アルバムレビュー:Run with the Pack by Bad Company

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発売日: 1976年2月21日
ジャンル: ハードロック、ブルースロック、アリーナロック


群れと孤独のあいだで吠える音——鋼の絆と陰影を纏った第3作

Run with the Pack』は、Bad Companyが1976年にリリースした3枚目のスタジオ・アルバムであり、彼らのサウンドが成熟と深化を見せ始めた“静かな転機”ともいえる作品である。
前2作の成功により“アリーナロックの雄”と目された彼らは、本作でバンドとしての結束(=Run with the Pack)と個々の孤独を同時に描く、より内省的な世界観へと踏み込んでいる。

本作ではロジャースのボーカルがさらに円熟し、ミック・ラルフスのギターもよりソウルフルかつ多彩に。
また、サイモン・カークのタイトなドラミングと、ボズ・バレルの安定したベースが“群れ”としての土台を強固に支えている。
全体にわたって、荒々しさと繊細さ、都会性と叙情性がバランスよく同居する、70年代中期のBad Companyらしさが凝縮された一枚である。


全曲レビュー

1. Live for the Music

軽快なリフと爽快なテンポで幕を開ける、音楽への純粋な賛歌
ライヴのオープナーにふさわしい高揚感と、無駄を削ぎ落としたアンサンブルの美しさが光る。

2. Simple Man

ロジャースらしいブルース的な説得力が炸裂する、男の誇りと孤独を歌うスロウ・ナンバー。
ラルフスのギターが語りかけるように響き、力強い中にも静けさを湛えている。

3. Honey Child

グルーヴィーでキャッチーなロックンロール。
女性に翻弄される男心をユーモラスに描きつつ、バンドの演奏が軽やかに跳ねる、まさにアリーナ仕様の好ナンバー。

4. Love Me Somebody

フォーキーな質感と切なさを併せ持つバラード。
“誰かに愛されたい”という普遍的な願いを、装飾の少ないアレンジでじっくりと歌い上げる

5. Run with the Pack

タイトル曲にしてアルバムの核心。
ピアノとギターが交錯し、孤独な魂が“群れ”の中で自分の居場所を求めるような、静かでドラマティックな構成が印象的。
バンドとしての結束と、個の感情が同時に鳴り響く名曲。

6. Silver, Blue & Gold

ファン人気の高い抒情的ロックバラード。
タイトル通り色彩を感じさせるようなメロディラインと、ロジャースの美しい歌唱が胸を打つ。
一切の派手さはないが、聴くほどに沁みる珠玉の一曲。

7. Young Blood(The Coastersカバー)

1950年代R&Bナンバーのカバーで、ロジャースのルーツを感じさせる軽快なポップロック調アレンジ。
原曲の無邪気さを保ちながら、Bad Company流のタフさが加わっている。

8. Do Right by Your Woman

アコースティック主体で紡がれる、誠実さと後悔を滲ませたスロー・ナンバー。
フォーク/ソウル的感性に基づいた優しい楽曲で、アルバムに温かみを添える。

9. Sweet Lil’ Sister

骨太なギターとロックンロールの王道感が溢れるアップテンポな楽曲。
Bad Company流“兄貴と妹”ソングだが、どこか危うい距離感と情熱が同居している。

10. Fade Away

ラストにふさわしい、人生の終わりや別れをテーマにした抒情バラード。
“フェードアウト”していくようなアレンジが、感傷と悟りの境界を静かに描くエンディングとなっている。


総評

『Run with the Pack』は、Bad Companyが“荒削りなロックバンド”から“成熟した表現者”へと進化したことを証明する一枚である。
豪快なナンバーだけでなく、静けさ、繊細さ、思索的なテーマがバンドサウンドの中にしっかりと組み込まれた構成力の高さは、本作の特筆すべきポイントだ。

ロジャースのヴォーカルは、この時期特に冴えわたり、時に吠え、時にささやき、聴く者の感情を揺さぶる。
ハードロックでありながら、魂に寄り添うような温もりと人間味を感じさせる――それこそが、Bad Companyが他のバンドと一線を画していた理由なのだろう。

“群れと共に走る”というタイトルにふさわしく、仲間と音を重ねる喜び、そしてその中に潜む孤独をも見つめた、奥行きあるロックアルバム。


おすすめアルバム

  • Paul Rodgers『Cut Loose』
     ロジャースのソロ作品。バッド・カンパニーの感性をより内省的に表現。
  • The Rolling Stones『Black and Blue』
     ブルースロックと都会的な洗練が共存する、同時代的傑作。
  • Free『Tons of Sobs』
     より粗削りなブルースロックの原点として聴き比べたい一枚。
  • Foreigner『Double Vision』
     アリーナロックとしてのBad Companyと比較可能な、洗練された大衆性を持つ作品。
  • The Doobie Brothers『Takin’ It to the Streets』
     ブルースとソウルの融合が、精神的な成熟を伴って展開される好例。

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