アルバムレビュー：Actual Life 3 (January 1 – September 9 2022) by FRED AGAIN..

発売日: 2022年10月28日
ジャンル: エレクトロニック、UKガラージ、アンビエント、ハウス

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム（5枚）
ファンや評論家の反応
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概要

『Actual Life 3 (January 1 – September 9 2022)』は、FRED AGAIN..による“Actual Life”シリーズの第三章にして、内面のカタルシスと再生を音で描き出した最も完成度の高い作品である。

これまでと同様、Fred Gibsonは日常の断片的な音声──SNS投稿、友人のボイスメモ、街中の雑音──をサンプリングし、そこに自身の感情と物語を織り交ぜながら再構築している。

本作は、“喪失と再生”のテーマがより色濃く表現されている点が特徴だ。
前作までが「過去を記録すること」に重きが置かれていたのに対し、今作は「未来に踏み出す瞬間」までを描き切っている。

サウンド面では、シリーズ中もっともクラブ志向が強く、UKガラージやテクノ、アンビエントをベースにしながらも、エモーショナルなボーカル・サンプリングによってFred again..らしさをしっかりと保っている。

この作品は、パンデミックを経て再び人と人が“出会う”ことが可能になった時代の空気を取り込んでおり、“孤独”から“共有”へのシフトを象徴するような構成となっているのだ。

全曲レビュー

1. January 1st 2022

シリーズ恒例の“日付タイトル”で幕を開ける序章。
静かなピアノと語りのような声が交錯し、まるで内省の日記を読み上げているかのよう。
一年の始まりに立ち戻るような、清らかな空気が漂う。

2. Eyelar (Shutters)

オランダ出身のEyelarによるボーカル・サンプルが印象的なエレクトロ・ポップトラック。
「Shutters（雨戸）」という語が象徴するように、自分を閉ざしながらも外界への渇望をにじませている。
クラブ仕様のビートが希望のリズムを刻む。

3. Delilah (Pull Me Out Of This)

リードシングルのひとつ。
繰り返される「Pull me out of this」のフレーズが、精神的な沈淪からの脱却を訴える。
ビルドアップする構成と、涙腺を刺激するコード進行が見事に融合している。

4. Kammy (Like I Do)

「自分ほどあなたを想っている人はいない」という叫びを繊細なサウンドで表現。
淡く滲むボーカル・サンプルと、揺れるようなビートが感情の動きを丁寧に描写している。

5. Bleu (Better With Time)

“時間がすべてを癒す”という普遍的なテーマ。
UKガラージのビートに乗せて、Bleuの柔らかな声が希望の光を照らす。
リスナーを優しく包み込むような音作りが印象的である。

6. Clara (The Night Is Dark)

深夜の思考の迷路を描くかのような一曲。
アンビエント調のイントロから、徐々にビートが立ち上がり、内面のざわめきを表現していく。
「The night is dark」の反復が、夜の孤独と恐れを象徴している。

7. Danielle (Smile On My Face) [Reprise]

『Actual Life 2』の名曲を再構成したリプリーズ。
前作では「偽りの笑顔」として描かれたが、今作ではより“前向きな笑み”へと変化している。
シリーズの時間軸と感情の成長が感じられる重要なトラック。

8. Berwyn (All That I Got Is You)

詩人でありラッパーでもあるBerwynの声を用いたスピリチュアルな一曲。
「All that I got is you」のリフレインは、愛と支え合いの真理を伝える。
ソウルフルなコード感が温かさを醸し出す。

9. Nathan (Still Breathing)

“まだ生きている”という事実だけで十分だと語る曲。
トラウマや疲弊を乗り越えて“息をしている”ことへの祈りのような静かな賛歌である。
エフェクトのかかったボイスと深いベースラインが印象的。

10. Winnie (End Of Me)

感情の限界を描いたダークな楽曲。
音数は少ないが、その分言葉の重みが増している。
「End of me」という言葉の繰り返しが、終わりと再生の境界を表現する。

総評

『Actual Life 3』は、FRED AGAIN..の“ライフ・シリーズ”における集大成とも言えるアルバムである。

ここには、これまでのような“記録”としての意味合いに加え、“再生”や“未来への眼差し”が感じられるようになっている。
孤独と希望、失われたものと新たな出会い──それらが繊細に編み込まれ、まるで感情のタペストリーのように広がっていく。

本作はまた、FRED AGAIN..がクラブミュージックの文脈とエモーショナルな語り口を結びつける稀有な才能であることを再確認させてくれる。
単なるプロデューサーではなく、“日常の詩人”としての姿がここにあるのだ。

特に2022年という“再開”の年において、このアルバムが持つ意味は大きい。
それは、“世界が再び音楽を通じてつながる”という希望そのものである。

ファンや評論家の反応

リリース直後からSNSでは「過去最高傑作」との声が相次ぎ、BBCやPitchfork、The Guardianなども高評価を与えた。
特に、サンプルとビートの融合による“感情のリアルさ”が多くの評論家に称賛され、Fred again..は新たなUK音楽シーンの旗手としての地位を確立した。

日本国内でもSpotifyやYouTubeを中心に口コミで広まり、Z世代のリスナーを中心に急速にファンダムを拡大。
“誰かの日常が、あなたの涙を誘う”という、現代的な共感の形がここにあるのかもしれない。