1. 歌詞の概要
「End of Time(エンド・オブ・タイム)」は、オーストラリアを拠点に活動するジャンルレスなアーティスト Ecca Vandal(エッカ・ヴァンダル) が2017年にリリースしたセルフタイトル・デビューアルバムに収録された楽曲であり、“この瞬間にすべてを懸ける”という切迫した情熱と、終末的な美意識が融合した、エモーショナルでラディカルなロック・アンセムである。
タイトルの「End of Time」は直訳すれば「時間の終わり」。だがこの曲で語られるのは、時間の終焉そのものではなく、“もし明日が来なかったとしたら、あなたは誰と、何を、どう生きる?”という問いかけである。
リリックには、焦燥・愛・怒り・執念が渦巻いており、まるで最後の瞬間に火花を散らすかのような感情の爆発が描かれている。
その衝動を、Eccaは荒々しいギターリフと爆発的なビート、そして時に囁き、時に叫ぶボーカルで全身全霊をもって鳴らし切る。
それはまさに、“終末の美学”が生んだ1曲だ。
2. 歌詞のバックグラウンド
Ecca Vandalは、ヒップホップ、エレクトロ、オルタナティヴロック、さらにはジャズの素養までも取り入れながら、**あらゆるジャンルを越境する“ポスト・ジャンル時代の先駆者”**として注目されてきたアーティストである。
「End of Time」は、彼女のキャリア初期に書かれた曲のひとつであり、Ecca自身が「人生が壊れそうだった時期に、どうしても自分を貫きたかった」と語っているように、パーソナルな破裂点から生まれた楽曲でもある。
この曲には、世界や関係性がいつ壊れてもおかしくない時代にあって、それでも“誰かと何かを築きたい”という渇望が込められている。
同時にそれは、自己肯定とも他者への信頼ともとれる、きわめて深い感情の複合体である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
“I don’t care about tomorrow / If I’ve got you tonight”
「明日のことなんてどうでもいい/今夜あなたがいればそれでいい」“Let’s go down in flames / Like it’s the end of time”
「燃え尽きよう、この時間の終わりのように」“All the noise and the lies / They can’t touch what we have inside”
「世の中の雑音や嘘なんかじゃ/私たちの内側には届かない」“We don’t need forever, just right now”
「永遠なんていらない、今この瞬間だけでいい」
この歌詞には、「刹那を生きること」の美学と、それを可能にする“誰かとの絆”の強さが強く滲み出ている。
“永遠”を求めるのではなく、“燃え尽きても構わないほどの今”を選ぶという、究極の現在主義的ロマンティシズムが貫かれている。
4. 歌詞の考察
「End of Time」は、恋愛にも似た“運命共同体的な信頼”を語る歌であり、同時に社会や世界が不安定な中で生まれる“人と人の結びつき”への讃歌でもある。
Eccaの描く“終わりの時間”は、破滅のイメージではなく、むしろ生きていることの一番純粋な瞬間を象徴している。
「Let’s go down in flames」という一節は、燃え尽きる覚悟を持ちながらも、その炎の中にこそ真実があるという確信を感じさせる。
それは、破壊ではなく“超越”を意味する火なのだ。
また、「We don’t need forever」という言葉は、恋愛ソングの常套句“永遠を誓う”という思想を完全に反転している。
この曲では、永遠の代わりに“今この瞬間の強度”をこそ信じるという、非常に現代的な感情の在り方が提示されている。
音楽的には、サイレンのようなシンセ音、歪んだベースライン、破裂するようなドラムが絡み合い、まるで楽曲そのものが“終末”へ向かって駆け抜けるような構成となっている。
Eccaのヴォーカルは、咆哮とささやき、嘲笑と祈りが入り混じったような多層的なパフォーマンスで、彼女自身がこの世界を走り抜けていく姿を映し出している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Oblivion” by Grimes
終末感と快楽性が共存するエレクトロ・ポップ。女性的視点の内在化がEccaと通じる。 - “Bad Habit” by Foals
抑えきれない衝動と瞬間の美をロックサウンドで描く、似た構成美を持つ一曲。 - “Only If For A Night” by Florence + The Machine
幻想的な死生観を鮮やかに描いたアンセム。詩的な情熱がEccaの世界と重なる。 - “Loud Places” by Jamie xx feat. Romy
喪失と再生、夜の静けさと鼓動。エレクトロニックな質感の中にある人間性が魅力。 - “Shake It Out” by Florence + The Machine
過去を振り切る儀式としての歌。痛みを力に変えるという意味でEccaと親和性が高い。
6. 永遠じゃなくても、いまこの瞬間を燃やせばいい
「End of Time」は、Ecca Vandalの音楽が持つ“終末感”と“爆発的生命力”が完璧に交差する楽曲であり、同時に、現代の不安定な時代を生きる人々への力強いメッセージでもある。
明日がどうなるかわからない。
愛が続くかなんて誰にも保証できない。
だけど、それでも「この一瞬にすべてを懸けたい」と思える誰かがいて、そう思える瞬間があるなら、
人生は“時間の終わり”に向かっても、希望の光で満ちている。
Eccaはこの曲で、その刹那の光を爆音に乗せて叫ぶ。
“私たちは壊れてもいい。でも今、輝けるなら、それでいい”。
その潔さが、聴く者の心を震わせ、何かを捨てたくなり、何かを始めたくさせるのだ。
それは終わりではなく、「始まりを信じる力」そのものなのかもしれない。
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