発売日: 2013年12月20日(再発含む)
ジャンル: デザート・ブルース、トゥアレグ・ロック、サイケデリック・ロック
概要
『Afelan』は、ニジェール出身のギタリストMdou Moctar(ムドゥ・モクター)が2013年に発表したライブ/セッション形式のアルバムであり、西アフリカの伝統音楽と現代ロックを融合させた“サハラ・サイケ”の真髄とも呼べる作品である。
本作はスタジオでの編集を極力廃し、ライブ録音や自然音に近いミックスによって“現地そのまま”の空気感を閉じ込めている。
アグレッシブなギタープレイと儀式的なリズムの反復、美しいタマシェク語の旋律が交錯し、あらゆる“境界線”を越えて音楽の根源に迫るような体験をもたらす。
Moctarは、トゥアレグ民族のギター文化を代表する存在でありながら、そのスタイルは伝統に根ざしつつも非常に個性的。
ディストーションを多用したプレイはJimi Hendrixとも比較されることが多く、本作ではその“砂漠のヘンドリックス”たる面目躍如のパフォーマンスが存分に発揮されている。
全曲レビュー
1. Tahoultine
パワフルなギター・リフと手拍子のようなパーカッションが絡み合うオープニング。
催眠的に繰り返されるフレーズはまさに“砂漠のトランス音楽”であり、言葉がわからずとも心を揺さぶられる。
観客の掛け声も含めて、まるで現地の祝祭に立ち会っているような臨場感がある。
2. Afelan
タイトル曲にして、本作のハイライト。
“アフェラン”とはトゥアレグ文化において祝宴を意味し、音楽とダンスが一体となった祭祀的空間を指す。
Moctarのギターは言葉の代わりに語り、感情をまっすぐ伝える。
サビ部分の高揚感は凄まじく、まさに魂を揺さぶる瞬間がここにある。
3. Taliat
“彼女”を意味するタイトル通り、恋愛や憧憬をテーマにした穏やかな曲調。
メロディーラインは美しく哀愁を帯び、ギターも語るように歌う。
この曲で見せる内省的な側面も、Moctarの表現力の深さを物語っている。
4. Chet Boghassa
リズムが一気に加速し、バンドのグルーヴが最大化されるキラーチューン。
観客のレスポンスとギターの応酬がスリリングで、ライブ音源の醍醐味が凝縮されている。
Moctarのソロはアドリブのようでいて非常に構築的であり、まるで詩を奏でるようだ。
5. Abilal
静謐でメディテーティブな楽曲。
倍音が強調されたギターと、遠くから響くようなパーカッションが空間的な広がりを作る。
まるで砂漠の星空の下でひとり静かに祈るような雰囲気が漂う。
6. Iblis Amghar
“Iblis”(悪魔)と“Amghar”(長老)という対立的な言葉が示す通り、緊張感のある構成。
不穏なコード進行とざらついたディストーションが、儀式的な空気を醸し出す。
内在する怒りや葛藤が、演奏の熱量として変換されているように感じられる。
総評
『Afelan』は、Mdou Moctarというアーティストが“伝統の継承者”であると同時に“革新の実践者”であることを証明するアルバムである。
そのサウンドは、アフリカ音楽の枠組みにとどまらず、ブルース、ロック、さらにはポストロック的な感覚までも内包している。
また、録音の生々しさと演奏の熱量が直結している点で、スタジオ作品とはまったく異なる価値を持っており、“音楽とは本来人間の呼吸や肉体性と切り離せないものだ”という根源的な事実を思い出させてくれる。
そのギターは、音を紡ぐというよりも、叫び、踊り、祈る。
言語の壁を越え、音楽の本質そのものに迫る力が、このアルバムにはある。
おすすめアルバム(5枚)
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Tinariwen / Aman Iman
同じくトゥアレグ・ブルースの代表格。詩的で政治的な側面も持つバンド。 -
Bombino / Nomad
Dan Auerbach(The Black Keys)プロデュースのもと、よりロック寄りの進化を遂げた作品。 -
Ali Farka Touré / Savane
西アフリカ音楽とブルースの融合における金字塔。Mdouのルーツ的存在。 -
Imarhan / Temet
若手トゥアレグ・バンドによる、都会的かつファンキーな進化系デザート・ブルース。 -
Mdou Moctar / Afrique Victime
『Afelan』以降のスタジオ作品。社会的テーマと爆発的なギターワークが炸裂した傑作。
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