1. 歌詞の概要
「stupid」は、Tate McRaeが2020年に発表したデビューEP『all the things i never said』に収録されている楽曲のひとつで、失恋の痛みと矛盾した感情に苛まれる若者の姿を、率直で生々しい言葉で描いた作品である。タイトルの「stupid(バカみたい)」が示すように、自分でも理解しがたい感情や行動に対する自己嫌悪や戸惑いが全体に漂っており、誰もが一度は経験するような恋の未練や理不尽さが、まるで心の叫びのように表現されている。
この楽曲で描かれるのは、相手から受けた傷にもかかわらず、忘れられないという自己矛盾。主人公は、頭では「もう終わった」と理解しながらも、心はまだその人に引き寄せられてしまう。そんな自分自身に対して「どうしてこんなにバカみたいなんだろう」と責める感情が、切実に伝わってくる。傷つけられてもなお、その相手に想いを残してしまう―そんな普遍的な恋の葛藤を、Tate McRaeは静かに、しかし確かに歌い上げている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「stupid」は、Tate McRaeが10代の感性で綴ったリリックと、彼女の内省的で繊細なボーカルが際立つ楽曲である。YouTubeで自作曲を発表していた彼女がインターネット上で注目を集め、RCAレコードと契約を結んだ後、最初に発表されたEPの中でも、ファンから特に支持された一曲であり、彼女の“等身大の感情”を象徴する作品となっている。
制作には、Tate本人に加えて、名ソングライターのRussell ChellやVictoria Zaroが関与しており、ミニマルでピアノ中心のアレンジが、楽曲の感情的な緊張感を引き立てている。とりわけ、感情の起伏が緻密に描かれたメロディラインと、その上にのるTateの儚げな声が相まって、聴き手の心に深く入り込んでくる。
この曲は、2020年初頭にTikTokでの人気も後押しし、彼女の認知度をさらに高めることに貢献した。リリースから間もなくしてSpotifyでもバイラルチャートに登場し、「you broke me first」以前の彼女の代表曲として広く知られるようになった。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「stupid」から印象的なリリックを抜粋し、日本語訳を添えて紹介する。
引用元:Genius Lyrics – stupid
“Only think about him on the weekdays and weekends”
彼のことを考えるのは、平日と週末だけ。
“Only in the mornings and evenings”
朝と夜だけ。
“Only when I wake up and sleep in”
起きたときと、寝るときだけ。
“Oh, my God, should’ve read the warning on the label”
ああ神様、その人には“警告ラベル”でも貼っておくべきだったわ。
“He’s like a curse, he’s like a drug”
彼は呪いみたい、麻薬みたい。
“I guess I’m stupid, I’m stupid in love”
私、バカみたい。バカみたいに恋に落ちてるの。
このように、歌詞は皮肉やユーモアを交えながらも、未練と後悔に揺れる感情が真摯に描かれている。愛することが必ずしも理性的ではいられないという、若者らしい感情のぶつかりがここにある。
4. 歌詞の考察
「stupid」は、恋における“わかっていてもやめられない”という苦しみをリアルに描いた作品である。主人公は、自分がどれだけ傷つけられたかを知っているし、相手がどんな人かも理解している。それでも、感情が理性に勝ってしまう。その状況を「stupid(バカみたい)」という言葉で表現している点が、この曲の最大の魅力だ。
皮肉まじりに「平日と週末だけ、朝と夜だけ」と繰り返す部分は、恋を忘れたつもりでいても実は四六時中考えてしまっているという状態をユーモラスに描いている。しかしその裏側には、どうしようもない感情に支配されてしまっている苦しさがにじむ。愛とはしばしば、理性では説明できない矛盾を抱えている。そうした複雑な感情を、「stupid」という一言に凝縮しているのが、この曲の巧みな点である。
また、リリック全体を通じて主人公は一貫して“自己責任”としてこの恋を受け止めている。相手に怒りをぶつけるのではなく、自分がこんなにも引きずってしまっていることに対して苛立ちを感じている。そこには、幼さではなく、恋愛における“感情の成熟”も感じられる。
Tate McRaeの特徴である内省的な視点と、痛みに寄り添いながらも冷静に語る語り口は、この曲でも存分に発揮されており、まるで心の声をそのまま音にしたかのような親密さがある。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “The One That Got Away” by Katy Perry
過去の恋への後悔と忘れられない感情を歌ったバラードで、「stupid」と感情の構造が近い。 - “Happier” by Olivia Rodrigo
相手の幸せを願いながらも、複雑な未練が残る心情が重なり合う楽曲。 - “Dancing On My Own” by Robyn
相手にもう愛されていないと分かりながらも気持ちが断ち切れない主人公の孤独が、「stupid」に通じる。 - “Back to December” by Taylor Swift
過去を悔やみながらも、その思いに素直に向き合おうとする姿勢が、Tate McRaeのスタイルと共通している。 - “drivers license” by Olivia Rodrigo
感情の揺れ動きと、未練からくる自己疑問が、「stupid」と同じ視点から描かれている。
6. 未成熟さの美学:10代の心をそのまま映し出すポップソング
「stupid」は、Tate McRaeが10代の少女として感じた恋の痛みを、そのままの言葉で描いたからこそ、多くの若いリスナーの心に刺さった。SNSが感情の共有を加速させる現代において、「自分と同じようにバカみたいに恋に落ちて、後悔している人がいる」と知ることは、リスナーにとって大きな慰めになる。
この曲は、完璧で洗練された愛の表現ではない。しかし、だからこそ等身大の感情として受け入れられ、時に涙を誘い、時に笑いを誘う。そして最終的には、「そんな自分でもいい」と思わせてくれる。Tate McRaeの「stupid」は、未熟さを否定するのではなく、そこに美しさを見出したZ世代のバラードとして、長く愛され続けていくだろう。
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