アルバムレビュー:Script of the Bridge by The Chameleons

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:1983年8月8日

ジャンル:ポスト・パンク、ネオ・サイケデリア、ゴシック・ロック、ニューウェイヴ、オルタナティヴ・ロック

概要

The Chameleonsのデビュー・アルバム『Script of the Bridge』は、1983年に発表されたポスト・パンク史の重要作であり、1980年代英国ロックの中でも、後年にかけて評価を高め続けた作品である。マンチェスター出身のThe Chameleonsは、Joy DivisionやThe Fall、Magazine、A Certain Ratioなどを生んだ同地のポスト・パンクの系譜に位置づけられるが、その音楽性は単に暗く、鋭く、都市的なだけではない。彼らのサウンドには、広大な空間感覚、内省的な歌詞、きらめくツイン・ギター、推進力のあるリズム、そしてマーク・バージェスの切実なヴォーカルが結びつき、独自の情緒を形成している。

本作は、ポスト・パンクがパンクの直接的な攻撃性から離れ、より内面的で音響的な表現へ向かっていた時期の作品である。1970年代末のパンクが持っていた怒りや簡潔さを受け継ぎつつ、1980年代初頭のバンドたちは、空間処理、リズムの反復、ダブ、ファンク、エレクトロニクス、文学的な歌詞、陰影のあるメロディを取り込み始めた。The Chameleonsもその流れの中にありながら、彼らの場合は特にギターの音響的な広がりが重要である。レグ・スミシーズとデイヴ・フィールディングによるギターは、単なるコード伴奏やリフではなく、絡み合う線、残響、アルペジオ、反復するモチーフによって、楽曲全体の風景を作り出している。

『Script of the Bridge』というタイトルは、橋の台本、あるいは橋に記された脚本のような意味を持つ。ここでの「橋」は、現実と記憶、個人と社会、過去と未来、若さと喪失、都市と内面をつなぐ象徴として読める。アルバム全体には、個人が世界とどう向き合うのか、他者との関係の中でどのように自分を保つのか、社会や時代の圧力の中でどのように意味を見出すのかという問いが流れている。The Chameleonsの歌詞は、政治的なスローガンを掲げるというより、個人の心理に刻まれた時代の不安を描く。そこには冷戦期の影、都市生活の孤独、メディアや権力への不信、若者の自己喪失感がにじんでいる。

キャリア上の位置づけとして、本作はThe Chameleonsの原点であると同時に、すでに彼らの美学が完成に近い形で現れた作品である。後の『What Does Anything Mean? Basically』や『Strange Times』も高い評価を受けるが、『Script of the Bridge』にはデビュー作ならではの緊張感と、初期衝動を超えた成熟が同居している。曲数は多く、全体の尺も長いが、各曲が異なる陰影を持ち、アルバム全体としてひとつの大きな精神風景を形成している。

The Chameleonsが後の音楽シーンに与えた影響は非常に大きい。商業的にはU2、The Cure、Echo & the Bunnymen、New Orderほど巨大な存在にはならなかったが、彼らのギターの広がり、内省的な歌詞、暗さと高揚感の共存は、後のオルタナティヴ・ロック、シューゲイザー、ポスト・ロック、ドリーム・ポップ、エモ、インディー・ロックに深く受け継がれた。特に、Interpol、The National、Editors、The Twilight Sad、Mogwai、DIIV、The Horrorsなどの音楽を聴くと、The Chameleonsが築いた「暗いが開かれたギター・サウンド」の影響を感じ取ることができる。

『Script of the Bridge』の魅力は、暗さを単なる沈鬱さに終わらせない点にある。確かに本作には孤独、不安、喪失、幻滅が満ちている。しかし同時に、ギターの響きは空へ広がり、リズムは前へ進み、ヴォーカルは絶望の中から何かを掴もうとする。The Chameleonsの音楽は、閉ざされた部屋の中で沈む音楽ではなく、灰色の都市の空を見上げながら、自分の内側の混乱と向き合う音楽である。その意味で本作は、ポスト・パンクの暗い叙情性を、壮大なギター・ロックへと拡張した作品として評価できる。

全曲レビュー

1. Don’t Fall

オープニング曲「Don’t Fall」は、『Script of the Bridge』の緊張感を一気に提示する楽曲である。冒頭から切迫したリズムと鋭いギターが入り、アルバム全体を支配する不安定な推進力が明確になる。ドラムは硬質で、ベースは曲を下から押し出し、ギターはその上で不穏な光の線を描く。The Chameleonsの特徴であるツイン・ギターの絡みは、この時点ですでに明確であり、単純なリフの反復ではなく、複数の音の層が重なりながら緊張を生み出している。

タイトルの「Don’t Fall」は、「落ちるな」「崩れるな」という警告として機能する。ここでの落下は、物理的な転落だけでなく、精神的な崩壊、社会的な脱落、自己の喪失を含む。マーク・バージェスのヴォーカルは、冷静な観察者というより、危機の中で自分自身や誰かに呼びかける声として響く。歌詞は明確な物語を語るというより、崩れそうな世界の中で踏みとどまろうとする感覚を描いている。

音楽的には、パンクの鋭さを残しながらも、より広い空間を持つポスト・パンクである。曲は攻撃的だが、単純な怒りではなく、神経が高ぶったような緊迫感を持つ。デビュー・アルバムの冒頭曲として、The Chameleonsが単なる暗いバンドではなく、危機感を壮大なサウンドへ変えるバンドであることを示している。

2. Here Today

「Here Today」は、The Chameleonsの内省的な側面が強く表れた楽曲である。タイトルは「今日ここにいる」という一時性を示すが、その裏には「明日にはいないかもしれない」という不安がある。存在の不確かさ、時間の流れ、人間関係の儚さが、この短い言葉に込められている。

サウンドは、前曲の切迫感を受け継ぎながらも、よりメロディアスで開放的である。ギターは明るく響く瞬間もあるが、その明るさは無邪気なものではなく、どこか影を帯びている。The Chameleonsのギター・サウンドの重要な点は、暗いコードや重い音だけで陰鬱さを作るのではなく、きらめく音色の中に不安を宿すことである。この曲でも、ギターの光沢と歌詞の不確かさが対照的に響く。

歌詞のテーマは、現在という瞬間の頼りなさにある。人は今ここにいるが、その状態は永続しない。関係も、感情も、居場所も変わっていく。ポスト・パンクの多くが社会的な不安を直接的に描いたのに対し、The Chameleonsはそれを個人の存在感覚として表現する。この曲は、そうしたバンドの詩的な特徴をよく示している。

3. Monkeyland

「Monkeyland」は、本作の中でも特に印象的な楽曲であり、The Chameleonsの代表曲のひとつとされる。冒頭のギターのフレーズは、霧の中から光が差すように広がり、やがてリズムが加わることで曲は力強く前進する。音の層は豊かだが、過剰に装飾的ではない。各楽器が明確な役割を持ち、緊張感を保ちながら大きな流れを作っている。

タイトルの「Monkeyland」は、猿の国、あるいは人間社会を動物的なものとして見た比喩のように読める。歌詞には、社会の愚かさ、人間の模倣性、集団心理への疑念が漂う。猿というイメージは、人間の原始的な部分、理性を装いながら本能や群衆心理に支配される状態を示しているとも考えられる。The Chameleonsの歌詞は明確な政治批判に還元されないが、社会に対する不信や疎外感は一貫して存在する。

音楽的には、曲の高揚感が非常に重要である。歌詞が不穏であっても、ギターは広大な空間を作り、ヴォーカルは切実に上昇していく。この「不安と高揚の同時進行」こそThe Chameleonsの核心である。「Monkeyland」は、暗いポスト・パンクでありながら、聴き手を押しつぶすのではなく、むしろ内面の混乱を外へ放つ力を持っている。

4. Second Skin

「Second Skin」は、The Chameleonsの楽曲の中でも最も象徴的な曲のひとつであり、『Script of the Bridge』の中心的な位置を占める。タイトルの「第二の皮膚」は、自己を覆う別の層、社会的な仮面、記憶や経験によって形成された新しい自己、あるいは本当の自分を守るための防御膜を意味する。ポスト・パンクにおける自己疎外のテーマが、ここでは非常に詩的に表現されている。

音楽的には、曲のスケールが大きく、序盤から徐々に広がっていく構成が印象的である。ギターは透明感を持ちながら、深い残響を伴い、まるで内面の空間が広がっていくように響く。リズムは一定の推進力を保ち、ヴォーカルはその上で切実に言葉を投げかける。曲は大きな爆発に頼るのではなく、反復と積み重ねによって感情を高めていく。

歌詞のテーマは、変容と防御である。人は世界と接触する中で傷つき、その傷を覆うように別の皮膚を身につける。それは生き延びるために必要なものだが、同時に本来の自己との距離を生む。The Chameleonsの音楽には、自己を守ることと自己を失うことの矛盾がしばしば現れる。この曲では、その矛盾が非常に美しい形で音楽化されている。

「Second Skin」は、後のオルタナティヴ・ロックやエモ的な感情表現にもつながる曲である。個人的な痛みを、過剰な告白ではなく、広がりのあるギター・サウンドと詩的な言葉によって表現する手法は、The Chameleonsの大きな影響力を示している。

5. Up the Down Escalator

「Up the Down Escalator」は、タイトルからして強い象徴性を持つ楽曲である。「下りのエスカレーターを上る」というイメージは、社会や状況が自分を下へ押し流そうとする中で、それに逆らって進もうとする姿を表している。努力しても前に進みにくい感覚、時代や制度に逆行する抵抗、あるいは内面的な停滞から抜け出そうとする葛藤が、このタイトルに凝縮されている。

音楽的には、リズムが強く、ギターは鋭く躍動する。曲は非常に推進力があり、タイトルにある「上ろうとする運動」をそのまま音にしたようである。ベースとドラムは執拗に前へ進み、ギターは焦燥感を増幅させる。マーク・バージェスのヴォーカルは、冷めた諦めではなく、状況に抗う切実さを帯びている。

歌詞では、社会の中で感じる違和感や閉塞、そしてそれに対する抵抗が描かれる。The Chameleonsは、明確な政治的スローガンよりも、個人の感覚を通じて社会の圧力を描くバンドである。この曲でも、外部の世界と自分の内面が衝突している。下へ向かう流れに逆らって上ることは、無謀にも見えるが、それでも立ち止まらないことに意味がある。

本曲は、ポスト・パンクの精神を非常に分かりやすく体現している。パンクの抵抗精神を受け継ぎながら、その表現はより複雑で、心理的で、音響的である。The Chameleonsが持つ疾走感と内省が見事に結びついた代表的な一曲である。

6. Less Than Human

「Less Than Human」は、人間性の喪失を主題としたようなタイトルを持つ楽曲である。「人間以下」という言葉は、自己評価の低下、社会による非人間化、他者からの疎外、あるいは自分自身が感情を失っていく感覚を示す。1980年代初頭の英国における失業、社会不安、都市の荒廃、冷戦の影は、こうしたテーマと強く結びついている。

サウンドは、重く暗いだけではなく、鋭いリズムとギターの緊張によって進む。The Chameleonsは、絶望を鈍重な音で表すのではなく、神経質な動きや空間の広がりによって表現する。この曲でも、ギターは冷たく響きながら、曲全体に張り詰めた空気を作っている。

歌詞のテーマは、個人が社会や関係の中で自分の人間性を失っていく感覚にある。人は他者から扱われることで、自分自身をどう認識するかが変わる。「Less Than Human」という言葉には、外部から押しつけられた評価と、それを内面化してしまう苦しさがある。マーク・バージェスの歌唱は、怒りよりも深い失望と不信を感じさせる。

この曲は、The Chameleonsのダークな側面をよく示しているが、同時に単なるゴシック的な暗さには留まらない。そこには社会的なリアリティがあり、個人の尊厳が削られていく時代感覚が反映されている。

7. Pleasure and Pain

「Pleasure and Pain」は、快楽と苦痛という相反する感情の結びつきを扱った楽曲である。この二つはロックの歌詞において古典的なテーマだが、The Chameleonsの場合、それは単純な恋愛の甘苦さではなく、人間関係全般における複雑な依存や矛盾として描かれる。喜びを与えるものが同時に傷を生み、苦痛を伴うものから離れられないという感覚が、この曲の核心にある。

音楽的には、メロディアスな要素と緊張感のある演奏が共存している。ギターは明るく響く場面もあるが、全体には影がある。リズムは安定して前へ進むが、その上に乗るヴォーカルには迷いや痛みが含まれている。The Chameleonsの曲では、楽器が作る空間と歌詞の心理が密接に結びついており、この曲もその典型である。

歌詞では、愛情、依存、欲望、傷つきやすさが重なっている。快楽と苦痛は対立するものではなく、しばしば同じ関係の中に同時に存在する。The Chameleonsは、その矛盾を劇的に誇張するのではなく、日常的な感情の中に潜む不安として表現する。この抑制された切実さが、彼らの音楽を単なるゴシック・ロックではなく、深い人間観察を持つポスト・パンクとして成立させている。

8. Thursday’s Child

Thursday’s Child」は、アルバムの中でも比較的詩的で、繊細な印象を持つ楽曲である。タイトルは英語圏の古い童謡「Monday’s Child」に由来する表現を想起させる。この童謡では、曜日ごとに生まれた子どもの運命や性格が語られる。「Thursday’s child has far to go」という一節は、木曜日生まれの子は長い道のりを行く、という意味で知られている。そのため本曲のタイトルには、人生の長い旅、未完成の自己、遠くまで行かなければならない宿命のような感覚が含まれている。

音楽的には、The Chameleonsらしい広がりのあるギターが中心である。曲は急激に爆発するのではなく、持続する感情の波として進む。ヴォーカルにはどこか諦念と希望が混ざっており、タイトルが持つ運命的な響きとよく合っている。ギターのアルペジオは、夜の街や曇った空の下で遠くを見つめるような情景を作り出す。

歌詞のテーマは、成長、運命、自己探求、孤独な歩みに関係している。人は生まれた時点で何らかの条件を背負い、それを抱えながら進んでいく。The Chameleonsの音楽には、そうした「自分では選べないもの」と「それでも進む意志」がしばしば現れる。この曲は、その感覚を静かに、しかし深く表現している。

9. As High as You Can Go

「As High as You Can Go」は、上昇、限界、野心、逃避を示すタイトルを持つ。できる限り高く上がるという言葉には、希望や解放の響きがある一方で、そこから落下する危険も含まれている。本作冒頭の「Don’t Fall」と響き合うように、このアルバムでは上昇と落下が重要なイメージとして反復される。

音楽的には、ギターの高揚感が強く、曲全体が空間的に開けている。The Chameleonsのサウンドは、しばしば地上の重さと空への憧れの間にある。この曲でも、リズム隊が地面をしっかりと支える一方で、ギターは上方へ伸びていく。ヴォーカルはその中間に位置し、現実と理想の間で揺れる人間の声として響く。

歌詞では、限界まで行こうとする衝動が描かれる。ただし、それは単純な成功への野心ではない。むしろ、現実の圧力から逃れたい、別の視点に到達したい、現在の自分を超えたいという欲求に近い。The Chameleonsの楽曲において、高さはしばしば精神的な距離や視野の広がりを意味する。この曲は、アルバムの中でも比較的開放的なエネルギーを持つが、その裏には常に落下の不安がある。

10. A Person Isn’t Safe Anywhere These Days

「A Person Isn’t Safe Anywhere These Days」は、本作の中でも特に時代の不安を直接的に感じさせるタイトルを持つ楽曲である。「最近では人はどこにいても安全ではない」という言葉は、都市生活の不安、社会的暴力、政治的緊張、監視、精神的な孤立など、1980年代初頭の英国社会に漂っていた不穏さを反映している。

音楽的には、切迫したリズムと鋭いギターが中心となり、タイトルの不安をそのまま音にしたような緊張感がある。曲は単に暗いだけではなく、攻撃的な推進力を持つ。これは、危険を前にして身を縮めるのではなく、その不安を外へ放つような表現である。The Chameleonsの演奏はタイトで、各楽器が張り詰めた空気を作る。

歌詞のテーマは、社会における安全の喪失である。ここでの安全は、物理的なものだけではない。自分らしくいられる場所、信じられる関係、精神的な避難所が失われているという感覚も含まれる。The Chameleonsは、個人の不安を社会の構造と切り離さずに描く。外の世界が危険であるからこそ、内面も不安定になる。

この曲は、ポスト・パンクの社会的緊張をThe Chameleons流に表現した重要曲である。Joy Divisionの冷たい絶望とは異なり、ここにはよりギター・ロック的な広がりと、抵抗のエネルギーがある。危険な世界の中で、それでも声を上げるような楽曲である。

11. Paper Tigers

「Paper Tigers」は、タイトルが示す通り、「張り子の虎」、つまり見かけは強そうだが実際には中身のない存在を主題としている。これは権力、虚勢、社会的な威圧、あるいは個人が身につける偽りの強さを批判する比喩として読める。The Chameleonsの歌詞には、権威や社会的な仮面への不信がしばしば現れるが、この曲はその側面を象徴的に示している。

音楽的には、アルバム終盤に向けた緊張を保ちながら、ギターの反復とリズムの推進力が曲を支える。メロディはどこか冷ややかで、ヴォーカルにも観察者の視点がある。怒りを直接的に爆発させるのではなく、対象の空虚さを見抜くような距離感が特徴である。

歌詞では、強さを装うものへの疑念が表れる。社会には、多くの「Paper Tigers」が存在する。権力者、制度、世間体、自己防衛のための虚勢、他者を威圧する言葉。それらは一見強固に見えるが、実際には紙でできている。The Chameleonsは、そうした虚構を暴く一方で、自分自身もまた何らかの仮面をかぶっているのではないかという不安を残す。この曖昧さが曲に深みを与えている。

12. View from a Hill

アルバムの最後を飾る「View from a Hill」は、『Script of the Bridge』の締めくくりとして非常に重要な楽曲である。タイトルは「丘からの眺め」を意味し、これまでの曲で描かれてきた都市の不安、内面の葛藤、社会への不信を、少し高い場所から見渡すような視点を与える。丘の上から見る景色は、現実から完全に離れることではない。むしろ距離を置くことで、これまで見えなかった構造や意味を捉えようとする行為である。

音楽的には、アルバムの中でも特に広がりがあり、終曲にふさわしい余韻を持つ。ギターは大きな空間を描き、リズムは安定した推進力を保ちながら、曲をゆっくりと高めていく。The Chameleonsのサウンドが持つ叙景性が最もよく表れた曲のひとつであり、聴き手に精神的な視界の拡張をもたらす。

歌詞のテーマは、距離、回想、認識、そして現実との向き合い方である。丘から見ることで、個人の悩みや社会の不安は消えるわけではない。しかし、それらを少し違う角度から眺めることはできる。アルバム全体が、落下への警告から始まり、社会の不安や自己の変容を経て、この高所からの視点に到達する構成になっていると考えると、「View from a Hill」は非常に象徴的な終曲である。

この曲は、The Chameleonsが暗さだけのバンドではないことを決定的に示している。彼らの音楽には、苦しみや不安を通過した後に、遠くを見る力がある。『Script of the Bridge』は、この曲によって単なる陰鬱なポスト・パンク作品ではなく、内面の旅として完結する。

総評

『Script of the Bridge』は、ポスト・パンクの枠組みを保ちながら、ギター・ロックの叙情性とスケール感を大きく拡張したアルバムである。The Chameleonsは、パンク以降の鋭さ、Joy Division以降の暗い内省、Echo & the BunnymenやU2にも通じる広がりのあるギター・サウンドを、自分たち独自のバランスで結びつけた。本作はデビュー・アルバムでありながら、完成度が非常に高く、バンドの主要な美学がすでに明確に示されている。

本作の最大の特徴は、ツイン・ギターによる空間構築である。レグ・スミシーズとデイヴ・フィールディングのギターは、ハード・ロック的なリフの応酬でも、パンク的なコードの連打でもない。互いに異なる線を描きながら、曲全体に奥行きと広がりを与える。アルペジオ、反復、残響、細かなフレーズの絡みが、歌詞の内面性と結びつき、各曲に独自の風景を作り出している。このギターの使い方は、後のシューゲイザーやポスト・ロック、インディー・ロックに大きな影響を与えた。

リズム面では、ベースとドラムが曲を強く前進させている点が重要である。The Chameleonsの音楽は、浮遊感だけでは成立していない。むしろ、足元にはしっかりとした推進力があり、その上にギターが広がることで、地上と空中の緊張関係が生まれている。暗く内省的な音楽でありながら、停滞せず、常に前へ進もうとする感覚がある。この点が、彼らを単なるゴシック的な耽美性とは異なる存在にしている。

歌詞面では、不安、孤独、社会への不信、自己の変容、時間の儚さ、危険な世界の中での生存が繰り返し扱われる。「Don’t Fall」「Second Skin」「Up the Down Escalator」「Less Than Human」「A Person Isn’t Safe Anywhere These Days」などのタイトルからも分かるように、本作には落下、抵抗、非人間化、安全の喪失といった主題が通底している。しかし、The Chameleonsの歌詞は暗い現実をただ嘆くだけではない。そこには、傷つきながらも感覚を失わないこと、世界を見つめ続けること、別の視点へ到達しようとする意志がある。

キャリア上では、『Script of the Bridge』はThe Chameleonsの存在を決定づけた作品である。同時代の英国ロックの中では、商業的な成功という点で彼らは必ずしも中心に立ったわけではない。しかし、音楽的な影響力という点では非常に大きい。The Cureの暗い叙情性、Joy Divisionの内面的緊張、U2初期の高揚感、Echo & the Bunnymenのサイケデリックな陰影と比較されることは多いが、The Chameleonsにはそれらを単純に足し合わせただけでは説明できない独自の深さがある。

特に本作は、後のオルタナティヴ・ロックにとって重要な前史である。1980年代後半から90年代にかけて、ギター・ロックはグランジ、シューゲイザー、ドリーム・ポップ、ポスト・ロック、エモなど多方向へ広がっていく。その中で、内省的な歌詞と広がりのあるギター・サウンドを結びつける手法は、本作にすでに明確に存在している。InterpolやEditorsのような2000年代のポスト・パンク・リバイバル勢だけでなく、より感情の広がりを重視するインディー・ロック・バンドにも、The Chameleonsの影響は感じられる。

日本のリスナーにとっては、『Script of the Bridge』は80年代ポスト・パンクをより深く掘り下げるうえで欠かせない作品である。Joy DivisionやThe Cure、New Order、Echo & the Bunnymen、U2初期を聴いてきたリスナーには、The Chameleonsのサウンドは自然に接続するだろう。一方で、シューゲイザー、ポスト・ロック、エモ、2000年代以降のインディー・ロックに親しんできたリスナーにとっても、本作はその源流のひとつとして機能する。

『Script of the Bridge』は、暗い時代の不安を、単なる絶望としてではなく、広がりのある音楽的風景へ変えたアルバムである。そこには、落ちるなという警告、第二の皮膚を身につける痛み、下りの流れに逆らって上る抵抗、どこにも安全がない世界への不信、そして最後に丘の上から世界を見渡す視点がある。The Chameleonsは、本作でポスト・パンクの内省を、壮大で詩的なギター・ロックへと変換した。その響きは、1983年という時代を超えて、現在も多くのリスナーにとって切実なものとして残っている。

おすすめアルバム

1. The Chameleons『What Does Anything Mean? Basically』

1985年発表のセカンド・アルバム。『Script of the Bridge』で確立された広がりのあるギター・サウンドと内省的な歌詞をさらに洗練させた作品である。デビュー作よりも音像はやや整理され、叙情性が強まっている。The Chameleonsの世界観を深く理解するうえで不可欠な一枚である。

2. The Chameleons『Strange Times』

1986年発表のサード・アルバム。バンドの成熟が表れた作品であり、暗い情緒、ギターの空間性、メロディの強さが高い水準で結びついている。『Script of the Bridge』の切迫感に対し、こちらはより深く沈み込むような重みを持つ。The Chameleonsのキャリアを通して聴くうえで重要な作品である。

3. Echo & the Bunnymen『Heaven Up Here』

1981年発表のポスト・パンク/ネオ・サイケデリア重要作。冷たい緊張感、陰影のあるギター、孤独感のあるヴォーカルが特徴で、『Script of the Bridge』と同時代的な空気を共有している。The Chameleonsよりも硬質で神秘的な側面が強く、80年代英国ロックの暗い叙情性を理解するうえで有効な一枚である。

4. The Sound『From the Lions Mouth』

1981年発表のポスト・パンクの名盤。エイドリアン・ボーランドの切実なヴォーカル、内省的な歌詞、鋭いギター・サウンドが特徴で、The Chameleonsと同じく商業的評価以上に後年の影響が大きい作品である。精神的な緊張とメロディアスなロックの融合という点で『Script of the Bridge』と強く共鳴する。

5. U2『Boy』

1980年発表のデビュー・アルバム。若さ、不安、信仰、成長をテーマに、エッジのディレイを効かせたギターが広がりのあるサウンドを作り出している。The Chameleonsとは異なる明るさと直線性を持つが、80年代初頭のギター・ロックがどのように内面性とスケール感を結びつけたかを理解するうえで関連性が高い作品である。

コメント

タイトルとURLをコピーしました