
楽曲の概要
「New Year’s UnResolution」は、ニューヨークを拠点に活動するTaja Cheekによるプロジェクト、L’Rainが2023年6月6日に発表した楽曲である。2021年のアルバム『Fatigue』以来となる新曲として先行発表され、同年10月の3作目『I Killed Your Dog』では最後の曲に収録された。作詞はCheek、プロデュースとアレンジはCheek、Andrew Lappin、Ben Chapoteau-Katzが担当している。シンセサイザーやピアノ、プログラミングされたドラム、パーカッション、加工されたサックスなどを重ねながら、L’Rainの実験的な音作りを比較的明確なポップソングの形へまとめた一曲だ。公式の紹介でも、それまでのL’Rain作品のなかで特にポップの影響が表面に出た楽曲として説明されている。
L’RainはR&B、ジャズ、エクスペリメンタル・ミュージック、ポップなどを横断し、ループや断片的な音を組み合わせる制作方法を得意としてきた。「New Year’s UnResolution」にもその特徴は残っているが、断片をコラージュした感触よりも、ひとつの持続するグルーヴのなかで音が少しずつ変化していく感覚が強い。約5分という長さのなかで、別れた関係について時間を隔てて考え直す歌詞と、絶えず流れ続けるようなサウンドが結びついている。
歌詞の概要
この曲が扱うのは、恋愛関係が終わった瞬間そのものというより、その出来事を時間が経ってからどう記憶するのかという問題である。Cheekによれば、歌詞は一度に書かれたものではなく、別れた直後と、それから長い時間が経った後など、異なる時期に書いた言葉を組み合わせている。したがって語り手の感情も一定ではない。まだ相手との関係が生々しく残っている感覚と、すでにその記憶が遠ざかりつつある感覚が同じ曲のなかに存在し、「過去の自分にとって大きかったものが、現在の自分にはどう見えるのか」という距離の変化が中心になっている。
タイトルの「UnResolution」もその状態をよく表している。「New Year’s Resolution」は新年の抱負を意味する決まり文句だが、ここではresolutionの前に否定を思わせる「Un」が加えられている。新年を境に過去を整理して新しく始めるという単純な物語ではなく、解決できないものを抱えたまま時間だけが進んでいく状態を示す題名として読める。かつて強い親密さを持っていた相手と、関係が変わった後にどのような距離を取ればいいのか。その答えが出ないこと自体が、この曲では失敗ではなく、別れた後の時間の現実として描かれている。
制作背景・時代背景
「New Year’s UnResolution」は『Fatigue』から約2年後、L’Rainの新しい段階を知らせるシングルとして発表された。Cheekはこの曲について、関係の軌跡を人生の異なる地点から考える感覚を作るため、異なる時期に書いた言葉を使用したと説明している。また、時間がある時には糖蜜のように遅く、ある時には水や空気のように過ぎていくこと、長く親密だった相手との関係を別の形に設定し直す難しさなどを、この曲を書く際の問いとして挙げている。ここでは失恋が一回の事件ではなく、その意味が時間によって変化していく経験として扱われている。
制作には以前からL’Rain作品に関わってきたAndrew LappinとBen Chapoteau-Katzが参加した。Cheekはパーカッション、シンセパッド、ループ、ボーカル、エレクトリックギターなどを担当し、Chapoteau-Katzはシンセのプログラミングとシーケンス、サックスなど、Lappinはドラム・プログラミング、パーカッション、ダブ的なエフェクトを担当している。さらにAngel Deradoorianのバックボーカル、Alex Goldbergのドラム、Joy Moralesのピアノなども加わった。後に『I Killed Your Dog』の最終曲となったことで、単独の失恋曲であると同時に、親密さ、孤独、後悔、記憶といったアルバム全体の感情を最後にもう一度開いたままにする役割も担うことになった。
歌詞の抜粋と和訳
この曲では、特定の一節だけを切り出すより、「時間」「忘却」「かつて何かを共有していたという記憶」といったモチーフの関係を見るほうが全体像をつかみやすい。語り手は相手との関係を完全に否定するわけでも、元に戻そうとするわけでもない。むしろ、過去には確かに存在した親密さが現在では別のものになり、その変化をどのように理解すればいいのかを考え続けている。
そのため、ここでの「忘れる」という行為にも二つの方向がある。苦しみから離れるためには忘却が必要に思える一方、忘れてしまえば、かつてその関係のなかにいた自分自身の一部まで失われるかもしれない。Cheek自身が曲の発表時に「自分の一部を忘れてしまったように感じるとはどういうことか」と問いを立てていることからも、この曲の焦点が単なる相手への未練ではなく、関係の終了によって自己認識まで変わってしまう感覚にあることが分かる。
サウンドと歌詞の考察
この曲でまず印象的なのは、失恋を扱っているにもかかわらず、音楽が沈み込むバラードにはなっていないことだ。ドラムとパーカッションは柔らかいが明確な脈を持ち、シンセの反復と組み合わさって、身体をゆっくり前へ運ぶようなグルーヴを作る。AllMusicがこの曲を「水」を思わせるダンス・リズムと結びつけて評しているように、拍は強く打ち込むというより、波のように連続している。ピアノの短い音もその上に滴るように置かれ、曲全体には輪郭がありながら、どこか液体的な感触がある。Cheekが時間の経過を水や空気になぞらえて説明していることを考えると、この流動的なリズムは歌詞の時間感覚ともよく対応している。
重要なのは、曲が大きなドラマを作ることで感情を説明しようとしない点である。ヴァースからサビへ移った瞬間に巨大なギターやドラムが入るような構成ではなく、同じ流れのなかでシンセ、ピアノ、声、パーカッションの層が増減する。そのため、曲を聴いている側は「ここで悲しい」「ここで立ち直った」と明確に区切ることができない。これは歌詞の構造にも近い。別れた直後の感覚と長い時間が経った後の感覚が並べられているため、過去と現在は完全には分離されず、ある記憶が別の記憶の上に重なって聞こえてくる。サウンドが一直線の物語を避けることで、歌詞の時間も一直線ではなくなる。
ボーカルもこの曖昧さを支えている。Cheekは感情を強く押し出して歌うのではなく、柔らかい声をトラックの内部に溶かし、バックボーカルと重なることで一人の声の輪郭を時々ぼかしていく。ここで声は「現在の語り手が過去を説明している」という単純な位置には固定されない。異なる時期に書かれた言葉を、重なった声と反復のなかで聴かせることで、現在の自分、過去の自分、記憶のなかの自分が同じ空間にいるように感じられる。声が前面に出すぎないことも重要で、告白を聴かせるというより、思考が音楽のなかを漂っているような距離感を作っている。
さらにL’Rainらしいのが、電子音と生演奏の境界が分かりにくいことである。シンセのシーケンスやドラム・プログラミングの規則的な動きに、実際のドラム、ピアノ、パーカッション、サックスなどの身体的な音が入り込む。Chapoteau-KatzはL’Rainの作品におけるサックスについて、エフェクトを通して原形が分かりにくくなっても、息やキーの動きに由来する人間的な感触が残るという趣旨の説明をしており、「New Year’s UnResolution」にも一聴してサックスとは判別しにくい音が含まれていると語っている。電子的に整えられた反復のなかに完全には均質化されない音が混ざることで、過去を整理しようとしても記憶の細部が不意に戻ってくるような感触が生まれている。
曲が進むにつれてリズムの存在感は増していくが、それは「失恋を乗り越えて明るくなる」という単純な上昇ではない。むしろ、答えが出ない状態のまま身体だけは動き続けるという構造になっている。新年という言葉から連想される再出発を題名で否定しながら、音楽そのものは止まらず前進する。この矛盾が「New Year’s UnResolution」の核だろう。解決しなければ先へ進めないのではなく、解決できないものを持ったままでも時間は流れ、関係も自己認識も少しずつ別の形になる。その感覚を、L’Rainは悲劇的なクライマックスではなく、循環するリズムと霞んだ音の重なりによって表している。
この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
「Our Funeral」 by L’Rain
同じ『I Killed Your Dog』から、関係の終わりと孤独をさらに暗い角度から扱った曲。「New Year’s UnResolution」の流動的なグルーヴに対し、こちらは別れを終末的な風景へ広げるような重さがあり、アルバム内での感情の振れ幅が分かる。
「r(EMOTE)」 by L’Rain
親密さの後に残る孤独や感情の処理という点で「New Year’s UnResolution」とつながる一曲。声やフレーズの反復を使いながら、個人的な感情を単純な告白ではなく、ループする思考のような音楽へ変えている。
「Uncertainty Principle」 by L’Rain
L’Rainの複雑なリズム感と、ひとつのジャンルに収まらないアレンジをより激しく味わえる曲。「New Year’s UnResolution」の滑らかな持続感とは対照的に、異なる音楽的要素が衝突しながら形を変えていく。
「5 to 8 Hours a Day (WWwaG)」 by L’Rain
『I Killed Your Dog』のなかでもポップな旋律が前面に出た曲で、実験的な制作方法と親しみやすい歌のバランスが「New Year’s UnResolution」に近い。穏やかな表面の下で細かなリズムや音色が動き続ける点も共通している。
「New Year’s UnResolution (DJ Python Remix)」 by L’Rain
原曲の歌と浮遊感を残しながら、DJ Pythonがダウンテンポ寄りの空間へ組み替えた公式リミックス。原曲にもともとあった水のようなリズム感をさらに広げており、L’Rainの曲がダンス・ミュージックと接続できることがよく分かる。
まとめ
「New Year’s UnResolution」の特徴は、別れを「終わった出来事」として整理せず、その意味が時間によって変わり続ける状態そのものを音楽にしている点にある。異なる時期に書かれた言葉は過去と現在を重ね、シンセ、ピアノ、加工されたサックス、ドラムとパーカッションによる流動的なアレンジは、その不安定な時間感覚を支えている。タイトルが示すのも、きれいな決着や新年らしい再出発ではない。それでもリズムは止まらず、曲はゆっくり前へ進み続ける。L’Rainのコラージュ的な発想を保ちながらポップソングとしての輪郭を強めた作品であり、『I Killed Your Dog』の最後に置かれることで、親密さや孤独をめぐるアルバムの問いを、答えのないまま未来へ運ぶ曲になっている。
参照元
- L’Rain / Bandcamp「New Year’s UnResolution」
- Mexican Summer / L’Rain「New Year’s UnResolution」公式リリース情報
- L’Rain Official Artist Channel「New Year’s UnResolution」クレジット
- Pitchfork「L’Rain Shares New Song “New Year’s UnResolution”」
- AllMusic『I Killed Your Dog』レビュー
- Beats Per Minute「L’Rain shapeshifts through the elemental “New Year’s UnResolution”」
- Last Donut of the Night「L’Rain’s Taja Cheek and Ben Chapoteau-Katz」インタビュー

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