
発売日:2013年6月25日
ジャンル:Indie Rock / Indie Pop / Glam Rock
概要
Soft Willは、シカゴ出身のSmith Westernsが2013年に発表した3作目のスタジオ・アルバムである。ローファイな録音と荒いガレージ・ロックが目立った2009年のデビュー作から、Dye It BlondeではMarc BolanやDavid Bowieを思わせるグラム・ロックと、厚く重ねたギターによる華やかなポップへ移行。本作ではその路線をさらに磨きながら、勢いで押す部分を減らし、シンセサイザーやストリングスを交えた柔らかく広がりのあるサウンドへ進んでいる。
プロデュースは前作に続いてChris Coadyが担当した。Cullen Omoriの高く細いヴォーカル、Max Kakacekの旋律的なギター、Cameron Omoriのベースを中心に、各楽器をくっきり分離させるというより残響の中で溶け合わせるような音作りが特徴である。ギター・ソロも技巧を誇示するためではなく、歌とは別のメロディを提示する役割が強く、シンセやコーラスとともに曲を色づける。
歌詞では恋愛や欲望、孤独、若さへの不安が繰り返し現れるが、感情を細かい物語として説明するより、短い言葉と反復によって曖昧な気分を残す曲が多い。明るく甘いメロディに対して語り手は必ずしも幸福ではなく、そのずれが本作独特の感触を生んでいる。1970年代のグラムやパワー・ポップを参照しつつ、2010年代のインディー・ロックらしい滑らかな音像へ組み替えた作品である。
全曲レビュー
1. 「3am Spiritual」
柔らかなキーボードから始まり、ドラムとギターが加わるにつれて視界がゆっくり開くようなオープニング曲。Cullen Omoriの声には強く押し出す力よりも頼りなさがあり、深夜という題名にも似合う、眠りと覚醒の間にいるような雰囲気を作る。ギターはコードを厚く鳴らすだけでなく、高い音域で歌とは別の旋律を描くため、曲全体が複数のメロディによって動いている。派手な一撃ではなく、本作の柔らかな音響へ徐々に耳を慣らす導入である。
2. 「Idol」
明るいギターのフレーズと軽快なリズムが前へ進み、本作の中でも特にポップな輪郭がはっきりしている。題名にある「偶像」は単純な尊敬というより、誰かを理想化し、その像と現実の人物との間に距離が生まれていく感覚を思わせる。Omoriは感情を激しく表現せず、少し遠くから歌うような声を保つため、甘い旋律にもわずかな寂しさが残る。ギターの装飾がヴォーカルへ何度も応答し、バンドのメロディ志向がよく表れた一曲だ。
3. 「Glossed」
タイトル通り、表面を光沢で覆ったような滑らかなプロダクションが耳を引く。ギターとシンセサイザーの境界が曖昧になるほど音を重ね、その上をヴォーカルが漂うため、ロック・バンドの生々しい演奏というより一枚の色彩として聞こえる。リズム隊は複雑に動かず、一定の脈を作ることで上物のメロディを支えている。前作にもあったグラム・ロック的な華やかさを残しながら、より角を丸めたSoft Willの音作りを象徴する曲である。
4. 「XXIII」
短いインストゥルメンタルで、ヴォーカル中心に進んできた流れをいったん切り替える。ストリングスを思わせる響きがゆっくりと広がり、明確なビートやサビを作らないため、一つの独立したポップソングというより次の場面へ移るための間奏として機能する。アルバムの華やかさをギターだけに頼っていないことも、この短い曲から分かる。前半の終わりに余白を置くことで、続く「Fool Proof」の軽快なリズムを際立たせている。
5. 「Fool Proof」
弾むようなリズムと明るいギターが中心になり、アルバム中盤を軽快に進める。サビでは複数の音が広がるものの、低音を極端に強調しないため、全体には浮き上がるような軽さがある。タイトルの「絶対確実」という意味に反して、歌詞から伝わる人間関係には迷いや不安が残り、確実さを求めること自体が願望のようにも聞こえる。甘いメロディと不確かな感情を重ねる、本作の作詞とアレンジの関係が分かりやすい。
6. 「White Oath」
テンポを抑え、広い残響の中でヴォーカルとギターをゆっくり響かせる。ギターは細かなリフで曲を引っ張るのではなく、長く伸ばした音や旋律によって空間を埋めるため、前曲までより夢見るような感触が強い。「oath=誓い」という言葉には確かな約束を連想させる一方、歌声にはそれを完全には信じ切れないような弱さがある。アルバム後半へ向かう地点で速度を落とし、華やかな表面の下にある孤独を前へ出す一曲だ。
7. 「Only Natural」
ギターの明快な旋律と安定したビートによって、再びポップソングとしての輪郭を強める。Omoriのヴォーカルは高音でも力任せにならず、楽器の中へ溶け込むため、歌とギターが同じ程度の存在感で並んでいる。感情を「自然なもの」として受け入れようとする題名とは裏腹に、歌詞には関係をどう扱えばいいのか決めきれない感覚が残る。簡潔な構成の中に複数の旋律を重ねることで、耳当たりの良さと細かな情報量を両立している。
8. 「Best Friend」
親しみやすい題名に対して、単純に友情を祝う曲としては聞こえない。近い相手だからこそ生じる期待や依存、距離の変化を思わせる言葉が、明るいポップ・アレンジの中に置かれている。ドラムとベースは直線的に進み、ギターがその上で細かな旋律を加えるため、曲にはアルバム後半でも失速しない推進力がある。感情の曖昧さを保ちながらサビだけは明快に聞かせるところに、Smith Westernsのポップ・バンドとしての巧さがある。
9. 「Cheer Up」
タイトルだけなら励ましの歌を想像させるが、ここでの明るさには少し無理をしているような感触がある。落ち込んでいる相手、あるいは自分自身へ「元気を出せ」と言い聞かせているようにも読め、軽いメロディと内側の不安がずれる。アレンジは必要以上にドラマティックにならず、ギターとコーラスの層を少しずつ増やして感情を持ち上げる。強い悲しみを直接表現しないからこそ、明るく振る舞おうとする人物の弱さが残る。
10. 「Varsity」
最終曲では、きらびやかなギターと大きく広がるメロディを使い、本作の特徴をまとめるように進む。青春を連想させるタイトルだが、若さを無条件に祝うというより、過ぎていく時間や人間関係を振り返る感覚が強い。終盤ではギターの旋律がヴォーカル以上に存在感を増し、言葉で結論を説明する代わりに演奏の余韻を残す。アルバム全体を覆っていた甘さと寂しさを同時に保ち、明確な解決を与えないまま静かに着地する。
総評
Soft Willは、Smith Westernsがデビュー時のローファイな勢いからかなり遠い場所へ進んだ作品である。ここでは録音の粗さを若さの証明として残すのではなく、ギター、シンセサイザー、ストリングス的な音色、コーラスを丁寧に配置し、細部まで磨かれたポップを作っている。それでも音が過度に豪華に感じられないのは、リズム隊を比較的簡潔に保ち、中心となるメロディを常にはっきりさせているからだ。
特にMax Kakacekのギターは重要である。リフだけで曲を支配するのではなく、ヴォーカルの背後や間に別の旋律を置き、時にはシンセと区別しにくいほど柔らかな音で空間を広げる。Cullen Omoriの細い声も、強力なロック・ヴォーカルとして楽器の上へ乗るのではなく、この多層的な音の一部として機能する。結果として、一つの曲の中で歌、ギター、キーボードの複数のメロディを追えることが、本作の大きな楽しさになっている。
その華やかな音に対して、歌詞は意外なほど不安定だ。誰かを求め、理想化し、関係を確かなものにしようとする一方、それが本当に続くのかという疑いが何度も顔を出す。具体的な物語を細かく説明する作詞ではないため、曲によっては感情の輪郭が曖昧なまま終わるが、その曖昧さは残響の多いプロダクションとよく合っている。明るい音なのに少し寂しく聞こえるのは、この二つが同じ方向を向いていないからである。
一方で、全体の音色とテンポが統一されているため、前作の荒々しい瞬間に比べると起伏は穏やかである。それは弱点にもなり得るが、本作では一貫した質感を作ることが優先されている。結果的にSoft WillはSmith Westerns最後のスタジオ・アルバムとなったが、バンドの終わりを予告するような作品ではない。ガレージ・ロックから始まった彼らが、グラム、パワー・ポップ、ドリーム・ポップ的な感触を取り込みながら、最も滑らかな形まで自分たちのサウンドを発展させた一枚である。
おすすめアルバム
Dye It Blonde by Smith Westerns
2011年の前作。グラム・ロック風のギターと大きなポップ・メロディが前面に出ており、Soft Willの滑らかな音作りがどこから発展したのかを最も直接的に確認できる。
Smith Westerns by Smith Westerns
2009年のデビュー作。録音は粗く、ギターも歪みの塊として鳴る場面が多い。Soft Willと並べれば、同じバンドが数年間でローファイから精密なスタジオ・ポップへ変化した過程がよく分かる。
The Slider by T.
Marc Bolanのギターと甘い旋律を簡潔なリズムへ乗せた1972年作。Smith Westernsのグラム・ロック的な華やかさや、複雑にしすぎず強いメロディを作る方法の源流を理解しやすい。
Heaven or Las Vegas by Cocteau Twins
ギターと声を残響の中で重ね、個々の楽器より音全体の色彩を聞かせる1990年作。音楽的な出発点は異なるが、Soft Willの柔らかく霞んだギター・ポップに近い感覚を持つ。
Kaputt by Destroyer
シンセサイザーやギターを滑らかに溶け合わせ、華やかな表面と物憂い感情を共存させた2011年作。ロックの勢いより音色と空間を重視する点で、Soft Willと同時代的なつながりを感じられる。

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