
楽曲の概要
「Makes No Sense at All」は、Hüsker Düが1985年に発表した楽曲で、アルバム『Flip Your Wig』に収録されている。作詞・作曲はBob Mould。シングルとしても発売され、B面にはテレビドラマ『The Mary Tyler Moore Show』のテーマ曲「Love Is All Around」のカバーが収められた。
Hüsker Düはもともとアメリカのハードコア・パンクから出発したバンドだが、この曲では速さや攻撃性を残しながら、非常に覚えやすいメロディとコーラスを前面に出している。AllMusicも、この曲をバンドのパンクとポップの融合が最もよく表れた作品の一つとして評価している。AllMusic
ギターは厚く歪み、ドラムも力強い。しかしその下には、The Byrdsやパワー・ポップを思わせる明るいコード感とハーモニーがある。ノイズの多い演奏なのに、曲そのものは驚くほど親しみやすい。この組み合わせが「Makes No Sense at All」の大きな特徴である。
歌詞の概要
歌詞では、理解し合えなくなった相手との関係が描かれる。語り手は相手が自分を支配しようとしているように感じており、そのやり取りそのものに強い苛立ちを抱えている。
タイトルの「Makes No Sense at All」は「まったく意味が分からない」「全然筋が通らない」といった意味である。語り手にとって問題なのは、単なる意見の違いではない。相手が何を求めているのか、なぜそんな行動を取るのか、その前提自体が理解できなくなっている。
歌詞は細かな物語を説明するタイプではない。誰と誰の関係なのか、何が原因で対立しているのかは具体的に示されず、語り手の苛立ちだけが短い言葉で積み重なっていく。そのため恋愛関係としても、友人関係としても、もっと広い人間関係の衝突としても読める。
一方で、単純に相手を攻撃するだけの歌でもない。語り手は相手に距離を置きたいようでいて、完全に無関心にはなれていない。わざわざ相手の言動を「意味が分からない」と繰り返すのは、まだその関係に巻き込まれているからでもある。
この感情の近さと苛立ちが、曲の速さによく合っている。冷静に関係を分析するのではなく、言いたいことが次々に出てきて止まらない。その状態がそのまま歌になったように聞こえる。
制作背景・時代背景
Hüsker Düは1980年代初頭、ミネアポリスのハードコア・パンク・シーンから登場した。Bob Mould、Grant Hart、Greg Nortonの3人で活動し、初期には非常に速く激しい演奏を特徴としていた。しかし作品を重ねるにつれ、メロディやサイケデリック・ロック、1960年代ポップへの関心を強く出すようになっていく。
1984年の二枚組アルバム『Zen Arcade』、1985年初頭の『New Day Rising』を経て発表されたのが『Flip Your Wig』である。Hüsker Düにとって1985年は非常に制作量の多い時期であり、その年だけで『New Day Rising』と『Flip Your Wig』という2枚のアルバムを発表している。AllMusic
『Flip Your Wig』では、MouldとHartが自らプロダクションを担当するようになった。それ以前より音の整理が進み、ギターの大きさを残しながら、メロディやコーラスが聞こえやすい録音になった。AllMusicもこの作品を、それまでのHüsker Düの中で特に明快で親しみやすいサウンドを持つアルバムとして説明している。
「Makes No Sense at All」は、その変化を最も分かりやすく示した曲である。Bob Mouldのギターには初期から続く激しいダウンストロークと厚い歪みがあるが、上に乗るメロディはほとんどパワー・ポップである。Grant Hartのバックボーカルも以前の集団的な叫び声から、より明確なハーモニーへ変化している。AllMusic
『Flip Your Wig』の後、Hüsker DüはWarner Bros.と契約する。アメリカの1980年代インディー/ハードコア系バンドがメジャーへ移る流れの中でも、彼らは早い例の一つだった。AllMusic 「Makes No Sense at All」は、その直前にバンドがどれほどポップな曲を書けるようになっていたかを示す作品でもある。
歌詞の抜粋と和訳
「Makes no sense at all」
和訳:まったく意味が分からない
非常に単純な言葉だが、この簡潔さが曲の感情に合っている。語り手は相手の行動を長々と分析する余裕を持っていない。
理解しようとしても理解できず、結局同じ結論へ戻ってくる。このタイトルの繰り返しが、対話が前へ進まない人間関係そのものを表しているように聞こえる。
サウンドと歌詞の考察
「Makes No Sense at All」は、約2分40秒という短さの中に非常に多くのエネルギーを詰め込んだ曲である。イントロからBob Mouldのギターが厚く鳴り、そのままドラムとベースが一気に加わる。長い導入はなく、最初から曲の中心へ飛び込む。
ギターはかなり歪んでいる。しかし、単なるノイズの塊としては聞こえない。コードそのものが明るく、音の動きもメロディアスなため、歪みの奥からポップな響きがはっきり見える。
AllMusicのレビューでは、このギターサウンドについてThe Byrdsの12弦ギターを思わせる広がりが指摘されている。もちろん音色そのものはThe Byrdsよりはるかに激しいが、コードが開放的に鳴り、音が上へ広がっていく感覚には共通点がある。
ここがHüsker Düの重要なところである。1960年代ポップの美しさを再現するためにギターをきれいにするのではなく、ハードコア由来の大音量のままメロディだけをポップにする。そのため、爽快さと圧力が同時に聞こえる。
Grant Hartのドラムも、初期Hüsker Düのように全速力で突っ走るだけではない。「Makes No Sense at All」ではビートが少し落ち着き、歌のメロディを支える役割が強くなっている。速さは十分にあるが、一音ごとの位置が分かりやすいため、曲に跳ねるような感覚が生まれる。AllMusic
Greg Nortonのベースは、厚いギターの下で曲の骨組みを作る。Mouldのギターが広く鳴る分、ベースは低い位置で安定した動きを続け、コードの変化を聞き取りやすくしている。三人編成でありながら音が薄く感じられないのは、この低音の役割が大きい。
Bob Mouldの歌唱は、メロディそのものは親しみやすいのに、声には常に少し怒りが残っている。きれいなポップシンガーのように滑らかには歌わず、声を押し出すように発音する。そのため、歌だけが甘くなりすぎない。
この歌唱が歌詞の苛立ちとよく合う。語り手は相手との問題を冷静に分析しているのではなく、「なぜそんなことになるのか分からない」と感情的になっている。Mouldの少し荒れた声は、その短気な感覚を直接伝える。
ただし、コーラスに入るとGrant Hartのバックボーカルが加わり、曲は急に広く聞こえる。ここでは怒りを表す言葉が、非常に気持ちよく歌えるメロディになっている。
この矛盾が面白い。「まったく意味が分からない」という苛立ちを歌っているのに、サビそのものは強烈にキャッチーである。人間関係の混乱を扱った曲が、聞き手にはすぐ理解できるポップソングとして鳴っている。
曲構成も非常に無駄がない。ヴァースとコーラスを短く行き来し、余計な展開を挟まず終わる。ギターソロを長く取ったり、テンポを落としたブリッジを入れたりはしない。
この短さは、歌詞にもよく合っている。語り手には問題を整理して説明する気がない。相手の行動に苛立ち、その感情を一気に吐き出して終わる。曲自体も同じように、結論を出さないまま走り抜ける。
一方で、演奏が荒いからといって雑ではない。『Flip Your Wig』では、それ以前より各楽器や声の配置が整理されている。その結果、Mouldの大きなギターを保ちながら、Hartのハーモニーやメロディの細部まで聞き取れるようになった。
このバランスは後のオルタナティブ・ロックにとって重要だった。パンクの速さや音圧を失わなくても、The BeatlesやThe Byrdsのようなポップメロディを入れることはできる。「激しい音楽」と「キャッチーな音楽」を別のものと考えなくてもいい、という発想である。
「Makes No Sense at All」は、その考えを最も簡潔に聞かせる曲の一つだ。AllMusicはBuzzcocksやRaspberriesにも並ぶパワー・ポップ的な曲として評しているが、Hüsker Düはそれを自分たち特有のファズまみれのギターで鳴らしている。AllMusic
だからこの曲は、Hüsker Düがハードコアを捨ててポップになった作品ではない。むしろ、ハードコアで培った勢いと音圧を残したまま、曲を書く技術だけが大きく広がった結果である。
その意味で「Makes No Sense at All」は、1980年代アメリカン・インディーから1990年代オルタナティブ・ロックへ向かう流れを理解するうえでも分かりやすい。大きく歪んだギターと強いメロディが自然に同居する音は、後の多くのギターバンドにもつながっていく。
この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
「Celebrated Summer」 by Hüsker Dü
『New Day Rising』収録曲で、Bob Mouldのメロディアスな側面が「Makes No Sense at All」より少し早く表れた一曲。激しいギターと青春の記憶を扱った切ない歌が同居し、パンクからポップへ広がっていく過程がよく分かる。AllMusic
「Green Eyes」 by Hüsker Dü
同じ『Flip Your Wig』からGrant Hart作の一曲。「Makes No Sense at All」より柔らかなラブソングだが、歪んだギターの中で美しいメロディを聞かせる点は共通している。MouldとHartという二人の作曲家の違いも比較しやすい。AllMusic
「Could You Be the One?」 by Hüsker Dü
メジャー移籍後の『Warehouse: Songs and Stories』収録曲。Mouldのパワー・ポップ的な作曲がさらに整理されており、「Makes No Sense at All」で始まった方向が後期にどう発展したかを聞き取れる。
「Ever Fallen in Love (With Someone You Shouldn’t’ve)」 by Buzzcocks
高速なパンクと強烈なポップメロディを結びつけた代表曲。人間関係への苛立ちを、思わず一緒に歌いたくなるサビへ変える点で「Makes No Sense at All」と共通する。
「Freak Scene」 by Dinosaur Jr.
数年後のアメリカン・インディーから生まれた、轟音ギターと甘いメロディを組み合わせた代表曲。Hüsker Düよりギターソロは大きいが、ノイズとポップを対立させず一曲に入れる発想にははっきりとした共通点がある。
まとめ
「Makes No Sense at All」は、Hüsker Düがハードコア・パンクの力を失わずに、非常に完成度の高いポップソングを書けるようになったことを示した曲である。Bob Mouldのギターは大きく歪んでいるが、その奥には明るいコードと覚えやすいメロディがあり、Grant Hartのハーモニーがさらに曲を開いている。AllMusic
歌詞では、理解できない相手との関係に苛立つ人物が描かれる。問題を解決する物語ではなく、「意味が分からない」という感情をそのまま短く繰り返す。その落ち着かなさを、2分40秒ほどの速い演奏が支えている。
『Flip Your Wig』期のHüsker Düは、パンクとポップの境界をかなり自然に消していた。「Makes No Sense at All」はその変化が特に明快な一曲であり、大音量のギターと大きなメロディを結びつける後のアメリカン・オルタナティブ・ロックへつながる流れも見えやすい作品である。
参照元
- AllMusic「Makes No Sense at All」
- AllMusic『Flip Your Wig』
- AllMusic「Hüsker Dü Biography」
- SST Records『Makes No Sense at All / Love Is All Around』
- Discogs『Hüsker Dü – Makes No Sense At All / Love Is All Around』

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