アルバムレビュー：Sophisticated Boom Boom by Dead or Alive

発売日: 1984年4月20日
ジャンル: ニューウェイヴ、ポストパンク、ハイエナジー

概要
全曲レビュー
総評
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概要

『Sophisticated Boom Boom』は、Dead or Aliveが1984年にリリースしたメジャーデビュー・アルバムであり、フロントマン、ピート・バーンズの強烈なヴィジュアルとパフォーマンスを武器に、80年代のニューウェイヴ～ダンスロックシーンに鮮烈な第一歩を刻んだ作品である。
当時のUKクラブカルチャーの熱気を凝縮しながらも、ロマンスと退廃を漂わせたこのアルバムは、ポストパンクからディスコ、ハイエナジーへの橋渡し的存在として再評価されている。

タイトルの“Boom Boom”は、ダンスビートの躍動とセクシャルな暗喩の両義性を持ち、“Sophisticated（洗練された）”という言葉との対比によって、エレガンスと退廃の共存を印象づけている。
のちにStock Aitken Watermanとのタッグで『Youthquake』（1985年）を大ヒットさせる前夜にあたる本作では、よりバンド色が強く、荒々しいロック的衝動とグラムの残り香が感じられる。

ピート・バーンズのカリスマ性と、ジェンダーを流動化する表現が既に強烈に打ち出されており、音楽的にもビジュアル的にも、Dead or Aliveがただの“ダンス・ポップバンド”ではないことを証明している。

全曲レビュー

1. What I Want

アルバムの冒頭を飾る、ニューウェイヴ的緊張感とキャッチーなメロディを併せ持った一曲。
パーカッシヴなリズムとエッジの効いたギターが、ロックとダンスの中間を疾走する。
「欲しいものを手に入れる」という自己肯定の姿勢が、バーンズの存在感と共鳴する。

2. Misty Circles

ループするシンセとドラムが支配する、クラブ向けの中毒性の高いナンバー。
「霧のサークル」という幻想的なタイトルの通り、リリックは内面的で、どこか退廃的。
後年のハイエナジー路線へのプロトタイプとも言える楽曲。

3. Do It

ファンク色の強いベースラインと、ストレートな“やってしまえ”というメッセージが印象的なダンス・ロック。
デカダンな雰囲気とポップさが絶妙に混在し、バーンズのヴォーカルが楽曲全体を押し切る力を持っている。

4. That’s the Way (I Like It)

KC & The Sunshine Bandのディスコクラシックをカバー。
オリジナルの陽気さとは異なり、ゴシックでエレガントなアレンジが施され、原曲の明るさに対する反転のような世界観を提示している。
バーンズの妖艶な歌い回しが特に際立つ。

5. You Make Me Wanna

欲望と憧れがせめぎあう情念的なラブソング。
メロディは意外にも甘美で、バンドとしてのポップセンスが光る。
サウンド的にはまだディスコというよりロマンティックなニューウェイヴに近い印象。

6. Sit on It

タイトルの意味深さに象徴されるように、性的暗喩と挑発に満ちた一曲。
バーンズのヴォーカルが最大限に演劇的に振る舞い、まるでキャバレーのような妖しい空間を形成している。
音数は抑えられ、リズムと声だけで迫ってくる構成が鮮烈。

7. Wish You Were Here

ニューウェイヴ的なコード進行と、モノクロームなメロディが印象的な内省的バラード。
「あなたがここにいてくれたら」と繰り返す切なさの中に、過剰な感情の抑制と抑圧が浮かび上がる。
バーンズのヴォーカルがもっともエモーショナルに響く瞬間。

8. Turn Around and Count 2 Ten (初期版プロトタイプ)

※本作に正式収録はされていないが、のちのヒット曲の萌芽が感じられるナンバーの片鱗が、この時期の未発表曲やB面曲にすでに存在していた。
リズム構造やヴォーカル処理の方向性に、その予兆を感じ取れる。

9. I’m Falling

跳ねるようなビートと切り裂くようなギターが絡む、ミッドテンポのナンバー。
「堕ちていく」というテーマが、愛と破滅、欲望と自己解体の狭間を描き出す。
ポップだが、非常にナーバスな楽曲。

10. Far Too Hard

アルバムを締めくくるにふさわしい、知的かつ攻撃的なナンバー。
恋愛と自己否定が絡み合うリリックが、シニカルなユーモアを伴って響く。
ギターとシンセが緊張感を保ったまま突き進む。

総評

『Sophisticated Boom Boom』は、Dead or Aliveがのちのハイエナジー路線に進む以前、ニューウェイヴとポストパンク、グラムの美学を独自に結晶化させた出発点として、非常に重要な位置を占める作品である。
そこには音楽的な方向性の模索と、すでに完成されたヴィジュアル／アイデンティティ戦略が共存しており、ピート・バーンズというアーティストの総体的表現の核がすでに宿っている。

一聴して華やかだが、じっくり聴けば、欲望・自己否定・セクシュアリティといったテーマが複雑に絡み合い、80年代という時代の裏面が垣間見えるアルバムでもある。
この作品がなければ、『You Spin Me Round』も存在し得なかった――そんな原点の煌めきが、今も鮮烈に残る。