発売日: 2018年8月24日
ジャンル: ロックオペラ、グラムロック、バロックポップ
The Lemon Twigsのダダリオ兄弟が2018年にリリースした2作目のアルバム「Go to School」は、ロックオペラの形式で物語を描いた野心的なコンセプトアルバムだ。アルバム全体が、シェイクスピアの悲劇やミュージカルのように演劇的で、架空のキャラクター「シェイラ」という親に育てられた一匹の少年猿“Shane”が「学校に行く」というテーマを通じて、成長と葛藤を描き出している。シェインの孤独やアイデンティティの喪失、社会の無理解など、普遍的な問題を動物の視点から語ることで、シニカルで風刺的なメッセージが込められている。
兄弟の音楽的なバックグラウンドには、ビートルズやビーチ・ボーイズといったクラシックなバンドの影響が感じられ、アルバム全体にはグラムロックやバロックポップの響きが散りばめられている。さらに、本作では舞台仕立ての演出が取り入れられ、ボーカルの表現力や楽曲構成に新たな幅が加わった。オーケストラ風のアレンジとドラマティックなサウンドスケープが、リスナーにシェインの物語を体験させ、The Lemon Twigsが持つ奇抜なセンスが光っている。
各曲解説
1. Never in My Arms, Always in My Heart
アルバムのオープニングを飾るこの曲は、シェインの育ての親であるシェイラの孤独と後悔がテーマ。バロック風のピアノと軽快なリズムが絡み合い、シェイラの「望まなかった子供を育てる苦しみ」をユーモラスに描写する。音楽劇のオープニングのような華やかさがあり、リスナーを物語の世界へと誘う。
2. The Student Becomes the Teacher
ギターがリードするロック調のナンバーで、学校での体験を通じてシェインが学び、成長する様子が描かれる。シェインが自己肯定感を持つ様子がメロディにも表れており、転調やアップテンポなリズムが、彼の成長を力強く表現している。
3. Rock Dreams
70年代のグラムロックを思わせる華やかさが際立つ曲。シェインが夢見るスターへの道を描いたもので、ギターリフとシンセサウンドが華やかに響く。ストーリーの中での理想と現実のギャップが反映され、若者の憧れと現実の苦悩が対比的に描かれている。
4. The Lesson
アコースティックなサウンドがメインの一曲で、学校での葛藤や仲間との摩擦がテーマ。淡々としたリズムがシェインの迷いを表しており、優しくも悲しいメロディが心に響く。歌詞には希望と諦めの入り混じる複雑な感情が描かれている。
5. Small Victories
「Small Victories」は、シェインが人生の小さな成功や敗北を経験する中で得る小さな満足を表現している。軽やかなメロディとギターの響きが前向きな気持ちを引き立て、どこかポップで愉快な曲調が、彼のささやかな勝利を祝福しているようだ。
6. Wonderin’ Ways
心に残るバラードで、思索的なメロディがシェインのアイデンティティを問いかける。しっとりとしたピアノと柔らかいボーカルが特徴で、彼の内なる葛藤が静かに浮かび上がる。シンプルながらも、感情の深さが伝わる一曲。
7. The Bully
タイトル通り、いじめの経験がテーマで、シェインが直面する社会の冷酷さや人々の無理解が描かれる。重厚なギターと不協和音が不安定な心情を表し、シニカルな歌詞がシェインの苦悩を生々しく表現する。
8. Lonely
「Lonely」は、孤独の痛みが胸に響く一曲。ギターとボーカルのみでシンプルに構成され、シェインの孤立感が際立つ。歌詞には悲壮感が漂い、彼の孤独と切なさが痛烈に感じられる。
9. Queen of My School
シェインが憧れる同級生をテーマにした、軽快でポップな楽曲。青春の甘酸っぱさが感じられるリズミカルなメロディが特徴で、明るいギターが彼の恋心を表現している。聴きやすく、アルバムの中でも特に親しみやすい一曲だ。
10. Never Know
シェインの未来への不安を歌ったメロディアスな曲。アコースティックギターのシンプルな伴奏に、どこか漂う不安定さが彼の不安を映し出す。物語の中でのシェインの心情が、繊細に伝わってくる。
11. Born Wrong / Heart Song
二部構成のこの曲は、シェインの心の葛藤と、それを受け入れる過程を描いている。前半は激しいリズムで否定的な感情を表し、後半は優しさに包まれるような旋律で、シェインの自分探しが穏やかな解決へと向かうさまを象徴している。
12. The Fire
シェインが感情を爆発させる場面を描いた曲で、エネルギッシュなギターとボーカルが力強く響く。劇的な展開が続き、アルバム全体のクライマックスとして印象的。シェインが自分の人生に立ち向かう姿が鮮烈に描かれている。
13. Finale: Go to School
アルバムのフィナーレを飾るこの曲は、シェインが成長し、自分の居場所を見つける決意を固めるエンディング。オーケストラ風のアレンジが感動的で、ドラマティックな余韻を残す。シェインの旅路が終わりを迎え、アルバム全体を締めくくるにふさわしい壮大な一曲だ。
アルバム総評
「Go to School」は、The Lemon Twigsの音楽的な野心と表現力が見事に発揮されたアルバムであり、シェインという架空のキャラクターを通じて成長や苦悩を描いたユニークな作品である。ロックオペラの形式で描かれた物語は聴く者を魅了し、劇的なサウンドと深いテーマが詰め込まれている。音楽だけでなく、歌詞や構成も楽しめる、まさに聴き応えのある一枚。リスナーはこの物語を通じて、人間らしさと生きることの複雑さについて考えさせられるだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Tommy by The Who
ロックオペラの傑作で、成長と自己探求をテーマにしており、「Go to School」と同様に物語性が強い一枚。
Hunky Dory by David Bowie
ボウイ特有のドラマティックなアレンジとキャラクター描写が魅力的。The Lemon Twigsのグラムロックへの影響を感じさせる。
Pet Sounds by The Beach Boys
ノスタルジックでバロックポップ的なアレンジが特徴的で、The Lemon Twigsのサウンドに通じるところがある。
Ziggy Stardust by David Bowie
ロックと演劇性が融合したコンセプトアルバムで、変化するキャラクターと物語の強いテーマ性が似ている。
Phantom of the Paradise by Paul Williams (サウンドトラック)
ロックミュージカルのサウンドトラックで、シアトリカルなサウンドが「Go to School」の劇的な雰囲気と重なる。
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