
発売日:2014年6月16日
ジャンル:インディー・ダンス、エレクトロ・ポップ、ニュー・レイヴ、シンセポップ、ダンス・ロック、オルタナティヴ・ポップ
概要
Klaxonsが2014年に発表した3作目のスタジオ・アルバム『Love Frequency』は、2000年代後半の英国インディー・シーンを象徴したバンドが、ニュー・レイヴの騒がしい残響から離れ、より明確にダンス・ポップ/エレクトロ・ポップへ接近した作品である。デビュー作『Myths of the Near Future』(2007年)でKlaxonsは、ポストパンク・リバイバル、レイヴ・カルチャー、インディー・ロック、SF的な言葉遣いを結びつけ、当時のUKロックにおける「ニュー・レイヴ」という象徴的なムーヴメントの中心に置かれた。その後の『Surfing the Void』(2010年)では、デビュー作の蛍光色の高揚から一転し、Ross Robinsonのプロデュースによる重厚なサイケデリック・ロックへ進んだ。
『Love Frequency』は、その二つの極の後に生まれた作品である。つまり、デビュー作の祝祭的なダンス・ロックと、セカンドのヘヴィで混沌としたロック性を経たうえで、バンドがより洗練された電子音楽的な方向へ向かったアルバムといえる。ギター・バンドとしての荒々しさは大きく後退し、シンセサイザー、プログラミング、ダンス・ビート、滑らかなヴォーカル・メロディが中心となる。かつてのKlaxonsが、レイヴのエネルギーをインディー・ロックへ持ち込んだ存在だったとすれば、本作ではロック・バンドの身体性を、クラブ・ミュージック以後のポップ・フォーマットへ移し替えようとしている。
アルバム・タイトルの「Love Frequency」は、「愛の周波数」と訳せる。KlaxonsらしいSF的な語感を持ちながら、同時に非常にポップで直接的な言葉でもある。ここでの愛は、伝統的なラブソングの親密さだけを指すのではなく、電波、振動、交信、共鳴、集合的な高揚と結びついている。人と人が同じ周波数でつながること、身体がビートに同期すること、恋愛感情が電子的な信号のように流れること。『Love Frequency』というタイトルは、Klaxonsがかつて得意とした宇宙的・未来的なイメージを、よりロマンティックでダンサブルなポップへ変換したものといえる。
本作の制作には、James Murphy、Tom Rowlands、Erol Alkan、Gorgon Cityなど、ダンス・ミュージックやエレクトロニック・ポップの文脈で重要なプロデューサーたちが関わっている。このことからも分かるように、『Love Frequency』はロック・アルバムというより、クラブ・ミュージックやシンセポップの構造を取り込んだ作品として設計されている。LCD Soundsystem的なダンス・パンクの知性、The Chemical Brothers的なビッグ・ビート以後の電子音響、Erol Alkan周辺のインディー・ダンス感覚が、Klaxonsの持つ高音域のコーラスやSF的な言葉遣いと結びついている。
ただし、本作はKlaxonsのディスコグラフィの中でも評価が分かれやすい。『Myths of the Near Future』のような時代を巻き込む衝撃や、『Surfing the Void』のような過剰なロック的圧力は薄い。代わりに、曲はより滑らかで、ポップで、プロダクションも整っている。しかしその整い方は、Klaxonsがかつて持っていた奇妙さや危うさを弱めたとも言える。つまり『Love Frequency』は、バンドが自分たちのエネルギーをポップ化しようとした作品であり、その試みの成果と限界が同時に刻まれたアルバムである。
音楽的には、ニュー・レイヴという言葉が持っていた「ロックとクラブの衝突」ではなく、ロック・バンドがクラブ・ポップの中へ完全に溶け込もうとする感覚が強い。ギターはしばしば装飾的で、リズムの中心は電子的なビートに移り、シンセサイザーの質感がアルバム全体を支配する。ヴォーカルも以前より滑らかで、サビはよりポップに開かれている。歌詞では、愛、光、周波数、夢、身体、夜、運命といった言葉が繰り返され、Klaxonsの抽象的な世界観が、よりロマンティックで快楽的な方向へ変化している。
日本のリスナーにとって『Love Frequency』は、Klaxonsをニュー・レイヴの象徴として聴く場合、やや意外な作品に感じられる可能性がある。『Atlantis to Interzone』のような荒々しい爆発や、『Echoes』のようなサイケデリックな疾走を期待すると、本作は明らかに丸い。しかし、2010年代前半のインディー・バンドがダンス・ポップへ接近していく流れ、そしてロック・バンドがクラブ・ミュージック以後のサウンドに自分たちを適応させようとした試みとして聴けば、本作は非常に興味深い。『Love Frequency』は、Klaxonsが自らの奇妙な宇宙的感覚を、より明るく、滑らかで、恋愛的な電子ポップへ変換しようとしたアルバムである。
全曲レビュー
1. A New Reality
オープニング曲「A New Reality」は、アルバム全体の方向性を宣言する楽曲である。タイトルは「新しい現実」を意味し、Klaxonsが過去のニュー・レイヴ像やセカンド・アルバムのヘヴィなロック性から離れ、別の音楽的空間へ入ろうとしていることを示している。かつてのKlaxonsは「近未来の神話」や「虚無のサーフィン」といった言葉で現実を拡張してきたが、本作ではその拡張が、よりポップで電子的な「新しい現実」として提示される。
音楽的には、シンセサイザーとダンス・ビートが前面に出ており、ギター・ロック的な荒さはかなり抑えられている。リズムは直線的で、クラブ・ミュージックの感覚に近い。ヴォーカルは高揚感を持ちつつも、以前のような騒々しい叫びではなく、整えられたポップ・ソングの中に配置されている。冒頭曲として、アルバムがロックの混沌よりも、電子的な明瞭さへ向かうことをはっきり示している。
歌詞では、変化、新しい世界への移行、現実認識の更新がテーマとなる。Klaxonsにとって現実とは固定されたものではなく、音、光、身体、意識によって変化するものだった。「A New Reality」は、その考えをダンス・ポップの形で提示する。ここでの新しい現実は、政治的な革命というより、感覚の変化、周波数の切り替えに近い。アルバムの入口として、バンドの再定義を象徴する曲である。
2. There Is No Other Time
「There Is No Other Time」は、本作の代表曲であり、Klaxonsが最も明確にポップ・ダンスへ接近した楽曲である。プロデュースにはGorgon Cityが関わっており、UKガラージやハウス以後のダンス・ポップ感覚が強く反映されている。タイトルは「他に時間はない」と訳せるが、これは今この瞬間を肯定するダンス・ミュージック的なメッセージとも、時間の切迫感を示す言葉とも受け取れる。
音楽的には、非常に滑らかで、ビートはクラブ向きに整理されている。ベースラインは弾力があり、シンセサイザーは明るく、ヴォーカル・メロディは親しみやすい。初期Klaxonsのようなギターの荒い衝突や、奇妙な不安定さは少なく、むしろ洗練されたエレクトロ・ポップとして機能している。この曲は、バンドがインディー・ロックの枠を超えて、より広いダンス・ポップのリスナーへ接近しようとしたことを示している。
歌詞では、今しかない時間、愛や身体の高揚、瞬間への没入が描かれる。Klaxonsの過去の歌詞には未来や宇宙のイメージが多かったが、ここでは未来よりも「今」が強調される。これはダンス・ミュージックの本質とも結びついている。踊る身体にとって重要なのは、過去や未来ではなく、現在のビートである。「There Is No Other Time」は、KlaxonsのSF的時間感覚を、クラブ的な現在性へ置き換えた楽曲である。
3. Show Me a Miracle
「Show Me a Miracle」は、奇跡への願望をタイトルに掲げた楽曲である。Klaxonsの音楽には、デビュー時から神秘主義や超常的なイメージが含まれていたが、本曲ではそれがより直接的なポップ・ソングの言葉として表れる。奇跡を見せてほしいという言葉は、恋愛、救済、変化、あるいは失われた高揚を取り戻したい願いとして読むことができる。
音楽的には、明るいシンセサイザーとポップなコーラスが中心で、本作の中でも特に開放的な楽曲である。リズムは軽快で、サウンドはきらびやかだが、どこか人工的な光沢がある。この人工性は、Klaxonsの未来的な世界観と相性がよい。自然な感情をそのまま歌うというより、感情が電子的な光へ変換されているような印象を与える。
歌詞では、奇跡、愛、信じることへの欲望が描かれる。ただし、ここでの奇跡は宗教的なものというより、停滞した日常を一気に変えてくれる出来事への期待に近い。Klaxonsは、現実をそのまま受け入れるのではなく、音楽によって現実を変質させるバンドだった。「Show Me a Miracle」は、その姿勢を、アルバム中でも特にポップで分かりやすい形にした楽曲である。
4. Out of the Dark
「Out of the Dark」は、「闇の外へ」という意味を持つ楽曲であり、本作の中でも比較的内省的なテーマを持っている。タイトルは、暗闇から抜け出すこと、閉塞や不安から光のある場所へ向かうことを示す。『Surfing the Void』で描かれた虚無や暗さを経た後に、この曲が持つ「闇から出る」という言葉は、Klaxonsのキャリア上でも象徴的に響く。
音楽的には、ダンス・ポップの滑らかさを保ちながらも、やや影のある質感を持つ。シンセサイザーは明るく輝くだけでなく、曲全体に少し冷たい空気を与えている。ビートは一定の推進力を持ち、闇から抜け出すというテーマにふさわしく、前へ進む感覚がある。
歌詞では、暗い状態からの脱出、愛や光による回復が示唆される。Klaxonsにおいて光は、しばしば未来、意識の拡張、集団的な高揚と結びつく。本曲では、その光がより個人的な救済として扱われている。『Love Frequency』というアルバム全体が、愛を周波数や信号として捉えていることを考えると、「Out of the Dark」は、その周波数に同調することで闇から抜け出す曲といえる。
5. Children of the Sun
「Children of the Sun」は、タイトルからしてKlaxonsらしい神話的・宇宙的なイメージを持つ楽曲である。「太陽の子どもたち」という言葉は、光、生命、祝祭、古代文明、サイケデリックな共同体を連想させる。デビュー作から続くKlaxonsのSF的・神秘的な言葉遣いが、本作のポップな音像の中にも残っていることを示す曲である。
音楽的には、シンセサイザーの明るい響きと、ダンス・ロック的な推進力が結びついている。サビには開放感があり、アルバムの中でも比較的アンセム的な性格を持つ。かつてのKlaxonsが持っていた集団的な高揚、フェスティバル的な合唱感が、より洗練された形で現れている。
歌詞では、太陽、光、共同体、未来への感覚が描かれる。太陽は生命の源であると同時に、過剰な光、灼熱、破壊の象徴でもある。Klaxonsの音楽において、光は常にポジティブなものだけではない。しかしこの曲では、その危うさよりも、光へ向かう祝祭的な側面が強い。「Children of the Sun」は、『Love Frequency』における明るい宇宙的ポップの代表曲といえる。
6. Invisible Forces
「Invisible Forces」は、「見えない力」を意味するタイトルの楽曲である。これは本作のテーマと非常に深く関係している。周波数、愛、信号、共鳴、引力といった概念は、すべて目に見えない力として人や身体を動かす。Klaxonsは、現実の背後にある不可視のエネルギーを、音楽的なイメージとして扱ってきたバンドであり、この曲はその感覚を明確に表している。
音楽的には、シンセサイザーとリズムが緊密に組み合わされ、曲全体に浮遊感と推進力がある。サウンドは整っているが、どこか不思議な空間性も残っている。ギターよりも電子音が中心となることで、タイトルにある「見えない力」が、物質的なロック・サウンドではなく、電気的な流れとして表現されている。
歌詞では、説明できない引力、愛や運命、感情の見えない作用が示唆される。人は自分の意思で動いているようで、実際にはさまざまな力に引かれている。恋愛も、音楽に身体が反応することも、完全には言語化できない。「Invisible Forces」は、Klaxonsの抽象的な世界観を、本作のエレクトロ・ポップ路線の中でうまく機能させている楽曲である。
7. Rhythm of Life
「Rhythm of Life」は、生命のリズムをタイトルにした楽曲であり、本作のダンス・ミュージック的な側面を象徴している。リズムは単なる音楽的要素ではなく、生きることそのものの比喩として使われている。心拍、呼吸、歩行、踊り、恋愛、社会の流れ。すべては何らかのリズムを持つ。Klaxonsはここで、そのリズムをポップ・ソングとして描く。
音楽的には、ビートが明確で、身体性が前面に出ている。かつてのニュー・レイヴ的な荒いダンス・ロックとは異なり、本曲のリズムはより滑らかで、エレクトロ・ポップ的に整理されている。サウンドは明るく、アルバム全体の中でも聴きやすい部類に入る。
歌詞では、生命、愛、身体、時間の流れが結びつく。Klaxonsにとって、音楽は現実を変えるための装置であり、リズムはその最も直接的な手段である。人はリズムに合わせて身体を動かすことで、個人の境界を一時的に越え、他者や空間と同期する。「Rhythm of Life」は、『Love Frequency』の中心テーマである共鳴を、最も身体的に表現した楽曲である。
8. Liquid Light
「Liquid Light」は、「液体の光」という詩的なタイトルを持つ楽曲である。光は通常、直線的で非物質的なものとしてイメージされるが、それが液体になることで、流動性、触覚性、幻覚的な質感が加わる。Klaxonsらしいサイケデリックな言葉遣いが、本作のポップなサウンドの中で残っている曲である。
音楽的には、柔らかく流れるシンセサイザーと、滑らかなビートが印象的である。曲は強く突進するというより、タイトル通り液体のように流れていく。デビュー作の角ばった勢いよりも、ここでは音の質感や空間性が重視されている。光が流れるようなサウンドは、本作の電子的な美しさをよく表している。
歌詞では、光、感覚、変容、身体が溶けるようなイメージが浮かぶ。液体の光は、固定された形を持たない。これは愛や意識の状態にも重なる。感情は形を持たず、周囲に広がり、身体の中を流れる。「Liquid Light」は、Klaxonsのサイケデリックな抽象性が、ダンス・ポップの中で比較的成功している楽曲である。
9. The Dreamers
「The Dreamers」は、「夢見る者たち」を意味するタイトルを持つ。Klaxonsはデビュー時から、現実をそのまま描くよりも、未来、神話、幻覚、夢の言葉を使って現実を変換するバンドだった。本曲では、その姿勢が直接的にタイトル化されている。夢見る者とは、現実から逃避する者であると同時に、現実とは別の可能性を見る者でもある。
音楽的には、アルバム後半に少し幻想的な空気を与える楽曲である。シンセサイザーは柔らかく、ヴォーカルはメロディアスで、曲全体に浮遊感がある。過剰に高揚するのではなく、少し内側へ沈むような質感を持つ点が特徴である。
歌詞では、夢、想像、共同体、未来への願望が扱われる。Klaxonsの夢は、個人的な眠りの中の夢というより、集団的な幻想に近い。ニュー・レイヴという現象もまた、ある種の共同の夢だった。しかしその夢は長く続かず、ムーヴメントは消費されていった。「The Dreamers」は、その経験を踏まえると、夢を見ることの美しさと儚さを同時に含む曲として響く。
10. Atom to Atom
「Atom to Atom」は、本作の中でも特にKlaxonsらしいSF的なタイトルを持つ楽曲である。原子から原子へ、という言葉は、物質の最小単位、結合、分解、エネルギーの移動を連想させる。『Love Frequency』というアルバムでは、愛や共鳴が電波や振動として扱われているが、この曲ではそれがさらに物質的・粒子的なレベルへと下げられている。
音楽的には、リズムとシンセサイザーが細かく組み合わされ、電子的な質感が強い。ギター・バンドとしてのKlaxonsよりも、エレクトロ・ポップ・グループとしての側面が目立つ。サウンドの粒子が動き回るような印象があり、タイトルのイメージと合っている。
歌詞では、結合、分解、距離、引力のような感覚が読み取れる。人間関係も、身体も、感情も、最終的には無数の粒子やエネルギーの相互作用として捉えられる。Klaxonsは、恋愛や高揚を単なる感情ではなく、宇宙的・物理的な現象として言い換えることを好む。「Atom to Atom」は、その発想を本作のエレクトロニックな音像の中で表現した楽曲である。
11. Love Frequency
ラスト曲「Love Frequency」は、アルバムのタイトル曲であり、本作のテーマを締めくくる楽曲である。愛の周波数という言葉は、恋愛感情を電波や振動として捉える比喩であり、KlaxonsらしいロマンティックなSF感覚を象徴している。目に見えないものが伝わり、身体と意識を同調させる。これは恋愛であると同時に、音楽そのものの働きでもある。
音楽的には、アルバムの終わりにふさわしく、比較的広がりのあるサウンドを持つ。シンセサイザーは柔らかく、ビートは一定の推進力を保ち、ヴォーカルはアルバム全体のテーマをまとめるように響く。派手なロック的爆発ではなく、電子的な余韻の中で終わる点が、本作の方向性をよく示している。
歌詞では、愛、共鳴、周波数、つながりが中心となる。Klaxonsはここで、愛を個人的な感情に閉じ込めず、空間を満たす信号として描く。人と人が同じ周波数に乗ること、音楽を通じて身体が同期すること、光やリズムが感情を媒介すること。『Love Frequency』というアルバムが目指したものは、この曲に集約されている。ラストにこの曲が置かれることで、本作はダンス・ポップとしての快楽と、Klaxons特有の宇宙的な抽象性を結びつけた形で閉じられる。
総評
『Love Frequency』は、Klaxonsのキャリアにおいて最もポップで、最も電子音楽寄りのアルバムである。デビュー作『Myths of the Near Future』がニュー・レイヴの騒がしい象徴であり、セカンド『Surfing the Void』がヘヴィなサイケデリック・ロックへの転換だったとすれば、本作はその後に訪れた、より洗練されたダンス・ポップへの接近である。ここでKlaxonsは、ギター・バンドとしての荒さよりも、シンセサイザー、ビート、フック、メロディの明快さを重視している。
本作の魅力は、KlaxonsのSF的・神秘的な語彙を、クラブ・ポップの滑らかなサウンドへ移し替えようとした点にある。「Love Frequency」「Invisible Forces」「Atom to Atom」「Liquid Light」といった曲名からも分かるように、アルバム全体には、目に見えない信号、振動、光、粒子、共鳴のイメージが広がっている。これはKlaxonsの初期から続く宇宙的な想像力の延長であり、単なるラブソング集ではない。愛はここで、個人間の感情ではなく、音楽や身体を通じて流れるエネルギーとして描かれている。
一方で、本作には明確な弱点もある。サウンドが洗練されたことで、初期Klaxonsにあった奇妙な危うさ、予測不能な衝突、ロック・バンドとしての生々しさは後退している。『Myths of the Near Future』の楽曲には、演奏や構成が荒くても、時代の勢いを巻き込む力があった。『Surfing the Void』には、過剰で重く、時に不器用なほどの野心があった。『Love Frequency』は、そのどちらとも異なり、整っているがゆえに、Klaxonsならではの異物感が弱く感じられる場面がある。
特に「There Is No Other Time」や「Show Me a Miracle」は、非常に聴きやすいポップ・ソングでありながら、同時にKlaxonsが一般的なダンス・ポップの枠に近づきすぎた印象も与える。これは必ずしも悪いことではないが、バンドが持っていた「変な未来感」や「神話的な過剰さ」を求めるリスナーには、物足りなく響く可能性がある。つまり本作は、Klaxonsが大衆的なポップへ接近した成果であると同時に、その接近によって失われたものも見えるアルバムである。
それでも、『Love Frequency』はKlaxonsのディスコグラフィにおいて無視できない作品である。バンドがニュー・レイヴというラベルから完全に離れようとし、2010年代のダンス・ポップやエレクトロニック・ミュージックの文脈に自分たちを置こうとした記録だからである。ポストパンク・リバイバルやダンス・パンクの熱気が落ち着いた2010年代前半、インディー・バンドがどのようにクラブ・ミュージックやポップ・プロダクションと向き合ったのかを考えるうえで、本作は重要な例となる。
歌詞面では、前作のような虚無や重い宇宙観よりも、愛や光、共鳴、奇跡といったポジティブな言葉が増えている。しかし、それらは単純な幸福の表現ではなく、Klaxonsらしく抽象化されている。愛は感情であると同時に周波数であり、奇跡は宗教的救済であると同時にポップな高揚であり、光は美しさであると同時に電子的な信号でもある。この曖昧さが、本作の独自性を支えている。
日本のリスナーにとって『Love Frequency』は、Klaxonsの代表作として最初に聴くべき作品というより、バンドの変化を理解するために重要なアルバムである。『Myths of the Near Future』の熱狂、『Surfing the Void』の重厚な混乱を経た後に聴くことで、本作のポップ化が単なる方向転換ではなく、バンドが自分たちの未来像を探した結果であることが見えてくる。ダンス・ポップやシンセポップとして聴けば、非常に親しみやすい曲も多い。一方で、Klaxonsの過剰な奇妙さを求める場合は、その整い方に距離を感じるかもしれない。
『Love Frequency』は、Klaxonsが愛と電子的共鳴をテーマに、自分たちのニュー・レイヴ的過去をポップな周波数へ変換しようとしたアルバムである。完全な成功作というより、変化の痕跡がはっきり見える作品であり、その意味で非常に興味深い。バンドの最も鋭い瞬間ではないが、彼らが単なる一時代のムーヴメントではなく、サウンドを変えながら自分たちの未来的想像力を保とうとしたことを示している。光、愛、リズム、信号が混ざり合う本作は、Klaxonsの終盤を飾る、滑らかで少し儚いエレクトロ・ポップ作品である。
おすすめアルバム
1. Klaxons – Myths of the Near Future(2007年)
Klaxonsのデビュー作であり、ニュー・レイヴを象徴する重要作。「Golden Skans」「Atlantis to Interzone」など、インディー・ロック、レイヴ、サイケデリア、SF的な言葉遣いが勢いよく混ざり合っている。『Love Frequency』のポップ化を理解するには、まずこの初期の熱狂を聴く必要がある。
2. Klaxons – Surfing the Void(2010年)
セカンド・アルバムであり、デビュー作の軽快なダンス・ロックから、よりヘヴィでサイケデリックなロックへ向かった作品。『Love Frequency』とは対照的に、ギターの厚みと混沌が前面に出ている。Klaxonsがどのようにニュー・レイヴ以後の方向性を模索したかを知るうえで重要である。
3. LCD Soundsystem – Sound of Silver(2007年)
ダンス・パンク、エレクトロ、ポストパンク、クラブ・ミュージックを知的かつ感情的に融合した名盤。『Love Frequency』に関わるJames Murphyの音楽的背景を理解するうえでも重要であり、ロック・バンド的な感覚とダンス・ミュージックの接続を考える際の基準となる作品である。
4. Hot Chip – One Life Stand(2010年)
エレクトロ・ポップとダンス・ミュージックの中に、愛や親密さ、日常的な感情を織り込んだ作品。『Love Frequency』のロマンティックな電子ポップ感覚と関連性が高い。クラブ的なビートと温かいメロディの両立を理解するうえで有効なアルバムである。
5. Late of the Pier – Fantasy Black Channel(2008年)
Klaxonsと同時代の英国インディーにおける、過剰でSF的なシンセ・ロックの代表的作品。『Love Frequency』よりも荒く、ニューウェイヴやプログレ的な展開が強いが、未来的な言葉遣い、電子音、インディー・ロックの衝突という点でKlaxonsと深く共鳴している。

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