見つめる数秒。
送信ボタンを押すかどうか迷う時間。
既読になったかどうかを見る習慣。
そうした現代的な恋愛の風景が、歌詞の背後にあるように感じられる。
しかしL’Rainは、それを具体的なテクノロジーの歌にしない。もっと抽象的な問いとして、音の中に漂わせる。だから曲は時代性を持ちながら、同時に普遍的でもある。
人は昔から、呼ぶべきか、黙るべきかで迷ってきた。
手紙でも、電話でも、メッセージでも、根本は同じだ。
New Year’s UnResolutionは、その迷いを新年という時間の境目に置く。
新年は、人が自分を変えられると思い込みやすい時期である。
新しいカレンダー。
新しい目標。
新しい生活。
だが、感情には年明けがない。
12月31日に苦しかったものは、1月1日にもまだ苦しい。新年の抱負を書いても、忘れられない人の名前は残る。決意はできても、解決はできない。
この曲のタイトルは、その現実を静かに笑っているようにも見える。
新年の未決意。
なんて正直な言葉だろう。
5. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Find It by L’Rain
Fatigue収録曲で、L’Rainのコラージュ的な美学と、祈りのような反復がよく表れた楽曲である。New Year’s UnResolutionのポップな入口からさらに奥へ進むなら、この曲の複雑な音の層が大きな手がかりになる。声、管楽器、リズム、記憶の断片が渦のように重なっていく。
- Two Face by L’Rain
同じくFatigue収録の重要曲で、L’Rainの声の重なりとサイケデリックな音像を味わえる。New Year’s UnResolutionにある反復や多面的な感情に惹かれる人には、この曲の揺らぎも深く響くだろう。自分の中にいくつもの顔があることを、音そのもので表しているような曲である。
- Somewhere Near Marseilles -マルセイユ辺り- by Hikaru Utada
長尺のダンス・トラックでありながら、別れや距離の感情を非常に繊細に描いた曲である。New Year’s UnResolutionのダブ風のグルーヴや、踊れるのに寂しい感覚が好きなら、この曲の海辺の夜のような浮遊感も自然に響くはずだ。
- Sad Day by FKA twigs
恋愛の終わり、身体の痛み、電子音の美しさが溶け合う一曲である。L’Rainほどコラージュ的ではないが、感情を単純なバラードにせず、実験的なポップとして立ち上げる点で共鳴している。壊れそうな声と硬質なビートの対比が美しい。
反復するフレーズが時間の感覚を変えていく作品である。New Year’s UnResolutionのように、同じ要素が繰り返されることで感情の深度が変わっていく音楽が好きなら、この作品の静かな変容にも引き込まれるだろう。直接的な失恋ソングではないが、記憶と時間の音楽として深く通じる。
6. 解決しないまま踊る、L’Rainのアンチ・ブレークアップ・ソング
New Year’s UnResolutionは、別れの曲でありながら、典型的なブレークアップ・ソングではない。
普通のブレークアップ・ソングには、何らかの結論があることが多い。
あなたを忘れる。
まだ愛している。
もう戻らない。
自由になった。
後悔している。
もちろん、そういう曲も美しい。
だがNew Year’s UnResolutionは、そうした結論を避ける。
この曲は、別れに対して反対しているというより、別れをひとつの結論として扱うことに抵抗しているように聞こえる。
関係は終わった。
でも感情は終わらない。
距離はできた。
でも記憶は残る。
会わなくなった。
でも夢や思考の中では、まだ何度も再会する。
そういう意味で、この曲はアンチ・ブレークアップ・ソングである。
別れを否定するのではない。
別れがすべてを解決するという考えを否定している。
ここがとてもL’Rainらしい。
彼女の音楽は、物事をひとつの意味にまとめることを好まない。音も、感情も、記憶も、層になっている。ある音が鳴っている背後に、別の音が残っている。ある言葉が発せられると、その直後に違う意味が立ち上がる。
New Year’s UnResolutionでも、言葉は反復されながら少しずつ意味を変える。
最初に聞いたときの問いと、何度も繰り返されたあとの問いは、同じではない。
Will you forget me along the way?という問いは、最初は相手への不安として響く。だが何度も繰り返されるうちに、それは自分自身への問いにも聞こえてくる。
私は私を忘れてしまうのか。
この関係の中で、自分が誰だったのかを忘れるのか。
前へ進む途中で、過去の自分を置き去りにしてしまうのか。
そういう別の意味が滲み出してくる。
L’Rainの曲の反復は、単なるフックではない。
反復することで、言葉の内側に隠れていた別の部屋が開く。
この曲のサウンドも、同じように多層的である。
表面には、きらきらしたポップさがある。ダブ的な低音、広がるリヴァーブ、揺れるビート。音は重すぎず、むしろ風通しがいい。
しかし、その風通しのよさは、心が軽いという意味ではない。
むしろ、空間があるからこそ、寂しさがよく響く。
部屋に家具が少ないと、足音が反響する。New Year’s UnResolutionの音像にも、それに似た感覚がある。余白がある。だから、問いが残る。
この余白が美しい。
L’Rainは、リスナーに答えを押しつけない。感情の正しい処理方法を教えない。忘れるべきとも、戻るべきとも言わない。
ただ、未解決のまま揺れる時間を差し出す。
そして、その時間にリズムを与える。
ここがこの曲の救いである。
感情が解決しなくても、身体は動ける。
未練が残っていても、音楽は鳴る。
忘れられないままでも、夜は進む。
New Year’s UnResolutionは、そのことを教えてくれる。
解決しないことは、必ずしも停滞ではない。
解けない問いを抱えたまま、生きることもある。むしろ、多くの感情はそうやって続いていく。完全に理解できないまま、少しずつ形を変えていく。
この曲は、その変化の途中を捉えている。
別れた直後の言葉と、時間が経ってからの言葉が同じ曲に入っていることは、その意味でとても大きい。人は同じ出来事について、時期によって違う言葉を持つ。あのときは怒っていた。後から思えば寂しかった。さらに時間が経つと、実は愛だったのかもしれないと思う。
でも、そのどれか一つだけが正しいわけではない。
全部、その時点では本当だった。
New Year’s UnResolutionは、その複数の本当を同じ曲の中に置いている。
だから、曲は一枚の写真ではなく、何枚も重ねた透明なフィルムのように感じられる。ある角度から見ると別れの直後。別の角度から見ると、ずっと後の回想。さらに別の角度から見ると、まだ終わっていない関係。
この重なりが、L’Rainの魅力である。
I Killed Your Dogというアルバムの中で、この曲は終盤に置かれている。アルバム全体が、愛、別れ、怒り、ユーモア、復讐心、罪悪感、自己表現の揺れを扱う中で、New Year’s UnResolutionはそれらを静かに包むような役割を持っている。
タイトル曲のような挑発性とは違い、この曲にはもっと穏やかな苦味がある。
だが、その穏やかさの中に、かなり深い痛みがある。
別れを劇的な爆発としてではなく、長く尾を引く余韻として描いているからだ。
本当に苦しい別れは、別れの瞬間よりも、そのあとに来る日常で効いてくることがある。
誰にも報告しない夜。
何気ないニュースを共有できない朝。
相手が好きだった曲が流れた店。
連絡しないと決めたのに、何度も画面を見る手。
そうした小さな反復こそ、別れの本体なのかもしれない。
New Year’s UnResolutionは、その小さな反復を音楽にしている。
だから、曲のリズムは心地よいのに、どこか抜け出せない。踊っているようで、同じ場所を回っている。前に進んでいるようで、過去が追いかけてくる。
その感じが、とてもリアルである。
また、この曲にはL’Rainの声の扱いの妙がある。
声は中心にありながら、完全にひとつの主体としては固定されない。反復と加工、重なりによって、ひとりの声が複数の時間から聞こえてくるように感じられる。
別れた直後の自分。
あとから振り返る自分。
相手へ向けている自分。
自分自身へ問いかける自分。
それらが同じ声の中にいる。
この声の多層性が、曲のテーマと完璧に合っている。
New Year’s UnResolutionは、L’Rainの中でも特に聴きやすい曲かもしれない。だが、聴きやすいからといって単純ではない。むしろ、ポップな形をしているからこそ、その中にある未解決の感情がより鋭く伝わる。
実験的な音楽は、時に聴き手との距離を作る。
しかしこの曲は、その距離を少し縮めている。
身体が先に反応する。
メロディが残る。
ビートに揺れる。
そのあとで、歌詞の問いがじわじわ効いてくる。
この順番がとてもいい。
最初から重い意味を背負わせるのではなく、まず音として気持ちよく入ってくる。だが、何度も聴くうちに、曲の中の未練や不安や記憶が自分のもののように感じられてくる。
これは優れたポップソングの力である。
New Year’s UnResolutionは、新年の曲でありながら、希望の曲とは少し違う。
でも、希望がないわけではない。
ここにある希望は、決意の希望ではない。
今年こそ変わる、という強い希望ではない。
むしろ、変われなくてもいい、解決できなくてもいい、それでも揺れながら進んでいける、という柔らかい希望である。
その希望は、とても現実的だ。
人はいつもきれいに成長できるわけではない。
忘れると決めても忘れられない。
連絡しないと決めても連絡したくなる。
新しい年になっても、古い感情を持ち越す。
それでも、音楽は鳴る。
身体は少し揺れる。
夜は明ける。
New Year’s UnResolutionは、その程度の希望を大切にしている。
大きすぎない希望。
でも、確かに必要な希望。
だからこの曲は、別れのあとに聴くと深く沁みる。
そして、別れとは関係なくても、何かを決めきれないまま新しい時間に入ってしまった人にも届く。
未解決のままでも、生きていていい。
L’Rainは、そう言葉にせず、音で伝えている。
それがこの曲の優しさであり、強さである。
参照元・引用元
- New Year’s UnResolutionは2023年6月6日にシングルとしてリリースされ、L’Rainの2021年作Fatigue以来の新曲として紹介された。
- 同曲は2023年10月13日リリースのアルバムI Killed Your Dogに収録されている。
- L’RainのBandcampでは、この曲がL’Rain作品の中でも特にポップの影響が表に出た楽曲であり、関係の終わりをめぐる個人的な発掘として説明されている。L’Rain
- 楽曲はAndrew Lappin、Ben Chapoteau-Katzとの共同制作として確認できる。L’Rain
- 歌詞が異なる時期に書かれ、関係を振り返る複数の感情を含んでいることは、L’Rainによるトラック解説およびレビュー記事を参照した。Paste
- 歌詞の短い引用は、公開されている歌詞情報をもとに、著作権に配慮して最小限にとどめた。著作権は各権利者に帰属する。

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