Varsity by Smith Westerns(2013)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Varsity」は、Smith Westernsが2013年にリリースした3作目のアルバム『Soft Will』のラストトラックであり、バンドとしての成熟と変化を象徴する楽曲です。タイトルの「Varsity」は、アメリカで高校や大学のスポーツ代表チームを意味する語ですが、ここでは“青春”や“かけがえのない若き日の感情”を象徴する比喩として使われています。

歌詞では、若い恋の煌めきと、そこに潜む喪失感や不確実性が描かれます。主人公は恋人との時間を回想しながら、その関係が永遠ではないことをどこかで予感しています。キラキラとしたシンセやギターの響きの中に漂うのは、まさに“夢から覚める瞬間”のような、繊細で崩れやすい感情の儚さです。

「Varsity」は、青春という名の短編映画のエンディングのように、甘く、切なく、そして美しく幕を下ろす楽曲です。

2. 歌詞のバックグラウンド

Smith Westernsは、ローファイなガレージロックでデビューしたバンドでしたが、『Soft Will』ではサウンド面でもリリック面でも格段に洗練され、大人びた表現へとシフトしました。「Varsity」はその総決算のような位置にあり、かつての無邪気な“週末”を歌った「Weekend」とは対照的に、“通り過ぎた時間”に対する内省と余韻に満ちています。

この曲は、バンドが活動を終える2年前にリリースされた楽曲でもあり、結果的に“別れの予感”を象徴するかのような響きを帯びるようになりました。メンバー自身も、大人になっていく過程で感じる焦燥や決断が、この曲の背後にあると語っています。

3. 歌詞の抜粋と和訳

I called you up, you’re in the tub
君に電話したら、バスタブにいたね

You said you were feeling down
少し落ち込んでたみたいだった

I said it’s all gonna end soon anyway
僕は「どうせもうすぐ終わるんだ」と答えた

Why don’t you come around?
だから、こっちに来ない?

And I’ll be all you need
君にとって必要なすべてになってみせるよ

We could wake up in the afternoon
午後になってから目覚めてもいいんだ

歌詞全文はこちら:
Genius Lyrics – Varsity

4. 歌詞の考察

「Varsity」の歌詞は、あまりにも静かでさりげない言葉の中に、深い感情が潜んでいます。語り手は恋人を気遣いながらも、どこか距離を感じており、「どうせすぐ終わる」というセリフには、自嘲や諦念が含まれています。その一方で、「僕が君に必要なすべてになる」と願う部分には、まだ愛を手放したくないという未練も感じられます。

“午後まで寝ていたい”というラインは、若者らしい怠惰さと親密さの象徴ですが、それが“時間の停止”として機能することで、恋が永遠には続かないという現実を際立たせます。つまりこの曲は、終わりが見えている恋を、それでも美しいものとして抱きしめようとする、青春のラスト・シーンなのです。

引用した歌詞の出典:
© Genius Lyrics

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • New Slang by The Shins
    過ぎゆく日々の中で生まれる自己認識と別れ。ノスタルジーと希望が交錯する名曲。

  • Reckoner by Radiohead
    愛と時間の儚さをミニマルなサウンドで描く。Smith Westernsの繊細な美学と通じる。
  • Lost Cause by Beck
    関係の終焉を受け入れながらも手放せない想いを歌うバラード。

6. 青春の終わりを静かに祝うラブソング

「Varsity」は、Smith Westernsというバンドのひとつの完成形であり、彼らの音楽人生そのものを象徴するかのようなラストナンバーです。明るく、少し苦く、そして確かに美しい──その音楽は、青春の終わりに流れるエンドロールのようです。

この曲を聴くたびに、私たちは“あの頃”の感情にそっと触れることができるのです。


Be My Girl by Smith Westerns(2009)楽曲解説

1. 歌詞の概要

「Be My Girl」は、Smith Westernsが2009年にリリースしたセルフタイトル・デビューアルバムに収録された楽曲であり、彼らの粗削りな魅力と、グラムロックの影響を色濃く受けたティーンエイジャーの恋愛衝動が詰まった一曲です。

タイトル通り、「僕の彼女になってくれよ」というストレートな求愛の言葉が繰り返されるこの楽曲は、恋の始まりの高揚感と、不器用な衝動性を見事に描いています。歌詞の内容は非常にシンプルながら、そのシンプルさこそが、若さの純粋さと切実さを引き立てています。

2. 歌詞のバックグラウンド

Smith Westernsは10代でデビューを果たしたシカゴ出身のバンドであり、彼らの初期作品にはローファイ録音のざらつきと、David BowieやT. Rexなど1970年代のグラムロックの香りが漂っています。「Be My Girl」もその典型で、歪んだギター、フィードバック、そして衝動的なメロディラインによって、ティーンロマンスの甘さと無謀さを完璧に表現しています。

録音は決して洗練されていないものの、それがむしろ“部屋の片隅で鳴っている本音”のようなリアリティを生み出しており、この曲は“10代の恋愛を10代の手で鳴らす”という意味で、極めて誠実な楽曲となっています。

3. 歌詞の抜粋と和訳

Be my girl
僕の彼女になってくれよ

I want you now
今、君が欲しいんだ

I don’t care how
どうだって構わない

Just be around
そばにいてくれればそれでいい

I’ll take you out
どこへだって連れていくよ

We’ll drive around
車で街をぐるぐる回るだけでもいい

Don’t let me down
どうか、僕をがっかりさせないで

歌詞全文はこちら:
Genius Lyrics – Be My Girl

4. 歌詞の考察

「Be My Girl」の歌詞は、恋の初期衝動そのものを記録したような、シンプルかつ感情のままの言葉で綴られています。考えるよりも先に「欲しい」「いてほしい」「連れて行く」という行動と言葉が次々に現れ、その生々しさがリスナーの心にストレートに突き刺さります。

また、言葉の不器用さ──「I don’t care how」「Just be around」など──は、相手への誠実な愛情でありながら、どこか自己中心的でもあります。この自己矛盾こそが、若い恋愛のリアルな側面を如実に映し出しています。

Smith Westernsは後年、「Varsity」のような成熟した表現へと進化していきますが、この時期の彼らが持つ“若さの焦がれ”の純度は、ある意味で後年には到達できない美しさでもあります。

引用した歌詞の出典:
© Genius Lyrics

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Honey Bunny by Girls
    ローファイな恋愛観とナイーヴな感情の爆発。10代の感性をポップに昇華した名曲。

  • Teen Lovers by The Virgins
    タイトル通りの無邪気で大胆な恋の讃歌。感情にまっすぐな語り口が共通する。
  • Sheena Is a Punk Rocker by Ramones
    甘くてラウドな恋のテンション。シンプルな言葉とエネルギーのぶつかり合いが共鳴。

6. 青春の“無鉄砲さ”を音にした初期衝動の記録

「Be My Girl」は、Smith Westernsの初期衝動をそのままパッケージングしたような、ラフでエネルギッシュなラブソングです。何かを考え込むよりも先に、気持ちを言葉にして、音にして届けたい──その衝動が曲全体を突き動かしています。

そしてそれは、恋の原初的な形のひとつでもあります。洗練はない。駆け引きもない。ただ「好きだからそばにいてほしい」と叫ぶ。それだけで充分に美しい。
Smith Westernsはこの曲で、青春の真ん中にある“無鉄砲さ”の価値を、何よりも素直に伝えているのです。

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