
楽曲の概要
「Rock Lobster」は、アメリカ・ジョージア州アセンズで結成されたThe B-52’sが1978年に自主系レーベルDB Recordsから発表したデビュー・シングルである。Fred SchneiderとギタリストRicky Wilsonの共作で、1979年にはChris Blackwellのプロデュースによって再録音され、セルフタイトルのデビュー・アルバム『The B-52’s』に約7分のロング・バージョンが収録された。現在広く知られているのは主にこの1979年版である。
曲の材料は、1960年代のサーフ・ロック、ガレージ・ロック、ダンス・ミュージック、B級映画的なユーモア、意味不明な海洋生物のイメージである。Fred Schneiderの話すようなボーカル、Kate PiersonとCindy Wilsonの奇声に近いコーラス、Ricky Wilsonの鋭いギターを組み合わせ、パンク以後のニューウェーブを徹底的に遊びへ向けた。The B-52’sというバンドの「奇妙だが踊れる」という特徴が、最初からほぼ完成していた曲である。
歌詞の概要
歌詞の舞台はビーチ・パーティーらしき場所だが、そこで起こる出来事にはほとんど現実的な整合性がない。海へ落ちた耳たぶを拾ったらロック・ロブスターだったり、ダイバーが巨大な貝に捕まったりする。その後はエイ、クラゲ、イヌザメ、ナマズ、イッカクなど、実在する海洋生物と奇妙な創作的イメージが次々に登場する。物語を理解するより、言葉から浮かぶ馬鹿馬鹿しい映像を楽しむ歌詞である。
Fred Schneiderによれば、タイトルの発想はアトランタの「2001 Disco」という店から生まれた。そこでは通常のライトショーの代わりに、子犬、赤ん坊、グリルの上のロブスターなどのスライド写真が映されていた。Schneiderはそこから「Rock Lobster」という言葉を思いつき、それをもとに自由連想的な詩を書いた。つまり深い象徴を先に設定して作った曲ではなく、奇妙な言葉の組み合わせ自体が出発点だった。
歌詞の後半では、Schneiderが海洋生物の名前を次々に呼び、それにPiersonとCindy Wilsonが声で反応する。この部分では言葉の意味より音が重要になる。魚の名前が合図になり、人間の声が動物の鳴き声、叫び声、電子音のようなものへ変化していく。歌詞と効果音の境界が消えていくことが、「Rock Lobster」の馬鹿馬鹿しさと楽しさを大きくしている。
制作背景・時代背景
The B-52’sは1976年、Schneider、Pierson、Cindy Wilson、Ricky Wilson、Keith Stricklandの5人によってアセンズで結成された。公式プロフィールによれば、最初のライブは1977年のバレンタインデーに友人宅で行われ、その後ニューヨークへ足を運びCBGBなどにも出演するようになった。当時のパンク/ポストパンク周辺には暗く攻撃的なバンドも多かったが、The B-52’sは古着、巨大な髪型、B級映画、1960年代のダンス音楽といった要素を使い、まったく違う存在感を作った。
初期の曲作りはジャム・セッションが基本だった。メンバーの証言によれば、アセンズで使っていた練習場所は元葬儀場の一室で、そこで「Planet Claire」「Dance This Mess Around」「Rock Lobster」などが形になった。Ricky Wilsonが持っていたサーフ/スパイ映画的なギター・リフとSchneiderのタイトル案を出発点に長時間演奏し、使える部分を組み合わせて曲へまとめていったという。
1978年版の「Rock Lobster」はまずインディペンデントなシングルとして登場し、大学ラジオやクラブを通じて注目を集めた。その後バンドはChris Blackwellとデビュー・アルバムを制作し、バハマのCompass Point Studiosで曲を再録音した。Rhinoも『The B-52’s』を、ニューウェーブと1960年代的なキッチュさを組み合わせた作品として紹介している。「Rock Lobster」はそのアルバムからバンドを広く知らしめる最初の代表曲となった。
歌詞の抜粋と和訳
この曲では歌詞を和訳して意味を整理することより、「Rock Lobster」という言葉そのものの馬鹿馬鹿しさが重要である。「rock」は音楽ジャンルであると同時に、勢いよく動くことを連想させ、「lobster」という唐突な生き物と組み合わされることで、それだけで漫画的なイメージが成立する。
後半に登場する海洋生物の列挙も、海について正確に説明するためのものではない。名前が呼ばれるたびに女性ボーカルが奇声で反応し、生き物のイメージを声だけで誇張していく。言葉を文章として理解する段階から、名前、叫び、リズムを身体的に楽しむ段階へ曲が変化することが重要である。
サウンドと歌詞の考察
「Rock Lobster」の核にあるのはRicky Wilsonのギターである。低い弦を重く歪ませるハードロックとは異なり、乾いた高音域を鋭く刻み、1960年代のサーフ・ロックやスパイ映画のテーマを思わせる不穏なリフを反復する。Wilsonは変則的なチューニングを多用した独特のギタリストで、普通のコードを厚く鳴らすより、必要な音だけを切り取るように演奏した。そのため一人のギターでも音に大きな隙間が残る。
その隙間を埋めるのがKate Piersonの鍵盤である。初期The B-52’sには通常のベーシストがおらず、Piersonがシンセサイザーで低音を担当した。MusicBrainzのアルバム・クレジットでも「Rock Lobster」には彼女のベース・シンセとFarfisaオルガンが記録されている。ロック・バンドのベース・ギターとは少し違う平面的な低音が、Keith Stricklandのドラムと結びつき、曲にニューウェーブらしい人工的な弾みを与えている。
Stricklandのドラムは、この奇妙な曲を実際に踊れるものへ変える役割を持つ。複雑なフィルで演奏を見せるのではなく、反復するビートを長時間維持するため、ギターやボーカルがどれほど変な方向へ進んでもグルーヴは崩れない。約7分あるアルバム版が冗談だけで終わらないのは、このリズムがダンス・トラックとして機能しているからである。
Fred Schneiderのボーカルも通常のロック歌唱から大きく外れている。メロディを滑らかに歌うというより、朗読、掛け声、司会者のアナウンスを混ぜたようなスタイルで言葉を投げる。感情移入して物語を演じるのではなく、奇妙なビーチ・パーティーの案内役として聞き手を次の場面へ連れていく。この話すような歌唱によって、意味不明な歌詞が妙に堂々と聞こえる。
そこへPiersonとCindy Wilsonの声が入ると、曲はさらに異常になる。二人は普通のバック・コーラスとして主旋律を支えるだけでなく、高音と低音を使い分け、叫びや動物の鳴き声に近い音を出す。後半の海洋生物の列挙では、Schneiderが名前を呼び、二人が声で「演じる」というコール&レスポンスになる。人間の声をシンセサイザーや効果音の代わりに使っているようなアレンジである。
この部分は曲の構成上も重要である。「Rock Lobster」は通常のヴァースとサビを数回繰り返して短く終わるのではなく、後半へ進むほど歌からパフォーマンスへ変化する。海洋生物の名前、奇声、ギター、リズムが反復され、最初に存在した「ビーチで起きた出来事」という物語さえ次第にどうでもよくなる。意味を失うほど繰り返すことで、言葉そのものがダンス・ミュージックの材料になっていく。
サーフ・ロックとの関係も、この曲のユーモアを支えている。1960年代のサーフ音楽やビーチ映画には、海、若者、ダンス、恋愛といった明るいイメージが結びついていた。The B-52’sはその世界をそのまま再現するのではなく、巨大な貝や謎のロブスター、奇声を上げる海洋生物が現れるB級SF映画のような場所へ変えている。懐古的なのに過去を忠実に再現しないところが彼ららしい。
Chris Blackwellが手がけた1979年版では、この奇妙さを過度なスタジオ加工で整えるのではなく、バンドのライブ感が生かされた。ギター、鍵盤、ドラム、三人の声という基本的な構成がはっきり聞こえ、各メンバーの役割が分離している。後年のニューウェーブに多い大量のシンセやエフェクトとは違い、「Rock Lobster」はかなり裸のバンド・サウンドである。
だからこそ、この曲の「変さ」は音色の特殊効果だけに依存していない。ギターの弾き方、Schneiderの話し声、PiersonとWilsonのハーモニー、Stricklandのビートという、人間の演奏そのものが奇妙なのである。しかも全員が冗談を演奏しているようで、リズムについては非常に真剣である。「馬鹿馬鹿しい題材を本気で演奏する」という姿勢が、単なるコミック・ソングとThe B-52’sを分けている。
「Rock Lobster」がニューウェーブの代表曲になった理由も、この自由さにある。パンクが示した「高度な技巧や従来のロックの形式に従わなくてもバンドはできる」という感覚を受け継ぎながら、怒りではなく色彩、ダンス、ユーモアへ向かった。1960年代のサーフ・ロックを借りても懐古趣味にはならず、むしろ1970年代末にしか存在し得ない奇妙なポップへ作り替えている。The B-52’sの音楽的な出発点と美学が、ほぼすべて詰まった一曲である。
この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
「Planet Claire」 by The B-52’s
同じデビュー・アルバムの冒頭曲。Henry Manciniを思わせるスパイ映画的なモチーフ、Farfisaの電子音、宇宙人のような歌詞が組み合わされる。「Rock Lobster」のB級SF的な感覚を、より冷たく幻想的な方向へ進めた曲である。
「Dance This Mess Around」 by The B-52’s
初期The B-52’sのダンス・バンドとしての魅力が前面に出た一曲。Cindy Wilsonの強烈なボーカルと、さまざまなダンスの名前を並べる歌詞が特徴で、「Rock Lobster」と同じく反復と言葉遊びをパーティーへ変えている。
「Private Idaho」 by The B-52’s
1980年の『Wild Planet』収録曲。Ricky Wilsonの鋭いギターと動き続けるリズムをさらに引き締めたニューウェーブである。「Rock Lobster」の奇抜さを残しながら、よりコンパクトなポップソングへ整理したバンドの次段階が聞ける。
「Psycho Killer」 by Talking Heads
同時期のニューヨーク周辺のニューウェーブを代表する一曲。The B-52’sほど派手ではないが、少ない楽器、反復するリズム、通常のロック歌唱から外れたボーカルによって、奇妙さと踊りやすさを同時に成立させている。
「Warm Leatherette」 by The Normal
1978年に登場した初期シンセ・ポップ/ニューウェーブの重要曲。「Rock Lobster」のカラフルなパーティー感とは正反対に無機質だが、従来のロックらしさを捨て、少ない音と反復だけで新しいポップを作ろうとした同時代性がある。
まとめ
「Rock Lobster」は、サーフ・ロックのギター、ニューウェーブの簡素な編成、ダンス・ビート、B級映画的な海洋生物、意味不明な奇声を一つのパーティー・ソングへまとめたThe B-52’sの原点である。Ricky Wilsonの乾いたリフとKate Piersonのシンセ・ベースが反復する土台を作り、Fred Schneiderの朗読的な声とPierson、Cindy Wilsonの奇声が、その上で歌と効果音の境界を壊していく。重要なのは、奇抜さだけでなく演奏が一貫して踊れることである。1970年代末のパンクが開いた自由を、攻撃性ではなくユーモア、色彩、身体性へ振り向けたことで、「Rock Lobster」はThe B-52’s独自のニューウェーブを最初のシングルから完成させていた。
参照元
- The B-52’s公式サイト「Bio」
- Rhino「The B-52’s」
- NPR / LAist「Encore: New wave icons The B-52s are on the road for their last tour」
- Out「Queer Classic: The Arrival of the Queerest, Weirdest Band of All Time—The B-52s」
- MusicBrainz『The B-52’s』
- Shazam「Rock Lobster」

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