パティ・ラベル――ソウルを体現するディーヴァの軌跡

パティ・ラベル。

その名を耳にすると、ソウルフルで圧倒的な歌唱力を誇るディーヴァの姿が思い浮かぶだろう。

1960年代から歌手として活動を開始し、グループ「ラベル」での華々しい成功、そしてソロへと至る長きにわたるキャリアの中で、彼女はR&Bやソウルの世界に数々の輝きをもたらしてきた。

ひときわ力強いボーカルと、ステージでの生き生きとしたパフォーマンス。

パティ・ラベルの存在は、多くのアーティストやリスナーを鼓舞し続けている。

ここでは、彼女の背景や音楽スタイル、代表曲とアルバム、そして業界に与えた影響に迫りながら、その魅力を存分に味わってみよう。

グループ時代――「パティ・ラベル&ザ・ブルーベルズ」から「ラベル」へ

パティ・ラベルの本名はパトリシア・ルイーズ・ホルト。

アメリカのペンシルベニア州フィラデルフィアに生まれた彼女は、教会でゴスペルを歌いながら豊かな声量を鍛え上げていった。

1960年代はR&Bグループが数多く台頭していた時代であり、彼女も10代の頃に「パティ・ラベル&ザ・ブルーベルズ（後のラベル）」としてプロの道を歩み始める。

当初は古典的なドゥーワップのスタイルからスタートし、次第にディスコやファンクの要素を取り入れていくことで、独自のサウンドを獲得していった。

このグループは後に「ラベル」と名を変え、1970年代の音楽シーンで際立つ存在感を放つことになる。

1974年にリリースされた「Lady Marmalade」は、世界的に大ヒットを記録。

きらびやかなディスコサウンドと挑発的な歌詞、そしてパティ・ラベルのパワフルなボーカルが華やかに交錯し、歌姫としての地位を確立するきっかけとなった。

この曲は後の世代でも何度もカバーされ、ポップ・ミュージック史の名曲のひとつとして輝きを放ち続けている。

グループ「ラベル」の成功を経て、パティ・ラベルはソロ活動へと本格的に舵を切る。

1970年代後半から1980年代にかけての彼女の作品は、ゴスペルのルーツを軸にしながら、ファンク、R&B、そしてポップスの要素を巧みに絡め取り、幅広いリスナーを獲得していった。

例えば「If Only You Knew」（1983年）のようなバラード曲では、ゴスペル仕込みの熱いフェイクと情感たっぷりの表現力が炸裂。

一方、「New Attitude」（1984年）は映画『ビバリーヒルズ・コップ』のサウンドトラックとして大ヒットし、彼女の弾むようなボーカルと勢いあるビートが、ダンスフロアやラジオを賑わせた。

これらの楽曲によって、パティ・ラベルは“パワーボイスの持ち主”としてだけでなく、“ジャンルを超えて楽しませてくれるショーマン”としての魅力も示すことになった。

さらに、マイケル・マクドナルド、グラディス・ナイト、アレサ・フランクリンなど、同時代の実力派アーティストとも積極的にコラボレーションを重ねる。

これらのデュエットや共演を通じて、ソウル・R&Bという枠を超えた多彩な音楽的交流が生まれ、パティ・ラベルは“時代の音”を追求し続ける革新的なボーカリストとして高く評価された。

パティ・ラベルのボーカルは、しばしば“ドラマティック”と評される。

その特徴的なポイントは、以下のような要素に集約される。

ゴスペル由来の表現力 幼少期から教会で歌い、ゴスペルによって鍛えられた声量とリズム感が、パティ・ラベルの核となっている。彼女のライブ映像を観るとわかるが、歌うたびにエネルギッシュなシャウトやメロディアスなフェイクが生まれ、その度に観客が歓声を上げるほどの説得力を持っている。
芯のあるハイトーン ただ高音域が出せるだけでなく、そのトーンがしっかりと強く伸びるのが特徴だ。大きな音量で響くハイトーンは、時に聴き手の心をダイレクトに揺さぶるような迫力を生む。
感情のダイナミズム バラードでは深い切なさを、ファンクやディスコナンバーでは弾けるような喜びを――曲の性質に合わせて感情の色をガラリと変えられる柔軟性もまた魅力的。サウンドに溶け込みながらも、圧倒的な存在感で曲全体を引き上げることができる希有なシンガーなのだ。

こうしたボーカルスタイルによって、パティ・ラベルは聴き手の感情を大きく揺り動かし、ステージでのパフォーマンスに熱狂をもたらしている。