As Tall As Lions(アズ・トール・アズ・ライオンズ)は、米国ニューヨーク州ロングアイランドで結成されたロックバンドである。2000年代を中心に活動し、インディーロック、オルタナティブロック、エモ、R&Bなどを横断する繊細な音楽を作った。
中心となったのは、ボーカルとギターを担当するDan Nigro(ダン・ナイグロ)である。そこにSaen Fitzgeraldのギター、Julio Tavarezのベース、Cliff Sarconaのドラムが加わり、バンドの主要編成となった。
同時代のエモやポストハードコアと共通する感情の激しさを持ちながら、大音量のギターだけに頼らない点が彼らの特徴だ。柔らかなギター、細かく動くリズム、ファルセット、コーラス、広い余白を使い、夜の街を眺めているような幻想的な音を作った。
活動期間は長くなかったが、3枚のスタジオアルバムを通して音楽性を大きく変化させた。後にポップ音楽のプロデューサーとして成功するDan Nigroの、メロディや音作りへの感覚を知るうえでも重要なバンドである。
As Tall As Lionsの背景と歴史
As Tall As Lionsのメンバーは高校時代から一緒に音楽活動をしていた。前身となるバンドでの活動を経て、2000年代初頭にAs Tall As Lionsとして本格的にスタートする。
初期メンバーにはDan Nigro、Saen Fitzgerald、Cliff Sarconaらがいた。2002年にはEP Blood and Aphorisms を自主制作し、その後Triple Crown Recordsと契約する。Julio Tavarezがベースに加わったことで、よく知られる4人編成が固まった。
2004年には最初のフルアルバム Lafcadio を発表する。この頃の音は、後の作品よりもエモやポストハードコアに近い。歪んだギターと感情的なボーカルを使い、曲の途中で静かな部分と激しい部分を切り替えていた。
大きな変化が現れたのが、2006年のセルフタイトル作 As Tall As Lions である。ギターを激しく鳴らすだけではなく、空間を広く使うようになった。ジャズやソウル、R&Bを思わせるリズムも入り、Dan Nigroのファルセットを生かした滑らかなボーカルが前面に出てくる。
この作品によって、As Tall As Lionsは当時のエモ周辺のバンドとはかなり違う存在になった。「Love, Love, Love (Love, Love)」「Stab City」「Ghost of York」など、現在でもバンドを代表する曲の多くがこの時期に生まれている。
2007年にはEP Into the Flood を発表。さらに2009年には3作目 You Can’t Take It with You をリリースした。
このアルバムでは音楽性がさらに広がる。インディーロックだけでなく、暗いR&B、サイケデリックな音、電子的な処理、複雑なリズムなどを取り込み、一曲のなかでも雰囲気が大きく変わるようになった。
しかし、バンド内部ではメンバーそれぞれが異なる音楽的方向を求めるようになっていた。長期間のツアーによる疲労も重なり、2010年に解散を発表する。
その後、2015年には再結成公演を行ったが、本格的な新作制作にはつながらなかった。Dan Nigroはバンド解散後にロサンゼルスへ移り、ソングライター/プロデューサーとして活動。後にOlivia RodrigoやChappell Roanなどの作品を手掛け、現代ポップの重要なプロデューサーの一人となった。
As Tall As Lionsの音楽スタイルと特徴
As Tall As Lionsの音楽で最初に印象に残るのが、Dan Nigroの歌声である。
力強く叫ぶこともあるが、特にセルフタイトル作以降は高く柔らかなファルセットを多く使う。息を含んだような声で歌い、そこへ複数のコーラスを重ねることで、少し遠くから声が聞こえてくるような空間を作る。
ギターも特徴的だ。大きなコードを鳴らし続けるのではなく、短いフレーズや単音を使い、音と音の間に余白を残す。リバーブなどで響きを長くすることで、ギターが背景の景色のように広がる。
そのため、曲は激しくなくても緊張感を持っている。ギターが何も弾かない瞬間や、ボーカルだけが浮かび上がる瞬間も重要な音楽の一部になっている。
リズム隊もAs Tall As Lionsの個性を支えている。ベースとドラムは単純にロックの拍を刻むのではなく、細かく位置をずらしながら動くことがある。そのため、静かな曲でも演奏には独特の揺れがある。
ソウルやR&Bとのつながりも大きい。Dan Nigroのファルセットだけでなく、滑らかなベースやコーラスにもその影響が聞こえる。エモの感情表現とR&Bの柔らかなリズムを同じ曲に入れたことが、As Tall As Lionsを同時代のバンドから区別していた。
As Tall As Lionsの代表曲
「Love, Love, Love (Love, Love)」
2006年の As Tall As Lions を代表する曲である。
静かなギターと柔らかな歌声を中心に、曲が進むにつれて音が少しずつ重なっていく。大きなギターリフで押すのではなく、コーラスや残響を使って空間を広げている。
タイトルの通り愛を扱っているが、単純なラブソングの明るさはない。人を愛することに伴う不安や距離まで感じさせる。As Tall As Lionsの美しさと寂しさが最も分かりやすく表れた曲の一つである。
「Stab City」
セルフタイトル作の冒頭を飾る曲で、バンドのリズム面のおもしろさがよく分かる。
ドラムとベースが細かく動き、その上をギターが鋭く切り込む。Dan Nigroのボーカルも単純にメロディを追うのではなく、演奏の隙間を縫うように入ってくる。
初期の激しいロックを残しながら、より複雑で洗練された演奏へ進んだことが分かる曲だ。
「Ghost of York」
静かで幻想的なAs Tall As Lionsを理解するのに適した曲である。
ギターを大量に重ねるのではなく、少ない音をゆっくり配置している。Dan Nigroの高い声も、演奏の上に乗るというより、周囲の響きに溶け込むように聞こえる。
曲全体に夜のような静けさがあり、セルフタイトル作が持つ独特の空気をよく伝えている。
「Maybe I’m Just Tired」
As Tall As Lions の最後を飾る長編曲である。
静かな演奏から始まり、時間をかけて音の景色を変えていく。短いポップソングのようにサビへ急ぐのではなく、余白そのものを使って感情を作る。
この曲では、As Tall As Lionsがエモやインディーロックだけでなく、プログレッシブ・ロックや実験的な音楽にも近づいていたことが分かる。
「Circles」
2009年の You Can’t Take It with You を代表する曲である。
セルフタイトル作の幻想的なサウンドを残しながら、リズムがさらに前へ出ている。ボーカル、ギター、ベース、ドラムがそれぞれ独立して動きながら、一つの流れを作る。
同じ場所を回り続けるような反復感があり、後期As Tall As Lionsの複雑な曲作りを比較的分かりやすい形で体験できる。
アルバムごとに見るAs Tall As Lionsの進化
Lafcadio(2004年)
As Tall As Lionsのデビューアルバムである。
後の作品と比べるとギターが前面に出ており、2000年代前半のエモやポストハードコアとの共通点が分かりやすい。感情を抑えるより、そのまま外へ放出するような演奏が多い。
一方で、すでに単純なギターロックだけでは終わらない部分もある。静かな場面を挟んだり、曲の途中で雰囲気を変えたりすることで、後の実験的な方向を予告している。
Dan Nigroのメロディ感覚もすでに強い。荒い演奏の中にも耳に残る歌があり、バンドが後により繊細な音へ進む土台となった。
As Tall As Lions(2006年)
バンドの代表作として特に重要なアルバムである。
前作にあったエモ的な激しさを抑え、ギターの間に大きな余白を作った。ファルセットや多重コーラスも増え、音が横にも奥にも広がっていく。
リズムにも変化がある。一般的なロックの力強い8ビートだけではなく、ジャズやR&Bを思わせる柔らかな動きが加わった。
「Stab City」では複雑なバンド演奏、「Love, Love, Love (Love, Love)」では歌と空間、「Ghost of York」では静けさが前面に出る。一枚の中で異なる方向を試しながら、全体には夜のような落ち着いた空気が流れている。
2000年代のエモ周辺から出発しながら、その枠から大きく外へ進んだ作品である。
Into the Flood(2007年)
フルアルバムではなくEPだが、バンドの変化を見るうえで重要な作品である。
セルフタイトル作で完成した幻想的な音を残しつつ、リズムやギターにはさらに実験的な部分が増えた。短い作品ながら、次のアルバムで音楽をさらに広げようとしていたことが分かる。
As Tall As Lionsが一つの成功したスタイルをそのまま繰り返すのではなく、新しい音を探し続けていた時期の記録である。
You Can’t Take It with You(2009年)
As Tall As Lions最後のスタジオアルバムであり、最も幅広い音楽を詰め込んだ作品でもある。
前作までの幻想的なギターロックを残しながら、R&B、ソウル、サイケデリック・ロック、電子音などがさらに強くなった。リズムも複雑になり、曲によって音の印象が大きく変わる。
「Circles」は比較的まとまりのあるロックだが、「Duermete」のような長い曲では、時間をかけて音を変化させていく。スタジオで作り込んだ音と、バンドが一緒に演奏する生々しさの両方を求めた作品だった。
結果的に、この多方向への広がりはメンバーそれぞれの音楽的な関心が離れていった時期とも重なった。完成度の高い作品である一方、As Tall As Lionsというバンドが一つのスタイルに収まりきらなくなっていたことも感じさせる。
As Tall As Lionsが影響を受けた音楽
As Tall As Lionsの初期には、2000年代前半のエモやポストハードコアと共通する感覚がある。静かな部分から突然激しい演奏へ移る構成や、個人的な感情を前面に出したボーカルは、その時代のシーンとつながっている。
しかし、セルフタイトル作以降はソウルやR&Bの要素が重要になった。Dan Nigroのファルセットには、一般的なロックよりもソウルシンガーに近い柔らかさがある。
リズムにもファンクやR&Bの感覚が入り、ベースとドラムが単純なロックより細かく動く。その上に空間の広いギターを置くことで、ロックとソウルの中間に独特の場所を作った。
後期になるとプログレッシブ・ロックやサイケデリックな音との共通点も増える。長い曲や、同じ雰囲気に留まらず途中で景色を変えていく構成がその例である。
As Tall As Lionsが後の音楽に残したもの
As Tall As Lionsは大規模なメインストリーム成功を収めたバンドではなく、活動期間も比較的短かった。そのため、特定のジャンル全体を変えたとまで言うのは難しい。
それでも、2000年代のエモやインディーロックの感情表現を、R&Bやソウルの滑らかさと結びつけた音は独特だった。ギターを大きく鳴らすだけではなく、余白や残響、ファルセットを使って感情を表現する方法は、後のオルタナティブR&Bやインディーロックとも共通する部分がある。
そして現在から見ると、Dan Nigroのその後の活動も興味深い。彼はAs Tall As Lions解散後、プロデューサーとソングライターへ転身し、Olivia RodrigoやChappell Roanなどの作品で大きな成功を収めた。
もちろん、それらのポップ作品がそのままAs Tall As Lionsの延長にあるわけではない。しかし、歌声の細かな感情を生かすこと、音を詰め込みすぎないこと、静かな場面と大きな場面の差を作ることなど、As Tall As Lions時代から確認できる感覚もある。
その意味では、このバンドは2000年代インディーロックの隠れた存在であると同時に、後に現代ポップの重要人物となるソングライターの出発点の一つでもあった。
まとめ
As Tall As Lionsの大きな特徴は、エモの感情的なロックから出発しながら、ソウル、R&B、ジャズ、プログレッシブな曲構成を取り込み、自分たちだけの幻想的な音へ進んだことにある。
特にセルフタイトル作では、Dan Nigroのファルセット、余白の多いギター、細かく動くリズムが自然に結びついた。You Can’t Take It with You ではその方法をさらに広げ、ジャンルを簡単に決められない音楽へ発展している。
わずか3枚のスタジオアルバムで活動を終えたため、残された作品数は多くない。しかし、感情を大音量だけで表現せず、声の響きや沈黙まで音楽の一部として使ったことがAs Tall As Lionsの個性だった。2000年代のインディーロックとエモが持っていた可能性を、より繊細で広い方向へ押し広げたバンドである。


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