greedy by Tate McRae(2023)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「greedy」は、カナダ出身のシンガーソングライター、Tate McRaeによる2023年のシングルであり、彼女のセカンド・アルバム『THINK LATER』のリードトラックとして発表された楽曲である。この曲では、これまでの彼女の作品に見られた内省的で繊細な感情表現から一歩踏み出し、自信に満ちた大胆な姿が打ち出されている。

歌詞のテーマは、恋愛における自己主張と“選ばれる側”から“選ぶ側”への転換である。主人公は自分の価値をよく理解しており、誰にでも心を開くわけではない。そのミステリアスさや自信が相手を惹きつけ、逆に相手が自分に「貪欲(greedy)」になってしまうという、パワーバランスの逆転を描いている。

従来の「失恋の痛みを乗り越える」ような物語ではなく、自分を軸に恋愛を主導する女性像が提示されており、現代的なフェミニズムとも親和性の高い、強いメッセージ性を持った歌詞となっている。

2. 歌詞のバックグラウンド

「greedy」は、Tate McRaeにとってアーティストとしての成熟を感じさせるターニングポイントとなった作品である。2020年の「you broke me first」では感情の痛みを静かに吐露するようなスタイルだったが、今回の「greedy」ではその内面に秘めていた自信やエネルギーが表にあらわれており、彼女のパフォーマンススタイルの変化も含めて大きな進化が見られる。

本楽曲は、Ryan Tedder(OneRepublicのリーダーであり、AdeleBeyoncéなどへの楽曲提供でも知られる)をはじめ、Jin JinやTyler Spryといったヒットメイカーが制作に携わっており、ポップスとしての洗練されたサウンドと耳に残るメロディラインが際立っている。

TikTokではリリース前から一部音源が使われバイラル化しており、発表直後から各国のSpotifyチャートを上昇し続けた。特にヨーロッパ圏での人気が高く、ドイツ、ノルウェー、オーストリアなどでチャート1位を記録するなど、Tate McRaeのグローバルアーティストとしてのポテンシャルを決定づけた楽曲となった。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「greedy」の中から印象的な歌詞を抜粋し、対訳を紹介する。

引用元:Genius Lyrics – greedy

“He said, ‘Are you serious? I’ve tried, but I can’t figure out’”
彼は言ったの、「本気なの?頑張っても君のことが全然わからないよ」

“‘Why you’re so mysterious? You tell me that you want me back’”
「なんでそんなにミステリアスなんだ?君は僕に戻ってきてほしいって言ったよね?」

“But you won’t let me in, yeah”
でも君は、僕を中に入れてくれない

“You’re just so damn greedy”
君ってほんと、すごく貪欲だね

“Don’t you know that I’m the prize?”
気づいてないの?本当に価値があるのは私なのよ

“You should be lucky just to be mine”
私と一緒にいられるだけでも、ありがたいと思ってほしいわ

このように、歌詞は強気かつ自己肯定感にあふれており、「自分は価値ある存在であり、追われるべき対象である」という姿勢が全編にわたって貫かれている。この新たな女性像は、現代のリスナーに強く訴えかける要素となっている。

4. 歌詞の考察

「greedy」は、恋愛における主導権を誰が持つかというテーマにおいて、極めて現代的な答えを提示している。これまでのラブソングにありがちな「相手に振り回される」「愛を乞う」という構造とは正反対に、Tate McRaeは自分こそが“賞品(prize)”であり、相手はそれを得るために努力すべきだと歌う。

この逆転の構図は、Z世代を中心に広がる“自己愛”や“セルフブランディング”の価値観とリンクしており、自分を卑下せず、むしろ大切に扱うことの重要性をリスナーに示している。特に「Don’t you know that I’m the prize?」という一節は、まさにその象徴的なフレーズであり、恋愛に限らず、自己肯定を促すアンセムとしても機能している。

また、「greedy」という言葉には、相手が自分を求めすぎているという意味と、自分が恋愛において妥協しないという意味が重ねられており、ダブルミーニングが巧みに織り込まれている点も注目に値する。

楽曲全体としては、ポップでありながらもリリックに強いパーソナリティが込められており、Tate McRaeのアーティスト像の変化を如実に反映している。この曲は、彼女が“悲しみを歌う少女”から“自信を持って愛を主張する女性”へと成長したことを象徴する楽曲である。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “Confident” by Demi Lovato
    自己肯定感と強さを前面に押し出したポップ・アンセムで、「greedy」と同様に自分を主張する女性像が描かれている。

  • “Look What You Made Me Do” by Taylor Swift
    怒りや復讐心を自分の力に変えたリリックと、挑発的なトーンが共通している。

  • “IDGAF” by Dua Lipa
    別れた相手への毅然とした態度と、クールな自己主張が「greedy」にも通じる。

  • good 4 u” by Olivia Rodrigo
    過去の恋人に対して強気なスタンスを取る姿勢が共通し、エネルギッシュなパフォーマンスも魅力。

  • “7 rings” by Ariana Grande
    ラグジュアリーと独立心、自信に満ちた女性像を祝福するような曲で、「greedy」と似た力強さを持っている。

6. セクシーでミステリアスな新境地:ビジュアルとパフォーマンスの変化

「greedy」は音楽性だけでなく、Tate McRaeのアーティスト像をビジュアル面でも刷新した楽曲である。これまでのナチュラルで内向的な印象から一変し、MVでは黒のレザースーツに身を包んだセクシーかつミステリアスな姿で登場。ダンスパフォーマンスも高い完成度を誇り、彼女の持つダンサーとしての才能が全面に押し出されている。

また、この曲を披露したTV番組やライブでは、しなやかでダイナミックな振り付けが視覚的にも観客を魅了し、「ただのシンガーソングライター」ではなく「総合的なパフォーマー」としての地位を確立する重要な転換点となった。

「greedy」は、Tate McRaeがZ世代のアイコンとして、音楽だけでなくファッション、ライフスタイル、自己表現のあり方にまで影響を与える存在であることを証明した作品である。

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