アルバムレビュー：When the Eagle Flies by Traffic

アルバムレビュー

2025.04.19

発売日: 1974年9月
ジャンル: プログレッシブロック、ジャズロック、フォークロック

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム（5枚）
- 関連記事:

概要

『When the Eagle Flies』は、Trafficが1974年に発表した7作目のスタジオ・アルバムにして、オリジナル・ラインナップによる最終作となった作品である。
過去作で培われたジャズロック的アンサンブルやスピリチュアルな世界観を踏襲しつつ、より内省的でミニマルな表現へとシフトしており、バンドとしての“終幕の気配”が静かに漂っている。

レコーディングには、スティーヴ・ウィンウッド（ヴォーカル／キーボード／ギター）、ジム・キャパルディ（ドラムス／歌詞）、クリス・ウッド（サックス／フルート）に加え、再びマッスル・ショールズ組のリズム隊（ロジャー・ホーキンス、デヴィッド・フッド）も参加。
しかし、セッション中のメンバーの健康問題や創作上の対立もあり、結果的にTrafficは本作を最後に一度解散を迎えることとなった。

アルバム全体には、70年代中期の社会不安や環境問題への意識が背景にあり、タイトルの「鷲が飛ぶとき」という象徴も、自由と崩壊、希望と終末の二重性を孕んでいる。
その音楽は派手さこそないが、音数を絞った緻密な演奏と、静かな緊張感に満ちた空気感が魅力であり、Trafficのキャリアを静かに締めくくるにふさわしい作品となっている。

全曲レビュー

1. Something New

フォーキーなイントロとメロディが心地よい、控えめなオープニング・ナンバー。
“新しい何か”を求める姿勢は、音楽的にも精神的にも転機を感じさせる。
ウィンウッドのヴォーカルは穏やかで、しかしどこか遠くを見つめているようでもある。

2. Dream Gerrard

本作最長の10分超えトラックで、幻想的かつ内省的なサウンドスケープを構築。
クリス・ウッドのサックスがリードを取り、ミニマルなリズムと浮遊感あるオルガンがゆるやかに揺れる。
“ジェラードの夢”という象徴的なタイトルには明確な意味はないが、それゆえに夢のように曖昧で美しい。

3. Graveyard People

ミッドテンポのグルーヴに乗せて、都市の荒廃と死のイメージを描いた暗示的なナンバー。
“墓場の人々”というタイトルが示すように、環境破壊や人間の無自覚な破滅性を内包するメッセージソング。
ファンク的なリズムと重たいオルガンが印象的。

4. Walking in the Wind

Traffic後期の代表曲ともいえる、穏やかでグルーヴィなミディアムナンバー。
“風の中を歩く”という詩的なタイトルが象徴するように、変化の中で揺れ動く人間の心象風景を描いている。
ベースラインとリズムセクションの滑らかさが際立つ佳曲。

5. Memories of a Rock n’ Rolla

ジム・キャパルディがリード・ヴォーカルをとるブルージーな一曲。
“ロックンローラーの記憶”というノスタルジックな視点が、キャパルディの歌声と共に静かに響く。
過去を振り返るようなメランコリーが印象深い。

6. Love

繰り返しの多い構成とストイックな演奏が特徴的な、内面志向のスローナンバー。
“愛”という普遍的テーマを取り上げつつ、感情を爆発させるのではなく、抑制されたトーンで表現している。

7. When the Eagle Flies

アルバムのタイトル曲にして、静かで崇高なクロージング・ナンバー。
“鷲が飛ぶとき”という象徴的なモチーフを通じて、破局と再生、希望と別れの余韻が同時に流れ込むような深さがある。
ピアノとストリングス風シンセの織りなす音像が、アルバム全体を見事に締めくくる。

総評

『When the Eagle Flies』は、Trafficというバンドが最終的にたどり着いた“沈黙と緊張の美学”の結晶であり、音楽的派手さよりも、精神性と内面性に重きを置いた深淵な作品である。
演奏の一つひとつが必要最小限に留められ、静かなる対話のように響く本作は、“語らずして語る”という境地に達している。

70年代中盤の社会的疲弊や音楽シーンの変化を反映しながらも、Trafficはここで自らのスタイルを決して誇張せず、むしろ“引き算の美学”によってその世界を閉じた。
結果的に本作は、ロックの熱狂とは一線を画した、瞑想的で詩的な“音の祈り”となった。

ラストにふさわしい静謐さと余韻を持つ本作は、派手な代表曲の陰で語られることが少ないものの、Trafficというバンドの深さを理解するためには不可欠な一枚である。