発売日: 2018年12月7日
ジャンル: ミニマル・ファンク、ソウル、DIYグルーヴ、レトロ・ポップ、インストゥルメンタル・ジャム
- 概要
- 全曲レビュー
- 1. Half of the Way (feat. Theo Katzman)
- 2. Darwin Derby (feat. Theo Katzman & Antwaun Stanley)
- 3. Lonely Town (feat. Theo Katzman)
- 4. Love is a Beautiful Thing (feat. Theo Katzman)
- 5. For Survival (feat. Joey Dosik)
- 6. Soft Parade
- 7. Lost My Treble Long Ago
- 8. Disco Ulysses (Instrumental)
- 9. The Cup Stacker
- 10. It Gets Funkier IV
- 総評
- おすすめアルバム(5枚)
概要
『Hill Climber』は、ミシガン大学出身のインディーファンク集団VULFPECKによる4枚目のフルアルバムであり、これまで培ってきた“引き算のグルーヴ美学”と“ソングライティングの洗練”が高度に融合した、VULFPECK流ポップ・アルバムの完成形である。
タイトルの“Hill Climber(坂を登る者)”は、スポーツや政治、人生などにおいてゆっくりでも着実に前進し続ける者への称賛の意を含んでおり、本作の音楽的姿勢とも見事に重なっている。
テクニックを見せびらかすことなく、温もりのあるアンサンブルで魅せるスタイルは、シンプルながら深く、そして“今”に必要な音楽としての説得力を放っている。
全曲レビュー
1. Half of the Way (feat. Theo Katzman)
甘く切ないメロディと、ジェントルなファルセットが印象的なポップソウル・ナンバー。
「まだ道の途中だけど、それでいい」というメッセージが、坂道を登る姿と重なる名オープナー。
2. Darwin Derby (feat. Theo Katzman & Antwaun Stanley)
進化論をテーマにしながら、愛と競争社会を軽やかにユーモアで包むファンク・ポップ。
AntwaunとTheoの掛け合いが絶妙で、メッセージ性と楽しさが両立する。
3. Lonely Town (feat. Theo Katzman)
80sのAORを思わせるシンセとリバーブ感が新鮮なローファイ・シティポップ調ナンバー。
“ひとりぼっちの街”というテーマながら、どこかあたたかい余韻を残す。
4. Love is a Beautiful Thing (feat. Theo Katzman)
ソウル・バラードの傑作。
エレピとコーラスワークが光り、“シンプルに美しい”ということがどれほど難しく、尊いかを証明する一曲。
結婚式の定番ソングになり得る品格すらある。
5. For Survival (feat. Joey Dosik)
Joey Dosikによるピアノ弾き語りに近いミニマル・バラード。
“生き抜くこと”と“音を鳴らすこと”が重なる構成が深い。
VULFPECKの“静”の魅力を象徴する佳曲。
6. Soft Parade
インストゥルメンタル・ジャム。
リズムのうねりとベースの遊びが魅力で、ライブでは即興的に拡張されることも多い“演奏型VULF”の一面を担う。
7. Lost My Treble Long Ago
Joe Dartのベースが全開となるファンク・インストゥルメンタル。
“低音だけで語る”というVULFPECKの信念が、これでもかと詰まったグルーヴの塊。
8. Disco Ulysses (Instrumental)
ディスコ+ギリシャ神話=?という、VULFらしい奇抜なネーミングのインスト・トラック。
タイトルに反して、サウンドは非常に整然としたグルーヴで、ギターとリズム隊の絡みが爽快。
9. The Cup Stacker
Jack Strattonによるエレクトロ・ファンク寄りの実験曲。
“カップ積み”という謎テーマを、シンセとミッドテンポ・ビートで可視化したようなミニチュア作品。
10. It Gets Funkier IV
VULF定番シリーズの第4弾。
今回はさらにファンキーに、さらに研ぎ澄まされ、“少ない音で最大限の体感”を引き出す究極のファンク構築を見せる。
このシリーズの到達点と言える。
総評
『Hill Climber』は、VULFPECKが「自分たちの得意技」を知り尽くし、それを最高の形で提示したアルバムであり、
ファンクやソウルという“古い言語”を、Z世代にも届くポップネスと普遍性で更新した快作である。
すべての楽器が“歌っている”。
そして歌は、誰かに届くためにではなく、まず自分たちの気持ちのために鳴っている。
そうした“演奏の誠実さ”と“構成のユーモア”が共存する奇跡のバンドがVULFPECKであり、
『Hill Climber』はその“芸術と遊びの坂道”を一歩一歩登っていく記録なのだ。
おすすめアルバム(5枚)
-
VULFPECK / The Beautiful Game
本作直前の傑作。グルーヴとメロディの完璧なバランス。 -
Joey Dosik / Inside Voice
『For Survival』にも通じる、繊細なピアノ・ソウルと甘い歌声。 -
Theo Katzman / Modern Johnny Sings
アルバムに色を添えるボーカリストのソロ作。エモーショナルな歌が魅力。 -
Scary Goldings / Volume 2
VULFに通じるユルさと演奏力の共存。よりジャズ寄りのアプローチ。 -
The Dip / Sticking With It
現代ソウルポップの優等生。グルーヴと歌心のバランスがVULFに通じる。
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