
楽曲の概要
「Colours of You」は、Baby Queenが2022年4月22日に発表した楽曲である。Netflixドラマ『Heartstopper』シーズン1のために書き下ろされ、作品のプロモーションにも使用された。作詞・作曲はBaby QueenことArabella LathamとEd Carlile、プロデュースはCarlileがKing Ed名義で担当している。
Baby Queenの初期作品には、現代の若者の不安や自己嫌悪、SNSとの関係などを皮肉交じりに描いた曲が多い。一方、「Colours of You」は恋をしたことで世界の見え方が変化する瞬間を、色彩のイメージでまっすぐに表したポップソングだ。
特に重要なのが『Heartstopper』との関係である。Baby Queenは主人公Nick Nelsonの視点を意識してこの曲を書いたと説明している。恋愛感情だけでなく、自分のセクシュアリティを理解していくNickの変化まで「色が増える」というイメージに重ねたことで、ドラマの物語と強く結びつく曲になった。
歌詞の概要
歌詞の出発点にあるのは「灰色」の世界である。語り手は自分の内面を灰色として捉え、世界についても白と黒のような限られた色で見ていた。それが、ある人物と出会ったことで大きく変化する。
相手を見ると暗さが消え、自分自身がその人の色で覆われていく。ここでの「色」は単なる美しい風景ではなく、恋愛によって初めて経験する感情や、自分の中にあった未知の部分を表していると読める。
面白いのは、恋による変化を完全に穏やかなものとして描いていないことだ。語り手は自分の人生が見覚えのないものへ変わったと感じ、泣くことさえある。つまり、新しい色を得ることには喜びだけでなく混乱も伴っている。
『Heartstopper』のNickという人物を踏まえると、この構造はさらに分かりやすい。NickはCharlieへの感情を通じて、自分がこれまで当然だと思っていた自己像を見直していく。Baby Queen自身も、Nickが自分のセクシュアリティを調べていく過程に、自身の経験と重なる部分があったと語っている。
終盤では赤、オレンジ、黄色、緑、青、紫など、多数の色が一気に並べられる。灰色や白黒から始まった歌詞が、最後には色であふれる。この変化そのものが曲の物語になっている。
制作背景・時代背景
Baby Queenは南アフリカ出身のArabella Lathamによる音楽プロジェクトである。ロンドンへ移住した後、2020年にEP『Medicine』、2021年にミックステープ『The Yearbook』を発表し、インターネット時代の若者の感情を細かく描くポップソングで注目を集めた。
転機となったのが『Heartstopper』だった。原作者でドラマ版のクリエイターでもあるAlice OsemanがBaby Queenの音楽を気に入り、制作段階からその楽曲が作品と結びついていった。「Want Me」や「Dover Beach」など複数の既発曲もシーズン1で使われている。
Baby Queenによれば、Osemanらからドラマの最初の3話を見せてもらい、そこから作品のために曲を書くことになった。「Colours of You」というアイデア自体は約2年前から頭の中にあったが、『Heartstopper』によって、そのアイデアを使うべき場所が見つかったという。
最初にはCharlieの視点から別の曲を書いたが、最終的な「Colours of You」はNickの視点へ切り替えて制作された。Baby Queen自身がバイセクシュアルであり、Nickがインターネットで自分のセクシュアリティについて調べる過程などにも個人的な共通点を感じていた。
興味深いのは、虹の色を並べる歌詞が最初からPrideを意図して書かれたわけではなかったことである。Baby Queenは完成後になって、その色彩表現がクィアなアイデンティティと強く結びついて聞こえることに気づいたと話している。
曲は『Heartstopper』とともにBaby Queenの知名度を大きく押し上げた。その後、2023年のデビューアルバム『Quarter Life Crisis』にも収録され、ドラマのための単発曲ではなく、彼女自身のディスコグラフィにおける重要曲になった。
歌詞の抜粋と和訳
“Covered in the colours of you”
和訳:あなたの色に包まれている。
この曲を最も簡潔に表す一節である。「あなたを好きになった」と直接言う代わりに、相手と出会ったことで自分自身まで違う色になったと表現している。
重要なのは、色が相手だけに存在しているのではないことだ。語り手自身がその色に「覆われる」。恋愛によって相手が魅力的に見えるだけでなく、自分自身の感じ方やアイデンティティまで変化していくことが、この表現に含まれている。
サウンドと歌詞の考察
「Colours of You」は、歌詞の中心にある「灰色から色彩へ」という変化を、サウンドでもゆっくり作っていく。
イントロからいきなり巨大なポップサウンドを鳴らすのではなく、最初は比較的静かだ。Baby Queenの声が近い位置にあり、ピアノやシンセを中心とする柔らかな伴奏が周囲を包む。
この段階では、音の空間にも余白がある。歌詞の語り手が自分の内側を「灰色」と感じていることと、音数を抑えた冒頭が自然につながっている。
Baby Queenの歌い方も重要だ。強い声で感情を押し出すのではなく、ヴァースでは言葉を一つずつ確かめるように歌う。少し息を含んだ声によって、自分に何が起きているのかまだ理解しきれていない人物のように聞こえる。
そこからサビへ向かうにつれて、音が広がっていく。
「あなたの色に覆われる」という中心的なイメージへ入ると、ボーカルの重なりやシンセの響きが増え、ヴァースよりも視界が広くなる。突然激しいロックサウンドになるわけではない。音の輪郭が柔らかいまま、周囲の空間だけが明るくなる。
この変化が歌詞とよく合っている。語り手は相手と出会う前まで、世界を限られた色で見ていた。恋をした瞬間、その世界へ新しい色が入ってくる。アレンジも同じように、最初からすべてを見せず、サビで少しずつ色を足していく。
Ed Carlileによるドラムとパーカッションも、曲を強く押しすぎない。ビートははっきりしているが、ロックのような重さより、柔らかく身体を揺らすポップの感覚がある。
そのため曲には、夢の中を進んでいるような浮遊感が残る。『Heartstopper』の持つ、日常的な学校生活の中へ突然強い感情が入り込んでくる感覚とも相性がいい。
アコースティックギターをBaby Queen自身が弾いている点も、この曲の柔らかさにつながっている。シンセだけで完全に人工的な空間を作るのではなく、生の弦の響きを薄く混ぜることで、人の近さを残している。
そして「Colours of You」で最も分かりやすい仕掛けが、色に関する言葉の増加である。
冒頭では灰色や白黒という、色彩がほとんど存在しない世界から始まる。それがサビでは紫や青へ変わり、終盤になると赤、オレンジ、黄色、緑、青、紫、ピンク、インディゴと一気に色が増える。
つまり歌詞そのものが徐々にカラフルになっていく。
これは単純な仕掛けだが、この曲では非常に効果的だ。恋をしたことで人生が変わった、と抽象的に説明するだけなら普通のラブソングで終わる。しかし「最初は灰色だった言葉が、最後には虹のようになる」という構造を作ったことで、感情の変化を目で想像できる。
さらに『Heartstopper』との関係では、この色彩が別の意味を持つ。
NickにとってCharlieへの恋は、単に「好きな人ができた」という出来事ではない。その感情によって、自分がこれまで考えていたセクシュアリティの枠組みも変化する。
Baby QueenはNickの視点について、自分自身の経験との共通点を語っている。特に、自分のセクシュアリティが分からずインターネットで調べるという過程は、彼女自身にも覚えのあるものだった。
だから「白黒から色彩へ」という変化は、恋愛と自己発見の両方に使える。
それまで自分には決まった一つの説明しかないと思っていた。しかし新しい感情が生まれたことで、もっと多くの可能性が見えるようになる。「色が増える」という比喩は、その変化を非常に分かりやすく表している。
ただし、歌詞は自己発見を単純な解放として描いていない。
相手によって人生が変わり、自分でも以前の自分を認識できなくなるという感覚がある。涙も登場する。つまり新しい自分を知ることは、喜びであると同時に不安でもある。
ここが「Colours of You」を単純な幸福の歌から少し複雑にしている。
誰かを好きになると世界が美しく見える。しかし、その恋によって自分について知らなかったことまで見えてしまう。その変化が大きければ、「うれしい」だけでは処理できない。
Baby Queenのボーカルが過度に力強くならないことも、この複雑さを支えている。もし最初から最後まで勝利を宣言するように歌えば、自己発見を祝福するアンセムとしてだけ聞こえただろう。
実際には、声には少し戸惑いが残る。特にヴァースでは、自分に起きた変化を驚きながら説明しているような距離感がある。
そこからサビで声が重なり、感情が大きくなる。この「一人で考えるヴァース」と「感情に包まれるサビ」の違いが、Nickの物語ともよく重なる。
曲の後半で色の名前を繰り返す部分になると、歌詞は説明から解放される。赤、オレンジ、黄色、緑、青と、意味を詳しく分析する必要のない言葉がリズムとして並ぶ。
ここでは色の名前そのものがフックになる。複雑な自己認識について歌っていた曲が、最後には誰でも一緒に歌える単純な言葉へ変わる。
そして、その色の並びがPrideのレインボーを連想させる。Baby Queen本人によれば、これは最初から意図したものではなかった。しかし『Heartstopper』のために書かれ、Nickのクィアな自己発見を背景に持つ曲である以上、完成後には非常に自然な意味の重なりが生まれた。
この偶然性も曲の魅力である。最初から「クィア・アンセムを作る」と決め、象徴を配置したわけではない。恋をしたことで世界に色が増えた、という個人的なイメージを追った結果、それがより広いアイデンティティの表現ともつながった。
Baby Queenのそれ以前の曲と比べると、この素直さはかなり目立つ。
「Internet Religion」などでは、SNS文化や自分自身を冷めた視線で観察し、皮肉や誇張を使っていた。「Colours of You」では、その防御的なユーモアが大幅に後ろへ下がっている。
誰かを好きになることで自分が変わってしまった、という感情をほぼ正面から受け入れている。だからサウンドにも鋭いギターや攻撃的なビートより、柔らかなシンセと広がるコーラスが似合う。
一方で、完全に昔ながらのラブバラードにもならない。言葉の選び方にはBaby Queenらしい現代的な感覚があり、「自分の人生が認識できないものになった」という表現には、恋愛を幸福だけでなくアイデンティティの揺れとして見る視点がある。
「Colours of You」の大きな特徴は、恋愛、セクシュアリティ、自己発見というテーマを別々に説明しないことだ。
一人の人物を好きになる。その結果、世界が違って見える。そして世界が違って見えたことで、自分自身についても新しいことを知る。
その一連の変化を「色」という一つのイメージへまとめている。
サウンドも同じ方向へ進む。静かで少し暗い場所から始まり、シンセ、コーラス、リズムが加わり、最後には色の名前を繰り返す大きなポップソングになる。
そのため、この曲では歌詞の意味とアレンジの変化が非常に理解しやすい。灰色だった世界に、一色ずつ新しい色が加わっていく。その過程を約4分の音楽として聞かせることが、「Colours of You」の中心にある。
この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
「Want Me」 by Baby Queen
『Heartstopper』シーズン1でも使われたBaby Queen初期の代表曲。「Colours of You」より皮肉と自己意識が強く、片思いの不安を勢いのあるポップへ変えている。両曲を比べると、『Heartstopper』とBaby Queenの相性が分かりやすい。
「Dover Beach」 by Baby Queen
2021年の『The Yearbook』収録曲。恋する相手への執着と距離を、明るく広がるポップサウンドへ乗せている。「Colours of You」の幸福感より少し苦く、Baby Queenが恋愛を理想化しすぎず描く部分につながっている。
「All the Things」 by Baby Queen
『Heartstopper』シーズン2のために書かれた楽曲。「Colours of You」が恋によって新しい世界を発見する瞬間なら、こちらは関係が進んだ後に生まれる、もっと複雑な感情へ向かう。2曲を通してドラマとの関係も追える。
「Silk Chiffon」 by MUNA feat. Phoebe Bridgers
明るいギターと軽快なリズムを使い、クィアな恋愛の喜びを開放的なポップへ変えた曲。「Colours of You」と同じく、アイデンティティを説明することより、誰かを好きになる幸福そのものを前面に出している。
「Girls Like Girls」 by Hayley Kiyoko
同性への恋を率直に扱った2015年のポップソング。Baby Queen自身もHayley Kiyokoのようなクィア・アーティストが若い頃の自分にとって重要だったと語っている。「Colours of You」へつながる世代的な流れを感じられる一曲だ。
まとめ
「Colours of You」は、恋愛によって世界の見え方だけでなく、自分自身についての理解まで変化する瞬間を「色」で表したポップソングである。灰色と白黒から始まった歌詞が、最後には赤、オレンジ、黄色、緑、青、紫など多数の色で満たされる。その変化自体が曲の物語になっている。
『Heartstopper』のNick Nelsonを意識して書かれたことで、そこには恋愛とクィアな自己発見という二つの意味が自然に重なった。Baby Queen自身の経験もNickへの共感につながっているが、曲の語り手を作者本人と完全に同一視するのではなく、あくまでNickの視点から構想された作品として聞くことが重要だ。
サウンドも、静かなヴァースから広がりのあるサビへ進み、歌詞の色彩が増えるほど音の空間も大きくなっていく。恋を単なる幸福として描かず、「それまで知っていた自分が変わってしまう経験」として捉えたことが「Colours of You」の特徴である。『Heartstopper』との出会いによって、Baby Queenのキャリアが大きく広がるきっかけにもなった一曲だ。
参照元
- Polydor Records / Universal Music「Colours of You」
- Rolling Stone UK「Meet Baby Queen, the ‘Heartstopper’ songwriter touring with Olivia Rodrigo」
- Spotify Newsroom「From Heathrow to ‘Heartstopper,’ GLOW Artist Baby Queen is on a Musical Journey All Her Own」
- The Line of Best Fit「Baby Queen is breaking character」
- MusicBrainz「Colours of You」

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