発売日: 2020年8月21日
ジャンル: グラムロック、パワーポップ、アートロック
2020年にリリースされたThe Lemon Twigsの3枚目のアルバム「Songs for the General Public」は、ダダリオ兄弟のユーモアと卓越した音楽的センスが炸裂する作品だ。彼らは70年代ロックやグラムロックの影響を色濃く受けているが、このアルバムではそれらをただの懐古主義にとどまらず、現代的なひねりを加え、斬新かつキャッチーなポップロックとして再構築している。前作「Go to School」でのロックオペラ形式から一転し、今作では多彩なスタイルの曲が揃い、どの曲もエネルギーと個性が溢れる内容だ。
プロデューサーにはジョナサン・ラドーが再び参加し、アルバム全体に一貫したヴィンテージ感を持たせている。兄弟の掛け合いと独自のボーカルスタイルが強調され、曲ごとに異なるキャラクターが描かれるような構成が面白い。「Songs for the General Public」は、1970年代のグラムロック、パワーポップ、そしてサイケデリックな要素を織り交ぜながらも、ポップに昇華され、現代のリスナーにも親しみやすい一枚となっている。
各曲解説
1. Hell on Wheels
オープニングトラックは、勢いのあるロックンロールでスタートする。ザラついたギターリフと歯切れの良いビートが、アルバムの強烈なエネルギーを象徴する。カートゥーンのようなユーモアと荒々しさが同居し、70年代のグラムロックを現代風に蘇らせた一曲だ。
2. Live in Favor of Tomorrow
この曲は、キャッチーで軽快なメロディーが特徴で、明るいコーラスがポップな印象を与える。シンセサウンドとドラムのビートが高揚感を生み出し、リスナーを陽気な世界へ引き込む。歌詞は前向きなメッセージが込められ、シングル向きの魅力がある。
3. No One Holds You (Closer Than The One You Haven’t Met)
この曲は、哀愁漂うメロディとシンセサウンドが特徴のラブソングで、未だ見ぬ理想の相手への想いが歌われている。デビッド・ボウイを彷彿とさせるボーカルスタイルと、バロックポップ風のアレンジが楽曲を彩り、甘くも少し悲しい気持ちが胸に残る。
4. Fight
荒々しいギターとエネルギッシュなボーカルが印象的な「Fight」は、怒りや反抗心を表現した曲だ。兄弟のエネルギッシュなパフォーマンスが際立ち、パンキッシュなスピリットが込められている。ダークで勢いのある曲調が、アルバムに一層の多様性を与えている。
5. Somebody Loving You
80年代のポップソングを思わせるようなノスタルジックな雰囲気が漂う楽曲。シンプルなメロディとリズムが心地よく、軽やかで甘いラブソングに仕上がっている。シンセのリフが曲に活気を与え、聴きやすいポップナンバーとして印象的だ。
6. Moon
バラード調の曲で、柔らかいピアノと繊細なボーカルが静かな夜の情景を映し出すようだ。ロマンチックで幻想的な雰囲気があり、兄弟のエモーショナルな面が垣間見える。ゆったりとしたテンポが、アルバムにおける一瞬の安らぎをもたらしている。
7. The One
軽快なロックナンバーで、ギターとリズムが軽やかに響く。「完璧な相手」を見つけることを歌ったポップでキャッチーな楽曲だ。ノスタルジックなメロディと開放感のあるサウンドが、リスナーに心地よい高揚感を与える。
8. Only a Fool
シンセとベースが印象的なこの曲は、レトロでメロディアスなパワーポップ。恋愛の葛藤や自己反省を描き、軽快なリズムと少し皮肉めいた歌詞が楽曲に深みを加えている。バンドのポップセンスが際立つ楽曲だ。
9. Hog
一転して、ハードでヘヴィな曲調が特徴の「Hog」は、兄弟のダークで狂気じみた一面を垣間見せる。荒々しいギターと強いビートがリフレインし、歌詞には挑発的なメッセージが込められている。アルバム内でも特に個性が際立つ一曲で、スリリングな聴き応えだ。
10. Why Do Lovers Own Each Other?
コミカルで皮肉めいた歌詞と軽快なリズムが特徴のラブソングで、ロマンティックな恋愛観を皮肉るような内容が興味深い。兄弟の独特の視点が活かされ、楽しくも考えさせられる曲だ。
11. Leather Together
80年代のロックを思わせるレトロなサウンドと、シンセが効いたビートが印象的なナンバー。ノスタルジーと力強いボーカルが響き、ロックとポップの中間的なバランスがとれた一曲だ。
12. Ashamed
アルバムのラストを飾るこの曲は、バンドの感情が静かに流れるバラード調の作品。ギターとシンプルなビートで進む曲調が、内省的なムードを高めている。リスナーに余韻を残し、アルバム全体をしっとりと締めくくるにふさわしい一曲だ。
アルバム総評
「Songs for the General Public」は、The Lemon Twigsの音楽的才能とセンスが存分に発揮された、エネルギッシュかつ親しみやすいアルバムである。ヴィンテージ感あふれるサウンドと現代的なひねりが絶妙に調和し、70年代や80年代のグラムロックやポップミュージックの影響を受けながらも、彼ら独自の個性で仕上げられている。複雑なテーマを扱いながらも、曲ごとに異なるキャラクターとムードがあり、最後まで楽しめるバラエティ豊かな一枚だ。兄弟のユニークな視点と音楽性が、聴く者を新たな音楽体験へと導いてくれるだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Hunky Dory by David Bowie
多様なジャンルと物語性のある楽曲構成が「Songs for the General Public」と共通し、聴きやすくも深みのある内容が楽しめる。
Electric Warrior by T. Rex
グラムロックの象徴的な作品。シンプルでリズミカルなメロディーとキャッチーなサウンドがThe Lemon Twigsの影響源を感じさせる。
Goodbye Yellow Brick Road by Elton John
華やかで多様な楽曲が詰まったアルバムで、ユーモラスな要素やバラエティ豊かなサウンドがThe Lemon Twigsファンに響く。
Something/Anything? by Todd Rundgren
多彩な音楽スタイルとポップなセンスが満載のアルバムで、The Lemon Twigsの自由な音楽スタイルを好むリスナーにおすすめ。
Different Class by Pulp
ブリットポップの名作で、皮肉の効いた歌詞とポップなサウンドが「Songs for the General Public」との共通点が多い。
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