アルバムレビュー：Ecca Vandal by Ecca Vandal

発売日: 2017年10月20日
ジャンル: オルタナティブ・ロック、エレクトロ・パンク、ヒップホップ、ハード・ポップ

概要
全曲レビュー
総評
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概要

『Ecca Vandal』は、南アフリカ生まれでオーストラリア育ちのアーティスト、Ecca Vandalによるセルフタイトルのデビュー・アルバムであり、彼女の音楽的アイデンティティが炸裂するカラフルで反抗的な作品である。

本作は、ジャンルを越境するそのサウンドと、鋭くもユーモラスなリリック、そして圧倒的な存在感で、2010年代後半のオルタナティブ・シーンにおいて強烈な印象を残した。
ラップ、スクリーム、スウィートなメロディ──その全てを自由自在に操りながら、社会的メッセージと自己表現を爆発させるEccaの姿勢は、まさに“音楽の武装解除”とも言える。

パンク、R&B、ヒップホップ、エレクトロニカ、ハードロック──それらすべてが混ざり合った本作は、“何者にもなれなかった者が、すべてになってしまった”という逆説の祝祭である。

全曲レビュー

1. Broke Days, Party Nights

アルバム冒頭を飾るエレクトロ・パンクなアンセム。
“金がなくても踊れる”という精神を、ノイジーなギターとスラップベース、鋭いボーカルで叩きつける。
社会に対する中指を立てながら、同時に祝祭的でもある奇跡の一曲。

2. Your Orbit (feat. Sampa The Great)

オーストラリアの女性MC、Sampa The Greatとの共演。
トライバルなビートとアーバンなグルーヴが融合し、両者の強靭なリリックが火花を散らす。
連帯と自立をテーマにした、フェミニズム的視点も感じさせる。

3. Price of Living (feat. Dennis Lyxzén & Jason Aalon Butler)

RefusedとLetlive.のフロントマンを招いた最強のハードコア・コラボ。
資本主義批判、政治的暴力、社会的抑圧をテーマにした怒りの爆裂。
パンク、スクリーモ、ヒップホップの交差点で鳴らされる“叫び”。

4. Future Heroine

ユーモラスな語感とシニカルな視点が交錯するダンサブル・トラック。
“未来のヒロイン”像を皮肉りながらも、ある種の誇りと開き直りを込めて描く。
エレクトロ×ヒップホップの軽快なプロダクションが光る。

5. Bad Habit

甘い歌声と中毒的なビートで展開されるエレクトロ・ポップ。
破壊的な恋と自己嫌悪のループを、“悪いクセ”として軽やかに表現。
ヴァースとサビのコントラストが中毒性を生んでいる。

6. Switch

クラブ・ロック系の攻撃的グルーヴと、ハーフラップ的なボーカルが交錯するパワフルな楽曲。
“スイッチ”のように性格や態度が変わる自分自身を描きながら、カオティックなサウンドでそれを表現する。

7. Dead Wait

ミディアムテンポで、ややダークでメランコリックな雰囲気を湛えたロック・チューン。
“デッドウェイト（足を引っ張る存在）”との決別を歌い、静かな怒りと覚醒が滲む。
ギターの歪みが感情の奥行きを表現する。

8. Cold of the World

社会の冷たさと、個人の心の凍結を描くバラード調のナンバー。
Eccaの繊細な一面が最もよく表れた楽曲であり、彼女の声のトーンの幅広さも際立つ。

9. Closing Ceremony

儀式的なビートとノイズ、リバーブがかったボーカルによる、終末的トラック。
“閉会式”というタイトルの通り、混沌の祝祭に静かな幕を引く。
それでも、次の一歩へと続く予感が残るエンディング。

総評

『Ecca Vandal』は、ジャンルやラベル、アイデンティティを飛び越えて“爆音で自己紹介をした”ような、衝撃とカタルシスに満ちたデビュー作である。

Eccaはこのアルバムで、既存の枠組みに収まりきらない自分自身の“断片”をすべて投げつけ、混沌の中に美を見出すアートを完成させた。
それは“何者かにならなくていい”という解放の音楽であり、同時にあらゆるマイノリティへの連帯の叫びでもある。

ロック、ヒップホップ、パンク、ポップ──その全てが一つの身体で鳴らされることで、Ecca Vandalは“ポストジャンル時代のアイコン”として強烈な一歩を踏み出したのだ。