
楽曲の概要
「Contact」は、Big Audio Dynamiteが1989年に発表した4作目のアルバム『Megatop Phoenix』に収録された楽曲で、同年にシングルとしても発売された。作詞・作曲はMick Jonesとキーボード奏者Dan Donovan。アルバムはJonesとBill Priceがプロデュースし、オリジナル編成のMick Jones、Don Letts、Dan Donovan、Leo Williams、Greg Robertsによって制作された。
Big Audio Dynamiteは、The Clashを離れたMick Jonesが中心となって結成したバンドである。ギター・ロックを基本にしながら、ヒップホップ、レゲエ、ファンク、ダンス・ミュージック、映画などから取ったサンプリングを組み合わせる方法を早くから使っていた。「Contact」でも、バンド演奏と機械的なビート、電子音が同じ場所で動いている。Mike この曲では、軽快なリズムの上でMick Jonesが「誰かとつながること」を求める。明るいポップソングのように聞こえる一方、歌詞の語り手は自分から積極的に関係を作るというより、「接触」が起こるのを待っている。その少し受け身な感覚と、絶えず前へ動くサウンドの差が曲の面白さになっている。
歌詞の概要
タイトルの「Contact」は、接触、連絡、つながりといった意味を持つ。歌詞の語り手は、周囲と完全に断絶したいわけではない。しかし他人から好き勝手に評価されたり、理解していない相手から指図されたりすることには強い抵抗を示している。
その態度にはかなり頑固なところがある。自分には証明するべきことなどない、と言いながら、同時に誰かからの「contact」を待っている。人との関係を必要としているのに、簡単には相手へ自分を明け渡したくない人物として聞こえる。
だから「Contact」は単純な孤独の歌ではない。語り手が求めているのは、とにかく誰でもいいからそばにいてほしいという関係ではなく、自分を理解できる相手との接触である。その条件が厳しいからこそ、待つ時間が長くなっているようにも読める。
歌詞には、理解できないものを相手にすることの難しさや、地下から響いてくる音楽を思わせる言葉も出てくる。そこからは個人的な人間関係だけでなく、Big Audio Dynamiteのような既存のジャンルに収まりにくい音楽が、聞き手とつながろうとする姿まで連想できる。ただし、これは歌詞の比喩として可能な読み方であり、バンド自身について書かれたと断定する必要はない。
制作背景・時代背景
Big Audio Dynamiteは1984年、The Clashを離れたMick JonesがDon Lettsらと結成した。Jonesのギターとポップな作曲に、Lettsが持ち込んだDJや映像文化の感覚、Leo Williamsのレゲエ的な低音、Greg Robertsのビート、Dan Donovanのキーボードを組み合わせたことが初期からの特徴だった。
特に重要だったのがサンプリングである。映画のせりふや環境音などを録音から切り取り、曲の中へ配置する。現在では一般的な制作方法だが、1980年代半ばにロック・バンドがこれほど積極的に使っていた例はまだ多くなかった。Don Lettsは後年、彼らが未来的なことをしようとしたのではなく、当時自分たちの周囲で聞こえていた音楽やメディアを混ぜようとしていたと説明している。Mike Atkinson
『Megatop Phoenix』は1989年9月に発表された。Mick JonesとBill Priceがプロデュースし、ロンドンのKonk Studiosで制作された。作品全体には大量のサンプリングが使われ、短い曲や音声の断片が長い楽曲の間をつないでいる。そのため、一曲ずつ独立しているというより、ラジオやテレビのチャンネルを次々に切り替えているようなアルバムになっている。ウィキペディア
アルバム名の「Phoenix」は、制作前にJonesが水疱瘡と肺炎を患い、入院するほど重い状態になった経験とも結びついている。回復後に作られた作品であり、「再生する不死鳥」というタイトルには実際の出来事が重なっている。ウィキペディア
「Contact」はそのアルバムの中でも比較的まとまったポップソングである。『Megatop Phoenix』には短い音声コラージュや実験的なつなぎが多いが、この曲では覚えやすいサビと強いビートが中心になる。シングルとして切り出せる分かりやすさを持ちながら、Big Audio Dynamiteらしい電子音とロックの混合も残している。
また、『Megatop Phoenix』はMick Jones、Don Letts、Dan Donovan、Leo Williams、Greg Robertsというオリジナル編成による最後のスタジオ・アルバムとなった。その後JonesはBig Audio Dynamite IIとして別編成へ移行していく。「Contact」は、最初期から続いたB.A.D.のスタイルが一つの完成点へ達した時期の曲でもある。ウィキペディア
歌詞の抜粋と和訳
「I’m waiting for contact」
和訳:誰かとの接触を待っている
わずかな言葉だが、この曲の立場をよく表している。語り手は「contact」を自分から作り出すというより、それが向こうから訪れるのを待っている。
ここには、人とつながりたい気持ちと、自分から踏み込むことへのためらいが同時にある。タイトルが「Love」や「Together」ではなく、少し機械的な響きを持つ「Contact」であることも、曲の電子的なサウンドによく合っている。
サウンドと歌詞の考察
「Contact」で最初に重要なのは、ロックの演奏とダンス・ミュージックのリズムがほとんど分離できないことである。ドラムはライブ・バンドらしい力を持ちながら、同じパターンを一定に維持する。曲を物語に合わせて大きく揺らすというより、ダンスフロアのビートのように身体を動かし続ける。
Greg RobertsのドラムとLeo Williamsのベースが、この土台を作る。Williamsの低音はロックのベースよりレゲエやダブに近い太さを持ち、曲の下側を大きく占める。ギターがなくてもリズムだけで曲が進めるほど、低音の存在感が強い。
その上にDan Donovanのキーボードが入る。「Contact」はJonesとDonovanの共作であり、電子音が単なる装飾ではなく曲の骨格に深く入っている。シンセの短いフレーズや電子的な音色が何度も繰り返され、機械的な通信信号のような感触を作る。
ここでタイトルとの関係が生まれる。「Contact」という言葉には、人間同士が直接触れ合う温かい意味がある一方、無線や通信の「接続」のような機械的な意味もある。この曲では、生身のバンドと電子的な音が同時に鳴ることで、その二つが重なって聞こえる。
Mick Jonesのギターは、The Clash時代のように曲全体をコードで押していく役割ではない。むしろ必要な部分だけに入り、特にコーラスでは音を太くして曲を一段持ち上げる。ヴァースでリズムと電子音に空間を渡し、サビでロックらしい力を戻す配置になっている。
この方法はBig Audio Dynamiteの特徴でもある。普通のギター・バンドなら、ギターをほぼ最初から最後まで鳴らしてバンドの存在感を示す。しかしB.A.D.では、サンプルやキーボード、ベースにも同じくらい場所を渡す。ギターは主役の一つではあっても、すべてを支配しない。
Mick Jonesのボーカルも同様に力が抜けている。大きく声を張って「誰かとつながりたい」と訴えるのではなく、少しぼんやりとした調子で言葉を置いていく。そのため、歌詞にある孤立感が深刻な悲劇ではなく、都会の中で自分の周波数に合う相手を探しているような感覚になる。
サビになると、タイトルの言葉が反復される。ここではメロディそのものより、同じ単語がビートへ乗ることの気持ちよさが強い。意味を理解する前に「contact」という音が耳に残る。
これはBig Audio Dynamiteの作曲方法と相性がいい。彼らは映画のせりふや短いサンプルを繰り返し使ってきたバンドであり、人間の声も一つの「素材」として扱う。「Contact」でも、タイトルの単語が意味を伝える言葉であると同時に、リズムを作る音になる。
曲全体にはかなりの反復があるが、単調にはなりにくい。ギター、キーボード、声、リズムが少しずつ出入りし、同じビートの上で景色を変えていく。これはクラブ・ミュージックでよく使われる考え方で、コード進行を大きく変えるより、音の足し引きによって展開を作る。
1989年という時期を考えると、この感覚はアシッド・ハウスやヒップホップが英国のロックへ大きな影響を与え始めた流れとも重なる。『Megatop Phoenix』自体もオルタナティブ・ダンスやアシッド・ハウスと結びつけて評価されてきた。B.A.D.はバンドの形を残しながら、曲の時間の流れをダンス・ミュージックへ近づけていた。ウィキペディア
歌詞との関係で面白いのは、語り手が「contact」を待っているのに、演奏の各要素はすでに盛んに接触していることである。レゲエ的なベース、ロックのギター、電子音、ヒップホップ以降の反復、ポップな歌が一つの曲の中でつながっている。
つまり歌詞の人物は「まだ接続できていない」と感じているが、音楽そのものは異なる文化やジャンルを次々に接続していく。この対照はBig Audio Dynamiteというバンドそのものによく似合う。
曲には少し浮遊した感覚もある。演奏は踊れるほど明確なのに、ボーカルはどこか遠く、曲の中心へ完全に着地しない。その距離感によって、「Contact」は大勢で一緒に歌う連帯の歌というより、人混みの中で特定の誰かからの信号を待っている曲に聞こえる。
そして大きな解決は訪れない。誰かとの接触が成功し、語り手の孤独が解消されたという物語にはならない。反復するビートの中で待ち続ける感覚そのものが曲になる。
この結末は『Megatop Phoenix』のコラージュ的な作りにも合っている。同作では一曲が完全に終わって静寂になるというより、次の音や声へつながっていく感覚が強い。「Contact」も単独の物語を完結させるより、巨大な情報の流れの中に置かれた一つの通信のように機能している。
Big Audio Dynamiteは、The Clashのようなパンク/ロックから出発しながら、「バンドとはギター、ベース、ドラムを普通に演奏するもの」という前提をかなり自由に崩した。「Contact」はその方法を実験だけに終わらせず、覚えやすいポップソングへまとめた一曲である。
この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
「E=MC²」 by Big Audio Dynamite
初期B.A.D.を代表する曲。ダンス・ビート、ギター、映画から取った音声を大胆に組み合わせており、「Contact」のコラージュ的な音作りの原型が分かる。こちらの方がサンプリングの存在はさらに前面に出ている。
「C’mon Every Beatbox」 by Big Audio Dynamite
ヒップホップから受けたビート感覚をロック・バンドへ持ち込んだ一曲。「Contact」の一定に進むリズムが好きならつながりやすい。ボーカルも旋律だけでなく、言葉のリズムそのものを楽しむ作りになっている。
「James Brown」 by Big Audio Dynamite
同じ『Megatop Phoenix』収録曲。ファンクの歴史を意識しながら、サンプル、電子音、バンド演奏を混ぜている。「Contact」以上に遊び心が強く、アルバムの雑多なコラージュ感を理解しやすい。
「The Globe」 by Big Audio Dynamite II
編成変更後の1991年の代表曲。「Contact」で聞けるダンス・ロック的な方法を、さらに明快なポップへ進めたような曲である。サンプリングと大きなビートを使いながら、サビの即効性がより強くなっている。
「Loaded」 by Primal Scream
ロック・バンドの素材をDJ/クラブ文化の発想で組み替えた1990年の重要曲。音楽性は同じではないが、ギター・ロックとサンプリング、ダンス・ビートを別物として扱わない姿勢は、「Contact」と同じ時代の流れにつながる。
まとめ
「Contact」は、人との接触を求めながら簡単には心を開けない人物を、軽快なダンス・ロックへ乗せた曲である。タイトルには人間的な「つながり」と、機械的な「通信」の両方を連想させる響きがあり、その二重性が電子音と生演奏を混ぜたサウンドによく合っている。
演奏の中心にはGreg Robertsの一定したビートとLeo Williamsの太いベースがあり、Dan DonovanのキーボードとMick Jonesのギターが必要な場所へ出入りする。ロック・バンドなのにギターだけを主役にせず、ビートや電子音を同じ重さで扱うことが、Big Audio Dynamite独特のグルーヴを作っている。
さらに興味深いのは、歌詞では接触を待っている一方、音楽そのものはロック、レゲエ、ヒップホップ、ダンス・ミュージックをすでに接触させていることだ。『Megatop Phoenix』のコラージュ感覚を保ちながら、それを明快なシングルへまとめた「Contact」は、オリジナル編成末期のBig Audio Dynamiteが得意としていた音楽の混ぜ方を、特に分かりやすく聞かせる楽曲である。
参照元
- Apple Music「Contact」
- CBS Records『Megatop Phoenix』
- Big Audio Dynamite『Megatop Phoenix』オリジナル・クレジット
- Don Lettsインタビュー
- AllMusic「Big Audio Dynamite Biography」

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