
発売日:2014年2月5日
ジャンル:Psychedelic Rock / Neo-Psychedelia / Indie Rock
概要
Sun Structuresは、イングランドのケタリングで結成されたTemplesが2014年に発表したデビュー・アルバムである。James BagshawとThomas Walmsleyを中心に始まったバンドは、1960年代後半のサイケデリック・ロックやポップを明確な出発点としながら、それを単純に当時の録音へ似せるのではなく、多重録音されたギター、厚いコーラス、シンセサイザーを使って密度の高い音へ仕上げた。制作はBagshaw自身が担っている。
2010年代前半にはTame Impalaなどを通じてサイケデリック・ロックがインディー・シーンで再び大きな存在感を持っており、Templesもその流れから登場した。ただし本作では、長い即興演奏より3〜5分程度のポップソングとしてのまとまりを重視する。12弦ギターを思わせるきらびやかな響き、ファズで歪ませたギター、左右に広がるコーラス、反復するリズムが重なり、古いレコードを思わせながらも各音はかなり緻密に配置されている。歌詞も具体的な物語より、時間、夢、光、自然、意識といったイメージを組み合わせ、音の非日常性を広げる役割を担っている。
全曲レビュー
1. 「Shelter Song」
細かく鳴るギターとタンバリンを思わせる軽快なリズムで始まり、1960年代のサイケデリック・ポップへ一気に聴き手を連れていく。ヴァースではBagshawの柔らかな声を中心に進むが、サビではコーラスとギターが左右へ大きく広がり、音像が急に鮮やかになる。曲自体のメロディは非常に簡潔で、奇妙な音色を使ってもポップソングの輪郭を失わない。Templesの過去への愛情と現代的な録音感覚を、最も分かりやすい形で提示するオープニングである。
2. 「Sun Structures」
タイトル曲では、前曲の軽やかさよりも低く反復するリフを中心に据える。ギターとベースが同じ場所を巡るように動き、その周囲へ電子音や残響の長いボーカルを加えることで、直線的に前進するというより円を描くような感覚が生まれる。歌詞にも太陽や構造物を思わせる抽象的なイメージが並び、明確な物語を追うより音と言葉の響きを重ねている。ポップなTemplesだけでなく、反復によって意識を変化させるサイケデリック・ロックとしての側面が強い。
3. 「The Golden Throne」
硬く歪んだギターと重いドラムが前へ出て、本作の中でもロック色の強い演奏を聞かせる。ヴァースは比較的狭い音域で進みながら、サビになると高いコーラスと旋律が開き、暗いリフとの対照を作る。題名の「黄金の玉座」を含め、歌詞には権威や神秘性を連想させる言葉が置かれるが、具体的な人物や物語には固定されない。華やかさと不穏さを同時に持つサウンドによって、アルバム序盤に最初の重い陰影を加えている。
4. 「Keep in the Dark」
ギターの反復にオルガンや電子的な音色を重ね、足取りの軽いグルーヴを作る。タイトルには暗闇に留まるという意味がある一方、演奏は沈み込まず、むしろ明るいメロディが前へ進むため、言葉とサウンドの間に少し奇妙なずれが生まれている。Bagshawのボーカルはここでも強く主張せず、コーラスを含むアンサンブルの一部として配置される。曲の中心を歌手一人に集めず、声まで含めた音色の組み合わせで魅力を作るTemplesらしさがよく出た曲だ。
5. 「Mesmerise」
題名通り、短いフレーズの反復によって聴き手を引き込むことに重点を置く。ドラムは一定の脈を保ち、その上でファズ・ギターやシンセが出入りするため、同じ場所を回っているようで少しずつ景色が変わる。サビは親しみやすく、複雑な展開を使わなくても耳に残るのが強みだ。催眠や魅惑を思わせる歌詞のイメージと、実際に反復で陶酔感を作るアレンジが一致しており、本作のサイケデリアが装飾だけではないことを示している。
6. 「Move with the Season」
季節の移り変わりを題材にし、アルバム前半の濃密な音から少し力を抜く。アコースティックな感触のギターと柔らかなボーカルを土台にしながら、背景では残響やコーラスが広がり、素朴なフォークソングには収まらない。歌詞は変化へ逆らうより、その流れに身を任せる感覚を伝え、演奏も大きな衝突を作らず滑らかに進む。前半の終わりに配置されたことで、ファズと反復が続いた耳を一度休ませる役割も果たしている。
7. 「Colours to Life」
きらびやかなギターと厚いコーラスが重なり、本作でも特に色彩感の強いサウンドを作る。タイトルにある「色」は視覚的な比喩として歌詞に広がり、現実の風景が意識の変化によって別のものに見えてくるような感覚を生む。リズム隊は比較的単純なパターンを維持するため、その上でギターや声の層が増えても曲の中心は揺れない。サイケデリックな音響と覚えやすいメロディを均等に扱う、Templesのポップセンスがよく分かる。
8. 「A Question Isn’t Answered」
ここでは軽快なポップ感を抑え、重い反復と緊張感を前面に出す。ベースとドラムが一定のパターンを刻み、その上でギターが鋭い音を差し込むため、明確な解決へ進まない問いを音楽そのものが表しているように聞こえる。歌詞も答えを提示するより、疑問を抱え続ける状態へ焦点を合わせる。アルバム後半に入ってから音の影を濃くし、単なるカラフルなレトロ・ポップでは終わらない面を示す曲である。
9. 「The Guesser」
ベースの動きとドラムのアクセントが前へ出て、アルバムの中でもリズムを意識させる曲である。その土台に短いギター・フレーズや加工された声が重なり、各パートが一斉に鳴るのではなく隙間を埋め合う。題名が示すように、確信より推測や不確かさを思わせる言葉が中心となり、意味を一つに固定しない歌詞の書き方も本作の世界観に合う。音の密度は高いが、リズムの骨格がはっきりしているため、混濁せず前へ進んでいく。
10. 「Test of Time」
アルバム終盤で再びメロディを大きく開き、時間という本作に繰り返し現れるイメージを扱う。ギターの響きには1960年代的な質感があるものの、単なる懐古趣味というより、過去の音楽が現在でも残り得るのかという本作そのものにも重なる題名に聞こえる。ボーカルとコーラスを何層にも重ねながら、曲の構造は明快に保たれている。サイケデリックな装飾の下に強いポップ・メロディがあるというTemplesの長所が、終盤でも改めて確認できる。
11. 「Sand Dance」
中東や東洋を連想させる音階感を取り込み、これまでとは異なる色を加えるインストゥルメンタルである。旋律を担うギターと打楽器的なリズムが中心となり、歌詞がないぶん、フレーズの反復や音色の変化へ注意が向く。1960年代のサイケデリック・ロックが西洋以外の音階や楽器へ関心を広げた歴史を思わせる一方、Templesはそれをコンパクトなスタジオ作品としてまとめている。最終曲を前に、言葉から離れて純粋な音響へ沈み込む短い転換点だ。
12. 「Fragment’s Light」
最後はファズ・ギターの大きな壁で締めるのではなく、アコースティックな響きを生かした静かな曲へ向かう。Bagshawの声も比較的近くに置かれ、これまで何層にも重ねられていた音がほどけていくように聞こえる。タイトルが示す断片的な光のイメージも、アルバム全体で繰り返された太陽や色彩を、より小さく個人的な感覚へ変えている。濃密なサイケデリアを最後まで膨張させず、余白を残して終えることで、作品全体の起伏をはっきりさせている。
総評
Sun Structuresの強みは、1960年代後半のサイケデリック・ロックを明確に参照しながら、楽曲そのものを曖昧にしなかったことである。ファズ・ギター、オルガン、厚いコーラス、極端な残響など時代を連想させる音色は多いが、その下には短いイントロ、覚えやすいヴァース、強いサビというポップソングの骨格がある。「Shelter Song」や「Mesmerise」が特に分かりやすく、奇妙な音を使うことと親しみやすい曲を書くことが対立していない。
Bagshawによるプロダクションも重要である。古い録音をそのまま再現するより、多重録音によってギターと声を細かく配置し、ヘッドフォンでも楽しめるほど情報量の多い音を作っている。ボーカルは常に最前面へ置かれるわけではなく、ギターやオルガンと同じように一つの音色として混ざる。そのため歌詞を追わなくても、声の残響やコーラスの広がりそのものがサイケデリックな感覚を生む。
一方で、アルバム全体を通してファズ、反復、残響、多重コーラスという共通した方法を使うため、後半では音色の似た曲が続いて聞こえる場面もある。そこで「Move with the Season」や「Fragment’s Light」のような柔らかな曲、「Sand Dance」のようなインストゥルメンタルを配置し、密度を調整している。12曲を単純に派手なサイケデリック・ロックで埋めず、音量やリズムの違いで流れを作っている点はデビュー作としてよく整理されている。
2010年代のネオ・サイケデリアという流れでは、過去の様式をどのように現代のインディー・ロックへ置き直すかが一つの焦点だった。Templesはその答えとして、実験性を際限なく広げるのではなく、1960年代の音色とポップな作曲を徹底的に磨く方法を選んだ。引用元を想像しやすい瞬間が多いことは弱点にもなり得るが、メロディと録音の細部まで高い密度で作り込んだことで、単なる復古趣味以上の個性を獲得している。Sun Structuresは、サイケデリック・ロックの過去を再現する作品というより、その過去が持っていた色彩を2010年代のスタジオ環境でもう一度鮮明にしたアルバムである。
おすすめアルバム
Volcano by Temples
2017年の次作ではシンセサイザーと電子的な処理をさらに増やし、デビュー作の1960年代的な質感から少し離れる。Templesのポップな作曲が別の音色でも成立することが分かる。
Lonerism by Tame Impala
2012年作。ヴィンテージなサイケデリック・ロックを現代的な多重録音と結びつけた点で本作と近いが、より内向的な歌詞と歪んだ音像を持ち、両者の個性の違いも明確である。
Their Satanic Majesties’ Second Request by The Brian Jonestown Massacre
1996年作。1960年代サイケデリアへの深い愛情を1990年代以降のインディー・ロックへ持ち込んだ作品で、Templesへ至るネオ・サイケデリックの流れを理解しやすい。
Odessey and Oracle by The Zombies
1968年作。繊細なコーラス、鍵盤、鮮やかなメロディによってサイケデリック・ポップを構築している。Sun Structuresの厚い音響の下にある、簡潔で強いポップソングの源流を感じられる。
Innerspeaker by Tame Impala
2010年作。ファズ・ギター、反復するリズム、残響の深いボーカルを使い、サイケデリック・ロックを21世紀のインディーへ接続した作品である。Sun Structuresより荒く広がる演奏を中心としており、同時代の異なるアプローチを比較できる。

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