アルバムレビュー：Wet Willie by Wet Willie

アルバムレビュー

2025.04.19

発売日: 1971年11月
ジャンル: サザンロック、ブルースロック、R&B

概要
全曲レビュー
総評
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概要

『Wet Willie』は、アメリカ南部アラバマ州モービル出身のバンドWet Willieが1971年にリリースしたデビュー・アルバムであり、彼らの“泥臭くも熱量に満ちた”サザンロックの出発点を記録した一枚である。
Allman Brothers BandやLynyrd Skynyrdと並び、70年代アメリカ南部で隆盛した「サザン・ロック」の中でも、Wet Willieは特にR&B色の濃いグルーヴィな作風で異彩を放っていた。

本作では、ジミー・ホール（ヴォーカル／サックス／ハーモニカ）を中心とするメンバーが、ファンキーかつソウルフルな演奏でロックとブルース、R&B、ジャズ、ゴスペルなどの要素をミクスチャーし、南部の湿った空気感を生々しくパッケージしている。
キャプリコーン・レコード所属ということで、マッスル・ショールズ系の影響も色濃く、スタジオの温度と人肌の熱が伝わるような作品となっている。

本作は商業的に大きな成功を収めたわけではないが、後のサザンロック／ブルースロックの土壌に確かな痕跡を残しており、ファンの間では“原点的アルバム”として高い評価を受けている。

全曲レビュー

1. Airport

力強いハモンドオルガンとブルージーなギターが交錯する、ミッドテンポのロックナンバー。
“空港”というモチーフを、逃避と出発の象徴として描き、ジミー・ホールのヴォーカルが哀愁とエネルギーを同時に響かせる。

2. Red Hot Chicken

サザンファンクとR&Bのグルーヴを感じさせる軽快なナンバー。
ジャム感の強い演奏と、ひねりの効いたユーモアある歌詞が融合し、Wet Willieらしいラフな魅力が滲み出る。

3. Shout Bamalama

オーティス・レディングによる楽曲のカバー。
原曲のソウルフルな熱量を保ちつつ、よりラウドでラフなロックに昇華されており、ライブ感満載の仕上がり。
ホーンセクションと掛け合うヴォーカルが圧巻。

4. Teaser

ブルース調の哀感漂うスロー・ナンバー。
“じらす女”を描いた典型的なブルース・テーマながら、サックスの合いの手やファルセットなど、アレンジが粋で飽きさせない。

5. No Good Woman Blues

重心の低いリズムとエッジの効いたギターが印象的なブルースロック。
“ダメな女に惚れた男の哀しみ”という題材を、笑いと苦味のあいだで巧みに描く。
ヴォーカルの表現力が際立つ。

6. Mother’s Hall

スローなイントロから徐々に高揚していく、スピリチュアルな展開を持つ曲。
ゴスペル風のコーラスと、オルガンの持続音が印象的で、“母の部屋”を通して失われた温もりを描いているようにも聴こえる。

7. Dirty Leg

グルーヴィーなベースとリズミカルなドラムが牽引するファンク寄りのナンバー。
“汚れた脚”という象徴的なフレーズは、セクシャルなニュアンスと社会風刺を絡めたものであり、ステージ映えする勢いを持つ。

8. Have a Good Time

アルバムの締めくくりにふさわしい、陽気でソウルフルなパーティー・チューン。
“楽しもうぜ”という単純で普遍的なメッセージを、全身で表現するような熱演。
ブラスとコーラスが絡み合い、ライブさながらの盛り上がりを見せる。

総評

『Wet Willie』は、サザンロックというジャンルが単なる“白人ブルース・ロック”の焼き直しではなく、R&Bやソウル、ファンクといった黒人音楽の影響を真正面から受け止めて再構築する、混血的で開かれたジャンルであることを証明した重要作である。
ジミー・ホールの表現力豊かなヴォーカルと、土臭くも洗練されたバンドのアンサンブルは、同時代のAllman Brothers Bandの“ジャム的展開”とは異なり、より短く引き締まった構成と、ダンサブルなリズムで勝負している点が特徴的だ。

アルバム全体からは、酒場のステージに立つ若きバンドの熱気と、南部の蒸し暑い空気がそのまま立ち上ってくるようであり、聴き手の身体を無意識に揺らす力を持っている。
のちにヒットする“Keep On Smilin’”に至るまでの布石としても、本作は非常に重要であり、サザンロックの初期衝動を記録したドキュメントとしても貴重である。