発売日: 2014年10月29日
ジャンル: オーケストラル・ポップ、フォーク、ビッグバンド、アメリカーナ
管弦と心情の交錯点——Neil Young、愛と再出発を壮麗に奏でる“楽器付きの手紙”
『Storytone』は、Neil Youngが2014年に発表した32作目のスタジオ・アルバムであり、交響楽団やビッグバンドを導入し、愛、離別、自然との関係などを鮮やかに描いた“音の叙情詩”ともいえる作品である。
本作は特異な構成を取っており、フル・オーケストラやホーン・セクションを用いた豪奢なアレンジによるDisc 1と、ピアノやギターのみで構成されたシンプルなソロ・バージョンのDisc 2の2枚組で構成される。
歌詞はヤングが新たな愛（後に妻となるダリル・ハンナ）との出会い、長年のパートナーとの離別、そして自然や動物への共感と責任といった、自身の心の変化を率直に綴ったものが多く、音楽的にも感情的にも“裸のヤング”が記録されたアルバムである。
全曲レビュー（オーケストラ／バンド版を基準に）
1. Plastic Flowers
ピアノと弦楽が繊細に交差するオープニング。“偽物の花”に託された感情の空虚さが、やがて本物の想いへと変わっていく展開が美しい。
2. Who’s Gonna Stand Up?
環境問題と未来への責任を訴えるプロテスト・アンセム。大合唱とフル・オーケストラが力強く、まさに“現代の讃美歌”。
3. I Want to Drive My Car
軽快なビッグバンド調ナンバー。文字通り“車を運転したい”という欲望が、解放や新たな出発のメタファーとして響く。
4. Glimmer
静かな希望を表現するラブソング。ストリングスとホーンが優雅に包み込む、夜明け前のようなムード。
5. Say Hello to Chicago
ブルースをベースにしたスウィング・ナンバー。シカゴという都市のイメージと、愛と孤独が交錯する大人の哀愁が漂う。
6. Tumbleweed
ウクレレとオーケストラの組み合わせが独特な、自然と調和した生き方を希求する楽曲。
7. Like You Used to Do
軽快なカントリー・ロック風バンドサウンド。“昔みたいに愛して”という素直な想いが心地よく響く。
8. I’m Glad I Found You
出会いの奇跡を歌うバラード。弦楽による包み込むようなアレンジが、幸福と安堵の感情を強調する。
9. When I Watch You Sleeping
愛する人を見守る視点から綴られた、静かで深い愛情の歌。 ストリングスとピアノが柔らかく支える。
10. All Those Dreams
アルバムのクロージングは、夢と現実のはざまを行き来する詩的な一曲。人生の儚さと再出発を噛みしめるような余韻が残る。
総評
『Storytone』は、Neil Youngが“音楽の語り”という手段を最大限に広げ、オーケストラやビッグバンドという舞台装置を借りて、自身の感情と人生の転機を音に昇華したアルバムである。
特筆すべきは、その率直すぎるまでに開かれたリリックと、生演奏の肉体性が織りなす温もりだろう。
豪華なアレンジに包まれても、その中心にあるのはあくまで、老境に差し掛かった男の繊細で真摯な“語り”である。
また、Disc 2のソロ・バージョンと聴き比べることで、同じ楽曲がまったく違う表情を見せるという驚きもあり、ヤングのソングライティングの深さと表現の幅広さが改めて実感される。
おすすめアルバム
-
Harvest Moon / Neil Young
愛と再生をテーマにした穏やかなアコースティック作品。『Storytone』の精神的前作。 -
Silver & Gold / Neil Young
家族と人生の叙情を描いた、落ち着いた表現のアコースティック・アルバム。 -
Time Out of Mind / Bob Dylan
老境の孤独と再出発を描いた、深く内省的な作品。 -
The Union / Elton John & Leon Russell
ストリングスとピアノによる豪奢な演奏と、成熟した歌詞世界が響き合うコラボ作。 -
Both Sides Now / Joni Mitchell
オーケストラを背景に人生を振り返る、“静かな告白”のような名盤。
コメント