- イントロダクション:静かなバンドが、インディーポップの地図を書き換えた
- アーティストの背景と歴史:ブリスベンの閉塞から生まれた知的ポップ
- 音楽スタイルと影響:ジャングルギター、文学性、二人のソングライター
- 代表曲の楽曲解説
- アルバムごとの進化
- Send Me a Lullaby:ぎこちなさの中にある初期衝動
- Before Hollywood:記憶と文学がポップへ結晶する
- Spring Hill Fair:ロンドン録音とポップへの接近
- Liberty Belle and the Black Diamond Express:ギターポップとしての完成度
- Tallulah:Amanda Brown加入による色彩の拡張
- 16 Lovers Lane:恋愛、喪失、都市の光が交差する最高傑作
- The Friends of Rachel Worth:再結成後の静かな復活
- Bright Yellow Bright Orange:穏やかな成熟
- Oceans Apart:最後の輝き
- Robert ForsterとGrant McLennan:二人の作家性
- ブリスベンと“Go Between Bridge”:都市に刻まれたバンド
- 影響を受けたアーティストと音楽
- 影響を与えたアーティストと音楽シーン
- 同時代バンドとの比較:R.E.M.、The Smiths、Prefab Sproutとの違い
- ファンと批評家の評価:売れなかった名バンドの典型では終わらない
- The Go-Betweensの魅力:文学的であることと、ポップであること
- まとめ:The Go-Betweensは“あいだ”を歌ったバンドである
- 関連レビュー
イントロダクション:静かなバンドが、インディーポップの地図を書き換えた
The Go-Betweensは、オーストラリア・ブリスベンで1977年に結成されたインディーロック/ギターポップ・バンドである。中心人物は、Robert ForsterとGrant McLennan。二人はクイーンズランド大学で出会い、文学、映画、ポップミュージックへの深い愛情を共有しながら、オーストラリアのロック史においてきわめて特異なバンドを作り上げた。
The Go-Betweensの音楽は、大きな音で世界を制圧するタイプではない。むしろ、低い声で語りかける。ギターは繊細に絡み合い、メロディはひそやかに胸へ残り、歌詞は短編小説のように人物、記憶、風景を浮かび上がらせる。彼らはオーストラリアのバンドでありながら、ロンドンの曇り空、ブリスベンの湿った空気、文学青年の孤独、恋愛の微細な揺れを同時に鳴らした。
代表曲「Cattle and Cane」、「Bachelor Kisses」、「Spring Rain」、「Head Full of Steam」、「Streets of Your Town」、「Was There Anything I Could Do?」は、いずれも派手なヒット曲というより、聴く人の人生に長く残る種類の曲である。とくに「Cattle and Cane」は、Grant McLennanの少年時代の記憶をもとにした名曲として知られ、オーストラリアのソングライティング史においても重要な位置を占めている。The New Yorkerは、同曲をMcLennanの叙情性とノスタルジーが結晶した代表曲として紹介している。(newyorker.com)
The Go-Betweensは、商業的には巨大な成功を収めたバンドではない。しかし、影響力は深い。Belle and Sebastian、Teenage Fanclub、The Clientele、Camera Obscura、Yo La Tengo、The Lucksmiths、Courtney Barnett以降のオーストラリアン・インディーに至るまで、彼らの“文学的で、親密で、ギターが美しいポップ”の遺伝子は幅広く受け継がれている。
彼らは、ロックを叫びではなく、手紙にした。ギターを武器ではなく、余白を描くペンにした。The Go-Betweensは、詩とギターが交差する、オーストラリア文学的ポップの結晶である。
アーティストの背景と歴史:ブリスベンの閉塞から生まれた知的ポップ
The Go-Betweensは、1977年にRobert ForsterとGrant McLennanによってブリスベンで結成された。バンド名は、L. P. Hartleyの小説The Go-Betweenに由来する。そもそも名前からして文学的であり、彼らの美学をよく表している。The Go-Betweensは、パンク以後の時代に登場しながら、ただ速く、荒く、怒るだけのバンドではなかった。
初期のブリスベンは、彼らにとって決して自由な場所ではなかった。保守的で、閉塞感があり、文化的にはシドニーやメルボルン、ロンドンへの憧れを抱かせる都市だった。ForsterとMcLennanは、そんな場所からポップミュージックと文学を通じて外の世界へ向かおうとした。
初期シングル「Lee Remick」は、アメリカの女優Lee Remickへの憧れを歌った曲である。地元のロックバンドが身近な現実を歌うのではなく、映画スターの名前を掲げ、軽やかなギターで世界への距離を測る。この時点で、The Go-Betweensは普通のオーストラリアン・ロックとは違っていた。
1980年にはドラマーのLindy Morrisonが加入する。彼女のドラムは、The Go-Betweensの音楽に独特の緊張と推進力を与えた。一般的なロックドラムのように力で押すのではなく、曲の輪郭を鋭く刻む。Morrisonの存在によって、ForsterとMcLennanの詩的なソングライティングは、より明確なバンドサウンドを得る。
1981年のデビューアルバムSend Me a Lullaby、1983年のBefore Hollywood、1984年のSpring Hill Fair、1986年のLiberty Belle and the Black Diamond Express、1987年のTallulah、1988年の16 Lovers Laneへと、彼らはゆっくりと洗練されていく。だが、1989年に一度解散。2000年にForsterとMcLennanを中心に再結成し、The Friends of Rachel Worth、Bright Yellow Bright Orange、Oceans Apartを発表した。2006年5月6日、Grant McLennanが心臓発作で急逝し、バンドは再び終わりを迎えた。The New Yorkerは、McLennanが48歳で急逝したことを報じ、彼とForsterがパンク時代にあっても騒音ではなく文学的ポップを作ったと評している。(newyorker.com)
音楽スタイルと影響:ジャングルギター、文学性、二人のソングライター
The Go-Betweensの音楽は、インディーポップ、ジャングルポップ、ポストパンク、フォークロック、カレッジロックのあいだにある。だが、ジャンル名だけでは彼らの本質は捉えにくい。彼らの音楽で最も重要なのは、Robert ForsterとGrant McLennanという二人のソングライターの対比である。
Forsterの曲は、しばしば乾いたユーモア、知的な距離感、演劇的な語り、少し奇妙な角度を持つ。彼の声は細く、時に不安定で、しかし強い個性がある。まるで小説の登場人物が、読者に向かって斜めから語りかけるようだ。
一方、McLennanの曲は、よりメロディアスで、叙情的で、記憶や風景に深く結びつく。「Cattle and Cane」、「Bachelor Kisses」、「Bye Bye Pride」、「Streets of Your Town」には、彼ならではの柔らかな哀愁がある。McLennanは、過去をただ懐かしむのではなく、過去が現在の心にどう残るかを歌った。
そこへLindy Morrisonのドラム、Robert VickersやJohn Willsteedのベース、Amanda Brownのヴァイオリンやオーボエが加わることで、The Go-Betweensの音は単なるギターポップから、より立体的で室内楽的な響きへ変わっていく。とくにTallulah以降のAmanda Brownの参加は、バンドに優雅で複雑な色彩を与えた。
彼らの影響源には、The Velvet Underground、Bob Dylan、The Byrds、Television、Jonathan Richman、Patti Smith、Talking Heads、ABBA、David Bowie、Creedence Clearwater Revival、そして文学や映画がある。Pitchforkは初期ボックスセットのレビューで、The Go-BetweensがABBA、Bowie、Creedenceなど幅広い影響を自分たち独自のポップ観へ変換したバンドだったと紹介している。(pitchfork.com)
代表曲の楽曲解説
「Lee Remick」
「Lee Remick」は、The Go-Betweensの初期衝動を象徴するデビューシングルである。1978年に録音され、アメリカの女優Lee Remickへの憧れを歌っている。ローカルなブリスベンの若者が、ハリウッド女優の名を曲にしてしまう。その距離感こそ、初期The Go-Betweensの魅力だ。
曲は非常にシンプルで、まだ演奏も荒い。しかし、すでにForsterとMcLennanの美学が見える。現実の鬱屈を、映画やポップカルチャーへの憧れで押し広げる。恋愛ともファン心理ともつかない感情を、ぎこちないギターで鳴らす。
この曲は、のちの洗練されたThe Go-Betweensとは違う。しかし、文学、映画、ポップ、ブリスベンから外へ向かう視線という意味で、すべての始まりである。
「Cattle and Cane」
「Cattle and Cane」は、The Go-Betweensの代表曲であり、Grant McLennanのソングライティングを象徴する名曲である。少年時代の記憶、列車、田園、家族、距離、時間。それらが淡いギターの絡み合いの中で立ち上がる。
この曲のリズムは独特で、まっすぐなロックの拍ではない。少しずれて、揺れて、記憶が完全には再現できないことを音で表しているようだ。歌詞も説明的ではなく、断片的なイメージが並ぶ。だからこそ、聴き手は自分の記憶をそこへ重ねることができる。
The New Yorkerは、「Cattle and Cane」をMcLennanの代表曲として取り上げ、メランコリーとノスタルジーを結びつける彼の才能を示す曲だと評している。(newyorker.com)
「Cattle and Cane」は、オーストラリアの風景を世界的なインディーポップの言語へ変えた曲である。
「Bachelor Kisses」
「Bachelor Kisses」は、1984年のSpring Hill Fairに収録された、美しくもほろ苦い楽曲である。タイトルは「独身者のキス」。そこにはロマンティックな響きと、どこか孤独な影がある。
Grant McLennanのメロディは優しく、ギターは軽やかに揺れる。だが、曲の奥には、恋愛がいつも幸福に向かうわけではないという諦めがある。The Go-Betweensのラブソングは、相手を手に入れるための歌ではなく、相手との距離を測る歌であることが多い。
この曲は、彼らがポストパンクの角張った音から、よりメロディアスなギターポップへ向かっていく過程を示している。
「Spring Rain」
「Spring Rain」は、1986年のLiberty Belle and the Black Diamond Expressを代表する楽曲である。Robert Forster作らしい、軽快でありながらどこかひねりのあるポップソングだ。
タイトルの春の雨は、再生や始まりを思わせる。しかし、The Go-Betweensの雨はただ清々しいだけではない。そこには湿度、記憶、過ぎ去ったものへの感傷がある。曲は明るく進むが、歌詞の中にはどこか不穏な影が差す。
Forsterの声は、完璧に整った歌声ではない。だが、その少し不安定な声が、曲の知的な緊張感を作っている。「Spring Rain」は、The Go-Betweensが“文学的でありながらポップ”であることを示す代表曲である。
「Head Full of Steam」
「Head Full of Steam」もLiberty Belle and the Black Diamond Express期の重要曲である。タイトルからして、頭の中が蒸気でいっぱいになるような、思考と感情の高まりを感じさせる。
曲は勢いがあり、ギターも力強い。だが、ただのロックソングにはならない。言葉の選び方、メロディのひねり、バンドの演奏の抑制によって、独特の知的な熱が生まれる。The Go-Betweensは感情を爆発させるのではなく、感情が沸騰する直前の温度を描くのがうまい。
「Bye Bye Pride」
「Bye Bye Pride」は、1987年のTallulahを代表する楽曲であり、Amanda Brownのオーボエが美しく響く名曲である。The Go-Betweensの音が、ギターポップから室内楽的な洗練へ進んだことを示す曲でもある。
タイトルは「さよなら、プライド」。恋愛や人生において、プライドを手放さなければならない瞬間がある。McLennanの歌は、その痛みを大げさに叫ばず、柔らかなメロディに乗せて伝える。
この曲には、The Go-Betweens特有の優雅な悲しみがある。涙を流すのではなく、背筋を伸ばしたまま悲しむ。そんな美しさがある。
「Streets of Your Town」
「Streets of Your Town」は、1988年の16 Lovers Laneに収録された、The Go-Betweens最大級の代表曲である。明るく、親しみやすく、ギターは澄んでいて、メロディも非常に覚えやすい。
しかし、この曲は単純な明るいポップではない。日差しの中に、どこか危うさや暗さがある。街の通りを歩くという日常的なイメージの中に、失われたもの、すれ違った感情、見えない暴力の気配が忍び込む。
The Go-Betweensの魅力は、ここにある。聴き口は軽い。しかし、歌の奥には不穏な深さがある。「Streets of Your Town」は、彼らがもし商業的に大きく成功するとしたらこういう形だったのだろう、と思わせるほど完成度の高いポップソングである。
「Was There Anything I Could Do?」
「Was There Anything I Could Do?」は、16 Lovers Laneの中でも特に感情的な楽曲である。タイトルは「僕にできることは何かあったのか?」という後悔の問いであり、恋愛の終わりや関係の崩壊を静かに振り返る曲だ。
この曲では、後悔が直接的に歌われる。しかし、演奏は過度に重くならない。ギターとリズムは前へ進み、メロディは明るさも保っている。だからこそ、後悔の痛みがよりリアルに聞こえる。人生では、悲しい出来事の最中にも日常は進む。その感じが、この曲にはある。
「Finding You」
「Finding You」は、再結成後の2005年のアルバムOceans Apartに収録された楽曲である。Grant McLennan後期の美しいメロディが光る曲であり、The Go-Betweensが再結成後も創造力を失っていなかったことを示す。
若い頃の鋭さや不器用さとは違い、ここには成熟した優しさがある。探すこと、見つけること、失うこと。長い時間を経たソングライターだからこそ歌える感情がある。
McLennanが翌2006年に急逝したことを思うと、「Finding You」はより深い余韻を持つ曲になる。彼の最後期の輝きが、静かに刻まれている。
アルバムごとの進化
Send Me a Lullaby:ぎこちなさの中にある初期衝動
1981年のSend Me a Lullabyは、The Go-Betweensのデビューアルバムである。まだ音は硬く、曲も後年ほどメロディアスではない。ポストパンクの影響が強く、演奏には緊張感と不安定さがある。
このアルバムは、完成されたThe Go-Betweensを期待すると少し難しく感じるかもしれない。しかし、ここには初期の重要な要素がある。言葉への意識、ギターの鋭さ、普通のロックになりたくないという意志。ぎこちなさそのものが、若いバンドの知性と反抗心を示している。
Before Hollywood:記憶と文学がポップへ結晶する
1983年のBefore Hollywoodは、The Go-Betweensの初期傑作である。ここで彼らは、ポストパンクの硬さから一歩進み、より深い詩情とメロディを獲得する。中心にあるのは、やはり「Cattle and Cane」だ。
アルバム全体には、故郷、記憶、移動、映画への憧れが漂う。タイトルのBefore Hollywoodも象徴的である。ハリウッドへ行く前、つまり夢が完全に商品化される前の場所。ブリスベンから世界を見つめる彼らの立ち位置が表れている。
Before Hollywoodは、The Go-Betweensが単なるポストパンクバンドではなく、文学的ポップの作り手であることを明確にした作品だ。
Spring Hill Fair:ロンドン録音とポップへの接近
1984年のSpring Hill Fairでは、バンドはより開かれたポップサウンドへ向かう。「Bachelor Kisses」のような曲には、メロディの洗練と柔らかな哀愁がある。
このアルバムは、彼らが世界のインディーポップシーンの中で自分たちの場所を探していた時期の記録でもある。オーストラリアからイギリスへ、ローカルな閉塞から国際的なインディーシーンへ。音にもその移動感がある。
Liberty Belle and the Black Diamond Express:ギターポップとしての完成度
1986年のLiberty Belle and the Black Diamond Expressは、The Go-Betweensの中でも非常に完成度の高いアルバムである。「Spring Rain」、「Head Full of Steam」などを含み、ForsterとMcLennanのソングライティングが美しく均衡している。
この作品では、音がすっきりし、曲の輪郭も明確だ。ポストパンク的な角は少し丸くなり、その代わりにギターポップとしての普遍性が増している。だが、歌詞は依然として鋭く、甘すぎない。
The Go-Betweensを初めて聴くなら、16 Lovers Laneと並んでこの作品は非常に入りやすい。文学性とポップ性のバランスが見事である。
Tallulah:Amanda Brown加入による色彩の拡張
1987年のTallulahでは、Amanda Brownのヴァイオリンやオーボエが加わり、バンドの音はより豊かになる。「Bye Bye Pride」はその象徴だ。
このアルバムでは、ギター中心の音から、より室内楽的で装飾的なサウンドへ進んでいる。弦や管の響きが入ることで、The Go-Betweensの楽曲はさらに文学的な陰影を持つようになった。
ただし、バンド内部の人間関係は複雑になっていく。恋愛、友情、創作、共同生活。それらが絡み合い、音楽の美しさとバンドの緊張が同時に高まっていく。
16 Lovers Lane:恋愛、喪失、都市の光が交差する最高傑作
1988年の16 Lovers Laneは、The Go-Betweensの代表作として語られることが多いアルバムである。「Streets of Your Town」、「Was There Anything I Could Do?」、「Love Goes On!」、「Dive for Your Memory」など、名曲が並ぶ。
この作品は、彼らの中で最もポップで、最も感情的で、最も完成度が高い。恋愛の始まりと終わり、後悔、欲望、日常の風景が、美しいメロディに乗って流れていく。
SBSのGreat Australian Albumsでも16 Lovers Laneはオーストラリアの重要アルバムとして取り上げられており、The Go-Betweensの代表作として再評価されている。(en.wikipedia.org)
16 Lovers Laneは、もっと売れてもよかったアルバムである。しかし、巨大な成功を逃したからこそ、今も秘密の宝石のように聴かれている。
The Friends of Rachel Worth:再結成後の静かな復活
2000年のThe Friends of Rachel Worthは、11年ぶりの再結成作である。ForsterとMcLennanを中心に、Sleater-KinneyのメンバーやElliott Smith周辺のミュージシャンも関わり、バンドは新しい時代に戻ってきた。
Pitchforkはこのアルバムを、再結成後もThe Go-Betweensらしいスマートで有機的なポップ感覚が残っている作品として評している。(pitchfork.com)
若い頃の緊張感は薄れているが、その代わりに落ち着きがある。再結成バンドにありがちな過去の再現ではなく、年齢を重ねたForsterとMcLennanが自然に作った新しいThe Go-Betweensである。
Bright Yellow Bright Orange:穏やかな成熟
2003年のBright Yellow Bright Orangeは、再結成後の第二作である。Pitchforkは、初期のポストパンク的な発明性よりも、アコースティックでフォーク寄りの美しさが前面に出た作品として紹介している。(pitchfork.com)
このアルバムには、若い頃の焦燥よりも、人生を眺める落ち着きがある。大きな革新作ではないかもしれない。しかし、ForsterとMcLennanがまだ共に歌を書き、互いの声を響かせていること自体が貴重である。
Oceans Apart:最後の輝き
2005年のOceans Apartは、The Go-Betweens最後のスタジオアルバムとなった。「Finding You」を含み、再結成後の作品の中でも評価が高い。
このアルバムには、円熟と別れの予感がある。オーストラリアとヨーロッパ、過去と現在、ForsterとMcLennan、それぞれの人生。タイトルの“Oceans Apart”は、物理的な距離だけでなく、時間と感情の距離も思わせる。
翌2006年、Grant McLennanが急逝したことで、このアルバムは結果的にラストメッセージのような響きを帯びることになった。
Robert ForsterとGrant McLennan:二人の作家性
The Go-Betweensの中心には、常にRobert ForsterとGrant McLennanの関係があった。二人は親友であり、共同作業者であり、ときに対照的な作家だった。
Forsterは、よりドライで、知的で、演劇的である。彼の曲は、人物の角度や言葉の癖、皮肉な視線が印象に残る。McLennanは、よりメロディアスで、感情の流れに近い。記憶、風景、後悔、優しさを歌うことに長けていた。
Robert Forsterの回想録Grant & Iは、この二人の関係を深く描いた本として知られる。The Guardianは同書を、ForsterとMcLennanの友情と創作関係を描いた決定的なポートレートとして紹介している。(theguardian.com)
The Go-Betweensは、この二人の違いがあったからこそ特別だった。どちらか一方だけなら、あの複雑なバランスは生まれなかった。
ブリスベンと“Go Between Bridge”:都市に刻まれたバンド
The Go-Betweensは、ブリスベンから生まれたバンドである。そして現在、その名は都市の景観にも刻まれている。2010年、ブリスベンの橋がGo Between Bridgeと名付けられた。これは、バンドが地元文化にとってどれほど重要な存在であるかを示す象徴的な出来事である。(en.wikipedia.org)
橋というモチーフは、The Go-Betweensに非常によく似合う。彼らは、ブリスベンとロンドン、文学とポップ、男声と女声、過去と現在、ForsterとMcLennanのあいだを結ぶバンドだった。名前の“The Go-Betweens”自体が、何かと何かのあいだに立つ存在を意味している。
影響を受けたアーティストと音楽
The Go-Betweensのルーツには、The Velvet Underground、Bob Dylan、The Byrds、Television、Patti Smith、Jonathan Richman、Talking Heads、ABBA、David Bowie、Creedence Clearwater Revivalなどがある。
The Velvet Undergroundからは都市的な冷たさと文学性を、The Byrdsからはギターの透明感を、Dylanからは語りの自由を、Televisionからは絡み合うギターの緊張感を受け取った。だが、彼らはそれらを模倣するのではなく、ブリスベン出身の文学青年たちの音へ変換した。
影響を与えたアーティストと音楽シーン
The Go-Betweensの影響は、商業的な規模以上に深い。Belle and Sebastian、Teenage Fanclub、The Clientele、Camera Obscura、The Apartments、The Lucksmiths、Yo La Tengo、Nada Surf、Courtney Barnett、Dick Diverなど、多くのインディーポップ/ギターポップ系アーティストに彼らの影を見ることができる。
特にオーストラリアのインディーシーンでは、彼らの影響は大きい。The Go-Betweensは、オーストラリアの音楽がラウドなパブロックや男性的なロックだけでなく、繊細で文学的で内省的なポップにもなり得ることを示した。
Wikipedia系の整理でも、Courtney BarnettやDick Diverなど、dolewave以降のオーストラリアン・インディーにThe Go-Betweensの影響があるとされている。(en.wikipedia.org)
同時代バンドとの比較:R.E.M.、The Smiths、Prefab Sproutとの違い
The Go-Betweensを同時代のバンドと比較すると、その独自性が見えてくる。
R.E.M.とは、ジャングルギター、文学的な歌詞、カレッジロック的な感覚で共通点がある。しかしR.E.M.がアメリカ南部の神秘と共同体を背負っていたのに対し、The Go-Betweensはより個人的で、恋愛や記憶の小さな揺れに焦点を当てた。
The Smithsと比べると、どちらも文学性とギターポップを結びつけたバンドである。ただしThe SmithsがMorrisseyの強烈な言語感覚とJohnny Marrの華麗なギターを中心に劇的な世界を作ったのに対し、The Go-Betweensはもっと控えめで、日記や手紙に近い。The Smithsが舞台なら、The Go-Betweensは窓辺の机である。
Prefab Sproutと比べると、どちらも洗練されたソングライティングを持つが、Prefab Sproutがより作曲家的で精巧なポップを作ったのに対し、The Go-Betweensはもう少しざらつきと生活感を残している。完璧な建築ではなく、少し傾いた古い家のような魅力がある。
ファンと批評家の評価:売れなかった名バンドの典型では終わらない
The Go-Betweensは、しばしば“もっと売れるべきだったバンド”として語られる。確かに、彼らには大規模な商業的成功が似合わないようなところもあった。曲は繊細で、歌詞は文学的で、ステージ上のイメージも派手なロックスターとは違っていた。
しかし、彼らを単に“不遇の名バンド”として語るだけでは足りない。彼らは、自分たちの規模でしか到達できない深さを持っていた。大ヒットしなかったからこそ、聴く人は彼らを個人的な宝物のように感じる。The Go-Betweensの曲は、群衆のためのアンセムというより、ひとりの午後のための音楽である。
Grant McLennanの死後、彼らの評価はさらに深まった。Robert Forsterはソロ活動や文筆活動を続け、2025年にもインタビューでMcLennanへの思いを語っている。MagnetのインタビューでForsterは、Grantの死を受け止めるのに何年もかかったこと、音楽家として以上に友人として彼を恋しく思うと語っている。(magnetmagazine.com)
The Go-Betweensの魅力:文学的であることと、ポップであること
The Go-Betweensの最大の魅力は、文学的でありながらポップであることだ。彼らの歌詞には、人物、場所、記憶、細部がある。だが、難解な詩として閉じているわけではない。そこにはメロディがあり、ギターがあり、聴き手が自分の感情を置ける余白がある。
「Cattle and Cane」では少年時代の記憶が、「Bachelor Kisses」では恋愛の孤独が、「Bye Bye Pride」ではプライドを手放す痛みが、「Streets of Your Town」では街の光と影が描かれる。どれも大げさではない。しかし、だからこそ長く残る。
彼らの音楽は、人生を劇的な物語にしない。むしろ、人生の小さな場面を丁寧に切り取る。雨、通り、列車、手紙、古い恋、戻れない時間。そうしたものが、The Go-Betweensの曲では輝き始める。
まとめ:The Go-Betweensは“あいだ”を歌ったバンドである
The Go-Betweensは、詩とギターが交差する、オーストラリア文学的ポップの結晶である。1977年にブリスベンでRobert ForsterとGrant McLennanによって結成され、Lindy Morrison、Robert Vickers、Amanda Brownらとともに、インディーポップ史に残る繊細で知的な音楽を作り上げた。
Before Hollywoodでは記憶と文学をポップへ結晶させ、Liberty Belle and the Black Diamond Expressではギターポップとしての完成度を高め、Tallulahでは室内楽的な色彩を広げ、16 Lovers Laneでは恋愛と喪失を極上のメロディへ昇華した。再結成後のThe Friends of Rachel Worth、Bright Yellow Bright Orange、Oceans Apartでは、年齢を重ねた二人の作家が成熟した歌を書き続けた。
彼らは“あいだ”のバンドだった。ブリスベンとロンドンのあいだ。文学とロックのあいだ。友情と恋愛のあいだ。過去と現在のあいだ。ForsterとMcLennanという二つの声のあいだ。そのあいだに、The Go-Betweensだけの美しい場所があった。
The Go-Betweensの音楽は、声高に主張しない。だが、静かな午後や夜の帰り道にふと流れると、世界の見え方を少し変える。彼らのギターは、今も通りの向こうから聞こえてくる。控えめで、知的で、少し悲しく、そして忘れがたい。


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