
発売日: 1977年11月1日
ジャンル: プログレッシブ・ロック、アートロック、ジャズロック、ポップロック
- 断片と余白の中にこそ滲む、バンドの“素顔”
- 全曲レビュー
- 1. Tiger in a Spotlight
- 2. When the Apple Blossoms Bloom in the Windmills of Your Mind I’ll Be Your Valentine
- 3. Bullfrog
- 4. Brain Salad Surgery
- 5. Barrelhouse Shake-Down
- 6. Watching Over You
- 7. So Far to Fall
- 8. Maple Leaf Rag
- 9. I Believe in Father Christmas
- 10. Close But Not Touching
- 11. Honky Tonk Train Blues
- 12. Show Me the Way to Go Home
- 総評
- おすすめアルバム
断片と余白の中にこそ滲む、バンドの“素顔”
『Works Volume 2』は、同年3月に発表された『Works Volume 1』の続編として1977年にリリースされた作品である。
前作が2枚組・各メンバーの個性を極限まで押し出した野心作であったのに対し、本作はコンパクトな1枚組で、より自由で断片的な小品集としての趣を持っている。
多くの楽曲は、『Works Volume 1』制作時に生まれたが未収録となったセッション音源や、ソロプロジェクト的な性格を持つ短編であり、統一的なコンセプトは存在しない。
しかしそれゆえに、本作ではELPという巨艦バンドの“素顔”や“遊び心”が露わになる。技巧や重厚さではなく、むしろ軽やかさと親密さが前面に出た、ある意味で貴重な作品なのである。
全曲レビュー
1. Tiger in a Spotlight
ノリの良いブギウギ風ロックで、キース・エマーソンのピアノが冴える一曲。
陽気なサウンドとは裏腹に、リリックには皮肉とユーモアが滲む。
2. When the Apple Blossoms Bloom in the Windmills of Your Mind I’ll Be Your Valentine
長いタイトルが印象的な、短くも華麗なインストゥルメンタル。
エマーソンのシンセとパーマーのリズムが対話する、即興性の高い楽曲。
3. Bullfrog
カール・パーマー主導のジャズ・ファンク寄りなインスト曲。
ホーン・セクションの導入がユニークで、躍動感に満ちている。
4. Brain Salad Surgery
実は前作『Brain Salad Surgery』のセッション時に制作された短編。
戯画的なアプローチで、サーカス音楽とアヴァンギャルドを混ぜたような印象。
5. Barrelhouse Shake-Down
エマーソンによるラグタイム風ピアノ・ナンバー。
1920年代風のノスタルジーと、現代的なスピード感が絶妙にミックスされている。
6. Watching Over You
グレッグ・レイクが歌う、子守唄のように優しいアコースティック・バラード。
父性と慈しみを感じさせる一曲で、アルバム中最も感情に訴えかける瞬間かもしれない。
7. So Far to Fall
ファンク色の強い楽曲で、パーマーのドラミングとレイクのソウルフルな歌唱が印象的。
ポップでありながら複雑な構成を持ち、ELPらしさがにじむ。
8. Maple Leaf Rag
スコット・ジョプリンのラグタイム名曲をエマーソンが再構築。
原曲の優雅さとロック的な荒々しさが共存する見事なカバー。
9. I Believe in Father Christmas
グレッグ・レイクのソロ名義でのヒット曲をELPとして再録。
クリスマスの幻想と失望を描いた歌詞が、クラシカルなアレンジと共に深く響く。
10. Close But Not Touching
カール・パーマーによるインスト。ラテン風のリズムが印象的で、軽快な演奏が魅力。
11. Honky Tonk Train Blues
ジャズピアニストMeade “Lux” Lewisのナンバーをエマーソンが大胆にアレンジ。
演奏技術とショーマンシップが全開で、アルバム屈指のハイライトとなっている。
12. Show Me the Way to Go Home
トラディショナルなナンバーで幕を閉じる、ユーモアと感傷が入り混じった小品。
“家に帰る道を教えて”と歌うその声に、どこかバンドの終焉の予兆すら漂う。
総評
『Works Volume 2』は、バンドとしての「構築美」よりも「小品の集積」によって構成された、ELPのディスコグラフィにおいてやや異色の位置づけを持つアルバムである。
だがそれゆえに、重厚でシリアスなイメージの強いELPの中に、軽妙で人間的な表情、そして実験精神とユーモアが息づいていることを再確認させてくれる。
技巧やコンセプトに疲れた耳にこそ、本作の緩やかな魅力は優しく寄り添ってくるだろう。
それはあたかも、壮麗な交響曲の後にふと響く、シンプルなピアノの旋律のように——。
おすすめアルバム
-
The Beatles – The White Album
断片的かつジャンル横断的な小品集という構造において共通する。 -
**Frank Zappa – Apostrophe (’)
ユーモアと技巧、ジャンルの越境が共存する好例。 -
Rick Wakeman – Rhapsodies
キーボード主体の短編インストゥルメンタルが並ぶ作品。 -
Paul McCartney – McCartney II
遊び心と実験精神が支配するDIYポップスの傑作。 -
Gentle Giant – Interview
構成よりもコンセプトとアイデアの豊かさに重きを置いたプログレ作品。
コメント