
発売日:2007年1月29日
ジャンル:ニュー・レイヴ、インディー・ロック、ダンス・パンク、ポストパンク・リバイバル、サイケデリック・ロック、エレクトロ・ロック
概要
Klaxonsが2007年に発表したデビュー・アルバム『Myths of the Near Future』は、2000年代後半の英国インディー・シーンを象徴する作品であり、「ニュー・レイヴ」という言葉とともに一時代の熱気を作り出したアルバムである。Klaxonsは、Jamie Reynolds、James Righton、Simon Taylor-Davisを中心に結成されたロンドンのバンドで、インディー・ロックのギター、ポストパンクの鋭いリズム、レイヴ・カルチャーの蛍光色の高揚、SFや神秘思想を思わせる歌詞を混ぜ合わせた独自のスタイルで注目を集めた。
本作が登場した2007年は、2000年代前半のポストパンク・リバイバルが一つの成熟期を迎えた後の時期である。The Strokes、Franz Ferdinand、Bloc Party、The Rapture、Yeah Yeah Yeahsなどによって、ロックとダンス・ミュージックの接点はすでに広く共有されていた。そこにKlaxonsは、より派手で、より幻想的で、よりレイヴ的な色彩を持ち込んだ。彼らはダンス・パンクの冷たさや知的な鋭さだけでなく、1990年代レイヴ文化の祝祭性、サイケデリックな感覚、そしてSF的な言葉遊びを取り込むことで、当時の英国インディーに新しい視覚的・音楽的イメージを与えた。
アルバム・タイトル『Myths of the Near Future』は、J.G.バラードの短編集『Myths of the Near Future』から取られている。近未来の神話という言葉は、Klaxonsの音楽を非常によく表している。彼らの歌詞には、古代神話、終末論、宇宙、時間、錬金術、文学的引用、幻覚的イメージが断片的に現れる。しかし、それらはプログレッシヴ・ロックのように重厚な物語として構築されるのではなく、クラブの光、インディー・ロックの疾走、若者文化の混乱の中で、きらめく記号として配置される。つまりKlaxonsは、未来を語りながら、同時に過去の神話やロック史の断片を再利用するバンドだった。
本作の最大の特徴は、音楽的な雑食性である。ギター・リフはポストパンク的に角ばり、リズムはダンス・ミュージックの反復を取り込み、ヴォーカルはしばしば高音で合唱的に重なり、シンセサイザーや電子的な音響が楽曲に蛍光色の光を与える。一方で、演奏は決して完全に整っているわけではなく、むしろ荒く、勢い任せで、時に混乱している。その荒さが、当時のKlaxonsの魅力だった。彼らは完璧なクラブ・ミュージックを作るバンドではなく、クラブの熱狂をロック・バンドの身体に無理やり流し込む存在だった。
「ニュー・レイヴ」という言葉は、しばしばメディア主導のラベルとして批判的に語られる。実際、Klaxons自身もこの言葉に完全に収まるバンドではない。彼らの音楽にはレイヴ的な高揚がある一方、歌詞や曲名には文学的で難解な参照が多く、サウンドも単純なダンス・ミュージックとは異なる。だが、このラベルが当時の空気を捉えていたことも確かである。蛍光色の服、ライブハウスとクラブの境界、インディー・キッズが踊る文化、インターネット時代の流行の速さ。『Myths of the Near Future』は、そうした2000年代後半の若者文化の一瞬を、過剰な色彩と速度で記録した作品である。
本作は、2007年のマーキュリー賞を受賞し、Klaxonsを一気に英国インディーの中心へ押し上げた。しかし、その成功は同時にバンドを特定の時代的イメージに閉じ込めることにもなった。後の『Surfing the Void』(2010年)では、彼らはより重厚なサイケデリック・ロックへ進み、『Love Frequency』(2014年)ではよりエレクトロ・ポップ的な方向へ向かったが、Klaxonsという名前が最も強く結びついているのは、やはりこのデビュー作の熱狂である。
日本のリスナーにとって『Myths of the Near Future』は、2000年代UKインディーの祝祭的な側面を知るうえで重要なアルバムである。Franz FerdinandやBloc Partyがロックとダンスを知的に接続したとすれば、Klaxonsはそれをより雑多で、蛍光色で、SF的なパーティーへ変えた。完成度の高さだけで測る作品ではなく、時代の空気、過剰な若さ、メディアと音楽が一体となった瞬間を聴くアルバムである。
全曲レビュー
1. Two Receivers
オープニング曲「Two Receivers」は、アルバム全体の不思議な世界へ入る導入部として機能する楽曲である。タイトルは「二つの受信機」を意味し、電波、通信、信号、意識の接続といったイメージを呼び起こす。Klaxonsの音楽では、愛や身体の衝動だけでなく、情報や信号、宇宙的な交信のようなものがしばしば重要なモチーフとなる。この曲は、その感覚を冒頭から提示している。
音楽的には、シンセサイザー的な質感とギター、反復するビートが混ざり合い、ロック・バンドでありながら電子的な空間を作る。曲は大きく爆発するというより、アルバムの世界観へ徐々に誘導するように進む。ヴォーカルは高く、どこか非人間的な響きを持ち、歌詞の通信的なイメージとよく合っている。
歌詞では、二つの受信機が互いに信号を拾うような感覚が読み取れる。これは人間関係の比喩でもあり、音楽を通じた共鳴の比喩でもある。Klaxonsにとって、音楽とは単なる演奏ではなく、異なる意識や身体が同じ周波数に乗ることでもある。「Two Receivers」は、後の『Love Frequency』にもつながる、周波数と共鳴のテーマを早くも示している楽曲である。
2. Atlantis to Interzone
「Atlantis to Interzone」は、Klaxonsの初期衝動を象徴する代表曲であり、本作のニュー・レイヴ的なイメージを最も強烈に刻みつけた楽曲である。タイトルには、失われた伝説の大陸アトランティスと、ウィリアム・バロウズの作品世界を思わせるInterzoneが並べられている。古代神話とビート文学的な異空間が同時に置かれることで、曲は最初から現実離れした速度と混乱を帯びる。
音楽的には、鋭いギター、性急なビート、叫ぶようなヴォーカル、電子的なサイレンのような音が一体となり、アルバム中でも特に爆発力のある曲になっている。ダンス・ミュージックの反復性はあるが、クラブ的な整ったグルーヴというより、ロック・バンドが暴走しながらダンス・ビートを飲み込んでいるような感覚が強い。曲は短く、過剰で、騒がしく、まさにニュー・レイヴという言葉が持つ雑多な魅力を体現している。
歌詞は断片的で、明確な物語を語るわけではない。しかし、アトランティスからインターゾーンへという移動のイメージは、現実の地理を超えた精神的・文化的なワープを示している。Klaxonsは、若者の夜遊びやクラブの高揚を、SF的で神話的な旅へ変換する。この曲は、ロンドンのインディー・シーンの混乱を、まるで失われた文明から異次元都市へ向かう儀式のように鳴らしている。
3. Golden Skans
「Golden Skans」は、Klaxons最大の代表曲の一つであり、本作の中で最もポップな完成度を持つ楽曲である。タイトルは、J.G.バラードの短編「The Drowned Giant」やその周辺の近未来的イメージを連想させると同時に、黄金色の光、幻想的な空間、未知の地図のような感覚を呼び起こす。曲名自体は抽象的だが、音楽は非常に開かれており、聴き手を一気に引き込む。
音楽的には、ギターとシンセサイザーがきらめくように重なり、コーラスは合唱的で、Klaxonsの中でも最も美しいメロディを持つ。リズムは踊れるが、過度に攻撃的ではなく、浮遊感と高揚感が絶妙にバランスしている。デビュー作の荒々しさの中で、この曲だけは特に洗練され、ポップ・ソングとしての強度を持っている。
歌詞では、光、夜、移動、記憶、未来のようなイメージが断片的に現れる。明確なラブソングでも、単純なパーティー・ソングでもないが、曲全体には強い解放感がある。黄金色のスキャン、あるいは視界を照らす光のような感覚が、サウンドに反映されている。
「Golden Skans」は、Klaxonsが単なる騒がしいニュー・レイヴ・バンドではなく、非常に優れたメロディ・メーカーでもあったことを示している。時代の象徴としての価値だけでなく、2000年代UKインディーの名曲として現在も聴かれるべき楽曲である。
4. Totem on the Timeline
「Totem on the Timeline」は、タイトルからしてKlaxonsらしい神秘的な言葉の組み合わせを持つ楽曲である。トーテムは部族や共同体の象徴、信仰の対象を意味し、タイムラインは時間の流れや歴史、あるいは現代的には情報の流れを示す。つまりこの曲名は、時間の上に置かれた象徴、過去と未来を貫く記号のようなイメージを持つ。
音楽的には、鋭いギターと軽快なリズムが中心で、アルバム前半の勢いを保っている。曲は比較的コンパクトで、Klaxonsの持つポストパンク的な角ばったグルーヴがよく表れている。ヴォーカルは高揚感を持ちながらも、どこか呪文のように響く。
歌詞では、時間、象徴、歴史の中に刻まれる存在のようなテーマが読み取れる。Klaxonsは、日常的な感情を直接歌うより、抽象的な記号を並べることで、聴き手にイメージを喚起するバンドである。「Totem on the Timeline」は、その方法がよく表れた曲であり、バンドの言葉遣いがいかにSF、神話、現代的な情報感覚を同時に含んでいるかを示している。
5. As Above, So Below
「As Above, So Below」は、古代の神秘思想やヘルメス主義に由来する有名な言葉をタイトルにした楽曲である。「上にあるものは下にもある」というこの表現は、宇宙と人間、天上と地上、精神と物質が対応しているという考えを示す。Klaxonsの世界観において、この言葉は非常に自然に機能している。彼らはクラブの身体的な高揚と、宇宙的・神秘的なイメージを結びつけるバンドだからである。
音楽的には、曲は疾走感と浮遊感を併せ持つ。ギターは鋭く、リズムは前へ進み、ヴォーカルは重なりながら上昇していく。歌詞の神秘的なテーマに対して、サウンドは過度に荘厳ではなく、むしろロック・バンドらしい勢いを保っている。この軽さがKlaxonsらしい。彼らは神秘思想を重々しい儀式としてではなく、踊れるポップの中に放り込む。
歌詞では、上下、対応、鏡像、宇宙的な秩序のようなイメージが浮かぶ。だが、それは哲学的に説明されるのではなく、断片的なフレーズとして現れる。Klaxonsの魅力は、このような大きな概念を、若者文化のスピードとサウンドの中で消費し、再神話化する点にある。「As Above, So Below」は、その神秘的なポップ感覚を象徴する楽曲である。
6. Isle of Her
「Isle of Her」は、本作の中でも比較的奇妙で、物語性のある楽曲である。タイトルは「彼女の島」を意味し、孤立した場所、女性性、幻想の空間、到達しがたい対象を連想させる。Klaxonsの歌詞には、場所がしばしば現実の地理ではなく、精神的・神話的な空間として現れる。この曲の「島」も、単なる地図上の場所ではなく、欲望や記憶が作り出す異世界のように響く。
音楽的には、やや不穏で、アルバムの中でも独特のリズムと雰囲気を持つ。ギターとリズムは前のめりだが、メロディには奇妙なねじれがある。ヴォーカルは語りのようでもあり、曲全体に寓話的な印象を与えている。
歌詞では、航海、孤立、女性像、幻想への接近のようなイメージが読み取れる。島は魅力的であると同時に閉じられた場所であり、そこへ向かうことは冒険であると同時に危険でもある。Klaxonsは、こうした神話的なモチーフを用いながら、それを古典的な物語に整理せず、インディー・ロックの短い断片として提示する。「Isle of Her」は、本作の中でもバンドの異物感が強く表れた曲である。
7. Gravity’s Rainbow
「Gravity’s Rainbow」は、トマス・ピンチョンの同名小説を連想させるタイトルを持つ楽曲であり、Klaxonsの文学的参照の中でも特に象徴的である。ピンチョンの『Gravity’s Rainbow』は、第二次世界大戦、ロケット、性、陰謀、情報、歴史の断片が混ざり合う複雑な小説であり、Klaxonsの断片的で過剰な歌詞世界と相性がよい。
音楽的には、初期Klaxonsらしい荒いエネルギーが前面に出ている。ギターは性急で、リズムは跳ね、ヴォーカルは高く叫ぶように重なる。デビューEP期からの勢いを感じさせる曲であり、本作の中でもインディー・ロック的な衝動が強い。
歌詞では、重力、虹、落下、上昇、速度、科学的・神秘的イメージが混ざり合う。タイトルの通り、自然現象と人工的な弾道、色彩と暴力、未来と崩壊が一つの言葉に含まれている。Klaxonsはこうした巨大な概念を、難解なプログレ的長編ではなく、短く騒がしいロック・ソングへ圧縮する。
「Gravity’s Rainbow」は、Klaxonsが持つ知的参照と若いバンドの荒い演奏が同時に表れた曲である。難解な文学的タイトルを掲げながら、音は直感的で踊れる。そのギャップこそが、彼らの個性だった。
8. Forgotten Works
「Forgotten Works」は、「忘れられた作品」を意味するタイトルを持つ楽曲である。過去に作られたが記憶から消えたもの、歴史の隅に追いやられたもの、あるいは自分たちが参照する文化的断片のことを示しているように響く。Klaxonsの音楽は、まさに忘れられた神話、古いSF、文学、レイヴ文化の残骸を拾い上げ、それを近未来的なポップへ変換するものだった。
音楽的には、アルバムの中でやや落ち着いた位置にありながら、独特の不安定さを持つ。ギターとリズムは反復的で、ヴォーカルはどこか遠くから響くように配置されている。曲全体には、記憶の中から何かを掘り出すような感覚がある。
歌詞では、失われたもの、忘れられた文化、記憶の断片がテーマとして浮かぶ。Klaxonsは、過去の作品や思想をそのまま復元するのではなく、それらを断片的に引用し、別の文脈へ放り込む。「Forgotten Works」は、バンドの文化的なコラージュ感覚を象徴する曲であり、本作のタイトルにある「神話」の意味を補強している。
9. Magick
「Magick」は、Klaxonsの神秘主義的な側面を最も直接的に示す楽曲である。通常の「Magic」ではなく、オカルティズムやアレイスター・クロウリー的な文脈を連想させる「Magick」という綴りが使われている点が重要である。ここでの魔術は、単なる手品や幻想ではなく、意識や現実を変える行為としての魔術に近い。
音楽的には、鋭いギターと勢いのあるリズムが中心で、サウンドは攻撃的かつキャッチーである。Klaxonsの楽曲の中でも、ライブでの高揚が想像しやすい曲であり、ニュー・レイヴ的なエネルギーが強く表れている。ヴォーカルの高音の重なりは、呪文のような印象を与え、タイトルの魔術的なイメージとよく合っている。
歌詞では、変容、力、儀式、意識の拡張のようなテーマが感じられる。Klaxonsにとって音楽は、現実を一時的に変える魔術のようなものでもある。クラブやライブ会場で身体がビートに同期し、日常の感覚が変化する。その体験を「Magick」という言葉で表現していると考えられる。
「Magick」は、Klaxonsが持つレイヴ的な祝祭性とオカルト的な言葉遣いが最も分かりやすく結びついた曲である。単純に踊れるだけでなく、踊ること自体を一種の儀式として響かせている。
10. It’s Not Over Yet
「It’s Not Over Yet」は、Graceによる1990年代のトランス/ダンス・アンセムをカバーした楽曲であり、本作におけるレイヴ文化への接続を最も明確に示している。Klaxonsはこの曲を、単なる懐かしさとしてではなく、インディー・ロックの文脈へ移し替えている。原曲が持っていたクラブ的な高揚を、ギター、バンド・アンサンブル、合唱的なヴォーカルによって再構成している点が重要である。
音楽的には、メロディの強さが際立っている。Klaxonsのオリジナル曲の多くが断片的で記号的な言葉遣いを持つのに対し、この曲はより明確なアンセム性を持つ。サビの「まだ終わっていない」というメッセージは、シンプルで力強く、アルバム終盤に大きな感情的な開放感を与える。
歌詞では、終わりそうな関係や状況に対して、まだ可能性が残されていることが歌われる。Klaxonsの文脈では、この言葉はレイヴ文化の残響、若者文化の高揚、あるいは近未来への信仰とも重なる。終わりかけているものを、音楽によってもう一度延命させるような曲である。
このカバーは、Klaxonsが単なるロック・バンドではなく、1990年代ダンス・ミュージックの記憶を自分たちの音楽へ取り込んだ存在であることを示している。『Myths of the Near Future』というアルバムの中で、この曲は過去のレイヴの記憶と、2000年代インディーの現在をつなぐ役割を果たしている。
11. Four Horsemen of 2012
ラスト曲「Four Horsemen of 2012」は、アルバムを終末論的なイメージで締めくくる楽曲である。タイトルは、聖書の黙示録に登場する「四騎士」と、当時まだ未来だった2012年を組み合わせている。2012年はマヤ暦終末論などを通じて、2000年代にしばしば終末の象徴として語られた年であり、Klaxonsはそれをポップでサイケデリックな終末イメージとして取り込んでいる。
音楽的には、アルバムの最後にふさわしく、混沌としたエネルギーを持つ。リズムは前へ進み、ギターとヴォーカルは重なり合いながら、終末的な祝祭のような空気を作る。明確な解決を示すというより、未来へ向かって騒がしく開いたまま終わる印象がある。
歌詞では、終末、予言、未来への不安、神話的な騎士のイメージが断片的に現れる。だが、その終末は重苦しい恐怖としてではなく、踊りながら迎える未来のように描かれる。Klaxonsにとって、終末とは破滅であると同時に、最高のパーティーのようなものでもある。この軽さと不気味さの同居が、彼らの個性をよく示している。
「Four Horsemen of 2012」は、『Myths of the Near Future』を締めくくるにふさわしい曲である。近未来の神話は、最終的に終末論へ向かう。しかし、その終末は暗黒ではなく、蛍光色の光と騒音に包まれている。Klaxonsは未来への不安を、ダンス可能な神話へ変換してアルバムを閉じる。
総評
『Myths of the Near Future』は、2000年代後半の英国インディー・ロックを語るうえで欠かせないアルバムである。本作は、音楽的な完成度だけでなく、時代の空気をどれほど強く捕まえたかという点で重要である。ニュー・レイヴという言葉は後にやや軽薄な流行語として扱われることも多いが、このアルバムを聴くと、そのラベルが単なる宣伝文句ではなく、当時のロックとクラブ文化の接近、若者文化の速度、メディアの熱狂を確かに反映していたことが分かる。
本作の音楽は、整然としたダンス・ミュージックではない。むしろ、ギター、シンセサイザー、叫ぶようなヴォーカル、疾走するリズム、文学的なタイトル、SF的な断片が未整理なまま衝突している。その未整理さがKlaxonsの魅力である。彼らは完璧な演奏や洗練されたプロダクションで時代を代表したのではなく、過剰な記号と若いエネルギーを一気に放出することで時代を象徴した。
歌詞面では、現実的な生活描写は少ない。代わりに、アトランティス、インターゾーン、トーテム、重力の虹、魔術、終末の四騎士といった言葉が並ぶ。これらは一見すると意味が分散しているが、アルバム全体として見ると、近未来の神話を作るための素材として機能している。Klaxonsは、現代の若者文化を直接説明するのではなく、それを神話やSFの言葉へ変換することで、より奇妙で鮮烈な世界観を作り出した。
本作の中心には、身体と知性の奇妙な結合がある。曲名や歌詞は文学的・神秘的である一方、サウンドは踊ることを強く促す。難解な参照を理解しなくても、「Atlantis to Interzone」や「Magick」は身体に直接届く。逆に、ただのパーティー・ソングとして聴いても、曲名や歌詞の断片が奇妙な余韻を残す。この二重性がKlaxonsの個性であり、彼らを単なるダンス・ロック・バンド以上の存在にしている。
アルバムの中でも「Golden Skans」は特に重要である。この曲は、本作の混沌の中にあるポップな美しさを最も明確に示している。Klaxonsがもし単なる騒がしい流行バンドであれば、このような持続力のあるメロディは生まれなかっただろう。「Golden Skans」の存在によって、『Myths of the Near Future』は一時的なムーヴメントの記録に留まらず、2000年代インディー・ポップの名盤としての価値も持っている。
一方で、本作には時代性の強さゆえの限界もある。ニュー・レイヴという流行と強く結びついたため、後年に聴くと、当時のファッションやメディアの空気を知らないリスナーには、やや過剰で散漫に感じられる部分もある。また、歌詞の参照は魅力的である一方、深く掘り下げられるというより、記号として消費されている面もある。しかし、その表層性や速度感こそが、2000年代後半のインターネット以後のインディー文化をよく表しているとも言える。
音楽史的には、本作はポストパンク・リバイバルの終盤に現れた、より派手でレイヴ的な変種として位置づけられる。Franz FerdinandやBloc Partyがロックとダンスの関係を比較的タイトに整理したのに対し、Klaxonsはそれをもっと混沌とした祝祭へ変えた。後のインディー・ダンス、エレクトロ・ポップ、フェス向けのロック・サウンドにも、本作の影響は間接的に残っている。
日本のリスナーにとって『Myths of the Near Future』は、2000年代UKインディーの一つの極点として聴くべき作品である。完璧なアルバムというより、時代の熱気がそのまま封じ込められたアルバムである。聴き手はここで、ロック・バンドがクラブ・カルチャー、文学、SF、神話、ファッション、メディアの熱狂を一気に飲み込み、短期間だけ眩しく発光した瞬間を体験できる。
『Myths of the Near Future』は、近未来の神話を掲げながら、実際には2007年という非常に具体的な時代を記録したアルバムである。未来はここで、永遠に続くものではなく、一瞬だけ光る蛍光色の幻として現れる。Klaxonsはその幻を、荒いギター、踊れるビート、奇妙な言葉、合唱的なメロディで鳴らした。その意味で本作は、ニュー・レイヴの象徴であると同時に、2000年代インディーが持っていた過剰な想像力と儚さを最も鮮やかに示す作品である。
おすすめアルバム
1. Klaxons – Surfing the Void(2010年)
Klaxonsのセカンド・アルバム。デビュー作のニュー・レイヴ的な軽快さから離れ、よりヘヴィでサイケデリックなロックへ向かった作品である。『Myths of the Near Future』の祝祭の後に、バンドが虚無や重さとどう向き合ったかを知るうえで重要な一枚である。
2. Klaxons – Love Frequency(2014年)
Klaxonsの3作目であり、よりエレクトロ・ポップ/インディー・ダンスへ接近した作品。ギターの荒さは後退し、シンセサイザーとダンス・ビートが中心となっている。デビュー作のレイヴ的な要素が、より滑らかなポップへ変換された作品として聴くことができる。
3. Late of the Pier – Fantasy Black Channel(2008年)
Klaxonsと同時代の英国インディーにおいて、ニュー・レイヴやシンセ・ロックの過剰さを代表する作品。ポストパンク、ニューウェイヴ、プログレ、エレクトロが混ざり、非常にカラフルで混沌としている。『Myths of the Near Future』の奇妙な未来感に惹かれるリスナーに適している。
4. The Rapture – Echoes(2003年)
ダンス・パンクの重要作であり、ポストパンク的なギターとクラブ・ミュージックのリズムを結びつけたアルバム。Klaxonsよりも冷たく、ニューヨーク的な緊張感が強いが、ロックとダンスの接続という点で重要な先行例である。
5. Bloc Party – Silent Alarm(2005年)
2000年代UKインディーの代表作。鋭いギター、タイトなリズム、ポストパンク的な緊張感を持ち、ダンス可能なロックとして高い完成度を誇る。Klaxonsの混沌とした祝祭性とは異なり、より知的で構築的なロックとダンスの融合を示している。

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