アルバムレビュー:Credo by The Human League

Spotifyジャケット画像

発売日: 2011年3月21日(UK)
ジャンル: シンセポップ、エレクトロポップ、ニューウェーブ


信じる者の美学——過去と未来の境界線を歩くHuman Leagueの静かな宣言

『Credo』は、The Human Leagueが2011年に発表した通算9作目のスタジオアルバムであり、『Secrets』(2001)から実に10年ぶりの新作として注目された一枚である。
アルバムタイトルの“Credo”とはラテン語で“私は信じる”の意。
そこには、音楽やスタイル、そして自分たち自身に対する確信と再確認の意志が感じられる。

本作はUKのエレクトロポップ・デュオI Monsterをプロデューサーに迎え、モダンなエレクトロ・ビートと80年代的なシンセ・テクスチャーをバランス良く配合。
結果として、懐かしさと新しさ、自己模倣と刷新のせめぎ合いが絶妙に同居する作品となった。
派手なヒットには至らなかったが、“老いてなお鋭い”シンセポップの精神性を保ち続けるバンドの姿勢が、静かな共感を呼んだ。


全曲レビュー

1. Never Let Me Go

アルバムの幕開けを飾る軽快なエレクトロ・ポップ。
「決して手放さないで」というフレーズが、過去の栄光や愛への執着と希望を象徴する。
フィリップ・オーキーのボーカルと、女性陣のコーラスが瑞々しい。

2. Night People

先行シングル。80年代を意識したアグレッシブなシンセとクラブ調ビートが光る。
“夜の住人たち”=ナイトクラバーたちへのオマージュであり、過去の自分たちへの自己投影のようにも聞こえる。

3. Sky

メランコリックなコード感と優しく語りかけるようなボーカルが印象的。
“空”をメタファーにした解放感と寂しさが同居するバラード風エレクトロポップ。

4. Into the Night

浮遊感のあるシンセとリズミカルなベースラインが特徴。
都会の夜を走り抜けるような疾走感と、孤独の甘さがにじむ。

5. Egomaniac

攻撃的なリリックとノイジーなエレクトロが組み合わさった挑発的な一曲。
「エゴの虜になったあの人」への風刺とも、自己批判とも取れるメタ的内容。

6. Single Minded

モノトーンで機械的なビートに乗せて、“ひとつのことしか考えられない”思考の偏りを皮肉る。
シンセのミニマリズムが曲のテーマと響き合う。

7. Electric Shock

タイトル通りのエッジーなエレクトロ・トラック。
衝撃と麻痺、そのスリルを音楽的に具現化したような緊張感ある構成。

8. Get Together

コーラスの美しさが際立つミッドテンポの楽曲。
再結集や絆、共有といったテーマが、シンセの温かみとともに穏やかに表現される。

9. Privilege

特権、優位性といったテーマを扱った社会性のあるトラック。
冷静な語り口のボーカルと、鋭く構築されたサウンドが印象的。

10. Breaking the Chains

“鎖を断ち切る”というタイトルが象徴するように、解放と自己確立をテーマにした楽曲。
軽やかなビートと、決意をにじませるリフレインが耳に残る。


総評

『Credo』は、The Human Leagueが自らのアイデンティティと音楽的信念を再確認した“静かなマニフェスト”である。
ここにあるのは懐古ではなく、原点に戻ることで未来を開こうとする誠実な探求の姿勢だ。

シンセポップがクラシックとなった時代にあって、彼らは懐かしさを演出するのではなく、時間を超えたスタイルとしてのシンセポップを更新しようとしている
それは若々しさや派手さではなく、“信じること”の力強さと持続力によって支えられている。

『Credo』は、おそらく静かに忘れられていったアルバムかもしれない。
だが耳を傾ければ、そこには変わらぬ情熱と、変わりゆく世界への確かなまなざしが、確かに息づいている。


おすすめアルバム

  • OMD – History of Modern (2010)
    同じく80sエレクトロポップの重鎮によるモダンな復帰作。
  • Pet Shop Boys – Elysium (2012)
    静かで洗練されたポップの美学。『Credo』と同様の内省的なエレクトロ感覚を持つ。
  • Goldfrapp – Head First (2010)
    80sシンセポップへの鮮やかなオマージュと現代的アプローチのバランスが光る。
  • Client – Command (2009)
    クールで退廃的な女性エレクトロポップ・ユニット。Human Leagueの系譜に位置づけられる。
  • I Monster – Neveroddoreven (2003)
    本作のプロデューサー陣による作品。レトロでサイケな電子音楽の遊び心と実験精神。

コメント

タイトルとURLをコピーしました