
発売日:1970年1月23日
ジャンル:Progressive Rock / Psychedelic Rock / Pop Rock
概要
Argentは、The Zombies解散後のロッド・アージェントがラス・バラード、ジム・ロッドフォード、ボブ・ヘンリットと結成したArgentのデビュー・アルバムである。The Zombiesではオルガンと作曲の両面で中心人物だったアージェントだが、新バンドではより厚いリズム隊とロック色の強いギターを取り入れ、1960年代的な洗練されたポップから、1970年代のハード・ロックやプログレッシブ・ロックへ橋を架けるような音を作った。ラス・バラードも作曲とボーカルで大きな役割を担い、最初から単独のリーダーだけに依存しない編成になっている。
サウンドの核にあるのはアージェントのハモンド・オルガンだが、鍵盤だけが前面に出るわけではない。ギター、ベース、ドラムの演奏はThe Zombies時代より力強く、曲によってはブルースやソウル、ハード・ロックの感触まで入り込む。一方で、コーラスやコードの動きには1960年代英国ポップの繊細さが残っており、後年のArgentほどプログレッシブな構成へ振り切れてはいない。
その意味で本作は、過去の延長と新しい方向性がまだ混在しているアルバムである。短くまとまったポップ・ソングと、オルガンを中心に展開する長めの曲が並び、バンドがどの方向へ進むかを試している段階がそのまま記録されている。後の代表曲「Hold Your Head Up」に直結する重量感はすでに見えるが、同時にThe Zombiesから受け継いだメロディの柔らかさもはっきり残っている。
全曲レビュー
1. 「Like Honey」
アルバム冒頭から、ハモンド・オルガンとギターを重ねた厚い音が前へ出る。メロディ自体には1960年代ポップの滑らかさがあるが、ドラムとベースはそれを以前より強く押し出し、バンドとしての重量感を示している。甘さを意味する題名とは対照的に、演奏はややざらついており、ArgentがThe Zombiesとは異なるロック・バンドとして始まったことを分かりやすく伝える。
2. 「Liar」
ラス・バラード作の代表的な初期曲で、後にThree Dog Nightのカバーでも広く知られるようになった。短く切るギター、力強いリズム、サビで大きく広がるボーカルという構造が明快で、複雑な展開より一つのフックを強く押し出す。相手の不誠実さを責める歌詞も直接的で、Argentの中では特にハード・ロックへ近い感触を持つ。
3. 「Be Free」
オルガンの存在感を保ちながら、より開放的なメロディを前面に出す曲である。自由を求める題材は当時のロックでは珍しくないが、ここでは大げさな政治性より個人の解放感として聞こえる。コーラスの柔らかさとリズム隊の力強さがうまく共存し、The Zombies的なポップ感覚と新しいバンドの音が自然に接続している。
4. 「Schoolgirl」
比較的簡潔なポップ・ソングで、軽快なリズムと親しみやすい旋律が中心になる。アルバムの中でも1960年代の英国ポップに近い感触を持ち、複雑な鍵盤展開より歌の流れを優先している。こうした曲が入ることで、本作が最初からプログレッシブ・ロックに専念していたわけではなく、ポップ・バンドとしての基礎を保っていたことが分かる。
5. 「Dance in the Smoke」
長めの構成を持ち、オルガンとリズム・セクションの動きをじっくり聴かせる。短いヴァースとサビだけで終わらず、演奏部分を広げることで、Argentが今後プログレッシブな方向へ進む兆候をはっきり見せる曲だ。煙の中で踊るという題名に合う少し幻想的な雰囲気もあり、サイケデリック・ロックから70年代ロックへの移行期らしい響きを持っている。
6. 「Lonely Hard Road」
題名通り孤独や困難を扱うが、演奏は沈み込みすぎず、歌を前へ進める一定の力を保つ。ギターとオルガンが互いに空間を取り合わず、ボーカルを支える形で配置されているため、アルバム中でも特にオーソドックスなロック・ソングとしてまとまっている。華やかな技巧より、バンドの基礎的な演奏力が見える一曲だ。
7. 「The Feeling’s Inside」
内側にある感情を扱う歌詞と、抑えた入りから少しずつ厚くなるアレンジが対応している。アージェントの鍵盤は派手なソロへ進むより、コードの響きを広げる役割を担い、ボーカルの感情を支える。サビではコーラスが加わって視界が開けるため、個人的な感情が外へ解放されていくような構造になっている。
8. 「Freefall」
題名の「自由落下」を思わせるように、演奏には前へ転がっていく感覚がある。リズム隊が強く、オルガンも細かな装飾より勢いを優先しており、アルバム後半で再びロック色を濃くする。完全にハード・ロックへ寄るわけではなく、メロディの滑らかさを残している点がArgentらしい。
9. 「Stepping Stone」
ギターと鍵盤を均等に使ったタイトな曲で、リズムも比較的直線的である。誰かに利用されるだけの存在にはならないという題材は、短く強いフレーズと相性がよく、バラードよりも攻撃的な演奏が選ばれている。ラス・バラードのロック志向がバンドの音に与えていた影響を理解しやすい曲でもある。
10. 「Bring You Joy」
最後はタイトル通り、前向きな感触を持つ曲で締めくくられる。オルガンとコーラスが温かく広がり、アルバム中盤にあった重さや幻想性から少し離れて、メロディそのものを素直に聞かせる。派手な大団円ではないが、初期Argentが持っていたポップ・バンドとしての親しみやすさを残しながら終えるため、デビュー作全体の性格によく合っている。
総評
Argentは、完成された一つのスタイルを提示した作品というより、複数の可能性が同時に動いているデビュー作である。アージェントのハモンド・オルガン、バラードのギターと作曲、強いリズム隊という組み合わせはすでに機能しているが、曲によってポップ、ハード・ロック、サイケデリア、プログレッシブ・ロックの比重が大きく変わる。そのばらつきが、逆にバンド形成期の面白さになっている。
The Zombiesとの違いは、リズムの押し出し方に最もよく表れている。The Zombiesではピアノやオルガン、複雑なコーラスが繊細なポップを作っていたのに対し、Argentではベースとドラムが前へ出て、鍵盤もロックの推進力を担う。「Liar」のような曲ではギターを中心に直接的な強さを見せ、「Dance in the Smoke」では長い展開を使い、同じメンバーでも曲ごとに異なる重心を選んでいる。
一方、本作には後年のArgentほど明確な個性がまだ固まりきっていない部分もある。短いポップ・ソングの中には1960年代の延長に聞こえるものもあり、長尺曲にも後の作品ほど大胆な構成はない。ただし、それは未熟さだけを意味しない。時代そのものがサイケデリック・ポップからハード・ロック、プログレッシブ・ロックへ動いていた時期に、バンドが複数の方向を実際に演奏しながら探していた記録として価値がある。
後のAll Together Nowで「Hold Your Head Up」のような強烈なオルガン・ロックへ到達することを考えると、本作はその原型を確認できる作品である。同時に、アージェントのメロディ感覚とバラードの簡潔なロック作曲がまだ均等に存在しているため、Argentのキャリア全体を理解する入口としても重要だ。派手な代表曲だけでは見えにくい、ポップとプログレッシブ・ロックの間にいた初期バンドの姿が最も素直に残されている。
おすすめアルバム
Odessey and Oracle by The Zombies
ロッド・アージェントがArgent結成以前に制作した1968年の代表作。繊細なオルガン、複雑なコーラス、洗練されたメロディが中心で、本作でその作曲感覚がより力強いロックへどう変化したかを比較できる。
Ring of Hands by Argent
翌1971年のセカンド・アルバム。デビュー作にあった複数の方向性を保ちながら、オルガンを軸にした長めの構成や重い演奏をさらに押し進めており、初期Argentの発展を追ううえで自然な次作である。
All Together Now by Argent
1972年作で、「Hold Your Head Up」を収録。ハモンド・オルガンの重量感、力強いリズム、長い演奏展開がより明確になり、デビュー作で試していたプログレッシブ/ハード・ロック路線が完成形に近づいている。
In the Court of the Crimson King by King Crimson
1969年に発表され、英国ロックが長尺曲や大規模な構成へ進む流れを決定的に示した作品。Argentほどポップ寄りではないが、サイケデリアの先へ進もうとする同時代の空気を比較するのに適している。
Vanilla Fudge by Vanilla Fudge
ハモンド・オルガンを大きく前へ出し、ポップ・ソングを重いロックへ変形した1967年作。Argentとは作曲の方向が異なるものの、鍵盤をギターと同等の迫力を持つロック楽器として扱う発想に近いものがある。

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