発売日: 2017年9月29日
ジャンル: オルタナティヴロック、ドリームポップ、グランジ、シューゲイザー
2017年にリリースされたWolf Aliceの2作目「Visions of a Life」は、デビュー作「My Love Is Cool」をさらに深化させ、より多面的で挑戦的なサウンドを展開したアルバムだ。ノイジーで激しいパンクサウンドから、ドリームポップのような幻想的なトラックまで、幅広いジャンルを駆使し、リスナーを濃密な音の旅に誘う。ボーカルのエリー・ロウゼルは、柔らかく囁くような歌声からシャウトまで、曲ごとに様々な表情を見せ、エモーショナルで深みのある物語を紡いでいる。
このアルバムのプロデュースはジャスティン・メルダル=ジョンセン(M83やNine Inch Nailsのプロデュースで知られる)が手がけ、繊細さと大胆さが共存する美しいサウンドに仕上がっている。楽曲のテーマは愛や喪失、アイデンティティや怒りなど、多様な感情が込められており、まさに「人生のビジョン」を音楽で表現したかのようだ。デビュー作からわずか2年でこれほどの進化を遂げたWolf Aliceは、このアルバムで新しい高みへと到達し、英国オルタナティブロックシーンを牽引する存在として確固たる地位を築いた。
トラックごとの解説
1. Heavenward
「Heavenward」は、ノスタルジックでシューゲイザーの要素が色濃い楽曲で、エリーのボーカルが美しく響く。愛する人を失った喪失感をテーマにしており、重厚なギターサウンドと浮遊感のあるメロディが、悲しみと共に天に昇るような高揚感をもたらす。
2. Yuk Foo
アルバムの中でも特にアグレッシブな「Yuk Foo」は、エリーの叫び声が炸裂するパンクナンバー。怒りとフラストレーションがストレートに表現され、エネルギーが溢れる楽曲。荒々しいギターと激しいビートが心地よく、聴く者に強烈なインパクトを与える。
3. Beautifully Unconventional
「Beautifully Unconventional」は、軽快なリズムとポップなメロディが印象的な曲で、個性を尊重するメッセージが込められている。明るいサウンドとエリーの柔らかいボーカルが心地よく、異なる視点からの美しさを表現している。
4. Don’t Delete the Kisses
このアルバムのハイライトとも言える「Don’t Delete the Kisses」は、ドリームポップの要素が際立つロマンチックなラブソング。エリーが繰り返す囁きのような歌詞が幻想的な雰囲気を生み、恋愛の初期の緊張感や不安が繊細に描かれている。
5. Planet Hunter
「Planet Hunter」は、静と動のコントラストが美しい楽曲で、冷たさと温かさが混在する音世界が広がる。メロディが徐々に盛り上がり、サビで感情が爆発する展開が心地よく、異なるリズムが絡み合いながら感情を盛り上げる。
6. Sky Musings
囁くようなエリーのボーカルが印象的な「Sky Musings」は、夜空を見上げるような静謐な雰囲気の一曲。詩的な歌詞とミニマルなサウンドが絶妙に調和し、内省的なムードに包まれる楽曲である。
7. Formidable Cool
「Formidable Cool」は、ミステリアスでダークな雰囲気を持つ一曲。フラストレーションや焦燥感がサウンドに反映されており、緊張感が張り詰めたギターとエリーのセクシーなボーカルが、アルバムの中でも異彩を放つ。
8. Space & Time
「Space & Time」は、スピーディーでポップなロックナンバーで、疾走感とエネルギーが溢れている。リズムのキレが良く、キャッチーなメロディが印象的で、アルバムの中で息抜きのような軽快なトラックだ。
9. Sadboy
「Sadboy」は、内省的で静かな曲調が特徴的な楽曲。繊細なギターと控えめなボーカルが、感情の揺れを丁寧に表現している。内なる孤独や悩みを描いた歌詞が心に響き、エモーショナルな余韻を残す。
10. St. Purple & Green
ゆったりとしたビートと幻想的なサウンドが広がる「St. Purple & Green」は、祝祭的な雰囲気も感じられる楽曲。エリーの声がリバーブを効かせて響き渡り、神秘的な空気が流れる。
11. After the Zero Hour
ミディアムテンポの「After the Zero Hour」は、どこかノスタルジックで温かみのある一曲。アコースティックギターの音色が穏やかに広がり、エリーの歌声が優しく包み込むように響き、聴き手をリラックスさせる。
12. Visions of a Life
アルバムのタイトル曲であり、10分に及ぶ大作「Visions of a Life」は、アルバム全体の集大成ともいえる楽曲。激しいパートと静かなパートが織り交ぜられ、複雑な感情の渦が描かれている。壮大でサイケデリックなサウンドスケープが、Wolf Aliceの新たな境地を示している。
アルバム総評
「Visions of a Life」は、Wolf Aliceが幅広い音楽ジャンルに挑戦し、バンドとしての実力をさらに深化させた意欲作である。エリー・ロウゼルの表現力豊かなボーカル、激しいパンクから美しいドリームポップまでを自在に行き来する音楽性、そして人生の様々な瞬間に触れる詩的な歌詞が、聴き手に強い印象を残す。Wolf Aliceはこのアルバムで、彼らの音楽が単なるジャンルの枠を超えて、多層的な感情の表現となり得ることを証明した。これまでの作品以上に奥深い体験を提供する「Visions of a Life」は、彼らの音楽的成長と野心が詰まった傑作である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
To Bring You My Love by PJ Harvey
力強いボーカルとエモーショナルな表現が特徴のアルバム。Wolf Aliceの激しさと繊細さに共感するリスナーにおすすめ。
Souvlaki by Slowdive
シューゲイザーの名盤で、浮遊感のある音のレイヤーが「Visions of a Life」の幻想的な側面と通じる。美しくも儚いサウンドが楽しめる。
Dummy by Portishead
ダークでムーディな雰囲気を持つトリップホップの名作。Wolf Aliceのダークで感傷的な面に共鳴する部分が多く、深みのあるサウンドが魅力。
Is This Desire? by PJ Harvey
PJ Harveyの中でも特に内省的で深みのある作品。激しさと静けさが同居する音楽性が、Wolf Aliceの多面的なスタイルに共通する。
Antisocialites by Alvvays
ドリームポップとインディーロックを融合させた、ポップでノスタルジックなアルバム。メロディアスでありながらどこか切ない雰囲気が、Wolf Aliceファンにも響くだろう。
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