発売日: 2021年11月19日
ジャンル: エレクトロニック、UKガラージ、アンビエント、ハウス
概要
『Actual Life 2 (February 2 – October 15 2021)』は、FRED AGAIN..が2021年に発表したセカンド・アルバムであり、パンデミック期の続く現実と感情を再び音楽として記録した“ライフ・シリーズ”第2章である。
本作も前作『Actual Life』と同様に、Fred Gibsonが日常の断片──SNSの投稿、Zoom通話、ボイスメモ、YouTubeの音声──をサンプリング素材として使用し、自身の感情とリンクさせながら再構成している。
その結果、単なる音楽作品ではなく、“現実のアーカイブ”としての役割も持つコンセプトアルバムに仕上がっているのだ。
第1作がロックダウンの最中における閉塞感と希望を内包していたのに対し、第2作ではより内省的で、喪失や傷を受け入れる過程に焦点が置かれている。
ジャンル的にはエレクトロニックを中心に、UKガラージやローファイ・ハウス、アンビエント要素を融合。
だが重要なのはジャンルよりも、“音のドキュメント性”であり、そこにFred again..の真価がある。
全曲レビュー
1. Kahan (Last Year)
アルバムは、Kahanという人物の切実な言葉をサンプルに、2020年の記憶を静かに振り返る一曲で幕を開ける。
ゆるやかなピアノとビートが、記憶のフィルムを巻き戻すように展開する。
2. Danielle (Smile On My Face)
失恋を乗り越える過程を象徴するような構成。
Danielleの声が「I’m smiling, but it’s fake」と呟くように響き、ポストクラブ的な浮遊感が心の隙間を埋める。
3. Tate (How I Feel)
「How I feel」というタイトルどおり、感情の起伏をそのまま音にしたような一曲。
エモーショナルなヴォーカルと、ドリーミーなシンセサウンドが織りなす情緒は、まさに”actual life”の核心を突いている。
4. Hannah (The Sun)
「太陽」という象徴を通じて、癒しと希望を描くトラック。
ビートは穏やかで、陽だまりの中で誰かと話すような親密さがある。
5. Billie (Loving Arms)
Billie Ray Martinの名曲「Your Loving Arms」の一節を大胆にサンプリング。
クラシックなヴォーカル・ラインがモダンなビートと融合し、新旧の感情が交差する。
6. Faisal (Envelops Me)
スモーキーな音像と、音に包まれるようなリバーブ処理が印象的な一曲。
“包まれる”というタイトル通り、聴く者の心をやわらかく抱きしめてくる。
7. Baxter (These Are My Friends)
友情への感謝をテーマにした楽曲。
「These are my friends」というリフレインが、日常の風景を温かく彩る。
UKガラージ的なリズムの中にも、人間味が宿る構成。
8. Toni (Love Is Just A Word)
「愛はただの言葉なのか?」という問いかけ。
感情と現実の間で揺れる姿を、サンプルとピアノ、断片的なボーカルで描き出す。
この曲では特にFredのプロデューサー的技巧が際立っている。
9. Marco (And Everyone)
群像的な構成が特徴のトラック。
“Everyone”という言葉が繰り返され、個人の物語が集合的な声となって響く。
エモーショナルな波が広がるように展開する。
10. Faisal (Time Machine)
時間をさかのぼるような構造の一曲。
繰り返し現れるボイスとシンセの流れが、聴き手の内的記憶を呼び起こす。
ノスタルジックかつサイケデリックな質感。
11. Mollie (Hear Your Name)
“名前”を聞くことが、記憶や感情をどう揺さぶるか──。
このトラックは、シンプルな反復の中に強烈なエモーションを込めている。
タイトルのとおり、誰かの名前がもたらす衝撃と温もりを描いている。
総評
『Actual Life 2』は、日々の断片、感情の揺らぎ、そして回復への道筋を、まるで“音の日記”のように丁寧に描いた作品である。
Fred again..のアプローチは単なるサウンドデザインを超え、リスナーにとって「自分ごと」として音楽が響くように設計されている。
そのため、どのトラックにも普遍的な感情が宿り、“匿名の誰か”の声が、聴く者の声と重なる瞬間が生まれるのだ。
この第2作は、よりパーソナルで、より深く内面に潜る構成になっている。
彼の音楽がもたらす“つながり”は、デジタル時代における新しいヒューマニズムの形とも言えるだろう。
クラブミュージックの文脈から生まれた作品でありながら、その中心にあるのはいつも「人」である。
その事実が、このシリーズを単なる電子音楽アルバム以上のものへと昇華させているのだ。
おすすめアルバム(5枚)
- Fred again.. / Actual Life (April 14 – December 17 2020)
前作。シリーズとしての地続き感があり、並べて聴くことでより深い理解が得られる。 - Burial / Rival Dealer
社会的・個人的な主題をサンプルで語る手法において、FRED AGAIN..の先駆となった存在。 - Arca / Kick II
感情の爆発とエレクトロニック・サウンドの融合という意味で、精神的な親和性が高い。 - SOPHIE / OIL OF EVERY PEARL’S UN-INSIDES
音の感触とアイデンティティの探求を極限まで高めた作品。Fredの探究心と通じる。 - Bicep / Isles
UKエレクトロニック・シーンのモダンな代表作。構成力とビート感覚で共鳴する部分が多い。
制作の裏側(Behind the Scenes)
Fred again..は本作においてもAbleton Liveを使用し、ノートPCと少数のハードウェア機材(Push、MIDIキーボード、モバイルマイク)で制作を完結させている。
彼の制作スタイルはきわめて即興的かつ感覚的であり、感情が湧いた瞬間にサンプルを切り取り、即座に音楽に変換するというプロセスを重視している。
レコーディングはロンドンの自宅スタジオや、旅先のホテルの一室など、非常にパーソナルな空間で行われた。
そのため、作品にも“生活の温度”が色濃く反映されている。
また、本作には一部にInstagramやTikTokからの素材も含まれており、まさに現代のデジタル・フォークロア的な手法で作られていることも特筆すべき点である。
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