アルバムレビュー：A Treasury by Nick Drake

アルバムレビュー

2025.04.212025.04.26

発売日: 2004年9月27日（SACD/CDハイブリッド盤）
ジャンル: フォーク、バロック・ポップ、アコースティック

静寂の宝箱——Nick Drake、その“宝物のような14曲”を集めた決定的ベスト盤
収録楽曲レビュー（抜粋）
総評
おすすめアルバム

静寂の宝箱——Nick Drake、その“宝物のような14曲”を集めた決定的ベスト盤

『A Treasury』は、Nick Drakeの代表曲を高音質リマスターで収録したベストアルバムであり、名もなき天才が遺した静かで繊細な音楽たちを、宝石のように一つ一つ手のひらに載せていくような編集盤である。

本作は通常のCDとしても再生可能なSACDハイブリッド仕様で、アナログ録音特有の温もりを損なうことなく、Nickのギターの爪弾きや息遣いまでもが美しく再現されている。
収録曲はすべて彼の3枚の公式アルバムおよび未発表音源から厳選されており、「静かな入り口」としても、「深い再訪」としても機能する稀有なコンピレーションとなっている。

選曲とマスタリングは、Island Recordsのアーカイブ監修によるもので、Nick Drakeを初めて聴く者にとっても、長年のファンにとっても価値のある“時を超えた贈り物”である。

収録楽曲レビュー（抜粋）

1. Introduction（『Bryter Layter』）
Nickの音楽世界への扉を開くインストゥルメンタル。たった1分の中に、すでに宇宙がある。

2. Hazey Jane II（『Bryter Layter』）
軽快なホーンと美しいギター。Nickの“外向き”な音楽性が最も顕著に表れた一曲。

3. River Man（『Five Leaves Left』）
Nick Drake最大の代表曲のひとつ。不安定な5拍子の流れが、時間の迷路を作り出す。

4. Cello Song（『Five Leaves Left』）
弦楽とギターが絡み合う名曲。まるで森の奥から聴こえてくるような、神秘的な音の交差。

5. Pink Moon（『Pink Moon』）
Nickの“声とギター”だけで完成された、孤独と光の結晶。夜明けと終焉の境界を描いたような短く深い一曲。

6. From the Morning（『Pink Moon』）
『Pink Moon』のラストを飾る朝のうた。再生、光、穏やかな希望がそっと置かれる。

7. Black Eyed Dog（『Time of No Reply』）
Nick Drake晩年の象徴曲。死の影を“黒い犬”に託した、ほとんど魂の断片のような歌。

総評

『A Treasury』は、Nick Drakeの音楽を“再発見”ではなく“再体験”させるための、音の宝箱のような作品である。
新しい未発表曲は含まれていないが、それぞれの楽曲がかつてないほどクリアに、そして親密に響くように再構築されており、あたかも耳元でNickが弾き語っているかのような錯覚を生む。

本作の価値は、単なるベスト盤としての利便性にとどまらない。
それはNick Drakeという存在そのものが、いまも誰かの心の中でひっそりと生き続けているという証拠でもある。

その静けさ、儚さ、やさしさに触れたとき、私たちはきっとこう思うだろう。
「これは、失われた何かをそっと思い出させてくれる音楽なのだ」と。