1. 歌詞の概要
「23」は、Baby Queen(ベイビー・クイーン)ことBella Lathamが2023年にリリースしたデビューアルバム『Quarter Life Crisis』に収録された楽曲であり、20代前半という“人生の過渡期”に直面した若者の焦燥、不安、そして混乱を痛烈に描き出した、極めてパーソナルで鋭利なナンバーである。
タイトルの「23」は、そのまま主人公の年齢を表しており、社会に出たばかりの若者が直面する自己の不確かさや、“成功しなければ”というプレッシャー、成長しなければならないという焦りが渦巻く時間のなかで、“まだ何者でもない自分”への苛立ちと、かすかな希望を行き来する。
語り手は、自分が「何も達成していない」ことに落胆しながらも、「もしかしたらこの先、何者かになれるかもしれない」と信じたい気持ちを胸に抱く。
この曲は、まさに**“生きていることが不安定なだけで尊い”という感情の記録**であり、現代を生きる若者たちの共通言語とも言える。
2. 歌詞のバックグラウンド
この楽曲は、Bellaが実際に23歳を迎えた年に感じていたリアルな心情をもとに制作されている。
自身のキャリアが加速する一方で、「自分が誰なのか」「これで合っているのか」といった迷いに苛まれながら過ごしたその時期を、Baby Queenは「もっともアイデンティティの揺らいだ年齢」と語っている。
アルバムのタイトルにもなっている“クォーターライフ・クライシス”という概念——20代前半に訪れるアイデンティティと未来への危機感——を象徴するこの楽曲は、アルバム全体の精神的な中核に位置づけられる存在だ。
軽快なローファイ・ギターとポップなメロディに乗せて語られるそのメッセージは、どこか“寝起きのままの心の声”のようにざらついていて、しかしだからこそ強く響く。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I’m 23 and I still don’t know what I’m doing
I’m scared of the future, but the present is just as confusing
私は23歳、でもまだ何をしているのかわからない
未来が怖いし、今この瞬間も同じくらい混乱してる
Everyone’s got it figured out
But I’m still trying to make it through the week
みんなは何かを掴んでるように見える
私はただ“今週を乗り越える”ことで精一杯
I thought I’d be somebody by now
But I’m still just me
この頃には“何者か”になってるはずだった
でも今の私は、ただの“私”のまま
I keep writing songs to make sense of my head
But I still feel like a kid sleeping in a grown-up bed
歌を作って、頭の中を整理しようとしてる
けど、大人のベッドで眠る子どものような気分は、まだ抜けない
歌詞引用元:Genius – Baby Queen “23”
4. 歌詞の考察
「23」は、Baby Queenの作品のなかでも最もリアルで生々しい“自己告白”の色合いが強い楽曲である。
この曲における最大のテーマは、“何者でもない自分”をどう受け入れるか、という問いだ。
特に「I thought I’d be somebody by now」というラインには、20代の“想像と現実のギャップ”が凝縮されている。
子どものころは、23歳の自分がもっと輝いていると思っていた。でも、実際にはそうじゃなかった。それを責めるのではなく、「じゃあ今の私はダメなのか?」と自問し続ける姿が、この曲の核心にある。
また、「I keep writing songs to make sense of my head(自分の頭の中を理解するために歌を作ってる)」というフレーズは、音楽そのものがセラピーであることの告白でもあり、リスナーにとっても「歌う=生き抜く術」としての意味が強く響く。
加えて、「I still feel like a kid sleeping in a grown-up bed(大人のベッドに眠る子どもみたい)」という描写は、身体的には“成人”だけど、精神的にはまだ準備ができていないという感覚を、美しく切なく可視化している。
この感覚に共感する人は、きっと少なくないだろう。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Quarter Life Crisis by Baby Queen
アルバムの表題曲でもあり、同様のテーマをよりポップに展開した心の風景。 - Growing Pains by Alessia Cara
成長の過程で感じる痛みや葛藤をそのまま歌った等身大のアンセム。 - I Know It Won’t Work by Gracie Abrams
人間関係や自分自身との葛藤を抱えながらも、なんとか今日を生きようとするバラード。 -
Liability by Lorde
“扱いづらい存在”である自分を否定せず、静かに受け止める力強さを描いた一曲。 -
Motion Sickness by Phoebe Bridgers
感情のふらつきをアイロニカルに描きつつ、共感と傷の記録として昇華した作品。
6. “私はまだ途中にいる”という宣言
「23」は、“何者でもない自分”を認めることから、何者かになっていくというプロセスを描いた、未完成であることの美しさを讃える歌である。
世間が求める成功や安定にはまだ届かない。でも、それでもいい。
今の自分に自信がなくても、「わからない」と言い続けることが、ちゃんと生きている証なんだと、Baby Queenはこの曲で教えてくれる。
「23」は、人生の正解が見えない時間を生きているすべての人にとっての“心の仲間”のような楽曲である。
それは不安や迷いに満ちた毎日を否定せず、むしろ「それも一つの道なんだ」と肯定してくれる。
Baby Queenはこの曲を通して、「今、ここにいるあなたが、そのままでちゃんと意味を持っている」と、やさしく、そして強く歌いかけている。
コメント